第3話 坩堝
◇
辺境宙域で遭難、漂流、救助、海賊、今度は軍艦らしくない旧世紀時代の《オールド・レディ》。
幸か不幸か、命の保証なんてありもしない辺境宙域にて、なんとか生きながらえた私は、海賊船のクルーから《オールド・レディ》と呼ばれる《キイナ丸》へ身柄を移された。
接続ゲートで出会ったコボルトの海軍少佐、マイケルの案内で《キイナ丸》の艦内へと通された私は、後ろを振り返ればナギさんがゆっくり堂々とした足取りで、跡をついてきたのだ。
「ウィラ、あたしがついてきちゃおかしいか?」
海賊船の女頭のナギさんとは、ゲートでお別れだと思っていただけに、少し拍子抜けしながらもどこか安堵していた。
「ウィラ様、ナギさんはあなたのことが心配なんですよ。若い娘を1人で歩かせるような場所ではありませんからね」
「マイケル、余計なことを言うな。また《オールド・レディ》からの刺激的な口付けされたんだから、直接文句の一つぐらい言わせろよな? あと請求書と報酬だよ」
マイケル少佐とナギさんが、既に旧知の中であることがよく伺える。
私を心配する親心のような優しさ、仕事だからと現実的なところは、海賊船の中でみたナギさんと何一つ変わらなかった。
そのまま艦内を案内された私は、その途中、旧世紀時代の遺物の中に継ぎ足された軍艦らしい無骨さ、船員たちの生活感が交差して混ざり合う、さながら鵺のような様子に不思議と好奇心をくすぐられた。
「ああウィラ様、この先は足元に気を付けてください」
「なんや? 古過ぎて隔壁でも倒れてくるんか?」
「あー、この前そんなことあったよな。マイケル、復旧はしたのか?」
「ええ、代将はその辺ちゃんとしていますからね。もっとも、壊れなきゃなんでも良いって人ですからね。ああ、そこ配線むき出しですから、気を付けてください」
マイケル少佐の言う通り、綺麗に補修されているところもあれば、見ての通り配線がむき出しの箇所もあり、その中でも旧世紀時代の名残か、タイムスリップなのか。
豪華客船時代の木製の内装、照明、調度品らが、時を止めたまま静かに佇んでいたのだ。
「いや、これほんまに軍艦か?」
「ええ、海軍の軍艦籍に登録されています。もっとも、分類上は特務艦、仮装巡洋艦と云う扱いです」
軍事に疎い私だけど、名前だけなら聞いたことはある......もっとも、実際に目にするのは初めてだから理解が追いつかない。
「マイケル、お前は真面目だな。ウィラにもっとわかりやすく説明しろよ?」
「失礼。いわば旧世紀時代の豪華客船に、軍用の装備をポン付けして、軍人たちを乗せた船ですよ」
ナギさんが私に気を利かせてくれたのか、マイケル少佐は後ろに振り返りながら、私の知識で理解出来るところまで噛み砕いて説明してくれた。
真面目な軍人、面倒見のいい気配り上手な海賊女頭の凸凹コンビに、ひと言お礼を言ってから周囲の観察を続けた。
配線以外にも注意しないといけないところもあるのだろう。
高級そうな絨毯の上に転がる無数の酒瓶、工具、雑に積み上げられた大小の箱。
すれ違う船員たちは、人間以外にも獣人や異星人混じりの坩堝そのもの。
敬礼こそすれど少しお酒の匂いが漂っていたり、軍服を着崩していたりと海賊船の船員たちと大して変わらなかった。
マイケル少佐の案内で艦内を歩き続けた私たちだったが、ある一角で彼は足を止めた。
薄暗くてどこか不気味な雰囲気の重たい鉄の扉には、掠れながらも達筆な《医務室》と書かれた歴史の趣を感じる木札が目に入ったのだ。
「ナギさん、私はここでお待ちしておりますので、ウィラ様をよろしくお願いします。軍医のヒナコさんによろしくお伝えください」
「おう。マイケル、ここまでレディたちのエスコートに感謝するぜ」
医務室、軍医のヒナコさんの名前から想像すれば、真面目な紳士でもあるマイケル少佐から、ここから先は女同士の方がやりやすいということなのだろう。
ナギさんが医務室の扉を4回叩けば、重みのある鈍い音が艦内を虚しく木霊し、続いて彼女のよく通る声が追いかけた。
「おい、カザミ! お前生きてるか?」
「......死んでる。入っていい」
軍医にも関わらず生存を心配されているのか、それとも辺境宙域ならではの冗談なのか、扉の向こうから返ってきた言葉は、まるで船幽霊のように少し冷たく淡々としながらも、どこか柔らかさが入り混じっていたのだ――――。
◇