ある世界の記録書――魚を追って
「ルーク、今日は魚釣りに行こう」
「さかなつり? なにそれー」
話しかけてきた父に首を傾げる。
「命をいただくんだよ」
良く意味が分からない。まあ、楽しいならそれで良いか。大きく頷くと、父の優しい緑の瞳が細められた。手を引かれるがまま家を出て、小さなせせらぎ沿いを歩く。
「良いか、ルーク。俺たちは小さな命をいただいて、今を生かされてるんだ」
「うーん?」
「ルーク、魚は好きか?」
うん、と大きく首を縦に振る。特に、父が持ち帰る川魚の塩焼きが大好きだ。
「あの魚はな、こうやって針の先に虫を付けて釣ったものなんだよ」
父は針のついた糸を木の棒に括りつけ、その針に小さな芋虫を突き刺した。
「気持ち悪いー」
「ははは。こいつも立派な命なんだぞ」
豪快に笑う父は、僕の頭を愛おしそうに撫でる。その後、芋虫のついた針をせせらぎの中へと垂らした。
何が起こるのだろう。興味津々でせせらぎと父の顔を見比べる。
魚がかかり、水の精霊がせせらぎから飛び跳ねた。糸を手繰り寄せる父と、くねくねと動く魚――僕が食べている魚は、こうやって家へと運ばれているらしい。
「触ってごらん」
草の上に上げられた魚は、パクパクと口を動かしている。おっかなびっくりその頭に触れると、ぬるりとした感触が伝った。
「お魚ヌルヌルしてるー」
「それが魚だよ。ルーク、釣り竿を持ってみないか? お父さんも手伝うから」
「うん!」
この魚が焼かれて、料理となり、僕たちが生きる燃料となる。何となく理解し、釣り竿を握った。
* * *
書物に埋もれながら、まだ希望を捨てたりはしなかった。私にもこの子たちを幸せに出来る力がある。それを証明してみせる。ドレスを握り締め、眼下に広がる荒野を睨みつけた。