ホーム›Replica ― Amphitheatrum Ideale ―›十三騎士の撤退と盤上のシリアルキラー
← 次の話目次前の話 →
挿絵AIで作った挿絵

十三騎士の撤退と盤上のシリアルキラー

 ?年?月?日 ??時??分

 アーサー・リードは傭兵である。
 金で人を殺し、金で人を守る。金のために生き、金のためなら死ねる。そんな彼が、損得勘定を抜きにしてその命令に従う者がいた。
 アーサーはその者の真名を知らない。ただ、その者が『金融屋』と名乗っていることしか知らなかった。それでも、アーサーは『金融屋』が命じるならば、時には破壊の限りを尽くす虐殺者になるし、時には大きな紛争を終わらせる慈悲深き聖者にもなる。

 『金融屋』はアーサーに一つの仕事を命じた。浅木へ向かい、対象の様子を見て来い、必要とあれば排除せよ、というものであった。その方法はアーサーに一任され、アーサーは『金融屋』から仕事に必要な情報を得ていた。
 また、アーサーは『金融屋』から必要な援助として特別な《結界》を作り出す魔装具を借り受けていた。その《結界》は、一定時間、特定の空間に別位相を生じさせるというものであり、現代の魔術師には再現不能な特殊な代物アーティファクトであった。

 アーサーはその《結界》に対象を閉じ込め、排除しようとした。彼が命じられたのは対象の観察と必要な場合の排除であったが、アーサーの頭には排除の二文字しかなかった。それというのも、アーサーは排除の必要性がない状況などあり得ないと考えていたからである。
 ただし、観察任務を果たす必要があったため、《偽装の騎士》を用いて直接対象に接触することとした。

 対象は凡庸な少年であった。少なくとも、アーサーがここまで入念な下準備を講じる必要があったのかと疑問を覚えるほどには。
 そして、計画を実行するため、《結界》に対象を連れ込むことに成功した。対象は、何の疑念もなくただ、促されるがままにアーサーに従った。アーサーは排除の必要性に疑念を覚えたが、さりとて排除しない理由も思いつかなかった。そこで、排除を実行することとした。

 しかし、そこで邪魔が入った。《結界》には先客がいたのである。それは本来あり得ない異常イレギュラーであった。結果、異常イレギュラーが重なり、アーサーは対象の排除に失敗した。
 現在、アーサーはその顛末を『金融屋』に伝えているところだった。

「ご苦労、アーサー・リード。君の意見は大変参考になった」
「そうですか。それでは、引き続き排除を?」

 アーサーは『金融屋』の命令があれば、すぐにでも引き返し、対象を排除する姿勢を見せる。

「いや、その必要はなかろう。その少年は君から見て凡庸であったのであろう?」
「はい。少年は魔眼こそ持っていましたが、水無月みなづき風華ふうかの介入がなければ確実に仕留められていたでしょう」
「そういう意味ではないのだが」

 『金融屋』は少し呆れたように言い放った。

「では、いったい?」
「ただの凡庸な少年が、かの十三騎士アーサー・リードをもってしても排除できなかったというのは、異常なのだよ」
「それは――」

 何かを言おうとしたアーサーに、『金融屋』が言葉を重ねる。

「――わかっている。イレギュラーのせいということだろう? だが、あるのかね? たまたま《結界》に紛れ込んでいた魔術師が、たまたま凡庸な少年と相性がいい魔術の使い手で、たまたま君が敗れるということが。そう簡単に起こるのかね?」
「――確かに釈然とはしませんが。それに敗れたわけでは......」

