

二十一話 中身おっさんなのに……
「え、今の姿じゃ嫌なの?!」
「その......目のやり場に困りまして......」
「今の姿そんなに卑猥?!」
「ひっ、卑猥?! 違います、違います!!」
ユタカは耳まで真っ赤にしながら両手を振る。
「と、とにかく、私は赤ちゃん姿のダイチ様が好きなんです......!」
「......」
――ん〜と......どないすれば??
(彼女に司祭になって欲しいのなら、叶えてあげればいいじゃない?)
でたな盗聴魔! やはり聴いていたか!!
(はい、不敬ポイント二点追加〜)
(叶えてあげればって、赤ちゃん姿に? 逆になれるんですか?)
(今より若い型なら、なれるわよ)
ぷぷぷと含み笑いが混ざった言葉に、少しイラッとしてしまう。
(上司が教えてあげているのに失礼ね。不敬ポイント一点追加よ)
(最初から教えておいてください。マニュアルとかないんですか?)
(ないわね。作っていいわよ?)
(俺に過労死しろと?)
(大丈夫、神に過労死はないわ)
くっそドブラック!! 奴隷より酷い扱いじゃない??
(貴方が職場環境の改善を行えばいいじゃない?)
(なんで管理職が他人事なんですかね?!)
(ほら、私、惰性でやってるからぁ)
(惰性で管理されて奴隷以下の労働環境で働かされる気持ちも分かって欲しいですね!)
「......ダイチ様??」
ユタカが心配そうに俺の顔を覗いていることに気がついた。あのクソ上司め......余計な茶々を入れてくれやがって......。
(自分がなりたい姿を想像して念じたらできるわよ。感謝しなさい)
――誰が感謝するか!
とはいえ、ユタカの要望にも応えてやりたいとは思ってしまっている。つまり、まぁ、もう自分の中で答えは出ていることを認めよう。
言われた通り念じると、本当に変われてしまった。
「これくらいで、我慢してくれ」
「ダイチ様......」
ユタカは目をキラキラと輝かせながら、「なんと愛くるしいのでしょう」と俺を抱き締めた。そして俺に顔を埋めて深呼吸した後、俺を解放した。
「ダイチ、もう少しバブ味が欲しいです。これは赤ちゃんではなく、幼児です」
「いや、赤ちゃんは不便だから勘弁して......」
「ん〜、まぁ、二歳児くらいか......」
ユタカは俺を抱え上げ、あちこち検閲する。
「二歳児......う〜ん......一歳半はダメですか?」
「一歳半? 刻むなぁ......。いや、これ以上小さいのは嫌だぞ?」
「じゃあ司祭も......」
こ や つ !
奥歯を噛み締めながら、さらに若返る――うん、まぁ許容範囲か?
「ダイチ様!!」
ピコン
神威の上がるタイミングが良すぎる。おい、クソ上司! 今、絶対笑っただろ!?
「これで満足か?」
「満足ではありませんが、妥協します!」
「そこ満足って言ってよ......」
「でも、そもそも私なんかが司祭に立候補してもよろしいのでしょうか......?」
「え、ここまでしたのに立候補してくれなかったら俺泣くよ?」
「わわわ、ごめんなさい、立候補します!」
翌日、ユタカも加えた立候補者達で改めて祈りの時間を作った。事情を知らないメンバーは、赤ちゃん姿になった俺に困惑していたが、ユタカだけは心底嬉しそうに祈りを捧げてくれる。
――あぁ、シンローの言っていた意味が少しわかった気がする。
ユタカの祈りは俺の心が温かくなる。そして、神として頑張りたくなる。
(弟そっくりなダイチ様に仕えられること、心から嬉しいです。誠心誠意お仕えいたします――)
司祭はユタカに決定した。話はトントン拍子で進み、翌日にはユタカだけが教会に引越ししてきた。両親は近所なので引き続き今の家に住むらしい。
「ダイチ様、これからよろしくお願いします!」
シンロー指導の元、司祭就任の儀式を行う。ほぼ全ての町の人が教会の外の広場まで集まったので、俺もユタカも非常に緊張した。教会の祭壇の前に、ユタカと二人並んで立つ。ユタカは頭を下げている。
「これより、この教会の司祭として、主神・ビッジョ様の教えを説き、迷える者を導くことを誓うか?」
「はい、誓います」
「では、今日からユタカ・モリをこの教会の司祭として認める」
ユタカの肩に試作でできたばかりのシルクスパイダーの布を掛ける。さらりとした肌触りの布がキラリと輝いた。
「ありがとうございます」
教会の最前列で、国王夫妻が嬉しそうに拍手し始めたのに合わせ、国民が一斉に拍手をした。
――無理矢理やらされたけど、こういうのも悪くないかもな。
頬を桃色に染めるユタカは、恥ずかしそうではあったけど、どこか誇らしげだった。
その日の夕方、ユタカの夕食に同席しながら語りかける。
「――なぁ、ユタカ。教理決めないといけないんだけど、ユタカは何か希望があったりする?」
シルクのマントをサラリと肩から落としながら、ユタカは考える。司祭とはいえ、夕食は今までと変わらず質素なものだ。
「んー......皆のお腹が空かないような世界になれば嬉しいですね......」