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第53話 ダルケス・アダマンティ



  ──── コンッ コンッ
 
 王都ウェスティリアの北西に高く聳そびえる王城の西側。
 騎士団詰所の一番奥 重い樫材のドアがノックされる。 


「団長 失礼します」
 

 分厚いドアを開けて 団長室へと入ってきた 艶橙色カッパー・ブロンドの長髪を後ろで束ねた 長身の女性。
 白いブラウスに ベージュの羅紗製パンツ。
 左腰には 少し柄の長い長剣を佩はいている。
 

「おお アリシアか。何の用だ?」

「レギャン侯 謁見終了のご報告に」

「うん。首尾はどうだった?」

「特に大過無く。先程 本領へ向けて出立されました」

「うむ。ご苦労だったな。ゆっくり休暇を取って その後は 鍛練期間に入ってくれ」

「はい。ありがとうございます」


 報告を終え 団長室を退出しようとする娘に父親が声を掛ける。
 
 
「......アリシア 少し待て」


 訝しげに振り返り濃橙髪ダーク・アンバーを後ろに撫で付けた父親の精悍な顔を見るアリシア。
 ダルケスは執務机から立ち上がり 飾り棚から ワイン瓶を1本取り出す。


「せっかく休暇に入るのだ。たまには父娘おやこで飲まんか?」

「......これは どういう風の吹き回しでしょう?」


 そう言いながらも 勧められるままに応接机のソファーへと腰を下ろす。
 父の用意したグラスに〈カストラ・トラキアーナ〉とラベルのついたボトルから赤ワインを互いに注ぎ合う。


「翼獅子騎士団グリフォナイツの侵入事件から ここまで ずっとフル稼動だったろう? 途中 即位記念式典もあった。お前も疲れたろう。まぁ グッと飲やれ」

「昼から団長室でワインとは......妙な気分ですが」


 軽く口をつけるアリシアに ダルケスが自嘲気味に笑いながら グラスを呷る。


「飲まなきゃやってられん日もある。それ用のストックだ。わしと似た体質だ 大して酔わんだろ?」

「......はぁ まぁそうですが」


 もう1口つけるアリシアの目を見ながら ダルケスが続ける。


「それでも 酔いたい日もあるだろ? 眠れているか?」

「......お見通しですか。最近 少し夢を見ます」

「疲れた顔しとるからな」


 注がれたワインを飲み干し アリシアが言葉を継ぐ。


「あの日 ガウェインが秘奥義の構えを見せたので 私は咄嗟に封神閃を放ち あの男の命を奪いました......。だが 奴の持っていた鉾槍ハルバードは砕けていた。ガウェインは そもそも 秘奥義を放つつもりなど 無かったのでは ないかと......」

「お前が見切れんかったのだ......。ケルヴィンが行っても トーラスが行っても あるいは わしが行っても見切れんかっただろうよ」

「......そうかも知れませんが。だとしても 奴に最期 殺意が無かったのならば 奴が口走った反逆の意思も 疑わしく思えて......」


 アリシアの空のグラスにワインを注ぎながら ダルケスがため息を吐く。


「だから この件に お前を噛ませたく無かったのだ。丁度 わしもお前も休暇が重なった日があったろう? あの日の夕刻に全身 暗褐色の外套の男が わしの休憩所に訪ねてきた。......その男がジンク・レギャンだった」

「父上とジンクに個人的な繋がりが?」

「若い頃 わしに女遊びを教えたのが ジンクだったよ......遠い昔の話だがな」


 自分のグラスに手酌でワインを注ぎ足しながら 暗橙髪ダーク・アンバーの騎士団長が続ける。


「部下のガウェインという男が 隠し子を殺そうとしている。シノンを守ってくれ ガウェインを止める時間を作ってくれと頭を下げてきた......。あの金鷲獅が あんな表情を見せるなんぞ 想像したことも無かった。ジンクは お前以上にガウェインの事情を知ってたよ。領内で見い出し 手塩に掛けて育てた息・子・同然の男だったんだ ある意味 当然だったのかもしれんが......」

「それでも ガウェインを切った......」

「そうさ。わし達らが〈碧猫屋あおねこや〉に依頼を出した時には もうガウェインは王都騎士アークナイトに手を出した後だった。陛下とお前のラインに繋がって もう誰にも庇いきれん......」

