第五十五話 連絡
リビングで寛ぐ仙たち。
一通のメールが波紋を呼んだ。
「げっ、古室さんからメール来てる」
音楽プロデューサーの古室から個人的に謝罪したいとの連絡。
仙が憤る。
「ふざけんなよ! 俺たちを騙しておいて! ソッコー断っとく!」
「いや、待て。まずは電話で話すべきだ」
断ろうとしたのに千佳伊が待ったをかけた。
仕方なく、メールに載っていた電話番号へ電話。
これがキッカケで古室と争うことになるのを、仙はまだ知らない。
『やぁ、仙くん。かけてきてくれて嬉しいよ』
「俺じゃないです。当人に代わります」
「千佳伊だ。謝意は実質的なもので示せ。どこまで出せる?」
古室は突発の申し出にも動じない。
『懇意にしている作曲家を紹介するよ。僕の依頼があれば二つ返事さ』
沙村号地護という音楽家を紹介される。
電話を終え、弧見も交えて三人で相談した。
「胡散臭いな」
「胡散臭いよね」
「何言ってんだよ! 現代のベートーヴェンだぞ!」
仙は〝全聾の天才作曲家〟という肩書きで、すっかり大ファンに。
「交響曲第一番『NAGASAKI』もさいっっっこうだよな!」
はしゃぐ仙の顔面に、千佳伊が裏拳を叩き込む。
「へぶっ!」
「さて、静かになったところで話をしよう」
千佳伊がインテリ眼鏡を装備した。
「壮大なタイトル、誇張されたあらすじ。蓋を開けてみたら普通ってないか?」
「あるある~。それってチカチ......」
「すとぉぉっぷだマイハニー! そこは踏み込んではいけないんだ!」
弧見の口をすばやく押さえる仙。
二人だけの時間。二人だけの甘い空間。
「おい、隙あらばいちゃつくのをやめろ。エロ新婚。私もいるんだぞ」
「えへへ~。ウチ、毎日が幸せ~」
「悪いな。夜、音は漏れてないか?」
仙を黙殺し、千佳伊が話を続ける。
「過剰装飾と難解語彙で独りよがりな作品名など、もってのほかだと思わんか?」
「だからそれってチカチカ......」
「いや、本物の強者に比べたら私なぞ『戦闘力5かゴミめ』でしかない!」
千佳伊の言葉に、仙も静かに頷く。
「最近読んだので〝撥弦の野分 星を帯びし者〟って作品があってビビった」
「うわぁ......うわぁ......」
「ほれみろ。私なぞ、まだまだひよっ子なのだ」
二人は同時に思う。
千佳伊の〝銀河の歌声〟も充分に予備軍であるということを。
黙した反応に疑いの目を向ける千佳伊。
「......まぁ良い。独りよがりなタイトルはエタ率も高い」
「その統計の理由がいまいちわかんねーんだよなぁ」
千佳伊と仙が腕を組み考える。
そこに弧見が挙手をした。
「ウチ知ってる! エタるのは読まれないからだよ!」
二人は〝心から納得した〟と言わんばかりの深い頷きを返した。