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試行錯誤

 それからあれこれと試して、石兵ゴーレムについてはっきりしたことは以下だった。

 石兵の攻撃範囲は、魔法陣を起点にしておよそ4ヤード4メートル。背後にはまわれないのでわからないが、正面、左右、上部、すべてが範囲内だった。

 動くものが入った方向に対して頭を素早く動かすが、それは空気を放つために魔法陣を向けることが目的のようで、視力があるような素振りはない。
 そして、こちらが攻撃範囲に入らないかぎり、石兵はいっさい行動しない。そもそも頭以外は動かないので、あの手足がなんのためにあるのか謎だった。

 それに、なによりも重要なことがわかった。
 ティアが想定したとおり、石兵は一度攻撃すると、ふたたび攻撃するまではわずかだが時間がかかるのだ。

「魔法陣を狙うには、あの攻撃を避ける必要があるわ。矢の速度が失われて陣を削るほどの威力を与えられない。一度石兵に攻撃をさせて、その直後に射かけてみるしかないわね」
「わかった、ボクが硬貨を投げるよ」

 ティアは矢筒から鉄製ボドキンをつけた矢を抜き、弓を構えた。そのすぐ左にピーターが立ち、右手を振りかぶる。

 銅貨がまっすぐ投げられ、石兵の攻撃範囲に入った瞬間、「ボウン」と空気が膨れ上がる。それがおさまったわずかなタイミングを狙い、ティアは矢を放った。

 ――カッ!

 鋭い音がして矢じりが魔法陣に当たり、石兵の足元に落ちる。
 ぎりぎりまで近づき、じっと目をこらして見る。陣が欠けているようには見えず、魔法陣も光を放ったままだ。

「どう?」
「だめね。天井の魔法陣より、石の素材が硬いのかも」

 そう言うと、ピーターは杖を持ち上げて天井を照らした。石兵の頭上の天井は穴だらけだ。そこから石が落ちてきたので当然だが、天井と石兵とで石の素材がどう違うのかは、よくわからない。

「さっきみたいに繰り返せば、少し削れないかな......」
「試してみるわ」

 ティアは矢筒を見た。手元の矢は残り18本だが、そのうち10本は木の矢なので、あの石を削ることはできないだろう。
 鉄製ボドキンを付けた矢はあと8本しかないが、この8本で魔法陣を削りきらなくてはならない。

 そのあと三度同じことを試したが、結果はかわらず、どんなに目をこらしても陣が削れているようには見えなかった。放った矢も石兵の攻撃範囲内に落ちているので、回収はできない。

「使える矢は残り5本......このまま無駄にはできないわ。別の方法を考えないと」
「うーん」

 ピーターは耳を前に倒し、腕を組んで唸っている。

「ねえ、ココの風はどのくらい出せる?」

 突然名前を呼ばれて、ココはぱちぱちと目を瞬またたかせた。

「風? 出せるよ! どうして?」
「たとえばさ、あの石兵を倒せるほどの風は起こせるのかな?」

 そう言ってピーターは石兵を指さした。

「あれだけの石の集まりだと、たぶん4トン以上はあると思う。でも、ひとつひとつの石自体はそんなに大きくないから、風圧で倒すことができたら自重でうまく割れないかなって思ったんだ」
「どのくらいの風があれば倒れるの? ちょっとやそっとじゃ無理そうだけど」
「うーん、たぶん、竜巻みたいに下から上へ渦を巻くようなものすごい風なら......」

 そこまで言って、ピーターは口をつぐんだ。自分でも気づいたのだろう。

「無理ね。こんな狭い場所でそこまでの暴風が起きたら、わたしたちだって無事じゃすまない。それに、ココに竜巻が起こせるほどの力はないわ」
「うん、そうだね......」
「アタシ、風だせるよ! やってみようか?」

 きらきらしながら言うココに、ティアは首を横に振りかけて、ふと気づいた。

「風......」

 石兵を見る。
 4トンの石は持ち上げられなくても、ティアならどうだろうか?

