第33話 護衛任務
「牝蠣 採りに行くだけやろ? なんで そんなヤバいん?」
「競合が いんのよ」
「競合? ウチや アリシアが出張らんとアカンような 競合って どないな感じ? 軍隊でも出てくんのかいな?」
〈碧猫屋〉のカウンターの前で『ジャイン牝蠣採集ミッション』について尋ねる紅瑠石。
参加を拒絶され納得のいかない表情の濃緑髪の騎士見習いと煌金髪の踊り子に視線を向けながら状況を説明するマリノア。
「今の時期のジャイン牝蠣って 一番 身が肥えてて エキスの質も量も最高なんだけど それを狙って大海蛇が出んのよ」
「シっ 大海蛇でありますか......」
少しひきつった声で リアンが反応する。
「海蛇でしょ? そんなヤバいの?」
シノンの疑問に 男装の騎士見習いが答える。
「|『蛇』《サーペント》と名前はついてるのでありますが 実際には亜竜なのでありますよ。去年も トスカレ近辺の漁村に出現して 地元領主では対応しきれずに 大騒ぎになったのであります」
「牙の毒がヤバいねんけど それだけやのーて 毒ガスのブレスが かなり面倒臭いねん......」
「そんなんやったら お姉さん1人だったらヤバいじゃん。やっぱ アタシ達が着いて行った方がいいんじゃないの?」
白いスリットワンピースの踊り子が心配そうな声を出す。
闇エルフの返答を促すように 水碧髪の薬師が視線を送る。
「あー いや それはな~。それは... マリノア言うみたいに ウチ1人の方が ええわ......。自分1人で自由に動ける方が まだ楽に殺れる相手やわ」
「毒ガスブレスが 厄介なのよ。紅瑠石1人 毒ったんなら 即ぐに解毒薬でリカバーできるけど ブレスで3人同時に毒られたら 回復 追い付かなくなる可能性大だと思うのよね」
「けど アレやろ?『毒った マジ死ぬ......』って思いながら 解毒・回復 飛んでくるって信じて 懐に飛び込んで行くパターンやろ? ......想像するだけで『うっわ キっつー』って感じやな......」
紅瑠石が恨みがましそうに 海碧瞳をジト目で見詰める。
「......報酬 弾んでや?」
「はいはい。適正価格でね」
「あ あの......自分 報酬等いらないでありますし 戦闘の邪魔にならないように離れた場所で待機するでありますので 荷物運びに同行させては頂けないでありますか?」
「それって 食費なんかも自分で持つってこと?」
リアンの提案に マリノアの丸い眼が興味ありげに開かれる。
「もちろんであります。その代わり お手隙の時間に稽古を着けて頂きたいのであります」
「......嫌やし。昼間 大海蛇と格闘して 夜はリアンと剣術の稽古なんてしてたら ウチ死んでまうわ......。ゆっくり寝させてんか。あっ そーや 野宿嫌やしな。宿屋で寝させてや?」
「チッ...... しょーがないわね。そこまでは経費に入れとくわよ......」
闇エルフと薬師が 冒険行の段取りの話題に移りそうになるのを 必死に食い止める騎士見習い。
「自分 今回 初めての鍛練期間を頂いたのであります! なんとしてでも 紅瑠石ししょ~に稽古を着けて頂き弟子にして頂きたいのであります。弟子は取らないって仰ってたでありますのに そんなチャラい女を弟子にされて 自分が認めてもらえないのは なんとも納得がいかないのであります!」
「はぁー? チャラい女って誰のことよ。アタシ踊り子なんだから こーゆーカッコが商売道具なのッ。アンタこそ なによ。女のクセに男みたいなイキったカッコして。まー でも アンタよりアタシの方が美人だしー アンタがこんなカッコしても 色気のカケラも出ないでしょーけどッ」
「じっ 自分は騎士なのでありますっ! 色気とか可愛さとか 必要無いのでありますっ! 家族の期待を背負っているのであります! オマエなんかに分かんないのでありますッ!」
「ドやかましいッッ!」
紅瑠石の一喝で濃緑瞳と緑碧瞳が口を噤む。
......が 一旦は黙った煌金髪の踊り子は 持ち前の負けん気で 更に喰って掛かる。
「そんなことゆーけど アタシの護衛は どーすんのよ。アタシ あのチンピラ共に まだ 追われてるかもしれないじゃん」
「知らんがな。追われてんのは自業自得やろ?」
「違うし。アイツらが悪いんやし。それに お姉さん『ウチが匿ったる』って言ってくれたじゃん。......アレはウソなの?」
金髪碧眼の美少女が 儚げな空気を出し目を潤ませる。
それが演技だと分かりつつも 一瞬たじろぐ闇エルフ。
そこへ生真面目一本の騎士見習いが喰らい付く。
「ウソは いけないのであります。父様が いつもそう仰ってるのであります。弟子は取らないって仰ってたのに 自分に内緒で弟子を取るなんて 非道いであります。何でもするでありますから 自分も弟子にして欲しいのであります」
緑碧瞳に続き 濃緑瞳も じっと暗紅色の瞳を真っ直ぐに見詰める。
その勢いに一瞬目が泳いだ後 白銀髪の美貌に いつもの悪戯な笑みが戻る。
「......なぁ リアン。弟子になれるなら何でもするって言うたな? じゃあ ウチの弟子に相応しいか 試験しても ええか?」
「もっ もちろんであります!」
「じゃあさ ウチの代わりにシノン護ったってーな。それが試験」
「「え゙っ?」」
思わぬ提案に目を見合わせる濃緑と緑碧の瞳。
今度も 直ぐに反応したのは シノン。
「こんな弱っちそーなヤツに 護衛されても心配なだけじゃん」
「誰が弱っちそうでありますかっ」
「ホンマ ホンマ... リアンこう見えて けっこう強いねんで? いっぺん試してみ? シノンさぁ 得意の体術で リアンの帽子に触ってみぃな。もし それ できたら 考え直したるし」
紅瑠石の言葉に シノンの睚に鋭さが宿り つま先立ちの脚が 踊るようなステップを刻みはじめる。
「ハァッ!? ナニ勝手なこと言ってんのよッ 店の品物 壊しでもしたら タダじゃ置かないわよッ!」
マリノアの叫びが 開始の合図となり 煌金髪が揺らめき 一気の飛び込みから 右正拳を繰り出す。
だが 高速の拳を上回る神速で 正確に徒手でシノンの攻撃を弾いていくリアン。
3発 4発 5発と 連撃を正確に見切り いなした上で 小さな脚払いを繰り出す。
それを嫌った シノンが1歩退いた その刹那。
── シィィャャッッ ──
鋭い鞘走りの音。
見れば シノンの真っ白な頤 その寸前 毛筋1本挟むかという位置にリアンの細剣の切っ先が止まっている。
「自分 王国最強の名誉ある王都騎士団の一員なのであります。......まだ 見習いではありますが」
1歩も身動きの取れない豪奢な金髪の右肩を 紅瑠石が軽く2度叩きながら笑う。
「な。言うたやろ? リアン なかなかのモンやねん」
無言で小さく頷く 踊り子の少年の喉元には 未だ微動だにせぬ細剣の切っ先。
「ほな ウチら帰るまでの間 シノンのこと護ったってな。そんなコワイ顔せんと 仲良うやりや~」
「弟子入りの件 二言は無しでお願いするでありますよ?」
「へいへい。分かってるって」
闇エルフの返答を確かめると リアン・ペイジは細剣をくるりと鮮やかに1回転させて鞘へと仕舞ったのだった。