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第三話 守るべきモノ

 五奇いつきが気絶したのを見た男は、静かに部下と思しき数人の者達に指示を出しながら、自身は三つ目の黒い犬とにらみ合う。
 男の服装は、黒いブーツにライダースーツ、その上に白いローブを纏うという、どこか異質な組み合わせだ。
 男は、静かに気づけば両手に何本ものナイフを手にしていた。
 それを見た三つ目の犬が、男を再度睨みつける。
 
【その敵意、思い出したぞ。貴様は蒼主院そうじゅいんの......】
「話で気を逸らそうとしても無駄だよ? 妖・魔・」
 
 そう告げると、男はナイフを四方に投げ、空間を作る。
 
「金の退魔術式、参銘さんめい・閃牙せんが」
 
 ナイフが金色に輝くと同時に、周囲が白い光に包まれる。妖魔と呼ばれた三つ目の犬が苦しそうな声をあげ、怒りに満ちた表情になり、姿を変えた。
 巨大な三つ目の犬型の獣が、そこにはいた。
 五奇達の家を破壊して現れたそれは、身体に傷を負っている。先程の男の攻撃によるものだ。
 
「なかなかしぶといね? だが、こちらも手段を選んではいられないんだ。最速で終わらせる......金龍応鬼きんりゅうのおうき、銀虎轟鬼ぎんこのごうき! 頼んだよ」
 
 男が呼び出したのは、金の鎧と銀の鎧を纏った存在。男の指示で、二体の存在が、巨大な獣......いや、妖魔に向かって行く。攻撃を放つと、三つ目の妖魔が一瞬たじろぐ。
 そのスキを見て、男がナイフを一突き刺した。
 
【ぐあぁあ!? まさかこのわたしが......くっ、侮あなどれん! この怨み、いつか本・体・で返してやる! 蒼主院めがぁぁぁ!!】

 その言葉を残して、妖魔は霧散していく。

「分身体の方は、退けたね。あとは......」
 
 男は、部下達が護衛していた五奇とその父、忍しのぶに視線をやる。

「息子さんの方は大丈夫そうだけれど、お父さんの方は......」
「あ、あ、あ。三月みつき......三月......三月......あ、あ、あ」
 
 完全に精・神・崩・壊・させられているのを確認すると、男は部下達に更に指示を出す。
 彼ら......特殊対妖魔戦闘部隊とくしゅたいようませんとうぶたい、通称トクタイは裏組織。秘匿しなければならない。
 だから、消す。
 人々を守るために、妖魔の記憶を。
 それは本来、五奇にも適用される。だが、男は静かにある決断をした。

「彼を狙う可能性が妖魔側にある以上、記憶を消している場合じゃないね。この少年は僕にゆだねてほしい」
 
 それが、救えなかった五奇の父への贖罪しょくざいと言わんばかりに――
 
 ****
 
「うぅ......?」
 
 五奇が目を覚ました時、最初に見えたのは白い天井だった。
 身体を動かそうとして、鉛のように重たい事に気づく。それでも、起き上がろうとする五奇の右側の端から声がした。

「無理に動かないほうがいい。君は妖魔の攻撃を受けたのだから」
「よう、ま......? 父さん! 父さんは......!」
「残念だけれど、助けられなかったよ......」
「そ、んな......」
 
 男の言葉で力を完全に失い、ベッドに沈み込む五奇に男が再度声をかける。

「五奇君、本来なら君の記憶を措置する必要があるんだけれど......君には適正があるし、何より、あの妖魔王の息子が噛んでいるとなると捨て置くわけには行かなくてね?」
「......」
「だから、提案をさせてほしい。退魔師にならないかい?」
「退魔師......それになったら、敵討ちできるのか?」
「......ある意味そうだけれど、僕の誘いはそのためじゃない。君には人を救う力があるから誘っているんだ」
「救うって......はは。自分の家族も救えなかったのに?」
「だからこそだよ。まぁなんにせよ、まずは身体を治して、それから僕の言った意味を考えてほしい」
「あんたも退魔師なのか?」
「そうだよ、今はルッツと名乗っているけれどね?」
「......見た目、思い切り日本人なのに?」
 
 五奇が指摘したルッツを名乗る男の容姿は、左目に眼帯をしたこげ茶色の長髪だが、見るからに日本人という顔立ちだ。
 だが、ルッツは気にする事もなく、穏やかな口調で静かに告げた。
 
「退魔師に興味が沸き、かつ、君自身に人を救う気持ちがあるか? それによって、改めて誘わせてもらうよ」
 
 そう言い残して、ルッツは五奇の病室から出て行った。
 これが、二人の初めての会話。
 そして、修行への第一歩だった......。
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[新約]落零〈rakurei〉~おちこぼれ達の退魔伝~作者:河内三比呂
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第三話 守るべきモノ

