第三十七話 登壇
ジャパンエキスポ初日。
「チカチカ、なんで普通の服にしたの? ウチだけ浮いてるじゃん!」
弧見は何かのアニメキャラのメイド服。
千佳伊はいつもの意識高い系ファッションだ。
「あんな過激なのを人前で着られるわけがなかろう?」
「俺の前でも着るなよな」
「......つまり仙の前では全裸になれと?」
急に歩行速度を上げた仙が、ずんずんとブースを進む。
二人も慌てて追いかけた。
「着いたぞ。今日の登壇ブースだ」
仙が関係者に挨拶を済ませていく。
今日は千佳伊の登壇も予定されている。
「コスプレが多いな」
「向こうでモデルガン持ち込んだ人が捕まってたよ?」
「適切に取り締まられるのは良いことだ。私もブロック警察はしているぞ」
こんなときでも創作論を語りだす千佳伊。
「スクロールバーが極端に短くてもブラウザバック。ドストエフスキーは論外だ」
「流し読みできない漢字が乱立してても、すぐブラバって言われてるよね~」
仙が千佳伊を手招きする。
「ほら、登壇は次だってよ。聴き手にケンカ売るなよ?」
「無論だ」
「チカチカってどんな肩書で呼ばれたの?」
仙があごで弧見を促す。
登壇者パネルのところには〝日本のライトノベル作家代表〟とある。
「え? 詐称......いや、誇大......」
「弧見、言ってやるな。底辺ってつければあながち間違いでもない」
そうしてあっという間に千佳伊の出番に。
堂々としたふるまい。
声にも自信がみなぎり、受け答えもスムーズだ。
「案外バレないもん?」
「かもな。参加者も〝知らないけど有名作家〟くらいに騙せてるかも?」
ステージ袖で二人は不安げに見守っている。
ほどなく、その不安は現実のものとなる。
『感想すらもらえない勢が増長しすぎなのだ!』
キーィィンンというマイクのハウリング。
『そいつらが「厳しめのご意見をください」と、まぁ来るわ来るわ』
『勘さん。アドバイスを改善に活かしたいという作者の考えも......』
『甘いわ! そいつらは改善意見など求めてすらいない!』
仙が胃の辺りをさする。
「なぁ弧見。俺、今すぐ帰りたくなってきた」
「見届けたら? 大事になったらチカチカの尻拭いするんだし~」
二人のやり取りとは異なり、会場は異常なヒートアップを見せる。
『そもそも一番厳しい「全く読まれない」という現実から目を逸らしている!』
『だから改善案を求めているのでは?』
『空行なしはズボンを穿いてないのと同義! 変質者ばかりだ!』
『か、勘さん、落ち着いてください!』
千佳伊はロック歌手のようにテーブルを踏みつけ、さらに吠える。
『内容? 身だしなみを整えて出直せ! 問える身分では無いわ!』