代償
国王の病状は悪化するばかりでした。快復の兆しは一向に見られず、宮廷には暗い影が落ちかかっていました。
床に伏し、半年が経とうとしていました。未だ枕も上がらず、意識も混濁したまま、その痩せこけた面には、死の翳りが揺蕩い、国王の命を徐々に蝕んでいきました。
国王は病を患ったのではありませんでした。毒を盛られたのであろうことは、ほとんど周知の事実でした。毒を盛った「犯人」も見当はついていました。いいえ、誰もが皆、確信していました。
ですが誰も毒を盛った「犯人」の名を口にせず、糾弾もしませんでした。犯人もたしかに恐ろしい人物ではあったのですが、それよりも、その後ろ盾の、「犯人」の故郷である強国の脅威が家臣達の口を堅く閉ざさせていたのです。
この上なく高貴な、それ故に孤独な女......――王妃こそが、国王の命を奪おうとする者だったのです。
王妃は嫁してから、三度懐妊しましたが、我が子の顔を見ることはできませんでした。三度の流産は王妃の身体を壊し てしまいました。世継を産むこともなく、王妃は子を産めない身となってしまったのです。
産まず女になったことが、王妃の心を蝕んでゆきました。思いつめた王妃は......―――
――自らが王座につく。
野望を抱き、それが王妃の心を辛うじて支えていたのです。
望みのためになら、王妃は何事も厭わず、邪魔をする全てを容赦なく排除することでしょう。そのために、いかなる代償を支払っても構わないと、心を固めたのです。
「わたくしほど高貴な者など、この国にはいない。玉座に相応しい者はわたくし以外にはいない」
それは悲痛とも言える王妃の断言でした。
そうして、己が身の地位を護るため、王妃はその毒手をさらに伸ばしたのです。
蛇の毒にまみれた林檎を、あの忌々しい黒髪の王女に喰らわせるために。その息の根を止めるために。
王妃の野心は、まるで蒼く燃え上がる焔のように、激しくもあり、儚くもありました。
王妃は、自らを毒と成し、そうして生きてゆく他に、道を選べなかったのです。