第1話 邂逅
辺境宙域での遭難は、そのまま死を意味する。
「知っとるわボケ!」
救難信号を出したところで、果たして......。
「もうやっとるわ!」
学術調査のため、一人小型艇で辺境宙域へとやって来た《ウィラ・フォン=ノイマン》は、これまで順調に調査を進めていたのだが、突如としてエンジントラブルに見舞われ漂流。
救難信号、エンジンの復旧、彼女は手を尽くせる限りのことはした......あとはもう祈るだけ。
祈ったところで、ここは辺境宙域であり、救難信号なんて気休めに過ぎず、あとはただ、静かに死を受け入れるのみ。
「......短い人生やったわ。せやけどこらしょーもないわ......マミー、パピー、ウィルマ......ほんま、堪忍や」
そんな絶望的な状況下であっても、彼女は泣き喚くこともなく、最後まで抗おうと思考を巡らせた。
やがて一つの答えに辿り着いた彼女は、生命維持を最低出力へ移行。
そのまま静かに目を閉じ、眠りについたのだった――――。
◇
彼女が再び意識を取り戻したとき、最初に感じたのは、微かな振動だった。
「......うち、生きとるんか?」
ゆっくりと目を開ければ見慣れない天井。
生命維持装置の駆動音、そして......。
「ようお嬢ちゃん。目が覚めたようだな?」
ハスキーな女性らしき声と共に、視界に飛び込んできたのは......。
「でかっ!?」
ベッドのすぐ横に腰掛ける女性は、威圧的なぐらいに長身だとわかり、それでいて変わった出で立ちながらも妖艶な美人さんであった。
「失礼なガキだな。あたしらがさ、お前の救難信号拾って助けてやったのにさ?」
「うち、助かったんか?」
「そうだぜ? ま、お前にとっては災難かもしれねえけどな」
「そらおおきに。せやけどあんた今、災難言うた?」
「ああ、そうさ。お嬢ちゃん、お前は上玉だからさ、身代金取れなくても使い道があるのさ?」
上玉、身代金、使い道......本気なのか冗談なのかわからない言葉の並び。
考えるまでもない。
助かったと思ったのも束の間、彼女は全てを悟った......おそらく、海賊船に救助されたのだろうと。
「......終わったわ」
「ちぃーっす! 姐さん、あんま脅かしたら駄目っすよ。お嬢ちゃんがビビるっす!」
気付けば入り口付近には、無駄に気合の入った服装をした犬耳の男が立っていた。
「お嬢ちゃん、大丈夫っす。姐さんこう見えて優しいっすから、そんな筋通らないことしないっすよ」
「おい、こう見えてってなんだよ?」
「怖い顔してるっす。お嬢ちゃんがビビるっすよ」
「お前、ぶっ飛ばされたいのか? ま、その割にはお嬢ちゃん、全然平気そうだけどな?」
変わった出で立ちの姐さんと呼ばれた女性、同じく変わった出で立ちの犬耳の男性は、お互いに軽口を叩いて笑い合った。
明らかに海賊だけど、どこか憎めない二人の掛け合いを眺めているうちに、もしかしたら悪い人ではないのかもしれないと思い始めるまで、そう時間はかからなかった。
二人の掛け合いが落ち着いた頃合いを見計らい、ウィラはゆっくりと口を開いた。
「ほんまおおきに。せやけどうち、そんな大したもの持ってへんで?」
「あ? お前の救助費用と謝礼だったらさ、あいつらに請求するから」
「あいつらって誰や?」
「姐さん、そろそろ来るっす。お嬢ちゃん、助かってよかったっすね」
「助かるって、そらどういうことや?」
「救難信号を拾ったのはさ、別にあたしらだけじゃねえよ」
――《警告。高熱源体接近》――
――《識別信号を照合中》――
――《該当の高熱源体、キイナ丸の識別信号と一致》――
「ほらな? おい、《キイナ丸》に発光信号を送れ!」
「うっす! 姐さん、なんて送るっすか?」
「一番簡単なやつでいい、それで伝わる! おいお嬢ちゃん、窓から外を見ろよ」
けたたましいアラーム、艦内放送に続いてそれまで静かだった艦内の様子は、まるで祭りの始まりのような賑やかさに様変わり。
姐さんと呼ばれた彼女に言われるがまま、窓から外を覗いてみれば、信じられないものが目に入ってきたのだ。
漆黒の宇宙を切り裂くように、一隻の大型船が発光信号を送りながら、ゆっくりと接近してきたのだ。
旧世紀の豪華客船を思わせる異様な船体。
そして辺境宙域には似合わない威圧感。
「......なんやあれ?」
彼女が驚くのも無理はないだろう。
しかし、ここは辺境宙域。
人類の常識が通用しない場所なのだから――――。
◇