第4話 医務室
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重苦しい医務室の扉を軽々と開け放ったナギさんに続き、恐る恐るゆっくりとした足取りで中に入れば、私の想像していたものと違う光景が広がっていた。
医薬品の匂い、乱雑に積み上げられたカルテ、開きっぱなしの医学書、床には空になったカップラーメンが散乱していた。
そして部屋の中央の机に突っ伏したまま、全く微動だにしない銀髪の......少女?
「カザミ、お前相変わらずだな?」
「......うん、死んでる」
「いや、生きとるやないかーい!」
軍医と言うよりも、ただ寝不足の学生にしか見えなかった。
それこそ小学生と見間違うぐらいに小柄ながら、白衣の隙間から見える軍服は、高級士官用とアンバランスなものであった。
「ウィラ、こいつはそういう奴だ。カザミ、ウィラを診てやってくれ」
「......診る」
そう呟いた彼女は、ゆっくりと顔を上げてから開口一番。
「......眼鏡、どこ?」
「掛けたまんまやないかーい!」
「......今のはジョーク。椅子に掛けて」
とても冗談には見えなかったけれど、ツッコんでいたらキリがなさそうだったので、黙って彼女の指示に従うことにした。
眼鏡をグイッと掛け直した彼女は、私の顔をジッと眺めながら口を開いた。
「......軽い脱水、栄養不足、睡眠不足。それからツッコミ疲れ。あなたは運が良い」
運が良かったのは本当だ。
辺境宙域で遭難した私は、ありとあらゆる手を尽くした上で、一縷の望みをかけて眠りについてから、ずっと時間の国の迷子だった。
ほどなくして救難信号を受信したナギさんの海賊船に拾われたことで、軽い脱水、栄養不足、睡眠不足程度で済んだのだろう。
ツッコミ疲れについては......場を和ませるためのジョークなのか、それともツッコんだら負けなのか、とりあえずスルーした方がいいかもしれない。
「そらおおきに。ほんでどないなるんや?」
「......ナギ、この子は駄目そう」
「ああ、わかった」
「なっ、なんや!? うち、どこも悪くないで!?」
「......服」
「はいよ」
「えっ? いや、なんでうち、服脱がされとるねん? ナギさん、なんで拘束するんや? めっちゃデカいの当たっとるがな!」
「......チクッとする......した。採血終わり」
「え、今なんて言うたんや? うちになにしたんや?」
「......あ、UFO」
「コラー! 話逸らすな!!」
「......ナギ、彼女をベッドに。もう点滴刺さってる」
「え、今点滴言うた?......って、ホンマに刺さっとるやんけ!? 早っ!!」
「おい、暴れるなよ。もう終わったんだから大人しく寝てろ」
「一切説明とか無いんかーい!」
「......その必要はない。暴れられたら面倒くさい」
「いや、なんでうちの注射嫌い知っとるねん? あんたエスパーちゃうか!?」
「おいおい、ウィラ。子供かよ?」
「......うん、まだ子供」
「コラー! 注射はしゃーないやろ!」
「......恋愛経験、異性経験も無い」
「うっさいわボケ! あ、あんたなに言うてるんやコラ!」
「......男運が壊滅的」
「コラー! 男運も余計や!......って、なんでわかったんや?」
「......勘」
「確かに。カザミ、顔と歩き方で生娘だとわかるって説明ぐらいしてやれよ」
「ナギさんもかーい!! そらうち、ええ男の人にまだ出会えてないだけやから」
「......うるさい。点滴終わるまで大人しくして」
「そんぐらいわかっとるわ!」
「......もう一本、いっとく?」
「そら遠慮しときますわ」
遭難して命拾いした私は、変人だらけの船に放り込まれ、腕は確かだけど変人過ぎる軍医からの処置を受けた。
このとき私は、心に固く誓ったのだ。
この船で怪我をしないように、それから軍医に逆らわないようにと――――。
◇