第七十六話 中継
千佳伊と仙は一路ニューヨークへ。
そこでフランス政府側とコンタクトを取った。
政府主催の懇親会の場。
「マカロンくん、先日は勘違いで失礼なことをして済まなかった」
「君、大統領に向かってそんな口の聞き方は......」
外務大臣が窘めるのを、マカロン大統領が手で制した。
「チカイ、また会えて嬉しい。チカイのお陰でとても幸せだからね」
──千佳伊が大統領をそっくりさんと勘違いして追いだした事件。
当時、支持率が大きく低迷していた大統領は、その笑い種を上手く人気どりに利用し、支持率をV字回復させていた。
「チカイが今回の国連に参加すると知って嬉しく思うよ!」
「うむ。よろしく頼む」
明日から開催される国連AIサミット。
民間からもAI有識者が多く参加する。
AIによる日本での自動運転を実現した専門家として、千佳伊も呼ばれていた。
そうして、ビールで乾杯する今に至る。
「フランスなのにワインではない? もはや造り手のこだわりはないのだな」
「チカイは小説家だよね? AIを執筆に使うことについてどう思う?」
「そもそも何故、AIを執筆に使う?」
千佳伊が素で聞き返し、大統領も肩を竦める。
「さぁ? 私は知らないけど、文章力に自信がないからかな?」
「恥と小説はとにかく書くべきだろう? 世のバカはそれすらできんのか?」
さらなる暴言の予感に仙が動く。
「おちつけ千佳伊!」
背後から抱きしめ、口も押さえる。
「ふぐ!」
「ちょ! 手を舐めるな」
「仙こそ、TPOを弁えろ! こんなところで発情するなぞ何を考えている!」
仙は会場の外へ千佳伊を連れ出した。
「弁えるのはお前だ! 相手は大統領だぞ!? 礼節をもって......」
仙の唇に人差し指を押し当てる千佳伊。
「私は作家だ。作家はまともでないから常識を当てはめるな!」
「自分で言うのかよ! まともな人もいるだろ!?」
「自分のことをまともと言う奴ほど、異常者に違いない」
危険を察し、仙はスマホで早退する旨を連絡した。
翌日。
仙は出席者ではない。
だから、ニューヨークのホテルの一室でテレビ中継を見ている。
「頼むから問題発言はやめてくれよ」
ひたすら神に祈る。
先日の早退劇も千佳伊によってツイートされている。
そちらの炎上など気にもならなくなることを仙はまだ知らない。
──そう。
神はいない。祈りは届かなかった。
『どいつもこいつも陳腐表現ばかりで聞くに耐えん!』
『日本代表に申し上げます。発言を控えてください』
『黙れ! いつまでも弱腰な国連の言葉を聞く国なんかどこにある!?』
仙は胃に巨大ドリルの出現を感じた。
「殺してでも出席を止めるべきだった......」