

四話 期待が重すぎてバックレたい
バックれてぇ……
女の子は俺達の目の前にくるなり、両手を合わせた。うん。とても笑顔。めちゃくちゃ笑顔。怖いくらい。
「この地の新しい神様ですか?!」
「そうですよー。神、ダイチ・コヤーマ・ビッジョです」
「抱っこしていいですかー?」
――え? 俺を抱っこ? 一応神なんだけど?
少し大きくなった手でシンローにしがみつくが、シンローは俺の様子も気にせず「どうぞー」なんて気軽に俺を渡しやがる。
「うわぁ!! ありがとうございます!! 神様を抱っこするなんて、うわぁ!!」
――ひぃぃ。
歳は十五歳くらいだろうか? 思春期の女の子に慣れた手付きで抱き締められたり、頭の匂いを嗅がれたりする。
「――神様もお日様の匂いがするんですね! 弟の小さい頃もこんな感じの匂いでした!」
「神は新陳代謝がないので、臭くならないんですよー」
「へー! お風呂も入らなくていいんですか?!」
「そうですねー。でも、気分転換で沐浴したりしますよ」
「そうなんですね!」
のほほんとシンローと会話をしているが、その間にも彼女は俺の小さな羽の匂いを嗅いだり、頭上の輪をツンツンしたり、抱え上げてクルッと全体を見たり......めちゃくちゃ観察してくる。
――ペットにでもなった気分だよ!
フフッとどこからか笑い声が聞こえた――あのクソ上司、俺の様子見て楽しんでやがるな!!
そして彼女は抱っこしたまま俺を抱き締めると、頭に顔を引っつけながら深く息を吸い込んだ。嗅いだな。完全に嗅いだよ。
ピコン
―――――
神威が4に上がりました。
神力:10 → 15
―――――
――信仰ガバガバ判定じゃないですか?
俺の視線にシンローは嬉しそうに微笑みながら頷く。
(なかなか良い信者が付きそうだね)
(......変態の?)
(信仰さえしてもらえればいいんだよ)
シンローの黒い笑みに俺は思わず苦笑いする。
「ダイチ様っ! 私、精一杯信仰するので、また抱っこさせて頂いていいですか?!」
「どうぞ、どうぞ。いくらでも抱っこしていいですよ」
「なんでシンローが決めるんだよ?!」
「わぁ! 怒った声も可愛いですねぇ!」
彼女は俺の頬っぺに自分の頬っぺをスリスリと擦り付ける。もうやりたい放題だ。
「さぁ、そろそろ解放してあげてください。揉みくちゃになってます」
「――っ」
彼女は最後に一際強く俺を抱き締めると、大人しく俺をシンローに返した。
「あの、私はユタカ・モリって言います! これから、毎日お祈りしに行くので、よろしくお願いします!」
よろしくお願いしますとは、俺を抱っこすることに対してだろうか......? モヤモヤとしていると、シンローが「一日一回と言わず、何回来て頂いてもいいですよ」とニコニコしながら言いやがる。
「さて、ダイチ。そろそろ明日の準備をしましょうか......ユタカも今日の夜から明日はできるだけ出歩かないようにね。魔物が出る予定だから」
魔物という言葉に少し青ざめながらも、ユタカは「はい」と頷いた。
「皆さんも、明日の予定ですが、念のため今日の夜から出歩かないようにしてください。予定だと森からトロールの大群が押し寄せてきます」
声を張って言うシンローに、町人の顔色がただでさえ悪いのに、更に悪くなる。
「でも、ご安心ください。必ず、この新生神・ダイチが皆さんをお守りします!!」
シンローが俺の両脇を掴み、町人に掲げて見せる。なんか、もう、今は諦めた! 抵抗するだけムダだ! なるようになれ!
「おぉ!!」
「ダイチ様、我々をお守りください!」
「今度こそ、お願いします!」
見ていた町人の半数程が、期待の眼差しで俺を見て、熱狂し始める。
「ダイチ様! お願いします!」
「安定した暮らしを!」
「俺に彼女を!」
「幸せになりたいでーす!」
「元の国に戻してください!」
「ダイチ様、バンザイ!」
「バンザイ!」
「ウォォォォ!」
――おい、なんか二つ程変なの混じってなかったか?
ユタカが傍で「今日は帰ってから寝ないでお祈りしますね!」と意気込むのが聞こえた――なんだろう、生まれたての俺に対する期待がちょっと重くないか?
ピコン
―――――
神威が5に上がりました。
神力:15 → 20
見た目が5歳になります。
【獲得スキル】
・服従:1
―――――
また少し大きくなった手を握ったり開いたりする。急激な成長に理解が追いつかないが、身体が成長するのは純粋に助かる。
「......俺を神輿にしてるけど、本当に何もできないぞ?」
「大丈夫。僕がしっかりサポートするし、こっそりやれば、誰が守ったかなんてわからないからね」
「......それは、そうだが」
爽やかそうな顔で、なかなかブラック企業に勤め慣れている感じがする――いや、むしろ事実なんだけど。
「魔物はトロールが来る。ちなみに、明日と書いてあるけど、日付が変わってすぐだから実質今晩だよ」
熱狂の中にある静かな声。しかし俺の耳にはしっかりと届いた。シンローが町人に手を振りながら歩き出す。
「えぇ......ちょっと幼児は寝る時間だから、バックレていい?」
「大丈夫、僕らに睡眠時間はほとんど必要ないからね」
シンローは爽やかにウィンクしながら言うが、なぜだろう、どこか社畜感を覚えた。
「......神界に労基とかねぇかな?」
俺の呟きにシンローが「ロウキ?」と首を捻った。