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第40話 宿屋




 ここ数日の少年とのやり取りを思い出し 歯の根も合わぬ様子のリアン。
 
 いや違う。
 こんな下着姿を男子に見せる訳には......。
 
 手近のベッドシーツを剥ぎ取り 慌てて包くるまる。
 白いシーツから出た 濃緑髪マラカイト・グリーンと真っ赤を通り越し赤黒くなった顔面。

 はじめの内は 腕を絡める程度だったスキンシップ。
 だが 気がつけば 何度か頬へのキスも許してしまっていた。
 さらには 自分から踊り子の少・年・に抱きつきにいった記憶もある。
 女の子同士という思い込みと気安さ。

 それは貴族の娘としては 許されないレベルの親密さの表現だったが ここ数日の奇妙な冒険感と女の子同士という気安さが リアンにその一線を踏み越えさせていた。


「真っ赤になっちゃってカワイー。そんなに緊張しないでよ」


 上半身裸のまま ベッドの上のリアンに近づき 横に腰掛けるシノン。


「ほっぺにキスしても いい?」


 慌てて首を横に大きくブンブンと振る濃緑髪マラカイト・グリーン。


「どうして? さっきまで オッケーだったじゃん?」

「だっ だって シノン男の子だったであります......」

「初めて会った時から ずっと男の子だったよ?」


 そう 言いながら リンゴの様に赤くなっている頬に唇を寄せる。
 そして囁き。


「アタシ リアンとキスし・た・い・な。リアンのこと好きだし」


 シーツの下で 細い身体をグッと強張らせる17歳。


「......もちろん リアンが嫌じゃなかったらだよ? リアンがチンピラ達に言ってくれた通り『嫌がってる女の子に無理矢理 迫るのは よくない』からさ......」


 そして 唇で歳上の少女の頬に触れる。


「リアンが決めて? リアンがアタシのこと嫌いなら これ以上 何にもしないから......。ねぇ...リアン......。リアンは... アタシのこと...... 嫌い?」

「......じっ 自分は あっ あの...... じっ じっ 自分は... あの.........」


 .........。
 ......。
 ...。


 夏の深夜 少し開かれた窓から 風が吹き込み カーテンが揺れる。
 ベッドに眠る 濃緑髪マラカイト・グリーンの肩を軽く揺すぶり 少年が少女を起こす。


「夜中にゴメン。でも 風シルフの声が聞こえる......」


 そう言いながら 騎士見習いの細剣レイピアを手渡す。
 そのタイミングで 入り口の扉が静かに開き 走り込んでくる黒い人影。

 ── シィィャャッッ ──

 鋭い鞘走りの音と共に抜き放たれる リアンの細剣レイピア。

 ── キィィィィン ──

 ベッドから飛び出しながらの一撃は 侵入者の短剣に阻まれる。
 黒色の外套とフードで表情は おろか年格好すら判別し難い。
 だが 不意を衝くことに失敗したことは明確にも関わらず 戦闘を継続する構え。
 細剣レイピアの一撃を短剣で押し返し サッと左手に持ち替えながら 右手の長剣による抜き打ちがリアンの細首を狙う。

 長剣と短剣の二刀流の攻撃を受け流すので精一杯の騎士見習い。
 3合4合と打ち合う度にリアンの体勢が みるみる崩れていく。


「── シノンッ 逃げるで ありますッ」


 少女の必死の叫びを聞き 踊り子の少年は 窓に手を掛け ガラリと引き開け 身を乗り出す。


「助けてーーッ 人殺しーーッ!」


 チラリと侵入者の方を見遣り もう一度 外に向かって 絶叫する。


「人殺し! 人殺し! 人殺しがいるーーッ! 助けて!助けてーーッッ!」


 深夜の街中に こだまするシノンの絶叫。
 隣室 階下にも 届く大声。

 侵入者の動きに怯みが見え 攻撃が緩む。
 対する濃緑瞳マラカイト・グリーンに光が宿り 崩れかけた体勢を立て直す。
 踏み込んだ細剣レイピアの一撃が侵入者の胸元を狙う。
 黒色の外套が入り口へとバックステップ。
 と共に 左手を閃かせ短剣を煌めく金髪の首筋へ向けて飛ばす。
 とっさに左ステップでコースに入り その短剣を かろうじて弾き飛ばす リアン。
 
