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第51話 黒鴉の夢




 秋の朝。
 柔らかな日差しの寝室。
 隣に眠る煌金髪シャイン・ゴールドを優しく撫でる濡鴉髪レイブン・ブラック。


「.........んっ ......おはようございます。ガウェイン様」


 同い年の妻の少し寝惚けたような笑顔。


「昨日は ありがとう。今日は大事な式典なのに 無理言ってごめんなさい」


 少し恥ずかしそうに目を伏せ微笑む。


「......でも 薬師の先生が 月の位置もいいとおっしゃってたから......きっと 今度こそ。お薬も ちゃんと飲んだの」


 結婚から5年。
 未だ出来ぬ跡継ぎは2人の...... いや妻の深い悩みだった。
 ハイリシア侯爵家の長女とは言え 婚外子。
 女子爵という高い地位も不安定なもの。
 貴族社会の権謀術数の中を生き抜くには 余りに優しく か弱い小さき花。
 低い身分から成り上がってきた自分と鏡のように対をなす儚い女性。

 彼女の為なら どんな修羅道も顔色も変えず歩き切る。
 ......いや もう既に歩き始めているのだ。


 きっかけは1人の女だった。
 腹心の部下が連れてきた 黒衣の若い女。
 濃碧髪ダーク・マリンの長髪が猫目石のように煌めく妖しい女。
 その女の告げたこと。


「ジンク・レギャンに男の隠し子がいる......。旅芸人をしている14歳」


 怪しげな売り込みをしてくる占い師の類に興味は無かった。
 妻にも義父にも知らせず ただ置き捨てた。
 だが 腹心の男は 違った。
 腹心の男は部下と語らい その少年とやらを追い 王家領に侵入し そのまま還らなかった。
 王都騎士団アークナイツと遭遇戦になったらしい。
 
 最悪の失策。
 だが その動き方をガウェインは非難することが出来なかった。
 主君ジンクの思惑を先読みし 不都合な人物を消す。

 それが ガウェインがジンクに評価された最大の理由だったのだから。
 

 北辺の戦いで父を失った貧しい騎士の家系。
 女手ひとつで 自分を育ててくれた母。
 
 それは幼い日の記憶。
 父の遺品の短槍を両手で持ち遊ぶ自分。
 庭に降りてきた小鳥を 突き殺した。
 その時の母の 驚愕とも哀しみともつかぬ その表情。
 ......そして 微笑み。


「よくやりました ガウェイン。それでこそ武門の子」


 その日から 短槍は自分の身体の一部となった。
 力を磨き 技を極める日々。
 名を上げ 街で噂となる。
 神童がいると。

 その果てに その男に出逢った。
 豪奢に煌めく鮮やかな金髪。
 不敵な笑み。
 
 高く高く自分を評価してくれる男。 
 ジンク・レギャン。
 
 その男の為に 力を付け技を磨く。
 それを我が事のように喜んでくれる男。
 父とは こういう男の事をいうのか。
 
 更に認めてもらう為に王都に乗り込み 武術大会を制し
 北辺での戦にも従軍した。
 
 騎士に取り立てられ 近侍するようになると 政治向きの事にも参画させてもらえるように。
 必死に考え方を学び 主君の考えを先読みし 率先して動く ハイリシアの槍。

 表側でも 裏側でも。
 主君の鋭き短槍。
 それがガウェイン・ラグナート。
 ジンク・レギャンの身体の一部であるかのように動く自分。
 
 いや 自分など存在しない。
 ただ〈主君の鋭き短槍〉であること それが全て。
 

 だから託されたのだ 儚き小花を。


 義父ジンクの短槍として セレンを護る。
 そうあるべきだったのだ。
 だが セレンは自分を愛してくれた。
 ジンクの期待に応えることが 全てだった自分に与えられた もう1つの喜び。
 ジンクの期待に応えることとセレンの笑顔。
 それは 重なっていたのだ......初めの内は。

