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第36話 ジャイン海岸




 ─── シャァァァァッッッ ───


 回游魚の背鰭のような真っ赤なトサカを振り立て 威嚇の咆哮をあげる 巨大な大海蛇シーサーペント。
 鎌首をもたげた その頭部は 長身の闇エルフの優に3倍の高さ。
 蒼碧の鱗を煌めかせ 引き潮の磯の岩場を這いずり回る全長30メルはあろうかという亜竜。

 退化した短い脚。
 水中移動に特化した身体は 水中での驚異的な速度を誇り その強力な突撃は大型の軍船をも沈めてしまう。
 陸に上がったとしても 強靭な筋肉から繰り出される攻撃は騎士の1個小隊程度なら簡単に粉砕するという。
 さらには 牙から滴る 致死性の猛毒。
 口から吐き出される毒性の高いブレス。

 大海蛇シーサーペントの出現は 地域経済・社会の崩壊を招くため 船乗りや海際に暮らす人々からは 天災よりも恐れられる海の暴君。


 その凶悪な海の暴君に細身の大太刀切り裂き小町1本を携え対峙する紅瑠石ガーネット。


「......大海蛇シーサーペント 3日で4体って いくらなんでも......lryt... 滅茶苦茶やろ......。妙に......dhir... 金払い ええ思おもたら こーゆーことかいな......sghb......」


 ブツブツとボヤきながら 磯岩を砕く亜竜の噛み付きを回避し 咒しゅを紡ぐ白銀髪プラチナ・ブロンドの魔法剣士。
 その後方 決して一撃の間合いには入らない距離を保ちながら 投石紐スリングを構え移動する水碧髪アクア・マリンの薬師。

 攻撃を外し もう一度 鎌首をもたげるタイミングで細身の大太刀銅銀像嵌の銘刀が翻り 刀身に導かれた使い手の霊子が燐光となって花びらのように散り 石片よりも硬度のある蒼碧の鱗を砕き 海蛇の肉を裂く。
 

 ─── シャァァァァッッッ ───
 

 柔らかな腹肉と共に プライドを傷つけられた大海蛇シーサーペントは その片刃刀シミターほどもある毒牙を見せつけるように大口を開け 再度の咆哮。
 その開ききった喉奥へ目掛けて投擲されてくる薬瓶。


「さっすが マリノア。ドンピシャや............ 」


 紅瑠石ガーネットの絶賛とは裏腹に 巨大な海蛇は 薬瓶は呑み込んだものの 激昂した様子は全く衰えず 眼前の闇エルフへと毒霧のブレスを吐こうと巨大な口を開ける。
 精霊を友とする魔法剣士は その危険な吐息を甘んじて受けるかの様に 咒しゅを唱え 両眼を瞑り一瞬の深いトランスへと落ちる。
 だが 黒衣のエルフが見せた絶好の隙を狙う猛毒が吐き出されることはなく 紅瑠石ガーネットは悠然と その二つ名の基となった暗紅色の瞳を開く。


「......毒吐けんやろ? さっきの瓶 中和剤やってん。もう オマエさんにゃ勝ち目は あらへんってワケや。道 開けたるし 逃げよし」


 そう呟き 大海蛇シーサーペントの視線の方向にジャインの入り江が見える様に少し身を左に寄せて 逃走コースを開けてやる。
 だが 竜としての誇りが逃走を許さなかったのか 彼我の強弱を判断する知能がなかったのか はたまた 人間の狡猾な罠だと感じたのか......。
 巨大な海の暴君シーサーペントは 今 再び真っ赤なトサカを震わせ 闇エルフの剣士へと牙を向ける。


