仕事探し(後編)
ソノに「頑張んなよ!」と送り出され、ティアは商店街を下っていた。
彼女の話だと商業区の南側に服飾品や宝飾品をあつかう店が多いらしく、ティアは悩みつつも、ソノの助言どおりにその一帯を目指しているのだった。
「お仕事、見つかるといいね!」
ココは気楽なもので、そう言いながらスカーフを巻いたティアの肩に腰かけている。どうやらソノのスカーフが気に入ったらしく、ずっとこうしてくっついていた。
ティアの髪も、いつもは自分で適当にひとつまとめにしているだけだが、ソノの手によってなにやら複雑な形に結い上げられている。
しばらく歩くと、色鮮やかな帽子や小物がならべられた店がいくつも見えてきた。きっとこのあたりだろう。
衣料品店、帽子屋、靴屋......さまざまな店が軒を連ねている。どの店も正面には大きなガラス窓があり、店内のきらびやかな商品がよく見えるようにならんでいた。
通りを歩く客も、女性客が多いようだった。港へ向かう人々とはすこし違っていて、仕立てのよい服を着た商人や、買い物袋を抱えて楽しそうに談笑する女たちだ。
その中でもひとつの店が目についた。観光客らしき親子が、ガラス窓の前で足を止めている。
「あっ......妖精だぁ!」
ココがそう歓声をあげたのは、看板だった。
目立つ大きな看板に、妖精が帽子に魔法をかけている絵柄があり、【妖精の祝福ダリアの店】と書いてある。
この店は完全に女性向けらしく、きらびやかなドレス風の服や鞄、大きな花飾りのついた帽子など、華美な商品を扱っているようだった。きらきらとしたネックレスもたくさん飾られていて、ココは目を輝かせてガラス窓にはりついている。
「お客さん、お目が高い! それはね、リスフェリアの森の蚕から紡いだ、最高級のシルクでできた生地なんですよ。ほら、まるで妖精が身にまとっているかのような美しさでございましょ?」
ぎょっとして振り返ると、いつの間にいたのか、若い派手な女がティアの横に寄り添うように立っていた。真っ赤な口紅に、目の上は真っ青で、ブロンドの巻き毛がくるくると顔のまわりで渦をまいている。
「あらやだ、エルフのご令嬢でしたのね! リスフェリアの森について説いてしまうなんて、わたくしったら恥ずかしいことを......でもほら、ご覧になって。このブルーのボレロなんて、お嬢様にぴったりじゃなくて? こちらはね、今グラン・ソルンで大流行している仕立て屋、ベルーナがデザインしたものなんですの! 見てください、この胸のドレープなんか、他の仕立て屋ではとても作れない一品ですわ。ほらお嬢様、ほかにもこちらに!」
女は一気にそう言うと、ティアに一言も返事をする間をあたえず、あっという間に店内へと引きずり込む。
店の中は、商品も、装飾も、すべてがきらびやかだった。よく見ると、天井から吊るされている照明にまでガラスがじゃらじゃらとぶら下がっていて、ろうそくの炎を反射してぴかぴか光っている。
「こちらのバッグはですね、お買い物にはもちろんパーティーにも合うようにあつらえてありまして、ここのバックルを取り外すと......」
「あの!」
なおも一方的に続ける女を、ティアは大声で制した。
「あの、わたし、客じゃないわ。ここには仕事を探しにきたの」
ティアがそう言うと、女はぴたっと言葉を止めた。ついでに顔から笑顔も消える。
「客じゃない?」
「ええ......なにか仕事はない? 仕立ては出来ないけど、なんでもするわ」
そのあとは、早かった。
女は手に持っていたバッグを棚に戻すと、無言でティアの背中を押し、入口の扉へと押しやる。
「あ、あの......」
「仕立ては出来ないけど仕事がほしいって、あんたバカにしてんの? 客じゃないならとっとと帰んな」
そう言って強引に扉を閉めようとしたとき、店の奥からガチャン! と大きな音が響いた。
「きゃあ! ごめんなさい......」
音の主は、ココだった。床には銀色に輝くネックレスが落ちている。
いつの間に店内に入り込んだのか、店中にちりばめられたきらきらに興奮を抑えきれなかったようで、展示されていたアクセサリーを触ろうとし、落としてしまったらしい。
しゅんとして縮こまるココを見て、女は真っ青にぬりたくられた目を見開いた。
「うそでしょ......妖精じゃないの!」
まさに、穴が開くほどじっと見つめる。そしてちらりとティアに目を向けると、
「あんたの連れ?」
こくりとうなずくティアに、もう一度信じられない物でも見たような顔をし、ココを見つめた。
「あたし、前にも見たことがあるのよ......その妖精も、この子みたいな感じだったわ。小さくて、羽があって、きらきらしてた......」
しばらく呆然としている女だったが、突然はっとして胸元をまさぐり、首に下げていたらしき金色のなにかを取り出した――懐中時計だった。
「あと少しで、乗合馬車を降りた団体客がくる時間だわ」
ぱちりと時計の蓋を閉じると、もう一度じっとココを見た。それからティアに目を向け、上から下までなめまわすように観察する。
「あんた、なんでもするって言ったわね?」
そう言ってつかつかとティアに近寄ると、顎をわしづかみにし、ぐいぐいと左右に顔を傾けた。長い爪が食い込んで痛い......。
「ふん、さすがはエルフだわね。ぱっと見、田舎町の小金持ち娘かと思ったけど、顔は一流だわ」
女は店内をぐるりと見まわすと、小ぶりな帽子と長いケープ、それからいったい何を入れるのが適切なのかわからないほど小さなバッグを、手際よくティアに身に着けさせた。
「あんたはその入口で外から見えるように立って。ちゃんと客に笑顔を見せるのよ。それに――」
落としてしまったネックレスの前でぽかんとしているココを見ると、
「妖精さん、あんたにも働いてもらうわよ!」
ぴしゃりとそう言って、展示してあるアクセサリーをじゃらじゃらとかき集めだしたのだった。