第九十話 墜落
千佳伊はモナコ日本庭園の近くに落ちた。
犯人たちは他の乗客を人質にとり、NUやANUは解散。
いまだに犯人グループは捕まえられていない。
空港に降り立った仙がタクシーを拾う。
「モナコの総合病院へ。チャッピー訳してくれ」
「ワタシ、日本語デキマス。チョットダケ」
運転手は日本のアニメのファンで、独学で日本語を覚えたと語る。
「NU、トテモザンネン。ミンナ、言葉ワルイ」
「ハハハ......ですね。運転手さんのような歩み寄りは嬉しいです」
不透明でも叩かれ、悪目立ちしても叩かれる。
解散となった瞬間から、管理がどうだったのかと吊し上げが続いている。
仙は車窓に流れるモンテカルロの街並みを眺め、小さく零す。
「そういやアイツ、〝作者の読者叩きと読者の作者叩きの理論〟も語ってたっけ」
「ヘェ~、ドンナノ?」
「結論はたしか〝ないものねだり合戦〟だったかな?」
ネガティブな言葉ほど印象に残りやすい。
だから互いに相手こそが攻撃的だと思い込んでいる。
攻撃の根幹にあるのは、期待と現実の相違。
「自作、他作問わず、推している作品が評価されない。それが棘を強める」
「ア~、コンナ評価オカシイ、ミタイナ?」
「そう。表層は違えど、本質はそれだってさ」
運転手のおかげで、ひとときの和やかな時間を過ごした。
「オキャクサン、ツイタヨ」
「ありがとう。お釣りはいらないぜ!」
タクシーを降り、総合病院へ。
手続きを済ませるとすぐに病室へ案内された。
「メルシー」
看護師から歩きながら説明を受ける。
けれど、仙はフランス語をほとんど聞き取れない。
辛うじて分かったのは、「中学生」と思わしき単語だけだった。
「千佳伊! 無事で良かった!」
「どなたですか!? あれ? 仙のお父さんに似ているような......」
◆◇◆
千佳伊と共に帰国を果たす。
だが、千佳伊は日本でも入院となった。
病室には弧見が訪れ、花瓶の花を挿し替えている。
「チカチカってばまた鏡みてるの~?」
「私がこんなおばさんになっているなんて、信じられません」
「高校時代のアルバムも持って来たよ。早く記憶が戻るといいよね!」
手鏡を見つめる千佳伊。
中学以降の記憶を失くし、事故直後は自分のことを中学生と言い張っていた。
「はい、手鏡時間は終了~。リハビリしよ」
「あの弧見......さんのお腹の子は、ほんとに仙が?」
出産を控える弧見のお腹をみて、千佳伊は困惑顔を続ける。
「えっと、エア彼氏じゃなくて?」
「チカチカひどい~! まだ純心な頃だからか、余計に攻撃力を感じるよ~」
弧見はあっけらかんと笑う。
対照的に千佳伊の表情は沈んだ。
「そっか......未来の私は失恋したんですね」