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第39話 西の広場




 徐々に星々の煌めきが増しはじめる夏の宵闇。
 琥珀髪ライト・アンバーに鼈甲カチューシャの少女が乗り合い馬車を待つ停車場の横を 軽歩で駆け抜けていく二頭立ての軽馬車クーペ。
 黒塗り客室キャビンの扉部分 紋章が描かれているであろう位置には黒布が掛けられ 所有者を軽く隠匿している。

 王都ウェスティリア北西区への入り口。
 石造りの小門の前で軽馬車クーペは停まり 全身灰暗色の人物が降り立つ。
 大通りに4頭立ての乗り合い馬車が通り掛かり 停車場から魔導院の制服の少女が消えた時には フード付きの外套に長剣の人物の姿も夜の暗がりの中へと消えていた。
 黒塗りの軽馬車も音もなく転回を終えると来たとき同様 軽歩で宵闇の街へと消えていく。


 その少し南側。
 西市場近くの路上。


「どうするんでありますかっ? シノンが必ず勝てるとか言ったから 最後の銀貨3枚貸したでありますよ?」

「だって......しゃーないやん...。あんなとこで あのバカ犬が転ぶなんて 絶対分かんないし」

「その分かんないモノに 最後の銀貨を賭けたんでありますか?」

「そんなこと言ゆうけど リアンだって大声出して 勝った時 アタシに抱きついたりして 盛り上がってたじゃん......。 二連勝して MAX28枚になったし 次 勝ってたら100枚超えだよ? いくしかなかったじゃんか」


 リアンの護衛任務4日目。
 休日の西市場で開かれた闘犬ギャンブルに全財産を注ぎ込み 10代の2人は路上にしゃがみ込んでいた。
 

「......もう3日も お風呂に入ってないであります。北西区の小門越えれば お家に帰れるでありますけど お金 全部使っちゃったとか言ったら きっと父様に怒られるのであります......」


 シノンに言われるまま 誘われるままに 露店で買い食いをし 怪しげな路地を抜け 驚くほど狭小な宿屋で仮眠をとり 賭け事にお金を注ぎ込む。
 それは お嬢様育ちで生真面目なリアンにとって 一場の夢の様な目眩く冒険の時間だったが ふと気がつけば 一文無しで路上に佇む自分に気づく。


「......どーして こうなっちゃったんでありましょうか......」


 そう呟く濃緑色マラカイト・グリーンの瞳に溜まる大粒の涙。
 その姿に慌てて寄り添い慰める豪奢な金髪シャイン・ゴールド。


「泣かないでよ。大丈夫だってー。アタシがなんとかするからさっ。ほら 顔上げてっ」

「大丈夫って どーするんでありますかっ」


 顔は上げたものの その瞳には怒りの色。
 その勢いに たじろぐものの漂泊の人生を送ってきた踊り子には それなりの目算が。


「ちょっと目立つからさー もうしばらくは止めとこうって 思ってたんだけど。......ねぇ リアン このリズムとステップ覚えてくれる?」


 立ち上がりながら 軽くステップを刻むシノン。


「タン タン タタッターン。タン タン タタッターン。これ で 1セットタン タン タタッターン。ほら ほら リ アンもタン タン タタッターン。タン タン タタッターン。タン タン タタッターン。そう そう そのッリズムタン タン タタッターン。タン タン タタッターン。タン タン タタッターン」


 手拍子でリズムを取っていた踊り子がクルッと身を翻して一回転を決める。


「1セット終わる毎にさ アタシが今みたいに軽業入れたり 決めポーズ入れたりしていくから。そこまでオッケー?」


 よく分からないままに相槌を打つ騎士見習い。


「決めポーズの時間は タン タン タタッターン1つ分ね。で こっからがリアンにお願いなんだけど こないだ 剣当てずにギリギリで止めるのやってたじゃん? アレやって欲しいんだよね」


 シノンの手拍子 口拍子に合わせて ステップを刻み 細剣レイピアを振るうリアン。


「そう そう そのッ調子タン タン タタッターン。大 技の 時ッはタン タン タタッターン【2】 とか 言うッからタン タン タタッターン 2 セット してッから タン タン タタッターン タン タン タタッターン」


 側転から 捻り宙返り。
 そのアクロバティックな動きを追って リアンの細剣レイピアが鮮やかに煌めく。
 白磁の美貌の僅か左を突き抜く 銀色の切っ先。


「さっすがタンリアンタン そのッ調子タタッターン。タン タン タタッターン」
 

 後方への手着き宙返り そこへ詰め寄る薄緑の羽根帽子。
 徐々に広場の中央へと出ていく2人。
 翻る白刃に 一瞬どよめきの声が起こるが 煌めく金髪の流麗な動きに これはパフォーマンスなのだと気づき 足を止め見入る人がポツリポツリと出始める。

