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第29話 金色の獣




 王都ウェスティリアの大市場グランバザールの西。
 薄汚れたスラムの狭い路地裏を紅瑠石ガーネットに向かって走ってくる豪奢に煌めく長い金髪に淡いピンクのワンピース。
 進行方向に立つ レザージャケットの闇エルフの姿に気づく。

 足を止め 後ろを振り返り 一瞬の逡巡......。
 
 向き直り 意を決した睚まなじりで 前を見据える。
 と 一気の踏み込みから 紅瑠石ガーネットの体央の急所を目掛けて 右正拳を繰り出す。
 

「――――――ッ」


 緑碧瞳エメラルド・ブルーの首筋に当てられた鋭い片刃刀ワキザシ。
 金髪碧眼の右腕は背後に回って間接を極められ 身動きを封じられている。
 何が起こったか理解できぬ金色の長髪シャイン・ゴールドに隠された耳元直ぐ 背面から聞こえる東方訛り。


「ええ突きやったけど ちょいと甘いな。追われてんのやろ? ウチが匿かくまったる。黙って言うこと聞いとき」


 血管が透ける純白の肌に 長くクルリと巻いた金色こんじきの睫毛。
 少し怯えの入った緑碧エメラルド・ブルーの瞳。
 息を堪こらえた薄い胸が 微かに上下している。
 歳の頃は 13~14といったところだろうか?


「〈狂い牙〉のヤツらに追われてんのやろ? ウチ アイツらとちゃう組闇ギルドの者モンやねん。逃げんの手伝ったるさかい 黙って言うこと聞いとき?」

「......わ ...わかった」


 掠れた声で 小さく頷く金髪碧眼。


「ええ子や。この薬飲んでくれるか? ちょっと見た目が変わる薬なんやけど 2刻ほどで戻るし 害は無い。あとは顔伏せといてくれたら ウチが ひと芝居打って 巧いこと逃がしたるし...な?」


 そう言いながら 拘束を解き ピンク色の液体の入った小瓶を手渡す。
 不安気な視線を暗紅色の瞳で受け止め 微笑んで見せる。
 覚悟を決めた緑碧瞳エメラルド・ブルー。
 蓋を開けグッと飲み干す。
 年若だが 度胸がある。

 とりあえず銀貨100枚。

 心の中でほくそ笑む。
 2人組の大きな足音が近づいて来る。
 あまり時間が無い。


「おっちゃん ちょっと借りるで!」


 傍にいた浮浪者が被るボロ布をサッと引き抜き 頭から纏い 印を結び 咒しゅを唱える。
 腰を屈め 声色を作る。

 
「おいッ 婆さんっ こっちに金髪の女が 来なかったかッ!?」

「ヒョェ ヒョェ 金髪の女じゃと?」


 ボロ布の下から聞こえる皺枯れた声。


「そうだ ピンクのスカートの若い女だッ」

「ヒョェ ヒョェ いますとも 金髪の若い別嬪べっぴんさんが......ただし 男じゃけれども。最近は 綺麗な男に 女の格好させるのが流行っとるでのぉ......お兄さん達も その口かえ? ピンクのスカートが好みなら もちろん履かせますともさ......」

「そうじゃねぇッ こっちに若い女が走って来なかったかって聞いてんだよッ」

「それは知らんぞぇ。ここにいるのは ウチの子だけじゃよ。なんなら見ていってくれても 構わんぞぇ?」


 遣り手婆の演技を続ける紅瑠石ガーネットの横で ボロ布を剥ぎ取られた浮浪者が 後退りしながら 怯えた声を出す。


「......ばっ 化け物っ......」


 男がピンクのスカート履いたぐらいで『化け物』は言い過ぎやろ?と心の中で悪態を吐く闇エルフ。
 だが ボロ布の下から覗く チンピラ共の顔にも怯えの色。
 違和感を覚えた暗殺者の横を通り抜ける黄金の風。
 

「グェッ」
「ギャッ」


 大の男2人が 吹っ飛ばされ 1人は道端に積まれた木箱にめり込み もう1人は見事に空中で3回転して 路上に横たわる。

 そして 紅瑠石ガーネットの眼前には 全身を毛に覆われた見上げる程 逞しい金色こんじきの獣人の背中......腰には 破れた淡いピンクのスカート。


「......本気マジかいな。えらいこっちゃ......」


 男の姿にした金髪娘にボロでも纏わせて 〈碧猫屋あおねこや〉まで連れて行き マリノアから 銀貨100枚せしめるという 自分の目論見が 脆くも崩れたのを目の当たりにして 白銀髪プラチナ・ブロンドの闇エルフの頭脳が全速で回転を始める。
 
 あまりにも目立つ この巨体を引き連れて〈狂い牙〉の連中を撒いて〈碧猫屋あおねこや〉へ......いや無理だ。
 目撃者無しに大市場グラン・バザールを抜けるのは 不可能。
 ならば 自分の隠れ家セーフ・ハウスへと辿り着く......できる事だろうか?
 それとも 放り出して 自分だけ 逃げをきめ込むか?
 