「ジンクの方から 私への派遣依頼があったと聞きました」

「......ジンクは 本当は わしを指名してきたんだが 騎士団長では重すぎるとの陛下の判断があった。なんにせよ 一旦 切るとなったら お前も見た通り 鮮やかなもんだ。人の上に立つ人間ってのは 生半可な覚悟で生きては無いってことだ......ジンクにしろ 陛下にしろな」


 アリシアにも グラスを空けるように促しながら ダルケスが赤ワインを喉へと流し込む。


「......そして 騎士ってのは そんな化物達の剣や槍って訳だ。飲まなきゃできん仕事だろ? 娘に薦められん仕事でもある。母さんだって その昔 王都騎士アークナイトだったんだ。全部 分かった上での反対だったのさ」

「父上も母上も お強い」

「お前より鈍いだけかもしれんが......。ただ まぁ 母さんには 母さんの想いがあるってことだ」


 濃橙ダーク・アンバーの瞳が娘の瞳を真っ直ぐ見据えた後 おどけたように 天井を見上げる。


「せっかくの休暇だ 久しぶりに母さんの顔でも見てきたらどうだ? たまには あの口喧しい感じも 悪くないかもしれんぞ?」

「......そうですね。帰ってみることにします」


 自らのグラスに少し残ったワインを飲み干し アリシアが立ち上がる。
 執務室のドアへと向かいながら ふと思い出したように 父親に尋ねる。

 
「......そう言えば 休憩所の件は?」


 苦虫を噛み潰したような騎士団長の顔。


「酒と女があるから なんとか この仕事騎士団長をやっとる。〈カストラ・トラキアーナ〉3本だ。もう少し黙ってろ」

「......承知しました。今回だけですよ? それでは 失礼します」


 小さくタメ息を吐くと 樫材の重い扉を閉じ 長身の麗人は団長室を後にしたのだった。
 
 
 
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星降る街の薬種商〈碧猫屋〉~薬師マリノアの仕入帳控え~作者:金星タヌキ
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第53話 ダルケス・アダマンティ



  ──── コンッ コンッ
 
 王都ウェスティリアの北西に高く聳そびえる王城の西側。
 騎士団詰所の一番奥 重い樫材のドアがノックされる。 


「団長 失礼します」
 

 分厚いドアを開けて 団長室へと入ってきた 艶橙色カッパー・ブロンドの長髪を後ろで束ねた 長身の女性。
 白いブラウスに ベージュの羅紗製パンツ。
 左腰には 少し柄の長い長剣を佩はいている。
 

「おお アリシアか。何の用だ?」

「レギャン侯 謁見終了のご報告に」

「うん。首尾はどうだった?」

「特に大過無く。先程 本領へ向けて出立されました」

「うむ。ご苦労だったな。ゆっくり休暇を取って その後は 鍛練期間に入ってくれ」

「はい。ありがとうございます」


 報告を終え 団長室を退出しようとする娘に父親が声を掛ける。
 
 
「......アリシア 少し待て」


 訝しげに振り返り濃橙髪ダーク・アンバーを後ろに撫で付けた父親の精悍な顔を見るアリシア。
 ダルケスは執務机から立ち上がり 飾り棚から ワイン瓶を1本取り出す。


「せっかく休暇に入るのだ。たまには父娘おやこで飲まんか?」

「......これは どういう風の吹き回しでしょう?」


 そう言いながらも 勧められるままに応接机のソファーへと腰を下ろす。
 父の用意したグラスに〈カストラ・トラキアーナ〉とラベルのついたボトルから赤ワインを互いに注ぎ合う。


