第一話 崩れた日常
新たなる妖魔VS退魔師の物語開幕!
その報せを彼が聞いたのは、高校での授業中だった。
二限目の国語の授業の終わり際、担任が顔色を変えて、教室の扉を開け、彼を呼び出した。
「荷物を持って! 説明は道すがらしますから!」
担任の様子で、嫌な予感を覚えた彼は荷物をまとめ教室から出て行く。
――この日を境に、少年......五十土五奇の日常は崩れた。
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母の通夜と葬儀は、家族だけで行うと父に言われた。
五奇の母、三月は数か月前から原因不明の病に苦しめられて、入院していたのだが......あの日、担任が五奇を呼び出した日に症状が悪化し、そのまま天国へ旅立ったのだ。
母の遺体は、綺麗でとても死んだようには見えない。
だが、声をかけても反応がなく、体温を失った肉体を見て、その死を認識し、五奇は目に涙を浮かべる。
父である忍は、疲れた表情......いや、憔悴していた。
現在時刻、深夜一時。
母を失い、通夜と葬儀が終わった夜、五奇は自室で寝れずにいた。
精神的ショックが強すぎて、落ち着かない。
葬儀まではせわしなくて、そこに意識を向けていたからまだ良かった。それらを終えて一息吐いてしまった今、喪失感が襲ってきた。
(母さん......俺、もっと母さんと話したかったよ)
何故、自分はもっと母と会話をしなかったのか?
後悔ばかりが、脳裏をよぎる。
......その日から、父とのすれ違う生活が始まった。
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二か月後。
父は仕事に没頭し、今まで以上に帰宅が遅い日や帰宅しない日まであった。
黒樹市の警察署に勤務している警察官......それも刑事だ。多忙になったのもあるだろうが、五奇には、母の死を受け入れられない苦しみで、仕事をして誤魔化しているように見えた。
いや、実際そうなのだろう。
息子の五奇から見ても、夫婦仲がとても良かった。父は不愛想ではあったが、常に母の話を聞いていたし、母が笑えば父は嬉しそうに口角を上げて、照れ臭そうにお茶を飲んだりしていた。
喪失感は父の方が強く、苦しいのだと想像するだけで胸が締め付けられる。
実際五奇も、家に帰るのを遅くしていたし、時々友人の家に泊まらせてもらったりもしていた。
(俺も......父さんと同じだよ、な......)
夕方、公園のベンチに座って空を見上げていると、五奇の携帯端末が鳴る。
見ると、珍しく父からメッセージが入っていた。
『今日は母さんと父さんの結婚記念日だから、早く帰るように』
相変わらず短い文面だったが、母は記念日を大切にする人だったと思い、五奇はゆっくりとベンチから立ち上がる。
今日の夕焼けは、特別赤く見える。
(なんか、気持ち悪いな......)
不気味さを覚えつつ、五奇は帰路へ向かう事にした。
小さな公園から、自宅までは徒歩二十分程度だ。少しゆっくりとした足取りで、自宅方面へ歩き出す。
いつもの帰り道が、今日はいつになく重たく感じて、五奇は思わずため息を吐いた。
「何してんだろう......俺......」
思わず零れた本音は、横切る車の走行音にかき消された。
車の排気ガスに苦い顔をしながら、五奇は自宅の門を開け、玄関扉の施錠を鍵で開錠しようとした瞬間、違和感を覚えた。
「あれ? 鍵が開いている?」
(父さん、施錠にはうるさいのに......おかしいな......?)
いつもの自宅が、異物のように見える。
思わず息を飲みながら、五奇は玄関先から中に入り、靴を脱いでゆっくりとリビングへ向かう。
......中は、人がいる気配を感じないほど静かだった。
玄関の鍵が開いているという事は、父がいるはずだ。だが、その気配が一切しない。
異様な感覚に襲われながら、五奇は父を小さく呼んだ。
「父さん......父さん。ど、どこにいるんだよ......?」
呼びかけてみても、反応がない。どうしたものかと身構えながら、五奇はリビングを見渡し、ふと、仏間の方へ視線を向ける。
「ひっ......!? な、なんだ......人影......父さん、だよね......?」
薄暗い室内を夕日が照らす。
ぼやけて見える人影を確認すべく、勇気を出して室内の灯りをつければ、くっきりと仏間に人の姿が見える。
だが、様子がおかしい。
正座をしているのは確かだが、上下に動いている。
いや、それだけではない。ひたすら、同じ動作だけを繰り返している。
あまりの不気味さに五奇が動けずにいた時だった。仏間の奥から、見知らぬ声が聞こえてきた。
「おっかえり~♪ 中に入ってきなよ~? 君のおうちだよ?」
明らかに邪気の含んだ声色と異様な気配を突然感じた五奇は、不信感と恐怖でいっぱいになりながら仏間の戸を開けた。
そこには......壊れたように正座をしてぶつぶつと何かを呟いている虚ろな表情の父と、それを楽しそうに見つめているピンクのゴシックロリータに身を包み、赤いピンヒールを履いた人物が近くで昔祖父が使っていた椅子に腰かけていた。
「待っていたよ~♪ 君、お母さん似なんだぁ? 赤みかかった茶髪に左目の泣きぼくろがそっくりだね~♪」
何故、母の容姿を知っているのか?
父に何があったのか?
そして、この邪気しかない存在は何者なのか?
何もかもがわからないこの異様な状況に、五奇は恐怖を抱く事しかできなかった。