

十一話 はい、そのうち来ると思ってたよ。この問題
「ユタカ、どうした?」
俺はできるだけのんびりとユタカに話しかける。ユタカは隣にいたトロールを抱き締めながら、中年の男性を睨んだ。
「ワカラーヌさんがこの子の言うことを聞かないで別行動しようとしたせいで、この子が怪我をしたんです!」
「俺はよく採れる場所に行こうとしただけだ!」
「その場所は指定された場所じゃなかったでしょ?!」
「魔物の言うことなんて信じられるか?!」
「でも他の魔物から守ってくれたのもこの子でしょ?!」
ガルガルと怒るユタカ。ちびトロールを見ると、確かに腕が無くなっていた......ん? 腕無くなってるじゃん?! 治るの? 可哀想!?
「ちょっとロック! この子治せる?!」
「主、治せるから落ち着く」
そう言ってロックはノソノソとちびに近付くと、その辺の石を拾ってきて胴体――というか顔をガチンと殴った。
――え、そんな方法で治るの?!
確認すると、ちびにその石がくっついている。なんかもう色々とツッコミどころが多いが、治ったのだからまあ良しとしよう。ツッコんでいたら話が進まない。
「ありがとう、ロック......」
「問題ない」
ちびは新しい腕ができると、新しい腕をブンブンと回しながら、タタタタタと山の方に駆け戻っていった。
――治ってるぅ、あんな方法で......!
「......そんで、えーっと、ワカラン? はトロールの言うこと聞かなかったの?」
「ワカラーヌです」
「そうです、ダイチ様」
「それはルール違反だなぁ、ワカラン君よ......」
「ワカラーヌですっ」
俺はわざとらしく自分の顎を擦る。
「どうしてワカラン君は言うこと聞かなかったのかな?」
「ワカラーヌです。魔物の言うことなど、信じられなかったからです」
「魔物は魔物でも、俺の従魔なんだけどなぁ......。まぁ、まだ俺の神としての信用が足りないってことだなぁ」
「いっ、いえっ、決してそんなことは......! 魔物が信じられないだけで......!」
「だから、魔物でも神である俺の使いなんだって。俺は従魔を司る神なんだよ。俺の説明不足だったな」
目を白黒させるワカラン君に俺は笑いかける。
「でも、守ってもらってちょっとは分かっただろ? 他の魔物とは違うって」
「それは......」
「そもそも、信用していないのなら、参加すべきじゃないのよ!」
「俺だって食料が欲しい!」
「じゃあ指示には従うべきなの! いい大人がなんでそんなことも分からないの?!」
「何を小娘が......!?」
また喧嘩を始めようとするユタカとワカランを俺は手で制する。
「ユタカ、俺の代わりに注意してくれてありがとう。でも、注意しすぎはユタカの立場を危うくするから、何かあったら俺を呼んでくれ」
「ダイチ様......」
ユタカは「分かりました」と少し悔しそうに頷いた。
「で、ワカラン君だけど......」
「ワカラーヌです」
「基本的にルールは君達を縛るためのものじゃなくて、何かを守るためにある。今のところは君達と、トロール達、あと山だな。今回はまだトロールが君達を守ってくれて君達は無事だったが、トロールは怪我をした。ワカラン君がルールを破ったからだ。分かるか?」
「はい......」
不服そうに頷くワカラン君に俺は顔を近づける。
「おい、今回はトロールの怪我で済んだけど、一歩間違えたらお前ら全員死んでたかもしれねーんだぞ。分かってるか?」
「でも、魔物は――」
「でも......? 自分の家族が死んでもそんなこと言える?」
「――っ! その......すみませんでした......」
やっとワカラン君も少しはピンと来たようなので、俺は「次はやるなよ」と頷いてみせる。
「ルール違反したから、罰として明日は兵士の手伝いな。人間の言うことなら信用できるだろ?」
「それは......まぁ」
不服そうなワカラン君に畳み掛ける。
「兵士も含めて参加者はちゃんと参加料として食料渡すから安心しろ」
「......分かりました」
「なら、よし」
俺は顔を上げて、その場にいる人間に聞こえるようにスキル・神の声を使う。
「今後はみんなの安全を確保するためにも、ルールをどんどん増やしていく予定だ。ちゃんと食料を安全に確保したいなら、ルールは守ってくれ」
「わかりました」とあちこちから声が聞こえてきて、少し安心した。
「ありがとうございます、ダイチ様」
「ユタカもありがとうな。助かるよ」
「いえ、私は当然のことをしたまでです」
俺の姿より少し年下になったユタカの頭を撫でてやると、少し照れたように笑った。可愛い。
「うんうん。なかなかのお手並みだったよ」
今更のように現れたシンローが嬉しそうに頷く。
「この調子なら、早々に僕の担当地域に専念できるようになりそうだ」
「いやいや、まだ何も分かってないし、魔物退治が困るよ?」
「大丈夫。魔物退治ぐらいなら、すぐ駆けつけるよ」
「そこはやってくれるのね?」
「可愛い弟神(おとうとしん)の言うことだ、助けるよ」
「......」
――いや、絶対天誅チャンスだからだろ?
「......ねぇ、なんか良い匂いするんだけど、あれ何?」
「あぁ、賄いに作ってみたんだ。まぁ失敗して、調理し直してもらったんだけど」
「へぇ......僕も貰おう! いいよね、僕が斬ったんだから」
そう言ってシンローは俺の返事も聞かないでクラーケンの煮付けを貰いに行く。神だから颯爽と貰えて、嬉しそうにもぐもぐと食べている。
「......食べられない俺への嫌がらせ?」
「いやぁ、美味しいねコレ。またクラーケン斬ったら教えてあげるよ」
「そこ、自分で持ってこないの?」
「僕は斬るだけさ」
「後処理までちゃんとしろぉ......」
「自分、武神なんで。後処理は担当外なんで」
ドヤ顔で言うなよ。
シンローを睨んでいると、本日のMVPその二の国王が、煮付けを片手にやって来た。嫌がらせか?
「本日は誠にありがとうございました。これで漁が再開できます」
「まだ小さい魔物は出るだろうから注意してね」
「承知致しました。つきましては、船を作るための木を伐採したいのですが......」
ぬっとロックが国王の前に立ち塞がる。
「木の伐採は許されぬ」
ロックくぅん......。新たないざこざ増やしてくれましたねぇ......。
――まぁ、ロックとの契約上、仕方ないか......。
俺は肩を落としてため息を吐いた。