
第七幕 三途の川はセルフサービス、からの地獄めぐり
気づけば梅太郎は見知らぬ場所に立っていた。
「ここは、死後の世界......?」
目の前には、静かに流れる川。
三途の川である。
......全滅した。あっさりと。
この川は自作のマップだったらしい。横に川が流れ、縦に渡っていくという、シンプルながらどこか手作り感あふれる不気味な構造をしている。渡し守らしき人物がポツンと立っていて、名前を呼ばれた者から順に、機械的に川を渡っていく仕組みだった。
その渡し守の前に、見覚えのある顔ぶれがずらりと並んでいる。
「......」
パンプキンと、ゴンザレスと、アンソニー。
......あいつら、いつの間に死んでいたのか。
アンソニーとゴンザレスはちゃんと名前を呼ばれてから粛々と渡っていくのだが、なぜかパンプキンだけは様子が違う。実はパンプキンは、この二人よりも先に川を渡っているはずなのに、序盤のイベントの時点で、すでに川を渡い終えたかのような扱いで登場させていたらしい。当時の観客(友人S)が「あれ、これってパンプキンじゃね?」と気づけるように、あえて仕込んだ自己満足の小ネタだったようだ。
渡し守の検問を抜けた梅太郎が連れて行かれた先は、川の向こうのうす汚い牢屋だった。
「くそ......どうすれば......」
......死後の世界(地獄)にまで来て、まさかの牢屋である。
しかも投獄されるまでの経緯は、当時からしてすでに記憶が曖昧な部分だったらしい。とにかく気づいたら狭い格子の中に閉じ込められていた、というのが実情に近い。
そこへ、暗闇から聞き覚えのある声が響き渡る。
「助けに来たぞ、梅太郎!」
シャフトである。
......お前、さっき盛大に全滅したはずでは、という疑問は、このカオスな作品においてはもはや野暮な質問になりつつある。そうか、死んでるからセーフなのか。このあたりの生死の概念がどうなっていたのかも、当時の頭でははっきりとは思い出せない。
肝心の牢屋の鉄格子は、驚くことに、外からの体当たりであっさり破壊された。
「意外に脆いっぺよ、この鉄格子」
かつて敵の銃撃に耐えきれず「はへ?」と散っていったあの兵士の一言とともに、脱獄はあっけなく成功する。
......この地獄で一番頼りなさそうだった兵士に、まさか一番最初に助けられる日が来るとは思わなかった。主人公として、ちょっとばかり複雑な屈辱がある。
牢屋を抜け出したところで、生前に散々恨みを買っていた面々が待ち構えていた。
「背後からとは、卑怯だぞ!!」
ゴンザレス。
「よくも家を壊してくれたな!!」
パンプキン。
「放置しやがって!!」
アンソニー。
......全員、死んでなおゾンビ化して容赦なく襲いかかってくる。
しかし、死闘(?)のあと、散々恨み言を吐いていた面々は、なぜか急に態度を軟化させた。
「スライム生息地を荒らして悪かった」
ゴンザレスが神妙に謝る。
「変な手紙を渡して悪かった」
パンプキンも反省の色を見せる。
「いや、むしろ助けろよ」
アンソニーだけは、最後まで謝罪ではなく理不尽な要求だった。
......死んでもなお、誰も彼も自分本位である。
地獄の深部へさらに進みながら、いつの間にか復帰していたスライム大統領がふと頭を抱えて呟いた。
「ところでどうやってここから出ればいいんだろうな?」
......誰も答えられない。そもそもこの地獄からの具体的な脱出方法なんて、当時から誰も設計していなかった可能性が極めて高い。
そのままあてどなく歩き続けていると、目の前に思いがけない見覚えのある人物が姿を現した。
「おお、梅太郎。大きくなって......あの後のおじいさんとの戦闘でな......」
おばあさんだった。
......あの歴史的夫婦喧嘩、まだどこかで続いていたらしい。しかも、おじいさんの方の勢いが止まらず、もう一段階余分に変身していたようだ。
おばあさんの回想の中で、その恐るべき姿が映し出される。
「ハァハァハァ......ワシはまだ一回変身を残しているのじゃぁぁぁ!!」
降臨する、アルティメット爺と、シャイニング婆。
......老夫婦のバトルが、いつの間にか某バトル漫画さながらのインフレ戦闘に突入している。当時は「まだ変身を残している」というセリフを言わせたいがために、深く考えず無理やりストーリーをねじ曲げていた。
はぁはぁと肩で息を切りながら「あと一回だけ変身できる」と誇らしげに宣言するおじいさんと、それを聞いて目を見開くおばあさん。派手なエフェクトと轟音のあと、画面が真っ白にホワイトアウトして回想は終わる。
一通り、説明をしたお婆さんは、最後に一言。
「なぜじゃ......なぜ私達を止めてくれなかったのじゃぁぁぁ!!」
......見事なまでの逆ギレである。
わざわざ止めに来たはずの梅太郎に対して、そもそも止められなかったことを本気で逆恨みして怒っている。この理不尽さの一貫性だけは、どんなに世界観が崩壊してもこの作品において常に保たれている。
お婆さんは、みるみる変身していき、シャイニング婆の更なる形態、シャイニング婆・悪と化したおばあさんは、なぜかその怒りの矛先を、事情もよく分からず立ち会っている梅太郎に向けてきた。
激闘の末、シャイニング婆・悪はようやく長かった矛を収めた。
「ごめんなさいね、私が悪かった。あとは頼んじゃぞ、梅太郎。そろそろ迎えが来たようだ......」
おばあさんはやり切った顔で、静かに成仏していく。
......あれだけ周囲を巻き込んで暴れ散らしておいて、去り際だけは妙にしみじみとしたドラマの主人公ぶっている。
地獄の出口を求めて先を急ぐ一行の前に、またしても進路を阻む魔物が立ちはだかった。
「ここを通すわけには行かない!!イーーッ!!」
デー門である。
このデー門、実はツクールの素材を無理やり流用した左右対称の2体1組で構成されていたキャラクターだったらしい。片方を気合いで倒しても、もう片方が左右反転した全く同じ姿で不気味な控えているというトラップ仕様だ。
ようやくデー門を退けたその先に、追い打ちをかけるようにさらに別の門番が現れる。
「この現世に通ずる道を通りたければ、私を倒すがいい!!」
バサラ。
......さっき門番を倒したばかりだというのに、数歩歩いただけでまた別の門番が立ちはだかっている。
このバサラ、当時はどこかのサンプルデータにあった「竜騎士」のグラフィックをただ流用しただけのキャラクターだったようだ。この死後の世界、地獄の警備体制はどうなっているのか、門番を名乗る者たちがとにかく多すぎるのだった。