第二話 失ったモノと救われた者
「お、まえ......誰だよ!」
「ん~? 誰だろうね~♪ 気になる? 気になるよね~? お父さん、様子おかしいもんねぇ♪」
「まさか、お前が父さんに何かしたのか......!」
「じゃなきゃ、ここにいないでしょ~♪」
あっさりと、父がおかしくなったのは自分の行いであることを告げると、その人物はゆっくりと座っていた椅子から立ち上がり、大きく伸びをした。
見た目は女に見えるが、骨格はややしっかりとしているし、声は中性的だった。
それがまた、その人物の異様さを際立たせている。
三つ編みにした金髪の先をいじりながら、その人物は五奇に再度声をかけてきた。
「君、けっこう可愛い顔してるね~? あぁ女顔って意味じゃないよ? 男にしてはって意味ね♪」
まるで、日常会話でもするかのように、気安く声をかけてくる相手に、五奇は安堵より恐怖が増すのを感じていた。
(コイツは......普通じゃない......!)
五奇は何かに押されるように身体が動いた。謎の人物に向かって肩にかけていた通学バッグを、思い切り投げつける。
だが......。
「あっぶな~......へぇ? 意外と勇気あるじゃん♪ このボクに向かってケンカを売るなんてさ♪ いいよ、壊してあ・げ・る♪」
あっさりと避けると、その人物はどこからともなく、振り子を出し五奇に向ける。
「夢壊~やっちゃえ♪」
振り子がゆっくりと揺れ出したのと同時に、五奇の全身から力が抜け、頭に猛烈な痛みが走る。
「うっ、うわぁあああああ!?」
あまりの痛みに最初こそ声を発したものの、その声すら出せなくなり苦しむ五奇を見て、件の人物は不思議そうに倒れ込んでいる五奇に近寄る。
「あっれ~? 普通ならとっくに壊れるんだけど......? あぁ、君も耐性持ちかぁ~! なるほどね?」
一人納得したのか、その人物は振り子に込める力を増やした。
途端、更なる痛みが五奇を襲う。
(もう......だめ、だ......)
五奇の意識が遠のきそうになったその時、ベランダの窓が割れる音と同時に五奇の頭の痛みも消えた。
「はぁはぁ、何が......?」
視線を上げると、黒いブーツと白い布が見えた。
更にあげようとした時、先程までの相手とは別の、今度ははっきりと男と分かる声色が響いた。
「大丈夫じゃなさそうだね、少年。ここは僕に任せてもらおうか?」
「あっれ~? アンタ見覚えあるなぁ~? あぁ、あの時のか......まだ生きてるなんて、驚いたよ」
「僕の方こそ驚いたね。まさか、妖魔王の息子がこんなところをふらついているなんて。何が目的だい?」
「......うっざ。殺すよ? アンタにはムカついてるんだ」
「それはどうも。僕としても逃すわけには行かないな。妖魔王の血族となれば」
しばらくにらみ合う二人の間に割って入ったのは......黒い三つ目の犬だった。
【すずめ様、お逃げ下さい。トクタイが周囲を囲んでおります。貴方様の御身になにかあっては、ご母堂様に顔向けできません】
「ちっ、ママの名前を出されたらしょうがないか。じゃあ、後は任せたよ。そこの子~親の仇に逃げられて残念だね~♪ あはははは♪」
その声が響いたのと、すずめが姿を消したのは同時だった。
対する五奇を守ったであろう人物は、静かに残った敵を睨みつけた。
【片目の人間如きに何が出来る? ましてや、かの方が壊した男とその子を庇いながらで?】
「随分と挑発的だね? じゃあ遠慮なくやらせてもらおうか?」
そう男が告げたのと、周囲に人の気配を数多感じて、五奇はついに意識を手放した。
――これが、五奇と......後の師匠との出会いだ。