第5話 手術とご飯
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目を覚ますと医務室は静まり返っていた。
あれからどのぐらい寝ていたのか、既にナギさんの姿はなく、マイケル少佐も任務に戻ったのだろう。
聞こえるのは換気扇の低い唸り声だけだった。
ベッドの周りに視線を移せば、カルテの山に囲まれた軍医さんは、机に突っ伏したまま死人のように動かない。
「......生きてる」
「エスパーかーい!」
「......人の心ぐらい読める。それより点滴終わった?」
「あんた軍医とちゃうんかい!?」
「......それだけ元気なら大丈夫。今外す......暴れたらダメ」
いくら注射嫌いの私でも、点滴を外すときに暴れてはいけないことぐらいわかっている。
私はただ、注射を刺されるのが怖いだけだから。
「......いい子。お腹、空いてる?」
「そらうち遭難しとったからな。お腹と背中がくっつきそうやで?」
「......そうなったら大変。手術とご飯、どっちがいい?」
「ご飯に決まっとるがな!」
「......わかった。オペの準備をする」
「ご飯言うとるがな!」
「......わかった。食堂、案内する......それとも手術にする?」
「もうええっちゅうねん!」
冗談なのか、本気なのか、いまいち感情が読めない軍医だからますますわからない。
このままだと本当に手術をされるかもしれないので、彼女に食堂への案内をお願いすれば、ゆっくりとした足取りで歩き始めた。
さながらカルガモのヒナのように、軍医の後ろについていったけれど、小柄な彼女を追い越さないように歩調を合わせていれば、果たしてどちらがヒナなのだろうか?
「......ヒナコ」
「え、なんやって?」
「......ヒナコ・カザミ。軍医少佐」
「ウィラ・フォン=ノイマンや」
「......知ってる」
「そら知っとるわな!」
「......よろしく、ウィラ」
「よろしゅうお願いします。ほんで軍医さん、うちはなんて呼んだらええんや?」
「......好きに呼んで構わない」
「ほな、ヒナコさんでええか?」
「......」
「ヒナコさんでええんよな?」
「......」
「ほんならグレイ宇宙人がええか?」
「......ここは旧世紀のエリア51じゃない。ヒナコでいい」
「ヒナコさん、細かすぎて伝わらへんわ」
旧世紀時代の地名、軍の研究施設のことは、それこそ大学の講義で聞くような内容だ。
軍医だから一定水準以上の教養があるのか、それとも単に趣味なのか、冗談を言いながら無表情を崩さないヒナコさんからは読み取れない。
それから会話が途切れてしばらく無言のまま、ヒナコさんの後に付いていくと、どこからか船員たちの賑わう声が聞こえてきた。
声のする方向に段々と近付いていき、やがて足を止めたヒナコさんが、振り向きざまにゆっくりと口を開いてこう言った。
「......着いた。士官用食堂、一般兵向け食堂、どっちがいい?」――――。
◇