第三十六話 衣装
ジャパンエキスポ前日。
千佳伊と弧見が、明日の衣装について意見を交わしている。
「チカチカのコスプレは何のキャラ? 際どすぎない?」
「自作のキャラだ。どうだ仙? この衣装は?」
「さ、さすがに目のやり場に困る」
千佳伊の衣装は、クロッチ幅2㎝の穴あき超ハイレグ。
仙も千佳伊も顔が紅い。
「......仙を照れさせたのなら、頑張って着たかいがあるな」
「ウチには無理だよ。そういや昨日もギリギリだったし危なかったよね」
スリグループが発信機に気づいた。
それとほぼ同時に、根城を制圧。
「警察の話では、あの区画一帯を縄張りにしているグループらしいな」
仙が読めもしない現地の新聞をバサりと広げる。
それを千佳伊のかかと落としがビリビリと引き裂いた。
「ちょ、何すんだよ! 読めねーじゃねーか!」
「ところでだ、仙。デカいブロックは読みづらいと思わんか?」
「チカチカ! その恰好で足を上げたらダメだよ!」
「問題ない。仙に見られても、私が喜ぶだけだ」
真っ白な壁をスクリーン代わりにプロジェクターを投影。
「私はブロック警察を全面的に支持する!」
「そ、そんな! チカチカが警察を支持するなんて......」
最初に表示されたのは、一文一段落で常に空行をいれる型。
「私はこれを〝短文オールセパレート〟と呼んでいる」
「セリフと地の文の間に空行をいれる〝セリフセパレート〟型もあるよね」
「そういうスカスカなのはあまり好きじゃねーな。俺はクラシカルな方が......」
二人から強力な目力が注がれる。
「お前が言うのはドストエフスキースタイルだろう?」
「あんなのWEBで投稿したらPVなんかゼロだよ!」
新聞の残骸を投げ捨てる仙。
「海外の作家はそっちの方がなじみあるかもだろ?」
「そんな理屈は日本では通じんぞ。元より、文化が違う」
「そうだよ仙。謙虚、謙遜がないとね~」
以前、海外の作家志望が〝妄想家になろう〟に挑戦してきた。
皆が「素晴らしい日本語です」「そこらの日本人より上」と褒めちぎった。
謙遜の文化を知らず、それを真に受けてしまう。
だが、お世辞モリモリのヨイショだったと知り、彼は絶望してしまった。
「あの『日本人は嘘つきだ!』って悲しいすれ違いが生まれた事件か」
「ついつい相手を立てて褒めちゃうしね~」
明らかにソワソワしだした千佳伊が、チラチラと仙を見る。
「で、この衣装の感想をまだ貰ってないのだが......率直な意見を頼む」
仙の表情からは、電子音がするかのよう。
「ソウデスネー。トテモヨクニアッテイマスー」