「......さよか。ほなら逝いにや。〈奥義:鬼殺斬〉ッ!」


 .........。
 ......。
 ...。


「お疲れ。〈活力瓶スタミナ〉いる?」

「いや えーわ。まだ 大丈夫や」
 

 肩掛けカバンから 薄紫色の液体の入った薬瓶を取りだそうとするマリノアを軽く右手を上げて制止する白銀髪プラチナ・ブロンド。


「大丈夫? まだ出るかもよ?」
 
「......本気マジかいな。大海蛇シーサーペント 5体とかありえへん過ぎるやろ......」

「いける?」

「......いや まぁ 体力的には いけるけどや」


 愛用の細身の大太刀切り裂き小町に刃零れが無いか確かめ 黒漆塗に鏤ちらし螺鈿の長鞘へと端正な所作で納刀する。
 
 人の背丈程もある長い刀身。
 優美な刃紋を流れる水面に見立て 銅と銀の像嵌で四季の彩りを。
 遥か以前 とある剣士から譲り受けた大業物。
 

「まぁ ウチ コイツ切り裂き小町使つこぉてたら 控え目に言ゆうても 無敵やし」

「アリシアにも負けないんだっけ?」


 自信満々のドヤ顔に 凄腕魔法剣士もその実力を認める王国最強騎士の名を出して 混ぜっ返す海碧瞳ディープ・マリン。
 

「......いや それは まぁ 1対1で正面切って殺り合おうたら キビシイ思うけど。そこは ほら...ウチ 忍び込みも得意やし 寝込み襲うとか 風呂場で襲うとか......」

「紅瑠石ガーネット...... アンタが言うと 別の意味に聞こえるわよ」


 軽くタメ息を吐く 水碧髪アクア・マリンの薬師。
 小さく首を横に振り 牝蠣採集の作業を再開する。
 夏の終わりの潮騒が静かに響く磯辺。


「あと何個集めなアカンの?」

「最上級のヤツ 残り4つ。あと1人分ってとこ」

「胸 大きしたい娘 多いやろし よう儲かるんちゃうん?」

「素材厳選してるから 数 作れないし そーでも無いわよ。アンタへの報酬やら 解毒薬 中和薬 活力瓶に宿代......。3日で60個 牝蠣集めて できる軟膏が15瓶。そのうち3つは自分用だし」


 岩に張り付いた 牝蠣殻の隙間に鉄箆てつべらを押し込みながら マリノアが答える。


「あと3つはアレクサンドラ。で あの娘経由で4瓶予約。エレノアールが1つ。アリシアも興味あるって言ってたし。これで合わせて12瓶」

「サンディーに エレノアに アリシア......なんや 胸大きいヤツらばっかやん。小さいのマリノアだけ......もしかして アイツら 薬のおかげなん?」

「......んなワケないでしょ。この牝蠣エキスには お肌を柔らかくして プルップルにする効果があんの。透明感も上がるし」


 薬師が岩から掻き取った牝蠣を受け取り ナイフを入れ 身を殻から剥ぎ取り容器に落とす紅瑠石ガーネット。
 

「胸 大きくする薬ちゃうの?」

「お肌の栄養たっぷりだし 柔らかくもなるから 胸に使えば豊胸効果もあるってワケ」

「飲んだらボインって訳や無いんや?」

「そんなんで 一時的に大きくしても 意味無いでしょーが......」


 次の岩場を目指し移動を始めるマリノアに 牝蠣の身を入れた容器を携えた闇エルフが続く。
 

「お肌の透明感アップかぁ......。それは ウチも気になんな~」

「でしょ でしょ? 〈碧猫屋あおねこや〉印の最高級美肌クリームよ。残・り・3・瓶・し・か・無・い・んだけど 今回の報酬 紅・瑠・石・だ・け・ 特・・別・・に・現物支給にしてあげてもいいわよ? 」

「えーっ そうなん!? それやったら クリームにしとこ......って ウチが言ゆうとでも思おもてんのかいな? 原価率どれくらいで 定価ナンボで売るつもりなんか 教えぇや? 話は それからやで」

「チッ...... アンタとは 本当にやりにくいわね」

「まー 長い付き合いやし」


 危険極まりない 大海蛇シーサーペントが回遊してるとは思い難い 穏やかなジャイン湾。
 お互いに悪態を吐き合う2人の頬を 穏やかな潮風が撫でるのだった......。
 .........。
 ......。
 ...。

 
 



 
 
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星降る街の薬種商〈碧猫屋〉~薬師マリノアの仕入帳控え~作者:金星タヌキ
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第36話 ジャイン海岸