 その間隙に 侵入者は部屋を飛び出し逃走を開始。
 リアンとシノンが 廊下へ出た頃には 黒色の外套は階下へと消えていた......。

 助かった命に ヘタリ込むリアン。
 その横に寄り添い シノンが声を掛ける。


「リアン 大丈夫? ケガは無い?」

「じっ 自分... 護衛失格であります......。シノンが起こしてくれて無かったら......自分...今頃......」

「ううん。リアンが護ってくれて無かったら 今頃 アタシ... リアンのお陰だよ。 本当にありがとう」


 騒ぎを聞き付けた 宿屋の主人や他の宿泊者が 階下や隣室から姿を見せ始める。
 状況を説明した後 自室へ引き上げる2人。
 
 
 .........。
 ......。


「こないだのヤツらと全然違って ヤバいほど強いヤツだったの?」

「......闇ギルドにも あんなに強いヤツがいるなんて 驚きであります。王都騎士団アークナイツの騎士の方と闘ってる様な 鋭い剣筋でありました......。衛士ぐらいだと あんなに腕の立つ者に出会ったこと無いのであります......」 


 まだ 少し青褪めた表情の騎士見習い。
 ベッドに腰掛けたリアンに シノンがコップに入った水を持ってくる。


「ホントに ケガとか無くてよかった」

「シノンが 大声で助け呼んでくれたお陰であります......。自分だけでは 護りきれ無かったのであります。シノンもケガ無いでありますか? 」

「うん。大丈夫。リアンのお陰」


 隣に腰掛け 自らもコップの水を飲む。


「こないだの3人組は ヘナチョコだったでありますし 脅し方も三流だったでありますけど 今日のヤツは 明らかにシノンの命を狙ってたであります。最後に投げた短剣もシノンを狙ってたでありますし」

「この短剣だよね......。この間のヤツらが持ってたのとは違うね。牙のメダリオンも付いて無いし」

「......そうでありますね。この前は大型のナイフだったでありますけど これはもう一回り大きい短剣サイズであります。何にせよ 警戒の仕方を変えた方がいいであります。明日からは交代で寝る様にするであります」


 .........。
 ......。
 ...。


 夏の早朝 まだ少し冷気の残る 西市場近くの路上。


「リアン 今日もよろしくね」

「慎重に目立たぬ様にいくであります......少し考えたのでありますが 一回 お家に寄りたいのであります」

「近くだっけ? 別にいいけど」

「北西区の小門抜けて直ぐのところであります。ちょっと回収しておきたい物があるのであります」


 濃緑瞳マラカイト・グリーンと緑碧瞳エメラルド・ブルーは眼を見合せ 西市場の北側の大通りを目指し歩き始める......。
 .........。
 ......。
 ...。
 

 

 
 
 
 
 
 
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星降る街の薬種商〈碧猫屋〉~薬師マリノアの仕入帳控え~作者:金星タヌキ
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第40話 宿屋




 ここ数日の少年とのやり取りを思い出し 歯の根も合わぬ様子のリアン。
 
 いや違う。
 こんな下着姿を男子に見せる訳には......。
 
 手近のベッドシーツを剥ぎ取り 慌てて包くるまる。
 白いシーツから出た 濃緑髪マラカイト・グリーンと真っ赤を通り越し赤黒くなった顔面。

 はじめの内は 腕を絡める程度だったスキンシップ。
 だが 気がつけば 何度か頬へのキスも許してしまっていた。
 さらには 自分から踊り子の少・年・に抱きつきにいった記憶もある。
 女の子同士という思い込みと気安さ。

 それは貴族の娘としては 許されないレベルの親密さの表現だったが ここ数日の奇妙な冒険感と女の子同士という気安さが リアンにその一線を踏み越えさせていた。


「真っ赤になっちゃってカワイー。そんなに緊張しないでよ」


 上半身裸のまま ベッドの上のリアンに近づき 横に腰掛けるシノン。


「ほっぺにキスしても いい?」


 慌てて首を横に大きくブンブンと振る濃緑髪マラカイト・グリーン。


「どうして? さっきまで オッケーだったじゃん?」

「だっ だって シノン男の子だったであります......」

「初めて会った時から ずっと男の子だったよ?」


 そう 言いながら リンゴの様に赤くなっている頬に唇を寄せる。
 そして囁き。


「アタシ リアンとキスし・た・い・な。リアンのこと好きだし」


 シーツの下で 細い身体をグッと強張らせる17歳。


「......もちろん リアンが嫌じゃなかったらだよ? リアンがチンピラ達に言ってくれた通り『嫌がってる女の子に無理矢理 迫るのは よくない』からさ......」


 そして 唇で歳上の少女の頬に触れる。


「リアンが決めて? リアンがアタシのこと嫌いなら これ以上 何にもしないから......。ねぇ...リアン......。リアンは... アタシのこと...... 嫌い?」