 
 鮮やかな剣舞と華麗な軽業。
 

 人垣が出来はじめると 人が人を呼び 人だかりへと成長していく。
 二連続の側転からの伸身宙返りが星空を舞い その着地した喉元に毛筋ほどの隙間も与えず 細剣レイピアの鋭い切っ先が止まった時には 広場を埋め尽くした観衆から割れる様な拍手喝采が巻き起こる。

 状況が分からず 息を整え 汗を拭う 騎士見習いに 踊り子の囁き。


「......リアン お辞儀」


 細剣レイピアを胸元に当てた騎士礼の後 クルリと回して鞘に仕舞い 今度は帽子を取り片膝を着いた宮廷式の優雅なお辞儀。
 踊り子も スカートの裾を持ってのカーテシー。

 観衆からは 万雷の拍手。


「帽子持って お客さん 回って!」


 シノンに押し出され 観衆の前に出たリアンの帽子に次々に入れられるコイン コイン コイン......。
 振り返れば 反対側の観衆からのコインをスカートを受け皿にして集め回る踊り子の姿が見える。


 .........。
 ......。
 ...。

 
「ねー なんとかなったでしょー」

「スゴいでありますね......」


 一頻ひとしきり おひねりを集めた後 入った宿屋のテーブルの上に種類毎に分けられたコイン。
 銅貨は200枚を軽く超え 銀貨も合わせて11枚。
 ここ数日で 最大の所持金。


「これだけあれば ここの宿代も安心であります」

「リアンが 言った通り お風呂付きの宿にしたし ゆっくり浸かっておいでよー。 アタシ 後でいいからさー」

「悪いでありますね。では お言葉に甘えさせて頂くであります」


 .........。
 ......。


 久々に髪を流し 身体を洗い サッパリとした清々しい気分。
 これから寝るというのに 少し窮屈なサーコート姿に戻る気にもなれず 濃緑髪マラカイト・グリーンの少女は肌着姿で寛いだ様子。
 躾に煩い生家なら お付きのメイドのネアや母親に叱られるだろうが あの気ままに生きる踊り子は 気にもしないだろう......気楽な女の子同士なのだから。

 そんなお嬢様育ちの心の余裕は 豪奢な金髪シャイン・ゴールドをタオルで拭きながら 上半身裸で部屋に戻ってきた 踊り子の姿を見て 音を立てて崩壊する。


「シっ シノン......っ オっ オマエ おっ 男の子だったんでありますかっ!?」

「んー? そーだよー。リアン まだ気づいて無かったのー?」
 

 .........。
 ......。
 ...。 
 




 
 
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第39話 西の広場




 徐々に星々の煌めきが増しはじめる夏の宵闇。
 琥珀髪ライト・アンバーに鼈甲カチューシャの少女が乗り合い馬車を待つ停車場の横を 軽歩で駆け抜けていく二頭立ての軽馬車クーペ。
 黒塗り客室キャビンの扉部分 紋章が描かれているであろう位置には黒布が掛けられ 所有者を軽く隠匿している。

 王都ウェスティリア北西区への入り口。
 石造りの小門の前で軽馬車クーペは停まり 全身灰暗色の人物が降り立つ。
 大通りに4頭立ての乗り合い馬車が通り掛かり 停車場から魔導院の制服の少女が消えた時には フード付きの外套に長剣の人物の姿も夜の暗がりの中へと消えていた。
 黒塗りの軽馬車も音もなく転回を終えると来たとき同様 軽歩で宵闇の街へと消えていく。


 その少し南側。
 西市場近くの路上。


「どうするんでありますかっ? シノンが必ず勝てるとか言ったから 最後の銀貨3枚貸したでありますよ?」

「だって......しゃーないやん...。あんなとこで あのバカ犬が転ぶなんて 絶対分かんないし」

「その分かんないモノに 最後の銀貨を賭けたんでありますか?」

「そんなこと言ゆうけど リアンだって大声出して 勝った時 アタシに抱きついたりして 盛り上がってたじゃん......。 二連勝して MAX28枚になったし 次 勝ってたら100枚超えだよ? いくしかなかったじゃんか」


 リアンの護衛任務4日目。
 休日の西市場で開かれた闘犬ギャンブルに全財産を注ぎ込み 10代の2人は路上にしゃがみ込んでいた。
 

「......もう3日も お風呂に入ってないであります。北西区の小門越えれば お家に帰れるでありますけど お金 全部使っちゃったとか言ったら きっと父様に怒られるのであります......」


 シノンに言われるまま 誘われるままに 露店で買い食いをし 怪しげな路地を抜け 驚くほど狭小な宿屋で仮眠をとり 賭け事にお金を注ぎ込む。
 それは お嬢様育ちで生真面目なリアンにとって 一場の夢の様な目眩く冒険の時間だったが ふと気がつけば 一文無しで路上に佇む自分に気づく。