 金髪娘が獣人化したのを見たのは チンピラ2人と浮浪者と街娼の合わせて4人。
 しかもチンピラ共は気絶中。
 逃げ始めの数分は 一方的に逃げを打てる。
 
 目立つ巨体を連れての逃走も難しくはあるが 不可能では無い......先ほどからの行動を見ていると 幸いにも 運動能力は高く 思い切りも抜群。
 逃走ルートを思い描く......たぶん 逃げきれる。
 そう判断すると ボロ布を浮浪者に投げ返しながら 金色こんじきの獣人に声を掛ける。


「おいっ 金髪ちゃん。とっとと逃げんでっ ついといで。こっちや」


 そう言って 身を翻す闇エルフを 緑碧瞳エメラルド・ブルーの巨体は 無言で頷き追いかけたのだった......。
 .........。
 ......。
 ...。
 

 掘っ建て小屋と掘っ建て小屋の狭間を抜け 溝蓋を外し 地下に潜り放棄された下水道を辿る。
 一旦 地上に戻り 今度は 小屋の屋根の上を歩き 屋根から屋根へと跳び移る。
 もう一度 裏路地へと降り 細い路地裏を 右へ左へと七度曲がる。
 そして辿り着いた 少し傾きかけた レンガ造りの小さな家屋。


「ここが ウチの隠れ家や。ここに居てたら 暫しばらくは安全や」


 木戸を開け 金色こんじきの獣人を招き入れる。

 
「ウチの名前は紅瑠石ガーネット。ちょいと思てたんと違う効果出たけど アイツらぶっ飛ばせて 結果オーライやんな?」


 頷く獣人。
 柔毛の生えた逞しい肩をバシバシと叩く闇エルフ。


「そうか そうか ちょっとはスッキリしたか? 金髪ちゃん 名前は?」


 何か言いたそうに 口を動かすが 獣じみた しゃがれ声しか出すことができないらしく 力なく項垂うなだれる。


「......ウマイこと喋れへんのか。まぁ 2刻ほどで戻るらしいし 話は それからやな......」


 .........。
 ......。
 ...。

 

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星降る街の薬種商〈碧猫屋〉~薬師マリノアの仕入帳控え~作者:金星タヌキ
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 王都ウェスティリアの大市場グランバザールの西。
 薄汚れたスラムの狭い路地裏を紅瑠石ガーネットに向かって走ってくる豪奢に煌めく長い金髪に淡いピンクのワンピース。
 進行方向に立つ レザージャケットの闇エルフの姿に気づく。

 足を止め 後ろを振り返り 一瞬の逡巡......。
 
 向き直り 意を決した睚まなじりで 前を見据える。
 と 一気の踏み込みから 紅瑠石ガーネットの体央の急所を目掛けて 右正拳を繰り出す。
 

「――――――ッ」


 緑碧瞳エメラルド・ブルーの首筋に当てられた鋭い片刃刀ワキザシ。
 金髪碧眼の右腕は背後に回って間接を極められ 身動きを封じられている。
 何が起こったか理解できぬ金色の長髪シャイン・ゴールドに隠された耳元直ぐ 背面から聞こえる東方訛り。


「ええ突きやったけど ちょいと甘いな。追われてんのやろ? ウチが匿かくまったる。黙って言うこと聞いとき」


 血管が透ける純白の肌に 長くクルリと巻いた金色こんじきの睫毛。
 少し怯えの入った緑碧エメラルド・ブルーの瞳。
 息を堪こらえた薄い胸が 微かに上下している。
 歳の頃は 13~14といったところだろうか?


「〈狂い牙〉のヤツらに追われてんのやろ? ウチ アイツらとちゃう組闇ギルドの者モンやねん。逃げんの手伝ったるさかい 黙って言うこと聞いとき?」

「......わ ...わかった」


 掠れた声で 小さく頷く金髪碧眼。


「ええ子や。この薬飲んでくれるか? ちょっと見た目が変わる薬なんやけど 2刻ほどで戻るし 害は無い。あとは顔伏せといてくれたら ウチが ひと芝居打って 巧いこと逃がしたるし...な?」


 そう言いながら 拘束を解き ピンク色の液体の入った小瓶を手渡す。
 不安気な視線を暗紅色の瞳で受け止め 微笑んで見せる。
 覚悟を決めた緑碧瞳エメラルド・ブルー。
 蓋を開けグッと飲み干す。
 年若だが 度胸がある。

