第八十三話 本質
弧見と千佳伊は、千佳伊の部屋へ移動した。
追及する弧見の叫び。
「チカチカ! ヤケになって、当てつけなんて絶対ダメ!」
「......当てつけではない」
「嘘言わないで!」
弧見だけは知っている。
中学時代から、千佳伊が仙のことを一途に想っていたことを。
その想いを知ったから、弧見も自分の恋心に長年気付けなかった。
「他の男になんか興味ないでしょ!」
「だが、恋愛小説でも当て馬が必要ではないか」
「チカチカ、本当はウチのこと許してなかったの?」
弧見の瞳から大粒の涙が滝のように落ちる。
千佳伊がティッシュ箱を差しだした。
「あのときに二人の選択を祝福すると伝えたではないか。それよりも──」
弧見が鼻をかむ横で、千佳伊がノートパソコンを取りだす。
「今日は当て馬とNTRの関係性。その創作論についてだ!」
「お耽美な世界の話?」
世界線の重ならない弧見のために、千佳伊が丁寧に説明をしていく。
「本来の当て馬とは、種付けの前に牝馬を発情させるための存在だ」
「ふむふむ」
「だが、最近は取られるギリギリを攻めず、奪われる前提なのが気に入らない!」
「本当にごめんなさい」
弧見が勢いよく土下座。
すかさず千佳伊がデコピンをする。
「あいた!」
「私に回想厨をさせるつもりか。BSSを言うつもりはない」
額を擦りながら弧見はウルウル上目づかい。
「じゃあなんで?」
「NTRの本質は、関係性に対する価値観がまったくの別物に置き換わること」
千佳伊がそっと弧見を抱きしめた。
「好きな人が変えられていくのを観客視点で追体験させることでもある」
「何が言いたいのか分かんないよ」
「弧見は変わったが、私は変わらなかった。それが敗因だと見つめ直したのだ」
千佳伊は立ち上がり、弧見をビッと指差す。
「今度のことで私は変わってみせる! 覚悟しておけ!」
「だからって勢いで結婚しちゃうのは良くないよ!」
「ふん。婚約をするとは言ったが、結婚をするとは言っていない」
そこで千佳伊がスマホを取りだし、操作を始める。
──ピロン。
弧見のスマホが鳴った。
「ナニコレ? 〝音楽PとのNTR婚約破棄〟って新作?」
「そうだ。ある意味、ドキュメンタリーなリアリティーショー小説だな」
「特設サイトの賭けコーナーでオッズまで出てるし......」
そうして数週間が経過。
自分たちの恋愛をショー仕立てにしたことで、新たな炎上を呼ぶ。
「なぜ、私がAIに断罪されなければならない?」
NUに人間の裁判官はいない。
騒動はAIの判断で裁く──そう定められたことが大きな波紋となっていった。