 だが 一年経っても 二年経っても 訪れない懐妊の兆し。
 その事実は 徐々にセレンから笑顔を奪っていった。

 義父は何も言わなかったが その沈黙さえ 妻を傷つけた。
 ましてや 口さがない 重臣達や町雀の噂話......。
 手にした槍では 妻を護れぬ不甲斐なさ。

 
 だからこそ 暴走し王都騎士団アークナイツに屠られた部下の不始末......その背景など 妻は勿論 義父にも話せる筈が無かった。
 
 そして 事情を調べる内に 浮かび上がる 旅芸人だという金髪の少年の姿。

 少年は存在してはならない存在だった......ジンクの為にも セレンの為にも。
 その少年の所在を知り 存在を消す為に槍を振るう。
 ジンクが関係を持ったという旅芸人一座のメンバーを消すのも 槍の役目。
 ......更なる情報を得る為に槍を振るうことも。


 翼獅子騎士グリフォナイトになりたいという 従騎士を王都に送り込み 少年を見張らせた。
 功を焦った従騎士の襲撃は失敗。
 二度目は自分自身が襲撃したにも関わらずの失敗。

 そして その2日後 王都の施薬院から 忽然と姿を消したという情報を最後に 少年はガウェインの視界から完全に消えた。
 3ヶ月の間 様々なルートを駆使したものの洋として行方が知れぬ 金髪の少年。


 そして王都にいた主君から告げられた騎士団長就任要請。
 一抹の不安を抱えたままの 今日の この式典......。
 .........。
 ......。


「させんッ! 奥義:封神閃ッッ!」


 式典用の甲冑を突き破り ガウェインの胸に深々と刺さる女騎士の長剣。
 真ん中で砕け 槍に生き 槍として死んだ男の手からズルリと滑り落ちる鉾槍ハルバード。
 薄れ逝く意識の中で黒鷲獅の心を過ったのは あの日 母に叱られていたら どんな人生だったのだろうか?という疑問と 優しくも儚い黄金色の小花だった......。
 
 


 
 

 
 
 
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星降る街の薬種商〈碧猫屋〉~薬師マリノアの仕入帳控え~作者:金星タヌキ
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第51話 黒鴉の夢




 秋の朝。
 柔らかな日差しの寝室。
 隣に眠る煌金髪シャイン・ゴールドを優しく撫でる濡鴉髪レイブン・ブラック。


「.........んっ ......おはようございます。ガウェイン様」


 同い年の妻の少し寝惚けたような笑顔。


「昨日は ありがとう。今日は大事な式典なのに 無理言ってごめんなさい」


 少し恥ずかしそうに目を伏せ微笑む。


「......でも 薬師の先生が 月の位置もいいとおっしゃってたから......きっと 今度こそ。お薬も ちゃんと飲んだの」


 結婚から5年。
 未だ出来ぬ跡継ぎは2人の...... いや妻の深い悩みだった。
 ハイリシア侯爵家の長女とは言え 婚外子。
 女子爵という高い地位も不安定なもの。
 貴族社会の権謀術数の中を生き抜くには 余りに優しく か弱い小さき花。
 低い身分から成り上がってきた自分と鏡のように対をなす儚い女性。

 彼女の為なら どんな修羅道も顔色も変えず歩き切る。
 ......いや もう既に歩き始めているのだ。


 きっかけは1人の女だった。
 腹心の部下が連れてきた 黒衣の若い女。
 濃碧髪ダーク・マリンの長髪が猫目石のように煌めく妖しい女。
 その女の告げたこと。


「ジンク・レギャンに男の隠し子がいる......。旅芸人をしている14歳」


 怪しげな売り込みをしてくる占い師の類に興味は無かった。
 妻にも義父にも知らせず ただ置き捨てた。
 だが 腹心の男は 違った。
 腹心の男は部下と語らい その少年とやらを追い 王家領に侵入し そのまま還らなかった。
 王都騎士団アークナイツと遭遇戦になったらしい。
 
