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第28話 謁見の間


 

「尊貴なる ヘブンブリーズ王国国王 アレクサンドラ3世陛下におかれましては ご機嫌麗しゅう」


 広大な王城3階の謁見の間。
 立ち並ぶ白大理石ホワイト・マーブルの列柱の最奥。
 三段高くなった金色こんじきの玉座に優雅に腰掛ける女君主。

 
 玉座の3段下 緋絨毯の上から威を糺しながらも慇懃な外交辞礼を贈るエイギル大使。
 殆ど艶めきの無い純黒ダーク・エボニーの緩やかな貫頭衣のウエストを金色の細帯で締め 同じく無艶黒ダーク・エボニーの広やかなマントで褐色の長身痩躯を包んだ男性大使の優雅な挨拶を受けるヘブンブリーズの君主。
 
 一段低くなった左右の席。
 右側には 女王の夫君 リディスン公。
 左側には 今年10歳になる王太子 ミュディン王子。

 白大理石ホワイト・マーブルをふんだんに使った明るい色調ながら 窓は少なく 午前中とは言え 列柱の狭間には魔力の明かりが灯る。
 だがなお 仄かに暗い謁見の間。
 背後のステンドグラスと直上の天窓によって 玉座の上にだけ 燦然と輝く陽光が降り注ぎ ヘブンブリーズの君主が神聖で光輝なる存在であることを 拝謁する全ての者に自然と理解させる。

 ヘブンブリーズ王国 第17代国王 アレクサンドラ3世。

 陽光に輝く高く結い上げられた薄桜色パール・ピンクの髪の上には金剛石ダイアモンドを散り嵌めた白金の額冠ティアラ。
 純白のロングドレスは シンプルで清楚なデザインながら金糸で精緻な刺繍を施され 柔らかな煌めきを放っている。
 白皙の美貌は 37歳の女盛りを迎え その微笑みの優美は 咲き誇る大輪の白百合のよう。


「ジャネフィト大使殿。 遠路遥々はるばるの着任ご苦労です。前任の大使殿の時と変わらず 両国の友好が 益々深まるよう 大使殿のご活躍を期待しております」

「下僕しもべごときに 勿体無きお言葉 恐悦に存じまする。着任に際しまして 我が主あるじより 細やかながら手土産を預かってございますので ご紹介させて頂きまする......」


── 挨拶と手土産を渡すだけのことに 随分と大層な物言いだな ──
 
 美貌の女君主の直ぐ傍で 王位の象徴たる宝剣を捧げ持ちながら アリシアは声もなく呟く。 
 大使着任とそれに伴う賀詞と贈答品の交換だけの儀式。
 とはいえ エイギル国は 西方世界をヘブンブリーズ王国 及び 神聖ラペリア帝国と共に三分する大国。
 受けるヘブンブリーズ側としても 最大級の人員を割いて この式典を準備していた。

 親衛三騎士は アリシアが宝剣 残りの2人も神槍と王盾を捧げ持って女王の右側に近侍し 左側には宝玉 神杖 王冠を捧げ持った近衛尚書3人が控える。
 列柱左側の文官席には 各大臣をはじめ 多くの高官が並び 列柱右側の武官席にも 在都の軍事貴族達が何名も詰めている。

 武官席の最前列には 王都騎士団アークナイツ団長のダルケスが 真面目くさった顔で参列しているのが アリシアの立つ位置からも見える。
 式典嫌いの父親を引き摺り出してきた事務方の努力には敬意を表するが 逆に言えば エイギルは【赤竜殺しドラゴンスレイヤー】の騎士団長が出て威圧を加えねばならぬ程の強国ということでもある......ダルケスも そこは解っての出席なのだろう。
 
 居並ぶ武官達の顔を順に眺めていたアリシアは ある男の表情に引っ掛かりを感じ 目を留める。

 
 ジンク・トゥーレ・レギャン・ハイリシア侯爵。
 この間の翼獅子騎士団グリフォナイツの不法侵入事件を知らぬ存ぜぬで切り抜けた後 数日前に予定を少し早めて 王都へと入城してきた。
 供回りも翼獅子騎士グリフォナイト6騎と兵300名。
 通常の兵力で特に不審な点は無かったのだが......。