「......どーして こうなっちゃったんでありましょうか......」


 そう呟く濃緑色マラカイト・グリーンの瞳に溜まる大粒の涙。
 その姿に慌てて寄り添い慰める豪奢な金髪シャイン・ゴールド。


「泣かないでよ。大丈夫だってー。アタシがなんとかするからさっ。ほら 顔上げてっ」

「大丈夫って どーするんでありますかっ」


 顔は上げたものの その瞳には怒りの色。
 その勢いに たじろぐものの漂泊の人生を送ってきた踊り子には それなりの目算が。


「ちょっと目立つからさー もうしばらくは止めとこうって 思ってたんだけど。......ねぇ リアン このリズムとステップ覚えてくれる?」


 立ち上がりながら 軽くステップを刻むシノン。


「タン タン タタッターン。タン タン タタッターン。これ で 1セットタン タン タタッターン。ほら ほら リ アンもタン タン タタッターン。タン タン タタッターン。タン タン タタッターン。そう そう そのッリズムタン タン タタッターン。タン タン タタッターン。タン タン タタッターン」


 手拍子でリズムを取っていた踊り子がクルッと身を翻して一回転を決める。


「1セット終わる毎にさ アタシが今みたいに軽業入れたり 決めポーズ入れたりしていくから。そこまでオッケー?」


 よく分からないままに相槌を打つ騎士見習い。


「決めポーズの時間は タン タン タタッターン1つ分ね。で こっからがリアンにお願いなんだけど こないだ 剣当てずにギリギリで止めるのやってたじゃん? アレやって欲しいんだよね」


 シノンの手拍子 口拍子に合わせて ステップを刻み 細剣レイピアを振るうリアン。


「そう そう そのッ調子タン タン タタッターン。大 技の 時ッはタン タン タタッターン【2】 とか 言うッからタン タン タタッターン 2 セット してッから タン タン タタッターン タン タン タタッターン」


 側転から 捻り宙返り。
 そのアクロバティックな動きを追って リアンの細剣レイピアが鮮やかに煌めく。
 白磁の美貌の僅か左を突き抜く 銀色の切っ先。


「さっすがタンリアンタン そのッ調子タタッターン。タン タン タタッターン」
 

 後方への手着き宙返り そこへ詰め寄る薄緑の羽根帽子。
 徐々に広場の中央へと出ていく2人。
 翻る白刃に 一瞬どよめきの声が起こるが 煌めく金髪の流麗な動きに これはパフォーマンスなのだと気づき 足を止め見入る人がポツリポツリと出始める。

 
 鮮やかな剣舞と華麗な軽業。
 

 人垣が出来はじめると 人が人を呼び 人だかりへと成長していく。
 二連続の側転からの伸身宙返りが星空を舞い その着地した喉元に毛筋ほどの隙間も与えず 細剣レイピアの鋭い切っ先が止まった時には 広場を埋め尽くした観衆から割れる様な拍手喝采が巻き起こる。

 状況が分からず 息を整え 汗を拭う 騎士見習いに 踊り子の囁き。


「......リアン お辞儀」


 細剣レイピアを胸元に当てた騎士礼の後 クルリと回して鞘に仕舞い 今度は帽子を取り片膝を着いた宮廷式の優雅なお辞儀。
 踊り子も スカートの裾を持ってのカーテシー。

 観衆からは 万雷の拍手。


「帽子持って お客さん 回って!」


 シノンに押し出され 観衆の前に出たリアンの帽子に次々に入れられるコイン コイン コイン......。
 振り返れば 反対側の観衆からのコインをスカートを受け皿にして集め回る踊り子の姿が見える。


 .........。
 ......。
 ...。

 
「ねー なんとかなったでしょー」

「スゴいでありますね......」


 一頻ひとしきり おひねりを集めた後 入った宿屋のテーブルの上に種類毎に分けられたコイン。
 銅貨は200枚を軽く超え 銀貨も合わせて11枚。
 ここ数日で 最大の所持金。


「これだけあれば ここの宿代も安心であります」

「リアンが 言った通り お風呂付きの宿にしたし ゆっくり浸かっておいでよー。 アタシ 後でいいからさー」

「悪いでありますね。では お言葉に甘えさせて頂くであります」


 .........。
 ......。


 久々に髪を流し 身体を洗い サッパリとした清々しい気分。
 これから寝るというのに 少し窮屈なサーコート姿に戻る気にもなれず 濃緑髪マラカイト・グリーンの少女は肌着姿で寛いだ様子。
 躾に煩い生家なら お付きのメイドのネアや母親に叱られるだろうが あの気ままに生きる踊り子は 気にもしないだろう......気楽な女の子同士なのだから。

 そんなお嬢様育ちの心の余裕は 豪奢な金髪シャイン・ゴールドをタオルで拭きながら 上半身裸で部屋に戻ってきた 踊り子の姿を見て 音を立てて崩壊する。


「シっ シノン......っ オっ オマエ おっ 男の子だったんでありますかっ!?」

「んー? そーだよー。リアン まだ気づいて無かったのー?」
 

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 ......。
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