 最悪の失策。
 だが その動き方をガウェインは非難することが出来なかった。
 主君ジンクの思惑を先読みし 不都合な人物を消す。

 それが ガウェインがジンクに評価された最大の理由だったのだから。
 

 北辺の戦いで父を失った貧しい騎士の家系。
 女手ひとつで 自分を育ててくれた母。
 
 それは幼い日の記憶。
 父の遺品の短槍を両手で持ち遊ぶ自分。
 庭に降りてきた小鳥を 突き殺した。
 その時の母の 驚愕とも哀しみともつかぬ その表情。
 ......そして 微笑み。


「よくやりました ガウェイン。それでこそ武門の子」


 その日から 短槍は自分の身体の一部となった。
 力を磨き 技を極める日々。
 名を上げ 街で噂となる。
 神童がいると。

 その果てに その男に出逢った。
 豪奢に煌めく鮮やかな金髪。
 不敵な笑み。
 
 高く高く自分を評価してくれる男。 
 ジンク・レギャン。
 
 その男の為に 力を付け技を磨く。
 それを我が事のように喜んでくれる男。
 父とは こういう男の事をいうのか。
 
 更に認めてもらう為に王都に乗り込み 武術大会を制し
 北辺での戦にも従軍した。
 
 騎士に取り立てられ 近侍するようになると 政治向きの事にも参画させてもらえるように。
 必死に考え方を学び 主君の考えを先読みし 率先して動く ハイリシアの槍。

 表側でも 裏側でも。
 主君の鋭き短槍。
 それがガウェイン・ラグナート。
 ジンク・レギャンの身体の一部であるかのように動く自分。
 
 いや 自分など存在しない。
 ただ〈主君の鋭き短槍〉であること それが全て。
 

 だから託されたのだ 儚き小花を。


 義父ジンクの短槍として セレンを護る。
 そうあるべきだったのだ。
 だが セレンは自分を愛してくれた。
 ジンクの期待に応えることが 全てだった自分に与えられた もう1つの喜び。
 ジンクの期待に応えることとセレンの笑顔。
 それは 重なっていたのだ......初めの内は。

 だが 一年経っても 二年経っても 訪れない懐妊の兆し。
 その事実は 徐々にセレンから笑顔を奪っていった。

 義父は何も言わなかったが その沈黙さえ 妻を傷つけた。
 ましてや 口さがない 重臣達や町雀の噂話......。
 手にした槍では 妻を護れぬ不甲斐なさ。

 
 だからこそ 暴走し王都騎士団アークナイツに屠られた部下の不始末......その背景など 妻は勿論 義父にも話せる筈が無かった。
 
 そして 事情を調べる内に 浮かび上がる 旅芸人だという金髪の少年の姿。

 少年は存在してはならない存在だった......ジンクの為にも セレンの為にも。
 その少年の所在を知り 存在を消す為に槍を振るう。
 ジンクが関係を持ったという旅芸人一座のメンバーを消すのも 槍の役目。
 ......更なる情報を得る為に槍を振るうことも。


 翼獅子騎士グリフォナイトになりたいという 従騎士を王都に送り込み 少年を見張らせた。
 功を焦った従騎士の襲撃は失敗。
 二度目は自分自身が襲撃したにも関わらずの失敗。

 そして その2日後 王都の施薬院から 忽然と姿を消したという情報を最後に 少年はガウェインの視界から完全に消えた。
 3ヶ月の間 様々なルートを駆使したものの洋として行方が知れぬ 金髪の少年。


 そして王都にいた主君から告げられた騎士団長就任要請。
 一抹の不安を抱えたままの 今日の この式典......。
 .........。
 ......。


「させんッ! 奥義:封神閃ッッ!」


 式典用の甲冑を突き破り ガウェインの胸に深々と刺さる女騎士の長剣。
 真ん中で砕け 槍に生き 槍として死んだ男の手からズルリと滑り落ちる鉾槍ハルバード。
 薄れ逝く意識の中で黒鷲獅の心を過ったのは あの日 母に叱られていたら どんな人生だったのだろうか?という疑問と 優しくも儚い黄金色の小花だった......。
 
 


 
 

 
 
 
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