第九十五話 受賞
「あ! チカチカ起きた!」
「大丈夫か千佳伊?」
リビングのソファーに横たわっていた千佳伊が目を覚ます。
「見慣れた天井だ......」
「ハハハ、自宅だからな。水でも飲むか?」
「いや、それよりも担当の山元への電話が先だ」
仙が首を傾げる。弧見も同じように頭を傾ける。
二人とも何か違和感を覚えていた。
『はい、山元です。千佳伊さん、伝え忘れでもありましたか?』
「うむ。書籍化したのだし、受賞に向けて猛プッシュをしておいてくれ」
『はいー? コンテスト受賞から書籍化を狙うなら分かりますけど、なぜ逆?』
会話が進むにつれて二人もハッキリと気づく。
千佳伊が帰ってきていると。
「何を頭の悪いことを言っている山元? 当然のことを聞き返すとは使えんな」
『あー、このムカつく感じ。ひょっとして記憶戻りました?』
「ノーベル文学賞に決まっているではないか!」
『千佳伊さん、異世界帰りですか?』
失礼合戦の電話を終え、満足そうな千佳伊。
弧見が背後から抱きしめる。
「お帰りチカチカ」
「うむ」
「記憶を失ってた間のことも覚えてんのか?」
仙の問いかけに千佳伊も頷く。
「覚えている。それから、これを聞け」
千佳伊がネットにあった音声を再生した。
『帰ってくるなら、再婚でもなんでもしてやる! だから帰ってこい!』
『チカチカが帰ってくるなら、ウチ、それでもいい!』
仙と弧見の顔が青ざめる。
邪悪な笑みを浮かべる千佳伊。
「な~に、私も鬼ではない。離婚しろとは言わないが、我儘を通させてもらう」
弧見は半袖でアラスカにいるかのように震える。
「あえて言うワガママって一体どのレベル?」
「多伊奈に弟か妹を作りたいのだ。その許可と全面協力だな。何なら三人でも」
「ドン引きだよチカチカーーー!」
◆◇◆
前代未聞の悪夢。
理解不能の事態。
世界中のネットが大混乱の阿鼻叫喚となっていた。
『フェイクニュースじゃねーの!?』
『マグニチュード10の衝撃を受けたぞ!』
タイムラインを眺めつつ、仙自身も何かの間違いであって欲しいと祈った。
「頼む......夢であってくれ」
さきほど千佳伊のスマホが鳴り、今、彼女は電話に出ている。
終わったタイミングで仙が尋ねた。
「アカデミーからか?」
「いや、ドナルド・マック大統領からの祝電だった。あのピエロも、多少可愛いところがあるではないか」
再び千佳伊の電話が鳴る。
しばらくの会話を終え、千佳伊が髪をかきあげた。
「さーて、ネット民どもに受賞マウントでもしてやるか」
「規模がでかすぎて反論できねー!」
「魔王! ここに魔王がいるよ!」