「......じっ 自分は あっ あの...... じっ じっ 自分は... あの.........」


 .........。
 ......。
 ...。


 夏の深夜 少し開かれた窓から 風が吹き込み カーテンが揺れる。
 ベッドに眠る 濃緑髪マラカイト・グリーンの肩を軽く揺すぶり 少年が少女を起こす。


「夜中にゴメン。でも 風シルフの声が聞こえる......」


 そう言いながら 騎士見習いの細剣レイピアを手渡す。
 そのタイミングで 入り口の扉が静かに開き 走り込んでくる黒い人影。

 ── シィィャャッッ ──

 鋭い鞘走りの音と共に抜き放たれる リアンの細剣レイピア。

 ── キィィィィン ──

 ベッドから飛び出しながらの一撃は 侵入者の短剣に阻まれる。
 黒色の外套とフードで表情は おろか年格好すら判別し難い。
 だが 不意を衝くことに失敗したことは明確にも関わらず 戦闘を継続する構え。
 細剣レイピアの一撃を短剣で押し返し サッと左手に持ち替えながら 右手の長剣による抜き打ちがリアンの細首を狙う。

 長剣と短剣の二刀流の攻撃を受け流すので精一杯の騎士見習い。
 3合4合と打ち合う度にリアンの体勢が みるみる崩れていく。


「── シノンッ 逃げるで ありますッ」


 少女の必死の叫びを聞き 踊り子の少年は 窓に手を掛け ガラリと引き開け 身を乗り出す。


「助けてーーッ 人殺しーーッ!」


 チラリと侵入者の方を見遣り もう一度 外に向かって 絶叫する。


「人殺し! 人殺し! 人殺しがいるーーッ! 助けて!助けてーーッッ!」


 深夜の街中に こだまするシノンの絶叫。
 隣室 階下にも 届く大声。

 侵入者の動きに怯みが見え 攻撃が緩む。
 対する濃緑瞳マラカイト・グリーンに光が宿り 崩れかけた体勢を立て直す。
 踏み込んだ細剣レイピアの一撃が侵入者の胸元を狙う。
 黒色の外套が入り口へとバックステップ。
 と共に 左手を閃かせ短剣を煌めく金髪の首筋へ向けて飛ばす。
 とっさに左ステップでコースに入り その短剣を かろうじて弾き飛ばす リアン。
 
 その間隙に 侵入者は部屋を飛び出し逃走を開始。
 リアンとシノンが 廊下へ出た頃には 黒色の外套は階下へと消えていた......。

 助かった命に ヘタリ込むリアン。
 その横に寄り添い シノンが声を掛ける。


「リアン 大丈夫? ケガは無い?」

「じっ 自分... 護衛失格であります......。シノンが起こしてくれて無かったら......自分...今頃......」

「ううん。リアンが護ってくれて無かったら 今頃 アタシ... リアンのお陰だよ。 本当にありがとう」


 騒ぎを聞き付けた 宿屋の主人や他の宿泊者が 階下や隣室から姿を見せ始める。
 状況を説明した後 自室へ引き上げる2人。
 
 
 .........。
 ......。


「こないだのヤツらと全然違って ヤバいほど強いヤツだったの?」

「......闇ギルドにも あんなに強いヤツがいるなんて 驚きであります。王都騎士団アークナイツの騎士の方と闘ってる様な 鋭い剣筋でありました......。衛士ぐらいだと あんなに腕の立つ者に出会ったこと無いのであります......」 


 まだ 少し青褪めた表情の騎士見習い。
 ベッドに腰掛けたリアンに シノンがコップに入った水を持ってくる。


「ホントに ケガとか無くてよかった」

「シノンが 大声で助け呼んでくれたお陰であります......。自分だけでは 護りきれ無かったのであります。シノンもケガ無いでありますか? 」

「うん。大丈夫。リアンのお陰」


 隣に腰掛け 自らもコップの水を飲む。


「こないだの3人組は ヘナチョコだったでありますし 脅し方も三流だったでありますけど 今日のヤツは 明らかにシノンの命を狙ってたであります。最後に投げた短剣もシノンを狙ってたでありますし」

「この短剣だよね......。この間のヤツらが持ってたのとは違うね。牙のメダリオンも付いて無いし」

「......そうでありますね。この前は大型のナイフだったでありますけど これはもう一回り大きい短剣サイズであります。何にせよ 警戒の仕方を変えた方がいいであります。明日からは交代で寝る様にするであります」


 .........。
 ......。
 ...。


 夏の早朝 まだ少し冷気の残る 西市場近くの路上。


「リアン 今日もよろしくね」

「慎重に目立たぬ様にいくであります......少し考えたのでありますが 一回 お家に寄りたいのであります」

「近くだっけ? 別にいいけど」

「北西区の小門抜けて直ぐのところであります。ちょっと回収しておきたい物があるのであります」


 濃緑瞳マラカイト・グリーンと緑碧瞳エメラルド・ブルーは眼を見合せ 西市場の北側の大通りを目指し歩き始める......。
 .........。
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星降る街の薬種商〈碧猫屋〉~薬師マリノアの仕入帳控え~作者:金星タヌキ
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