第2話 オールド・レディ
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海賊船に拾われた私は、医務室で目を覚まし、威圧的な程に長身の美人な女性と、妙に気合の入った犬耳の男性と出会った。
変わった出で立ち、荒々しい口調、物騒な会話を目の前にして、もう終わりと思ったのも束の間。
救難信号を拾ったのは、海賊船だけではなかったのだ。
「接舷準備! 両舷微速......機関停止!!」
「よし、お前ら衝撃に備えろ! 《キイナ丸》からのご挨拶が来るぜ!」
医務室から怒号の飛び交うブリッジへと案内された私は、窓越しに映る《キイナ丸》の全貌に度肝を抜かれた。
もう退役していないとおかしい骨董品に等しい旧世紀の豪華客船の両舷には、まるで品位を感じない無骨な備砲が、砲口向けて睨みを効かせながら、ゆっくりと近付いてきた。
「お嬢ちゃん、五体満足でいたかったらしっかり掴まってな!」
「《キイナ丸》の野郎ども、俺たち海賊よりも荒っぽいからな! お嬢ちゃん、早く掴まれ!」
「来るぞ、お前ら! 衝撃に備えろ!!」
海賊らしい荒っぽい口調に促されるがまま、手すりに掴まった私が身構えた直後だ。
『BANG!!!!!!』
まるで爆発したかのようなけたたましい轟音と衝撃に、思わず手すりから吹き飛ばされそうになりながらも、なんとか踏みとどまれたまではよかった。
「オールド・レディからの熱いキスで光栄だな!」
「次はオールド・レディの熱いハグがお待ちかねだぜ!」
こんな状況でも全く動じない彼女と部下たちは、軽口を叩いて大笑いしていた。
あまりにも異常な光景に思考を置き去りにしたまま、間髪入れずに今度は『ガリガリガリガリガリガリ!!』と派手に擦ったのだろう。
まるで怪獣の悲鳴のような不協和音が、手すりにしがみついたまま塞げずに無防備な耳の中を、容赦なく突き抜けていったのだ。
「おうおうおう! 今回はいつもよりマシだな!」
「そうっすね、請求書を追加っすね」
海賊たちにとっては日常茶飯時なのか、全く動じる様子もなく、相変わらず軽口叩いて大笑いしていた。
ようやく《キイナ丸》が停止した頃には、まるでいつものように海賊たちが被害状況を確認しながら、追加の見積もりと請求書を作っていたのだ。
それから数分もしないうちにドッキングが完了し、ようやく一息ついたのも束の間。
「お嬢ちゃん、ここでお別れだな」
「ほんまおおきに。ウィラ・フォン=ノイマンや」
「ナギサ・コウサカだ。あたしのことは、ナギって呼んでくれよな......ノイマン家のお嬢さん改めて、ウィラ。よろしくな」
「ナギさん、あんたうちのこと、知っとったんとちゃいますか?」
「さあな? ほら、そろそろ行くぞ」
そうしてナギさんのエスコートで艦橋から降りて接続通路に案内された私は、《キイナ丸》のクルーたちと初対面を果たしたのだが......。
「ナギさん、この度の救護活動へのご協力、感謝します。それから毎度のことですが、“代将“がすみません」
「いいってことよ。困ったときはお互い様だろ? ほら、これいつもの請求書だ」
「ありがとうございます。それで遭難者は、こちらの方ですか?」
「あれ、誰が喋っとるんや?」
「ああすみません、そのまま顔を下げればわかりますよ」
声の案内に従って視線を下げれば、そこには高級士官用の軍服を纏った犬顔のコボルトが、堂々とした佇まいで私を見上げていたのだ。
「ウィラ様、慣れてますからご安心を。マイケル・フォン・ブラウン少佐です」
――《ブラウン家》。
軍事に疎い私ですら、その名前ぐらいは知っている。
代々兵站と情報戦のスペシャリストを担ってきた軍功貴族。
少なくとも海賊船を体当たり攻撃をするような家系では無いはずだが、マイケル少佐の階級、この場にいない代将から推測すると、《キイナ丸》を預かる指揮官は、いったいどういう神経をしているのだろうか?
常識なんて通用しない辺境宙域。
もしかして私は、とんでもないところに来てしまったのかもしれない――――。
◇