「......もしかしたら、できるかもしれない」
「えっ? 竜巻を?」
「竜巻じゃないわ。わたしを風で押すの」
「ティアを?」
「石兵の攻撃範囲外から射ても、石が硬くて欠けない。でも至近距離からなら?」

 不思議そうな表情のピーターに、ティアは顔を向けた。

「石を削るには、小さな面積に集中して強い力を与える必要があるわ。このボドキン矢はそれに向いてるけど、近くからならより正確に狙いを定められるし、それに矢は放った直後が一番速いの」

 そう言って、ココを見る。

「石兵の攻撃があるから4ヤード4メートル以内には近づけない。でも攻撃がおさまってから走っても、次の攻撃まですぐだから間に合わないわ。だから、攻撃の直後にココの風でわたしを強く押して、近づくための速度を最大まで上げれば、一矢撃てるかもしれない」
「なるほど......たしかに、それならうまくいくかもしれない。ためす価値はあるよ!」
「ココ、一緒にやってみよう」

 ティアの言葉に、ココはきらきらとしながら、満面の笑みで大きくうなずいた。



 ティアは左手に弓を、右手にボドキン矢を持ち、姿勢を低くした。
 石兵の攻撃が届かないぎりぎりの位置から、いつでも走りだせるように神経を集中する。

「いくよ!」

 すぐ左でピーターが腕を振りかぶり、銅貨を投げる。その瞬間、「ボウン」音と同時に空気圧が放たれた。ティアは構わず走り出す。

 石兵の攻撃の中に入る。最初に顔に圧力を感じ、次に肩と胸がのけぞりかけた。しかし背中全体に強烈な風を受けて、ティアは前に滑り出した。転ばないようにバランスをとる。

 思ったとおりだ。一瞬で石兵の懐まで入り込み、ティアは流れるように矢をつがえ、魔法陣の中心に狙いを定めた――そのまま放つ!

 その時、「ゴリゴリ」という音が左から聞こえた。目で追った瞬間、石の塊がすごい勢いで正面から飛んできた。

 ティアはとっさに床を蹴ったが、よけきれず、左頬に強い風を感じた。耳に衝撃が走る。
 そのまま右に倒れかけて顔を上げた瞬間、はっきりと見えた。石兵の腕がぐるんと大きく弧を描き、ティアに向かってくる――攻撃されている!

「ティア!」

 ピーターの絶叫の中、ティアは右足で床からはねるようにして飛んだ。勢いのまま右後方に倒れこむと、「ボウン」音が聞こえて、ティアは後ろに弾き飛ばされた。
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風探しのセレスティア ティアとココの旅手帖作者:田村ネコ
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 それからあれこれと試して、石兵ゴーレムについてはっきりしたことは以下だった。

 石兵の攻撃範囲は、魔法陣を起点にしておよそ4ヤード4メートル。背後にはまわれないのでわからないが、正面、左右、上部、すべてが範囲内だった。

 動くものが入った方向に対して頭を素早く動かすが、それは空気を放つために魔法陣を向けることが目的のようで、視力があるような素振りはない。
 そして、こちらが攻撃範囲に入らないかぎり、石兵はいっさい行動しない。そもそも頭以外は動かないので、あの手足がなんのためにあるのか謎だった。

 それに、なによりも重要なことがわかった。
 ティアが想定したとおり、石兵は一度攻撃すると、ふたたび攻撃するまではわずかだが時間がかかるのだ。

「魔法陣を狙うには、あの攻撃を避ける必要があるわ。矢の速度が失われて陣を削るほどの威力を与えられない。一度石兵に攻撃をさせて、その直後に射かけてみるしかないわね」
「わかった、ボクが硬貨を投げるよ」

 ティアは矢筒から鉄製ボドキンをつけた矢を抜き、弓を構えた。そのすぐ左にピーターが立ち、右手を振りかぶる。

 銅貨がまっすぐ投げられ、石兵の攻撃範囲に入った瞬間、「ボウン」と空気が膨れ上がる。それがおさまったわずかなタイミングを狙い、ティアは矢を放った。

 ――カッ!

 鋭い音がして矢じりが魔法陣に当たり、石兵の足元に落ちる。
 ぎりぎりまで近づき、じっと目をこらして見る。陣が欠けているようには見えず、魔法陣も光を放ったままだ。

「どう?」
「だめね。天井の魔法陣より、石の素材が硬いのかも」

 そう言うと、ピーターは杖を持ち上げて天井を照らした。石兵の頭上の天井は穴だらけだ。そこから石が落ちてきたので当然だが、天井と石兵とで石の素材がどう違うのかは、よくわからない。

