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「しかし、ハクスイはいつ来るのかなぁ。進むならサクの痛み次第だけど、肩の痛みはどうよ?」
予想してはいたけど、ヒカミはハクスイに招待状を送ったらしい。心強すぎる。後で披露される事になるだろうけど、間違いなくあたしの周りで最強の人だ。
『うん。だいぶ。全く痛くないって程ではないけど、我慢出来る程度には。』
「そうか。傷口開かないように。なるべく動かさないように。ゆっくり歩こう。利き腕なのが痛手だな。さっき見た感じだと。一番深い部分だけ、縫ったほうが良さそうな程度の傷ではあるし。消毒液と糸と針があればなぁ。」
まるで医療関係の仕事をしているような発言をするが、ヒカミが医療に関わっているなんて一度も聞いた事ない。
『やめてよ。いくら器用なヒカミでも素人に縫われるのは怖いよ。』
「そう言うなって。おれ上手いよ。ほら、ここ足のとこ自分で縫って自分で抜糸したけど、めっちゃ綺麗でしょ。」
ヒカミはデニムの裾をまくりあげ。三センチ大の傷口を自慢げに見せてくる。えっと。
『何、自分で縫ったって。』
「へ。そのまんまの意味だよ。病院行くの面倒くさくて。」
うん。ちょっと言っている意味が分かんない。
「ほら、子供の頃さ。まだハクスイとつるむ前に、おれがガラスに突っ込んだ時あったじゃん。壁にめり込んでるのは幽霊だけ理論の日。
あの時さ。サクが先生呼びに行っている間に、おれマジであんだけガラスぶっ壊したから、めちゃくちゃ怒られると思って逃げたんだよね。
掃除用具入れに隠れていたんだけど、その移動中も全然血が止まんないから、ヘンゼルとグレーテル状態さ。
だからあの後病院で、自分で治療出来る力を持っていないと、いざという時にバックれられねーって思って。もうさ。医者がおれの腕縫うとこ必死に見て覚えたよね。痛いから見なくて良いよとか言われたけど、こんな事学べる機会今しかないって必死こいて見て覚えたよ。」
なんて事だ。いくらヒカミとはいえ、あたしは完全に言葉を失った。
あたしも子供の頃の記憶で曖昧だったけど。ガラスから自力で腕を引き抜いたヒカミが何故か掃除用具入れにいたのも言われて思い出した。その所為で警察沙汰になったんだった。だって普通に考えておかしいでしょ。大怪我した子供が掃除用具入れにいるって。誰か第三者が関与した事件じゃないかって疑いがかかって、学校にも警察が来たんだった。あたしはヒカミが死んじゃうかもって大泣きした記憶で全部持ってかれていたけど、よくよく考えたら、この目の前の可能性しか秘めていない餓鬼は問題を大きくしている。
「な。だからもし、ちゃんと清潔な場所とモノが確保できたら、サクの傷も縫ってやるよ」
『あっ、うん。ありが......とう。』
本当に思うけど、ヒカミもハクスイも大胆不敵といか、怖いもの知らずというか、毎回やってのける事がすごい。なんでこの二人が親友なのか度々分からなくなる。この二人はいつ見ても主人公キャラであたしは完全にサブキャラポジションなのに、いつだって二人は当たり前のようにあたしを呼んでくれる。端から見たら、なんでこの三人の組み合わせなんだろうってみんな思うだろう。あたしだってそう思う。
ふと、後ろ、少し遠くから。
ドン。突然の打撃音。叩きつけたような。
「なんだ今の喧嘩みたいな音。」
そして次には、形容しがたい「キャふん」が一番近い音か、何か鳴き声のような。続いて何か争うような物音と、足音が。
「おれは今向こう側から、ハクスイがくると見た。」
ヒカミがそう宣言すると、あたしたちが元来た方向の角から、ぬらりと、人影が現れた。
長身に棒を持ったその姿は。
「よう!っておい!すげえな!明治維新だ。」
「私だって服ぐらい選びたかったわ!」
大親友、ハクスイが棒ではなく日本刀に茶色い和服で現れた。
あたしは壁に寄りかかって座ったままで視界が低いおかげですぐに気付いたけど、何故か靴がローファーという格好だ。和服とローファーを見てヒカミが明治維新って言った事に気付く。
「招待状届いたから準備してとかなんかあったの?おれはボンジロウの散歩後の恰好でそのまま連れてこられたけど。」
「逆に、準備する時間貰えたら、なんで和服ってチョイスになるの?これは明日の写真撮影の服選ぼうって、婆ちゃんが色々着物合わせている最中に私は呼ばれたの。」
ハクスイが、刀を振って、峰の血を払ってから、鞘に収める。何が凄いってこの一連の動作に一切の違和感が無いことだ。うん似合う。
「いや。すげえよな。明らかにおかしい絵面のはずなのに、似合うから面白えな!」
ヒカミもあたしと同じことを思ったらしい。
「役に合った見た目なら、もっとスマートに仕留めたいね。たった一匹でこの返り血だよ。」
返り血と言っても、茶色の着物でそこまで目立たない。どうして参加して直ぐの襲来でもこの冷静さと反応が出来るんだろう。やっぱりハクスイは凄い。ヒカミも凄いんだけど、もうこれに至っては格が違ってやばい。味方で良かった。
「とりあえず。歩きながら情報を擦り合わせようぜ。多分真面目にやらないと、ヤバい感じだ。」
ヒカミという絶対的なリーダーと最強のエースのハクスイが揃ったからにはと、あたしは心の底から安心した。