「翼獅子騎士団グリフォナイツの侵入事件から ここまで ずっとフル稼動だったろう? 途中 即位記念式典もあった。お前も疲れたろう。まぁ グッと飲やれ」

「昼から団長室でワインとは......妙な気分ですが」


 軽く口をつけるアリシアに ダルケスが自嘲気味に笑いながら グラスを呷る。


「飲まなきゃやってられん日もある。それ用のストックだ。わしと似た体質だ 大して酔わんだろ?」

「......はぁ まぁそうですが」


 もう1口つけるアリシアの目を見ながら ダルケスが続ける。


「それでも 酔いたい日もあるだろ? 眠れているか?」

「......お見通しですか。最近 少し夢を見ます」

「疲れた顔しとるからな」


 注がれたワインを飲み干し アリシアが言葉を継ぐ。


「あの日 ガウェインが秘奥義の構えを見せたので 私は咄嗟に封神閃を放ち あの男の命を奪いました......。だが 奴の持っていた鉾槍ハルバードは砕けていた。ガウェインは そもそも 秘奥義を放つつもりなど 無かったのでは ないかと......」

「お前が見切れんかったのだ......。ケルヴィンが行っても トーラスが行っても あるいは わしが行っても見切れんかっただろうよ」

「......そうかも知れませんが。だとしても 奴に最期 殺意が無かったのならば 奴が口走った反逆の意思も 疑わしく思えて......」


 アリシアの空のグラスにワインを注ぎながら ダルケスがため息を吐く。


「だから この件に お前を噛ませたく無かったのだ。丁度 わしもお前も休暇が重なった日があったろう? あの日の夕刻に全身 暗褐色の外套の男が わしの休憩所に訪ねてきた。......その男がジンク・レギャンだった」

「父上とジンクに個人的な繋がりが?」

「若い頃 わしに女遊びを教えたのが ジンクだったよ......遠い昔の話だがな」


 自分のグラスに手酌でワインを注ぎ足しながら 暗橙髪ダーク・アンバーの騎士団長が続ける。


「部下のガウェインという男が 隠し子を殺そうとしている。シノンを守ってくれ ガウェインを止める時間を作ってくれと頭を下げてきた......。あの金鷲獅が あんな表情を見せるなんぞ 想像したことも無かった。ジンクは お前以上にガウェインの事情を知ってたよ。領内で見い出し 手塩に掛けて育てた息・子・同然の男だったんだ ある意味 当然だったのかもしれんが......」

「それでも ガウェインを切った......」

「そうさ。わし達らが〈碧猫屋あおねこや〉に依頼を出した時には もうガウェインは王都騎士アークナイトに手を出した後だった。陛下とお前のラインに繋がって もう誰にも庇いきれん......」

「ジンクの方から 私への派遣依頼があったと聞きました」

「......ジンクは 本当は わしを指名してきたんだが 騎士団長では重すぎるとの陛下の判断があった。なんにせよ 一旦 切るとなったら お前も見た通り 鮮やかなもんだ。人の上に立つ人間ってのは 生半可な覚悟で生きては無いってことだ......ジンクにしろ 陛下にしろな」


 アリシアにも グラスを空けるように促しながら ダルケスが赤ワインを喉へと流し込む。


「......そして 騎士ってのは そんな化物達の剣や槍って訳だ。飲まなきゃできん仕事だろ? 娘に薦められん仕事でもある。母さんだって その昔 王都騎士アークナイトだったんだ。全部 分かった上での反対だったのさ」

「父上も母上も お強い」

「お前より鈍いだけかもしれんが......。ただ まぁ 母さんには 母さんの想いがあるってことだ」


 濃橙ダーク・アンバーの瞳が娘の瞳を真っ直ぐ見据えた後 おどけたように 天井を見上げる。


「せっかくの休暇だ 久しぶりに母さんの顔でも見てきたらどうだ? たまには あの口喧しい感じも 悪くないかもしれんぞ?」

「......そうですね。帰ってみることにします」


 自らのグラスに少し残ったワインを飲み干し アリシアが立ち上がる。
 執務室のドアへと向かいながら ふと思い出したように 父親に尋ねる。

 
「......そう言えば 休憩所の件は?」


 苦虫を噛み潰したような騎士団長の顔。


「酒と女があるから なんとか この仕事騎士団長をやっとる。〈カストラ・トラキアーナ〉3本だ。もう少し黙ってろ」

「......承知しました。今回だけですよ? それでは 失礼します」


 小さくタメ息を吐くと 樫材の重い扉を閉じ 長身の麗人は団長室を後にしたのだった。
 
 
 
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星降る街の薬種商〈碧猫屋〉~薬師マリノアの仕入帳控え~作者:金星タヌキ
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