 ─── シャァァァァッッッ ───


 回游魚の背鰭のような真っ赤なトサカを振り立て 威嚇の咆哮をあげる 巨大な大海蛇シーサーペント。
 鎌首をもたげた その頭部は 長身の闇エルフの優に3倍の高さ。
 蒼碧の鱗を煌めかせ 引き潮の磯の岩場を這いずり回る全長30メルはあろうかという亜竜。

 退化した短い脚。
 水中移動に特化した身体は 水中での驚異的な速度を誇り その強力な突撃は大型の軍船をも沈めてしまう。
 陸に上がったとしても 強靭な筋肉から繰り出される攻撃は騎士の1個小隊程度なら簡単に粉砕するという。
 さらには 牙から滴る 致死性の猛毒。
 口から吐き出される毒性の高いブレス。

 大海蛇シーサーペントの出現は 地域経済・社会の崩壊を招くため 船乗りや海際に暮らす人々からは 天災よりも恐れられる海の暴君。


 その凶悪な海の暴君に細身の大太刀切り裂き小町1本を携え対峙する紅瑠石ガーネット。


「......大海蛇シーサーペント 3日で4体って いくらなんでも......lryt... 滅茶苦茶やろ......。妙に......dhir... 金払い ええ思おもたら こーゆーことかいな......sghb......」


 ブツブツとボヤきながら 磯岩を砕く亜竜の噛み付きを回避し 咒しゅを紡ぐ白銀髪プラチナ・ブロンドの魔法剣士。
 その後方 決して一撃の間合いには入らない距離を保ちながら 投石紐スリングを構え移動する水碧髪アクア・マリンの薬師。

 攻撃を外し もう一度 鎌首をもたげるタイミングで細身の大太刀銅銀像嵌の銘刀が翻り 刀身に導かれた使い手の霊子が燐光となって花びらのように散り 石片よりも硬度のある蒼碧の鱗を砕き 海蛇の肉を裂く。
 

 ─── シャァァァァッッッ ───
 

 柔らかな腹肉と共に プライドを傷つけられた大海蛇シーサーペントは その片刃刀シミターほどもある毒牙を見せつけるように大口を開け 再度の咆哮。
 その開ききった喉奥へ目掛けて投擲されてくる薬瓶。


「さっすが マリノア。ドンピシャや............ 」


 紅瑠石ガーネットの絶賛とは裏腹に 巨大な海蛇は 薬瓶は呑み込んだものの 激昂した様子は全く衰えず 眼前の闇エルフへと毒霧のブレスを吐こうと巨大な口を開ける。
 精霊を友とする魔法剣士は その危険な吐息を甘んじて受けるかの様に 咒しゅを唱え 両眼を瞑り一瞬の深いトランスへと落ちる。
 だが 黒衣のエルフが見せた絶好の隙を狙う猛毒が吐き出されることはなく 紅瑠石ガーネットは悠然と その二つ名の基となった暗紅色の瞳を開く。


「......毒吐けんやろ? さっきの瓶 中和剤やってん。もう オマエさんにゃ勝ち目は あらへんってワケや。道 開けたるし 逃げよし」


 そう呟き 大海蛇シーサーペントの視線の方向にジャインの入り江が見える様に少し身を左に寄せて 逃走コースを開けてやる。
 だが 竜としての誇りが逃走を許さなかったのか 彼我の強弱を判断する知能がなかったのか はたまた 人間の狡猾な罠だと感じたのか......。
 巨大な海の暴君シーサーペントは 今 再び真っ赤なトサカを震わせ 闇エルフの剣士へと牙を向ける。