 アーサーは云い訳がましいとは思いながらも、正直な不満を打ち明ける。

「撤退させられたのは事実であろう? 損切りのタイミングは見誤ってはいけない。ここらで我々は手を引くべきだ」
「......わかりました」

 『金融屋』が損切りするというのであれば、アーサーに異論はない。

「それに本当に少年が何かを持っているかは、これから試される」

 『金融屋』は、少し楽しそうにアーサーに告げた。

「どういう意味でしょう?」
「『殺し屋』が動いている」
「彼と彼女がですか?」

【挿絵】

 アーサーの言葉には、隠しきれない嫌悪の情が滲んでいた。アーサーから見れば、彼らは金のためでもなく、ただ殺したいからという理由で人を殺す、本物の「人でなし」どもだからだ。

「そうだ。あのシリアルキラーどもが動いている以上、我々がこれ以上投資しなくても結果はわかるのだよ。どうかね? 引き際としては妥当ではないかね?」
「そう、ですね」
「現状、かの少年の性能だけが不明なのだ。それは、あの新参者の唯一のアドバンテージでもある。取るに足りない存在ならよし。利用価値があるなら、なおよしだ。ただ、あの新参者の物云いからしてそういう可能性は低いのだろうな。私にとっては邪魔にしかならんだろう。他の面々も一部は静観するようだし、ここは高みの見物といくよ」
「それでは、私はこれで」
「あぁ、無用な心配だと思うが、出口は間違うなよ」
「わかっています」

 アーサーはその場を立ち去り、まっすぐに出口へと向かう。出口付近にて、アーサーは一人の女性とすれ違った。

「あら? あんたも来てたの」
「これから帰るところだ」
「へぇ、『殺し屋』のショーは見ていかないの?」
「天乃に興味はあるが、彼のショーは性に合わない」
「ショーだけに? ふふふ。じゃあね。十三騎士殿」
「あぁ、壮健でな、禁絶きんぜつ殿」
シェア
前の話 →
神の仕掛け、忘却を拒む不文律と絶対遵守の誓約
← 次の話
警備隊特務課、社会不適合者たちの魔窟
Replica ― Amphitheatrum Ideale ―作者:根岸重玄
目次を見る
コメント0件
ログインしてコメントする
まだコメントがありません
ホーム›Replica ― Amphitheatrum Ideale ―›十三騎士の撤退と盤上のシリアルキラー
← 前の話目次次の話 →
挿絵AIで作った挿絵

十三騎士の撤退と盤上のシリアルキラー

 ?年?月?日 ??時??分

 アーサー・リードは傭兵である。
 金で人を殺し、金で人を守る。金のために生き、金のためなら死ねる。そんな彼が、損得勘定を抜きにしてその命令に従う者がいた。
 アーサーはその者の真名を知らない。ただ、その者が『金融屋』と名乗っていることしか知らなかった。それでも、アーサーは『金融屋』が命じるならば、時には破壊の限りを尽くす虐殺者になるし、時には大きな紛争を終わらせる慈悲深き聖者にもなる。

 『金融屋』はアーサーに一つの仕事を命じた。浅木へ向かい、対象の様子を見て来い、必要とあれば排除せよ、というものであった。その方法はアーサーに一任され、アーサーは『金融屋』から仕事に必要な情報を得ていた。
 また、アーサーは『金融屋』から必要な援助として特別な《結界》を作り出す魔装具を借り受けていた。その《結界》は、一定時間、特定の空間に別位相を生じさせるというものであり、現代の魔術師には再現不能な特殊な代物アーティファクトであった。

 アーサーはその《結界》に対象を閉じ込め、排除しようとした。彼が命じられたのは対象の観察と必要な場合の排除であったが、アーサーの頭には排除の二文字しかなかった。それというのも、アーサーは排除の必要性がない状況などあり得ないと考えていたからである。
 ただし、観察任務を果たす必要があったため、《偽装の騎士》を用いて直接対象に接触することとした。

 対象は凡庸な少年であった。少なくとも、アーサーがここまで入念な下準備を講じる必要があったのかと疑問を覚えるほどには。
 そして、計画を実行するため、《結界》に対象を連れ込むことに成功した。対象は、何の疑念もなくただ、促されるがままにアーサーに従った。アーサーは排除の必要性に疑念を覚えたが、さりとて排除しない理由も思いつかなかった。そこで、排除を実行することとした。