 五奇いつきが気絶したのを見た男は、静かに部下と思しき数人の者達に指示を出しながら、自身は三つ目の黒い犬とにらみ合う。
 男の服装は、黒いブーツにライダースーツ、その上に白いローブを纏うという、どこか異質な組み合わせだ。
 男は、静かに気づけば両手に何本ものナイフを手にしていた。
 それを見た三つ目の犬が、男を再度睨みつける。
 
【その敵意、思い出したぞ。貴様は蒼主院そうじゅいんの......】
「話で気を逸らそうとしても無駄だよ? 妖・魔・」
 
 そう告げると、男はナイフを四方に投げ、空間を作る。
 
「金の退魔術式、参銘さんめい・閃牙せんが」
 
 ナイフが金色に輝くと同時に、周囲が白い光に包まれる。妖魔と呼ばれた三つ目の犬が苦しそうな声をあげ、怒りに満ちた表情になり、姿を変えた。
 巨大な三つ目の犬型の獣が、そこにはいた。
 五奇達の家を破壊して現れたそれは、身体に傷を負っている。先程の男の攻撃によるものだ。
 
「なかなかしぶといね? だが、こちらも手段を選んではいられないんだ。最速で終わらせる......金龍応鬼きんりゅうのおうき、銀虎轟鬼ぎんこのごうき! 頼んだよ」
 
 男が呼び出したのは、金の鎧と銀の鎧を纏った存在。男の指示で、二体の存在が、巨大な獣......いや、妖魔に向かって行く。攻撃を放つと、三つ目の妖魔が一瞬たじろぐ。
 そのスキを見て、男がナイフを一突き刺した。
 
【ぐあぁあ!? まさかこのわたしが......くっ、侮あなどれん! この怨み、いつか本・体・で返してやる! 蒼主院めがぁぁぁ!!】

 その言葉を残して、妖魔は霧散していく。

「分身体の方は、退けたね。あとは......」
 
 男は、部下達が護衛していた五奇とその父、忍しのぶに視線をやる。

「息子さんの方は大丈夫そうだけれど、お父さんの方は......」
「あ、あ、あ。三月みつき......三月......三月......あ、あ、あ」
 
 完全に精・神・崩・壊・させられているのを確認すると、男は部下達に更に指示を出す。
 彼ら......特殊対妖魔戦闘部隊とくしゅたいようませんとうぶたい、通称トクタイは裏組織。秘匿しなければならない。
 だから、消す。
 人々を守るために、妖魔の記憶を。
 それは本来、五奇にも適用される。だが、男は静かにある決断をした。

「彼を狙う可能性が妖魔側にある以上、記憶を消している場合じゃないね。この少年は僕にゆだねてほしい」
 
 それが、救えなかった五奇の父への贖罪しょくざいと言わんばかりに――
 
 ****
 
「うぅ......?」
 
 五奇が目を覚ました時、最初に見えたのは白い天井だった。
 身体を動かそうとして、鉛のように重たい事に気づく。それでも、起き上がろうとする五奇の右側の端から声がした。

「無理に動かないほうがいい。君は妖魔の攻撃を受けたのだから」
「よう、ま......? 父さん! 父さんは......!」
「残念だけれど、助けられなかったよ......」
「そ、んな......」
 
 男の言葉で力を完全に失い、ベッドに沈み込む五奇に男が再度声をかける。

「五奇君、本来なら君の記憶を措置する必要があるんだけれど......君には適正があるし、何より、あの妖魔王の息子が噛んでいるとなると捨て置くわけには行かなくてね?」
「......」
「だから、提案をさせてほしい。退魔師にならないかい?」
「退魔師......それになったら、敵討ちできるのか?」
「......ある意味そうだけれど、僕の誘いはそのためじゃない。君には人を救う力があるから誘っているんだ」
「救うって......はは。自分の家族も救えなかったのに?」
「だからこそだよ。まぁなんにせよ、まずは身体を治して、それから僕の言った意味を考えてほしい」
「あんたも退魔師なのか?」
「そうだよ、今はルッツと名乗っているけれどね?」
「......見た目、思い切り日本人なのに?」
 
 五奇が指摘したルッツを名乗る男の容姿は、左目に眼帯をしたこげ茶色の長髪だが、見るからに日本人という顔立ちだ。
 だが、ルッツは気にする事もなく、穏やかな口調で静かに告げた。
 
「退魔師に興味が沸き、かつ、君自身に人を救う気持ちがあるか? それによって、改めて誘わせてもらうよ」
 
 そう言い残して、ルッツは五奇の病室から出て行った。
 これが、二人の初めての会話。
 そして、修行への第一歩だった......。
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