第34話 大市場
「オマエ これから どうするでありますか?」
マリノアと紅瑠石に〈碧猫屋〉を追い出された10代の2人は店の前の路上で 今後の方針を確認中。
「オマエとか呼ばないでよねっ アタシには シノンってゆー立派な名前があるんだからっ」
「オマエみたいな弱っちーのは『オマエ』で十分であります。怪我させずに預かるだけなら うちの地下室に閉じ込めて置けばいいのでありますが それでは紅瑠石ししょ~から 仰せつかった試験にならないでありますから オマエに合わせてやるであります」
17歳の騎士見習いは 14歳の踊り子の生意気な態度に苛立ちを隠せぬ様子だが 尊敬する紅瑠石からの試練として この事態を受け止めようとしていた。
『とりあえず 7日間ほど頼むわ。ウチら帰って来るまで ケガせえへんように護っといたって~。それできたら弟子にしたるしな』
師と仰ぐ闇エルフに言わせれば 護衛として周りの様子に気を配り 常に立ち居い振る舞いを考えることは斥候として必要不可欠な能力らしいのだが。
素直に納得できる部分と 例によって巧く言いくるめられただけなのでは...という一抹の不安。
その疑念を振り払うように小さく首を横に振ると リアン・ペイジは 護衛対象の少女に これからの方針を尋ねる。
「オマエ 家は 何処でありますか?」
「アタシ 家なんて 無いよ」
「家が 無い? どういうことでありますか? 家出しているのでありますか?」
フンッと鼻を鳴らす様な仕草の後 大見得を切るようにシノンが言う。
「アタシは生まれついての旅の踊り子なの。決まった場所に2週間以上居たことなんて1度もないわ」
「じゃあ 今夜は どこで寝るのであります? 何かアテがあるのでありますか?」
「......それは決まって無いけど......。まーなんとかなるわよ。最悪野宿しても いいし」
貴族の娘として育ってきた自分とは全く違う漂泊人の感覚に戸惑うリアンを尻目に 歩き始める1つ括りの豪奢な金髪。
慌てて その横を直衛する薄緑のサーコート。
「まっ 待つでありますよ。自分 オマエを護衛するように ししょ~に言いつかってるのであります。勝手は困るのであります」
「リアン強いのは 分かったし 護衛も悪くない気分だけど なんか見張られてるみたいで 堅っ苦しいのよねー。せっかく こんな美人と歩いてんだし デート気分でさー」
深いスリットワンピースが薄緑のサーコートに腕を絡めにいく。
それを慌てて避ける濃緑髪の騎士見習い。
「なっ なにするでありますかっ。自分 女なのでありますっ」
「それを言ったら アタシは女じゃないけどねー」
「何を言ってるでありますか?」
「うんー べつにー。気づいてないなら いいやー」
スルリと護衛の騎士見習いの横を抜け 豚の腸詰め屋台の方へと移動するシノン。
「ねー お腹空いたー。いい匂いだし ここで食べようよー。お兄さん その奥の方で こんがり焼けてるヤツちょーだい。え? うん。隣のヤツもちょーだい。うん お姉さんの分で」
「『いい匂いー』は いいんでありますが オマエお金持ってるんでありますか?」
「それがさー 薬屋さんで お金もらえるって聞いててさー。それアテにしてたから 全然持ってないんだよねー。え? 大丈夫。お金は後ろのお姉さんが払うから」
店主から 2つのソーセージ挟みパンを受け取るシノン。
「はい これ リアンの分ね。じゃ 支払い頼むねー」
アツアツの1つをリアンに手渡すと 先に歩き出す煌金髪。
護衛任務のためには 離れる訳にいかず かと言って 返品交渉する時間も 立場上食い逃げする訳にもいかない騎士見習いは慌てて財布を取り出し 支払いを済ませ シノンを追う。
「なっ なに 勝手なことしてるでありますかっ」
「あれ? リアン食べないのー? この店 アタリだよー 薄切りの玉ねぎとピクルスが なんとも オツだし 肉汁は最高だし スパイスの具合も かなり好みー」
可憐な印象の小ぶりな口が大きく開き 肉汁たっぷりのソーセージパンをムシャムシャと咀嚼する。
リアンが持つ もう1つにも 物欲しげな視線。
逆に お嬢様育ちのリアンは 食品に直接 口をつける無作法さに戸惑い逡巡する。
「いらんのやったら アタシ食べよっかー?」
「じっ 自分で食べるでありますっ」
勇気を出して大口を開け アツアツのソーセージパンに齧り付くリアン。
口の中に拡がる 香ばしいスパイスと肉汁の旨味。
野菜の歯応え ほのかなパンの甘味。
生まれて初めて味わうパンチの効いたコンビネーション。
「こっ これ 美味しいでありますね」
「だよねー。ってゆーか こーゆー系 食べるの初めて?」
「なっ なぜ そんなこと判るでありますかっ!?」
心の底から驚いた様子の17歳の反応に 小首を傾げる14歳。
「『なぜ』って......顔 見てたら 丸分かりだよ? 」
「......うっ。それ 皆さんに言われるであります。喋ってないのにどうしてでありましょうか......」
「まー 可愛い感じだし いいんじゃないー?」
「自分は 可愛いとかより 優秀な騎士になりたいのであります」
「ふーん。リアン 強いじゃん」
リアンもソーセージパンを食べ終えたものの大市場の西大通りの中ほどで立ち話を続ける2人。
「そりゃ オマエなんかよりは 強いでありますが 王都騎士団レベルで言うと 全然なのでありますよ......」
突然 辺りを見回し様子を伺う緑碧瞳。
「......ちょい ヤバいかも」
「どうしたで あります?」
早足で歩き始めるシノン。
横に付いて 周りを警戒するも 釈然としない様子の濃緑瞳。
「風の声が聞こえる気がする」
「風?」
「紅瑠石に教えてもらったんだけど アタシ〈精霊魔法〉の素質があるらしいのよね」
「斥候の弟子になったんではないのでありますか?」
男装の騎士見習いも 自分達をつけている2人組に気がつき警戒を強める。
人通りの多い 大通りで細剣を抜く訳にはいかない。
向こうは どうだろう?
シノンを狙う目的は何なのか。
拉致しようとしているのか。
傷つけることが目的なのか。
自分の隣を足早に歩く煌金髪の美少女。
彼女のことを よく知らねば 護衛の試験をこなすことはできない。
濃緑髪の騎士見習いは そんなことを考え始めていた......。
.........。
......。
...。