 しかし、そこで邪魔が入った。《結界》には先客がいたのである。それは本来あり得ない異常イレギュラーであった。結果、異常イレギュラーが重なり、アーサーは対象の排除に失敗した。
 現在、アーサーはその顛末を『金融屋』に伝えているところだった。

「ご苦労、アーサー・リード。君の意見は大変参考になった」
「そうですか。それでは、引き続き排除を?」

 アーサーは『金融屋』の命令があれば、すぐにでも引き返し、対象を排除する姿勢を見せる。

「いや、その必要はなかろう。その少年は君から見て凡庸であったのであろう?」
「はい。少年は魔眼こそ持っていましたが、水無月みなづき風華ふうかの介入がなければ確実に仕留められていたでしょう」
「そういう意味ではないのだが」

 『金融屋』は少し呆れたように言い放った。

「では、いったい?」
「ただの凡庸な少年が、かの十三騎士アーサー・リードをもってしても排除できなかったというのは、異常なのだよ」
「それは――」

 何かを言おうとしたアーサーに、『金融屋』が言葉を重ねる。

「――わかっている。イレギュラーのせいということだろう? だが、あるのかね? たまたま《結界》に紛れ込んでいた魔術師が、たまたま凡庸な少年と相性がいい魔術の使い手で、たまたま君が敗れるということが。そう簡単に起こるのかね?」
「――確かに釈然とはしませんが。それに敗れたわけでは......」

 アーサーは云い訳がましいとは思いながらも、正直な不満を打ち明ける。

「撤退させられたのは事実であろう? 損切りのタイミングは見誤ってはいけない。ここらで我々は手を引くべきだ」
「......わかりました」

 『金融屋』が損切りするというのであれば、アーサーに異論はない。

「それに本当に少年が何かを持っているかは、これから試される」

 『金融屋』は、少し楽しそうにアーサーに告げた。

「どういう意味でしょう?」
「『殺し屋』が動いている」
「彼と彼女がですか?」

【挿絵】

 アーサーの言葉には、隠しきれない嫌悪の情が滲んでいた。アーサーから見れば、彼らは金のためでもなく、ただ殺したいからという理由で人を殺す、本物の「人でなし」どもだからだ。

「そうだ。あのシリアルキラーどもが動いている以上、我々がこれ以上投資しなくても結果はわかるのだよ。どうかね? 引き際としては妥当ではないかね?」
「そう、ですね」
「現状、かの少年の性能だけが不明なのだ。それは、あの新参者の唯一のアドバンテージでもある。取るに足りない存在ならよし。利用価値があるなら、なおよしだ。ただ、あの新参者の物云いからしてそういう可能性は低いのだろうな。私にとっては邪魔にしかならんだろう。他の面々も一部は静観するようだし、ここは高みの見物といくよ」
「それでは、私はこれで」
「あぁ、無用な心配だと思うが、出口は間違うなよ」
「わかっています」

 アーサーはその場を立ち去り、まっすぐに出口へと向かう。出口付近にて、アーサーは一人の女性とすれ違った。

「あら? あんたも来てたの」
「これから帰るところだ」
「へぇ、『殺し屋』のショーは見ていかないの?」
「天乃に興味はあるが、彼のショーは性に合わない」
「ショーだけに? ふふふ。じゃあね。十三騎士殿」
「あぁ、壮健でな、禁絶きんぜつ殿」
シェア
← 前の話
神の仕掛け、忘却を拒む不文律と絶対遵守の誓約
次の話 →
警備隊特務課、社会不適合者たちの魔窟
Replica ― Amphitheatrum Ideale ―作者:根岸重玄
目次
コメント0件
ログインしてコメントする
まだコメントがありません