意志
義母の毒手は、世継の王女にも伸びてきました。けれど聡明な王女は、たやすくその手にはかかりませんでした。
「本当に、なんと忌々しい小娘だろう!」
王妃は歯噛みをし、何度地団駄を踏んだことでしょう。
毒の盛られた食事は、王女のもとに届く前に必ず処分されていました。巧妙な手口を使い、毒を仕込んでも、それが世継ぎの王女の口に入ることはありませんでした。
それらは悉く処分されました。累々と重なる下女や下男の死体とともに。
王妃はもっと直截的な行動に移し、刃を持った刺客を放ちました。けれども王女暗殺の成功は叶いませんでした。
王女の身辺は十重二十重に護られていたのです。
王女は常に暗殺の危機を身近に感じていなければなりませんでしたが、強固な意志を持つ王女は、決して王妃に屈しませんでした。
ある晩秋のことです。王女は狩人を呼びつけ、言いました。
「家臣たちの勧めどおり、わたしはこの城からいったん身を隠そうと思うのです」
多くはありませんが、家臣の中には王妃に寝返る者もいたのです。それはつまり、命の危機が高まったことを意味しています。
「そのために、狩人さん、あなたに力になって欲しいのです」
切なげな顔をして、王女は狩人の逞しい胸にしなだれました。「あなたの他に頼れる者がいないのです」と、心にもない言葉を、たやすく口にして。
「わたしを、あなたの隠れ家にかくまってほしいのです」
王女の白く華奢な手が、狩人の無精髭の生えた顎に伸びました。そっと、指先で唇に触れ、返事を急かしました。断らないと知って、王女はこの上なく愛らしい微笑を向けます。
狩人は眉宇をしかめながら、それでも王女の微笑から目を逸らすことはできませんでした。
あどけない微笑は、この世の穢れなど何一つ知らぬげで、危うげなものに見えるのです。けれど、物憂げに潤んだ黒い瞳は、その奥に隠れた魔性をちらつかせていました。
そらおそろしいほどの可憐さでした。
王女の甘い誘惑に、狩人はもはや抗う術を失っていました。
半ばぼう然とし、狩人は言葉を発していました。
「貴女の盾となると誓約した身です。なんなりと、命に従いましょう」
「ありがとう、わたしの狩人さん。......ああ、この腕で、胸で、わたしを護ってくださるのね?」
「............」
しなだれかかってくる少女の身体の柔らかさ、長い黒髪をまとう薔薇の香、そして頼りなげな囁きは、まるで媚薬のようでした。
「......姫......、貴女を護るこの愚かな狩人めに、......褒美を」
狩人は荒々しく、王女の細腰を抱き寄せました。王女は狩人の腕を拒まず、されるがままに顎を上げました。
喰らいつくようにして、狩人は王女に唇を激しく吸い、口内を犯しました。貪るような接吻に、王女ももどかしげに応えました。
――わたしは、生きなくてはならない。そのために厭うことなど、何一つない。
わたしは王座につくべき者。
わたしこそが、正当な王位継承者なのだから――
王女の堅固な意志は、間もなく訪れる厳しい冬そのもののようでした。