 とりあえず銀貨100枚。

 心の中でほくそ笑む。
 2人組の大きな足音が近づいて来る。
 あまり時間が無い。


「おっちゃん ちょっと借りるで!」


 傍にいた浮浪者が被るボロ布をサッと引き抜き 頭から纏い 印を結び 咒しゅを唱える。
 腰を屈め 声色を作る。

 
「おいッ 婆さんっ こっちに金髪の女が 来なかったかッ!?」

「ヒョェ ヒョェ 金髪の女じゃと?」


 ボロ布の下から聞こえる皺枯れた声。


「そうだ ピンクのスカートの若い女だッ」

「ヒョェ ヒョェ いますとも 金髪の若い別嬪べっぴんさんが......ただし 男じゃけれども。最近は 綺麗な男に 女の格好させるのが流行っとるでのぉ......お兄さん達も その口かえ? ピンクのスカートが好みなら もちろん履かせますともさ......」

「そうじゃねぇッ こっちに若い女が走って来なかったかって聞いてんだよッ」

「それは知らんぞぇ。ここにいるのは ウチの子だけじゃよ。なんなら見ていってくれても 構わんぞぇ?」


 遣り手婆の演技を続ける紅瑠石ガーネットの横で ボロ布を剥ぎ取られた浮浪者が 後退りしながら 怯えた声を出す。


「......ばっ 化け物っ......」


 男がピンクのスカート履いたぐらいで『化け物』は言い過ぎやろ?と心の中で悪態を吐く闇エルフ。
 だが ボロ布の下から覗く チンピラ共の顔にも怯えの色。
 違和感を覚えた暗殺者の横を通り抜ける黄金の風。
 

「グェッ」
「ギャッ」


 大の男2人が 吹っ飛ばされ 1人は道端に積まれた木箱にめり込み もう1人は見事に空中で3回転して 路上に横たわる。

 そして 紅瑠石ガーネットの眼前には 全身を毛に覆われた見上げる程 逞しい金色こんじきの獣人の背中......腰には 破れた淡いピンクのスカート。


「......本気マジかいな。えらいこっちゃ......」


 男の姿にした金髪娘にボロでも纏わせて 〈碧猫屋あおねこや〉まで連れて行き マリノアから 銀貨100枚せしめるという 自分の目論見が 脆くも崩れたのを目の当たりにして 白銀髪プラチナ・ブロンドの闇エルフの頭脳が全速で回転を始める。
 
 あまりにも目立つ この巨体を引き連れて〈狂い牙〉の連中を撒いて〈碧猫屋あおねこや〉へ......いや無理だ。
 目撃者無しに大市場グラン・バザールを抜けるのは 不可能。
 ならば 自分の隠れ家セーフ・ハウスへと辿り着く......できる事だろうか?
 それとも 放り出して 自分だけ 逃げをきめ込むか?
 
 金髪娘が獣人化したのを見たのは チンピラ2人と浮浪者と街娼の合わせて4人。
 しかもチンピラ共は気絶中。
 逃げ始めの数分は 一方的に逃げを打てる。
 
 目立つ巨体を連れての逃走も難しくはあるが 不可能では無い......先ほどからの行動を見ていると 幸いにも 運動能力は高く 思い切りも抜群。
 逃走ルートを思い描く......たぶん 逃げきれる。
 そう判断すると ボロ布を浮浪者に投げ返しながら 金色こんじきの獣人に声を掛ける。


「おいっ 金髪ちゃん。とっとと逃げんでっ ついといで。こっちや」


 そう言って 身を翻す闇エルフを 緑碧瞳エメラルド・ブルーの巨体は 無言で頷き追いかけたのだった......。
 .........。
 ......。
 ...。
 

 掘っ建て小屋と掘っ建て小屋の狭間を抜け 溝蓋を外し 地下に潜り放棄された下水道を辿る。
 一旦 地上に戻り 今度は 小屋の屋根の上を歩き 屋根から屋根へと跳び移る。
 もう一度 裏路地へと降り 細い路地裏を 右へ左へと七度曲がる。
 そして辿り着いた 少し傾きかけた レンガ造りの小さな家屋。


「ここが ウチの隠れ家や。ここに居てたら 暫しばらくは安全や」


 木戸を開け 金色こんじきの獣人を招き入れる。

 
「ウチの名前は紅瑠石ガーネット。ちょいと思てたんと違う効果出たけど アイツらぶっ飛ばせて 結果オーライやんな?」


 頷く獣人。
 柔毛の生えた逞しい肩をバシバシと叩く闇エルフ。


「そうか そうか ちょっとはスッキリしたか? 金髪ちゃん 名前は?」


 何か言いたそうに 口を動かすが 獣じみた しゃがれ声しか出すことができないらしく 力なく項垂うなだれる。


「......ウマイこと喋れへんのか。まぁ 2刻ほどで戻るらしいし 話は それからやな......」


 .........。
 ......。
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