 ── 顔色が悪い。いや 覇気が無いと言うべきか? ──

 レギャン侯子ジンク卿と言えば若い頃は 数々の浮き名を流したという貴公子。
 50代も半ばを過ぎ 若かりし頃には 暗闇ですら豪奢に煌めいたという美しい金髪にも白いものが交じるようになったとは言え 十分に美男子で通る顔立ち。
 
 甘いマスクとは裏腹に権謀術数を好み 王家への忠誠よりも自領の発展に余念の無い男。
 良くも悪くも 覇気に満ち狡猾で獰猛な上級貴族グリフォン。
 家柄と血筋だけで上級官職に居座る無能力者ボンクラ共よりは良いのかもしれないが 国内外の治安を預かるダルケスやアリシアにとって 決して油断できる相手では無かった。

 その金髪の翼鷲獅ジンク・リギャンに覇気が無い。

 ダルケスの2つ隣。
 背丈こそ さして高くはないものの 名門貴族の当主らしくスッと伸びた背筋に 上質で洗練されたデザインの黒い軍礼服。
 上品だが どこか不敵な笑み......そして 決して笑ってはいない灰青ヘズルの瞳。
 普段と変わらぬと言えば変わらぬ佇まい。
 だが 何か心 ここに在らずといった気オーラを感じるのだ。

 それを言えばダルケスも つまらなさそうにしているし アリシア自身もそうだ......誰が 国力示威の下心が見え見えのエイギルの手土産紹介なぞ面白がるだろう。
 
 しかし ジンクの虚ろげな気配は 虚飾に満々みちみちた華麗な儀式によるものだけでは無さそうに 幾多の一流と剣を交えてきた女騎士には思えるのだった......。
 .........。
 ......。
 ...。
 
 



 
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第28話 謁見の間


 

「尊貴なる ヘブンブリーズ王国国王 アレクサンドラ3世陛下におかれましては ご機嫌麗しゅう」


 広大な王城3階の謁見の間。
 立ち並ぶ白大理石ホワイト・マーブルの列柱の最奥。
 三段高くなった金色こんじきの玉座に優雅に腰掛ける女君主。

 
 玉座の3段下 緋絨毯の上から威を糺しながらも慇懃な外交辞礼を贈るエイギル大使。
 殆ど艶めきの無い純黒ダーク・エボニーの緩やかな貫頭衣のウエストを金色の細帯で締め 同じく無艶黒ダーク・エボニーの広やかなマントで褐色の長身痩躯を包んだ男性大使の優雅な挨拶を受けるヘブンブリーズの君主。
 
 一段低くなった左右の席。
 右側には 女王の夫君 リディスン公。
 左側には 今年10歳になる王太子 ミュディン王子。

 白大理石ホワイト・マーブルをふんだんに使った明るい色調ながら 窓は少なく 午前中とは言え 列柱の狭間には魔力の明かりが灯る。
 だがなお 仄かに暗い謁見の間。
 背後のステンドグラスと直上の天窓によって 玉座の上にだけ 燦然と輝く陽光が降り注ぎ ヘブンブリーズの君主が神聖で光輝なる存在であることを 拝謁する全ての者に自然と理解させる。

 ヘブンブリーズ王国 第17代国王 アレクサンドラ3世。

 陽光に輝く高く結い上げられた薄桜色パール・ピンクの髪の上には金剛石ダイアモンドを散り嵌めた白金の額冠ティアラ。
 純白のロングドレスは シンプルで清楚なデザインながら金糸で精緻な刺繍を施され 柔らかな煌めきを放っている。
 白皙の美貌は 37歳の女盛りを迎え その微笑みの優美は 咲き誇る大輪の白百合のよう。