「......さよか。ほなら逝いにや。〈奥義:鬼殺斬〉ッ!」


 .........。
 ......。
 ...。


「お疲れ。〈活力瓶スタミナ〉いる?」

「いや えーわ。まだ 大丈夫や」
 

 肩掛けカバンから 薄紫色の液体の入った薬瓶を取りだそうとするマリノアを軽く右手を上げて制止する白銀髪プラチナ・ブロンド。


「大丈夫? まだ出るかもよ?」
 
「......本気マジかいな。大海蛇シーサーペント 5体とかありえへん過ぎるやろ......」

「いける?」

「......いや まぁ 体力的には いけるけどや」


 愛用の細身の大太刀切り裂き小町に刃零れが無いか確かめ 黒漆塗に鏤ちらし螺鈿の長鞘へと端正な所作で納刀する。
 
 人の背丈程もある長い刀身。
 優美な刃紋を流れる水面に見立て 銅と銀の像嵌で四季の彩りを。
 遥か以前 とある剣士から譲り受けた大業物。
 

「まぁ ウチ コイツ切り裂き小町使つこぉてたら 控え目に言ゆうても 無敵やし」

「アリシアにも負けないんだっけ?」


 自信満々のドヤ顔に 凄腕魔法剣士もその実力を認める王国最強騎士の名を出して 混ぜっ返す海碧瞳ディープ・マリン。
 

「......いや それは まぁ 1対1で正面切って殺り合おうたら キビシイ思うけど。そこは ほら...ウチ 忍び込みも得意やし 寝込み襲うとか 風呂場で襲うとか......」

「紅瑠石ガーネット...... アンタが言うと 別の意味に聞こえるわよ」


 軽くタメ息を吐く 水碧髪アクア・マリンの薬師。
 小さく首を横に振り 牝蠣採集の作業を再開する。
 夏の終わりの潮騒が静かに響く磯辺。


「あと何個集めなアカンの?」

「最上級のヤツ 残り4つ。あと1人分ってとこ」

「胸 大きしたい娘 多いやろし よう儲かるんちゃうん?」

「素材厳選してるから 数 作れないし そーでも無いわよ。アンタへの報酬やら 解毒薬 中和薬 活力瓶に宿代......。3日で60個 牝蠣集めて できる軟膏が15瓶。そのうち3つは自分用だし」


 岩に張り付いた 牝蠣殻の隙間に鉄箆てつべらを押し込みながら マリノアが答える。


「あと3つはアレクサンドラ。で あの娘経由で4瓶予約。エレノアールが1つ。アリシアも興味あるって言ってたし。これで合わせて12瓶」

「サンディーに エレノアに アリシア......なんや 胸大きいヤツらばっかやん。小さいのマリノアだけ......もしかして アイツら 薬のおかげなん?」

「......んなワケないでしょ。この牝蠣エキスには お肌を柔らかくして プルップルにする効果があんの。透明感も上がるし」


 薬師が岩から掻き取った牝蠣を受け取り ナイフを入れ 身を殻から剥ぎ取り容器に落とす紅瑠石ガーネット。
 

「胸 大きくする薬ちゃうの?」

「お肌の栄養たっぷりだし 柔らかくもなるから 胸に使えば豊胸効果もあるってワケ」

「飲んだらボインって訳や無いんや?」

「そんなんで 一時的に大きくしても 意味無いでしょーが......」


 次の岩場を目指し移動を始めるマリノアに 牝蠣の身を入れた容器を携えた闇エルフが続く。
 

「お肌の透明感アップかぁ......。それは ウチも気になんな~」

「でしょ でしょ? 〈碧猫屋あおねこや〉印の最高級美肌クリームよ。残・り・3・瓶・し・か・無・い・んだけど 今回の報酬 紅・瑠・石・だ・け・ 特・・別・・に・現物支給にしてあげてもいいわよ? 」

「えーっ そうなん!? それやったら クリームにしとこ......って ウチが言ゆうとでも思おもてんのかいな? 原価率どれくらいで 定価ナンボで売るつもりなんか 教えぇや? 話は それからやで」

「チッ...... アンタとは 本当にやりにくいわね」

「まー 長い付き合いやし」


 危険極まりない 大海蛇シーサーペントが回遊してるとは思い難い 穏やかなジャイン湾。
 お互いに悪態を吐き合う2人の頬を 穏やかな潮風が撫でるのだった......。
 .........。
 ......。
 ...。

 
 



 
 
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星降る街の薬種商〈碧猫屋〉~薬師マリノアの仕入帳控え~作者:金星タヌキ
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