第六十六話 重言
「あくまで足掛かりだ! これからの予定スケジュールも詰まっているぞ!」
千佳伊が資料をテーブルへ叩きつけ、仙が嫌そうに眉をひそめた。
「その〝予定スケジュール〟って意味被りだぞ」
仙の指摘に、弧見が威嚇する猫のような反応をする。
「うっわダーリン! 朝から重言警察しないでよ!」
「重度の警察は、一般化されている言い回しにも噛みつくから厄介だ」
千佳伊の眼光も、仙に追い打ちをかけていく。
おどおどとした弧見が千佳伊へ歩み寄った。
「チカチカ、一般化って?」
「事前予約、校長先生、マグカップとかだな。なぜか粘着してくる」
「そいやウチの〝抱き抱える〟や〝選り選る〟にも難癖が来たよ~」
眼光レーザーを掻い潜り、仙も応戦する。
「〝まず一番最初に前もって予め言っておく〟とかはわざとやっているのか?」
「あぁ、警察が嬉々として釣れるぞ。そんなことより、これが予定だ」
資料には、オーディション番組、時代劇、ミュージカルと並ぶ。
「では行くぞ。まずは巫女オーディションだ!」
有無を言わさない千佳伊の起こす天災に、二人は巻き込まれた。
すぐさまハイヤーでヘリポートへ。
ヘリは寂れた神社へと急行。
境内には撮影スタッフと思われる数名と、四人の巫女がいた。
「参加人数はたったこれだけか?」
「すみません千佳伊さん。あまりに急なもので、大して集まらず......」
頭にやや寂しさの募るプロデューサーが平謝りをしている。
不機嫌な千佳伊の喝が飛ぶ。
「ならお前も参加しろ! 激戦でベスト8が出揃ったとしておけ!」
千佳伊、弧見、仙、臼井プロデューサーが巫女服で飛び入り参加。
コテコテに誇張されたオーディションが終わった。
翌日には時代劇のクランクイン。
畳の居間で撮影をこなしつつ、仙が不満を言う。
「巫女の件、炎上してんじゃねーか!」
「出来レースと言われている件か? あれでいいんだ。それより集中しろ」
今日の衣装は着物を幾重にも重ねていた。
暑さに参りぎみの弧見が汗を拭う。
「先日の神社も、この日本家屋の街並みもチカチカの作品に出てたよね?」
「勘が良いではないか。聖地巡礼マップを作っているのだ」
千佳伊の考えではこうだ。
小説の舞台にしたところを片っ端から撮影。
一連の話題性を作り、自治体から書籍化やアニメ化を持ち掛けさせるという。
「んな上手くいくかよ。古室さんの魔法のような楽曲でも厳しいぞ?」
「それよりチカチカのマネーパワーでゴリ押せば、アニメ化できるんじゃない?」
腕を組み、鼻で笑った千佳伊が二人を睨んだ。
「ハン! 圧倒的な話題性が必要なのだ」
楚々とした褄取りをしながらも吠える。
「でなければあのような駄作、誰も読まぬであろう!?」
二人は生レモンを食べた顔になった。