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時計がないから正確な時間はわからないけど、多分30分は歩いていると思う。相変わらず、あたしの歩幅のペースに合わせて雑談しながら進み続けた。
『ハクスイはさ。あの招待状の話ってすぐに信じたの?』
あたしの質問に対し、ハクスイは少し考えてから......
「そりゃ信じたよね。」
『どうして?』
「あの部屋が有り得ないと思った。3.5次元と0次元の狭間の部屋。」
確かに。あの部屋であたしは二場に、距離を無視するようなパフォーマンスを見せられたのだ。確かにあの部屋は説得力がある。
「多分ああいう力を持った人が〈セックスしないと出れない部屋〉を創り出せるんだと思う。」
どうしてここで下ネタ突っ込んでボケるんだろうこの人。あたしが返答に困っていると、
「あれって人力じゃないの!?監視カメラあって、確認取れたら誰かが鍵開けてくれるんじゃねえの!?」
本気でツッコミを入れるヒカミ。いや、違うって!コイツ野球ボール投げたつもりが、バットじゃなくて蹴りで打ち返してきたぞ。
「ヒカミは知識が無いね。あれは本物の部屋だと思い込んで楽しむイメクラがあって......」
凄い。この人ここでは書けない話を始めた。コンプラ上書けないし、あたしはついていけない。
「って事は、ハクスイはゴールしたら、あの〈××××しないと出れない部屋の創設〉を願うのか?」
「それでも良いかもしれない!」
ハクスイが言った。
知ってる。これはハクスイなりのボケだ。下ネタ多いけど、あたしもヒカミもハクスイの本当の願いを知っている。
なんなら、この三人で唯一、明確な無理な願いを抱えて生きてきた人なのだ。
ハクスイのお母さんはもう亡くなっている。
子供の頃。小学校二年生の時。忘れもしない。ほぼ失語症状態だった。だからあたしとヒカミだけが仲良しなのだ。
ほぼ喋れなくなったハクスイの傍にいたのはあたしヒカミだった。それまであたしはヒカミしか友達がいなかったんだけど、ハクスイが喋れなくなったお陰であたしは自分の視える力でハクスイの煙が日常的に視えてしまったのだ。だから苦しい、寂しいの色。嬉しいからありがとうの色まで視えたから言葉はなくともコミュニケーションが取れた。あたしがハクスイに話しかけるなら、ヒカミも近付いてくる。最初はあたしの通訳を挟んで会話だったけど、いつの間にか、言葉を取り戻して喋るようになった。
皮肉にも、ハクスイと仲良くなれたのは、ハクスイのお母さんが亡くなったからだ。多分ハクスイのお母さんが存命だったらこの三人の関係性は成立していなかったと思う。
現に、今もハクスイは少し歪だ。親友だからこそ分かる。
少し下ネタ多いボケとか、モデルのバイトをして少しは社会性を学んだり、一般的な学生に見えるけど。
この人、休まないのだ。全く休まない。本人はショートスリーパーとか眠りが浅い体質って言い張るけど、根本的に自分と向き合う思考の時間が無いというか、無くすように努めているというか。
全国レベルの古流実践剣術の実力者。当たり前だけど、無心になって武芸に励む。あともう一つの無心の為というか歪んでいるのが、貞操観念の無さ。そう誰とでも寝る。本当に異性同性関係無しに誰とでも寝る。
本人曰く、「厭な思考から逃げられるから」
だから、あたしもヒカミもハクスイのチャラさを咎めない。不倫だけは辞めとけしか言わない。言えない。本当の親友だからこそ言えない。このハクスイの本心を知ったのもつい最近の事だ。