「ジャネフィト大使殿。 遠路遥々はるばるの着任ご苦労です。前任の大使殿の時と変わらず 両国の友好が 益々深まるよう 大使殿のご活躍を期待しております」

「下僕しもべごときに 勿体無きお言葉 恐悦に存じまする。着任に際しまして 我が主あるじより 細やかながら手土産を預かってございますので ご紹介させて頂きまする......」


── 挨拶と手土産を渡すだけのことに 随分と大層な物言いだな ──
 
 美貌の女君主の直ぐ傍で 王位の象徴たる宝剣を捧げ持ちながら アリシアは声もなく呟く。 
 大使着任とそれに伴う賀詞と贈答品の交換だけの儀式。
 とはいえ エイギル国は 西方世界をヘブンブリーズ王国 及び 神聖ラペリア帝国と共に三分する大国。
 受けるヘブンブリーズ側としても 最大級の人員を割いて この式典を準備していた。

 親衛三騎士は アリシアが宝剣 残りの2人も神槍と王盾を捧げ持って女王の右側に近侍し 左側には宝玉 神杖 王冠を捧げ持った近衛尚書3人が控える。
 列柱左側の文官席には 各大臣をはじめ 多くの高官が並び 列柱右側の武官席にも 在都の軍事貴族達が何名も詰めている。

 武官席の最前列には 王都騎士団アークナイツ団長のダルケスが 真面目くさった顔で参列しているのが アリシアの立つ位置からも見える。
 式典嫌いの父親を引き摺り出してきた事務方の努力には敬意を表するが 逆に言えば エイギルは【赤竜殺しドラゴンスレイヤー】の騎士団長が出て威圧を加えねばならぬ程の強国ということでもある......ダルケスも そこは解っての出席なのだろう。
 
 居並ぶ武官達の顔を順に眺めていたアリシアは ある男の表情に引っ掛かりを感じ 目を留める。

 
 ジンク・トゥーレ・レギャン・ハイリシア侯爵。
 この間の翼獅子騎士団グリフォナイツの不法侵入事件を知らぬ存ぜぬで切り抜けた後 数日前に予定を少し早めて 王都へと入城してきた。
 供回りも翼獅子騎士グリフォナイト6騎と兵300名。
 通常の兵力で特に不審な点は無かったのだが......。

 ── 顔色が悪い。いや 覇気が無いと言うべきか? ──

 レギャン侯子ジンク卿と言えば若い頃は 数々の浮き名を流したという貴公子。
 50代も半ばを過ぎ 若かりし頃には 暗闇ですら豪奢に煌めいたという美しい金髪にも白いものが交じるようになったとは言え 十分に美男子で通る顔立ち。
 
 甘いマスクとは裏腹に権謀術数を好み 王家への忠誠よりも自領の発展に余念の無い男。
 良くも悪くも 覇気に満ち狡猾で獰猛な上級貴族グリフォン。
 家柄と血筋だけで上級官職に居座る無能力者ボンクラ共よりは良いのかもしれないが 国内外の治安を預かるダルケスやアリシアにとって 決して油断できる相手では無かった。

 その金髪の翼鷲獅ジンク・リギャンに覇気が無い。

 ダルケスの2つ隣。
 背丈こそ さして高くはないものの 名門貴族の当主らしくスッと伸びた背筋に 上質で洗練されたデザインの黒い軍礼服。
 上品だが どこか不敵な笑み......そして 決して笑ってはいない灰青ヘズルの瞳。
 普段と変わらぬと言えば変わらぬ佇まい。
 だが 何か心 ここに在らずといった気オーラを感じるのだ。

 それを言えばダルケスも つまらなさそうにしているし アリシア自身もそうだ......誰が 国力示威の下心が見え見えのエイギルの手土産紹介なぞ面白がるだろう。
 
 しかし ジンクの虚ろげな気配は 虚飾に満々みちみちた華麗な儀式によるものだけでは無さそうに 幾多の一流と剣を交えてきた女騎士には思えるのだった......。
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