「さっきみたいに繰り返せば、少し削れないかな......」
「試してみるわ」

 ティアは矢筒を見た。手元の矢は残り18本だが、そのうち10本は木の矢なので、あの石を削ることはできないだろう。
 鉄製ボドキンを付けた矢はあと8本しかないが、この8本で魔法陣を削りきらなくてはならない。

 そのあと三度同じことを試したが、結果はかわらず、どんなに目をこらしても陣が削れているようには見えなかった。放った矢も石兵の攻撃範囲内に落ちているので、回収はできない。

「使える矢は残り5本......このまま無駄にはできないわ。別の方法を考えないと」
「うーん」

 ピーターは耳を前に倒し、腕を組んで唸っている。

「ねえ、ココの風はどのくらい出せる?」

 突然名前を呼ばれて、ココはぱちぱちと目を瞬またたかせた。

「風? 出せるよ! どうして?」
「たとえばさ、あの石兵を倒せるほどの風は起こせるのかな?」

 そう言ってピーターは石兵を指さした。

「あれだけの石の集まりだと、たぶん4トン以上はあると思う。でも、ひとつひとつの石自体はそんなに大きくないから、風圧で倒すことができたら自重でうまく割れないかなって思ったんだ」
「どのくらいの風があれば倒れるの? ちょっとやそっとじゃ無理そうだけど」
「うーん、たぶん、竜巻みたいに下から上へ渦を巻くようなものすごい風なら......」

 そこまで言って、ピーターは口をつぐんだ。自分でも気づいたのだろう。

「無理ね。こんな狭い場所でそこまでの暴風が起きたら、わたしたちだって無事じゃすまない。それに、ココに竜巻が起こせるほどの力はないわ」
「うん、そうだね......」
「アタシ、風だせるよ! やってみようか?」

 きらきらしながら言うココに、ティアは首を横に振りかけて、ふと気づいた。

「風......」

 石兵を見る。
 4トンの石は持ち上げられなくても、ティアならどうだろうか?

「......もしかしたら、できるかもしれない」
「えっ? 竜巻を?」
「竜巻じゃないわ。わたしを風で押すの」
「ティアを?」
「石兵の攻撃範囲外から射ても、石が硬くて欠けない。でも至近距離からなら?」

 不思議そうな表情のピーターに、ティアは顔を向けた。

「石を削るには、小さな面積に集中して強い力を与える必要があるわ。このボドキン矢はそれに向いてるけど、近くからならより正確に狙いを定められるし、それに矢は放った直後が一番速いの」

 そう言って、ココを見る。

「石兵の攻撃があるから4ヤード4メートル以内には近づけない。でも攻撃がおさまってから走っても、次の攻撃まですぐだから間に合わないわ。だから、攻撃の直後にココの風でわたしを強く押して、近づくための速度を最大まで上げれば、一矢撃てるかもしれない」
「なるほど......たしかに、それならうまくいくかもしれない。ためす価値はあるよ!」
「ココ、一緒にやってみよう」

 ティアの言葉に、ココはきらきらとしながら、満面の笑みで大きくうなずいた。



 ティアは左手に弓を、右手にボドキン矢を持ち、姿勢を低くした。
 石兵の攻撃が届かないぎりぎりの位置から、いつでも走りだせるように神経を集中する。

「いくよ!」

 すぐ左でピーターが腕を振りかぶり、銅貨を投げる。その瞬間、「ボウン」音と同時に空気圧が放たれた。ティアは構わず走り出す。

 石兵の攻撃の中に入る。最初に顔に圧力を感じ、次に肩と胸がのけぞりかけた。しかし背中全体に強烈な風を受けて、ティアは前に滑り出した。転ばないようにバランスをとる。

 思ったとおりだ。一瞬で石兵の懐まで入り込み、ティアは流れるように矢をつがえ、魔法陣の中心に狙いを定めた――そのまま放つ!

 その時、「ゴリゴリ」という音が左から聞こえた。目で追った瞬間、石の塊がすごい勢いで正面から飛んできた。

 ティアはとっさに床を蹴ったが、よけきれず、左頬に強い風を感じた。耳に衝撃が走る。
 そのまま右に倒れかけて顔を上げた瞬間、はっきりと見えた。石兵の腕がぐるんと大きく弧を描き、ティアに向かってくる――攻撃されている!

「ティア!」

 ピーターの絶叫の中、ティアは右足で床からはねるようにして飛んだ。勢いのまま右後方に倒れこむと、「ボウン」音が聞こえて、ティアは後ろに弾き飛ばされた。
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