第八十二話 管理
──NU。
巨大経済圏であるNUの管理は大変だ。
残業続きで壊れたテンションの千佳伊が発狂する。
「ルビの文字数制限の管理が大変すぎる!」
「あー、英語のセリフに日本語のルビを振ろうとしたら制限がキツイよね~」
弧見も頷く。
リビングで騒ぐ二人に、仙が小言と料理を運ぶ。
「ほれ、飯。難しい漢字や外国語を使わなきゃいいだろ?」
「意味と読みを圧縮したいこともある。そういや、ルビ振りも派閥があるな」
「難読漢字だと初回派、毎回派、ひらいちゃう派がいるよね~」
千手観音を思わす弧見の残像が、娘たちに食事を与えていく。
食べこぼしは千佳伊が超速で拭いた。
「動きもだが、1エピソードあたりの文字数を揃えるのも大変だ」
「え? チカチカってそんなことしてるの?」
千佳伊は約2500文字にまとめているが、弧見は気分次第で幅が大きい。
仙がごはんのお代わりをよそう。
「文字数が決まっているコンテストなんかは大変だよな」
「そういや、NUの経理も手間が多い」
「なら、経理は雇って任せてみてはどうだ?」
仙が提案を口にした瞬間、千佳伊の裏拳が飛んだ。
「へぶぅ!」
「一人の経理に任せるのは危険だ。46億8600万円の横領もあったしな」
ANUに参加した漫画家がひどい横領被害にあっていた。
拳を銃口に見立てて息を吹きかける千佳伊。
「明日は我が身。気を引き締めようぞ。では本日の創作論だ」
しかし、キャンセルさせるべく電話が鳴る。
「誰だ?」
『やぁ、千佳伊さん。僕だよ。アニメの二期が決まった。おめでとう』
電話の主は音楽プロデューサーの古室鉄矢だった。
『今回も僕が曲を担当させてもらうからね』
「そういう契約だからな。ところで本題はなんだ?」
『なぜ、そう思うんだい?』
千佳伊が握力の鍛錬器具のようにスマホを握りしめる。
ミシリといった音が漏れた。
「その甘ったるい声だ! 何を考えている!? キモいわ! たわけ!」
『キモいはひどいよ。では、本題を言おう』
古室は息を吸い、言葉をためた。
『千佳伊くん。愛している。僕と結婚して欲しい』
「死ね! 今すぐ異世界に転生してこい!」
「僕は本気だよ。ハネムーンプランもメールで送っておくね」
千佳伊が怒り任せにスマホを投げつける。
壁に叩きつけられ、断末魔をあげたスマホが息を引き取った。
──数日前の報道。
古室が離婚したとあった。
長年連れ添った妻が入院した際に、その病院の看護師と不倫をしたからだ。
弧見は心配そうに千佳伊を見る。
「チカチカが断って良かったよ。あんなの100%結婚詐欺だし」
仙が弧見の肩を抱きながら笑顔をみせる。
「千佳伊が見え透いた詐欺にかかるわけないだろハニー」
「ダーリン......」
二人が甘い空気を漂わせ、千佳伊の瞳が焦点を失った。
「気が変わった。古室との婚約を前向きに検討してみよう」