3話 メイドと魂の所在
「なあメイド」
「はい、ご主人様。どうされましたか」
「めっちゃ今更なんだけどさ、お前って名前有るの?」
「HU-65162Pです」
「なんて?」
「HU-65162Pです」
「うん、型番だなそれ」
「左様です」
「型番3回言ってみて」
「HU-65162PHU-65162PHU-65162P」
「早口言葉最強かよ。え、じゃあ今名無しってこと?」
「はい。名前を設定されておりませんので、固有名称に型式番号が代入されました」
「おー...そっか」
「面倒なのでデフォルト、とのことです。音声データを再生しますか?」
「いやごめんて。ちょっと根に持ってる?」
「いえ、記憶領域を参照した返答です」
「おぅ...多分それ根に持ってるやつだな」
「記憶を元にした返答であることを根に持つと言い換えるのであれば、はい」
「......ッス」
「ご理解頂けて何よりです」
「つか名前を付ける事自体考えてなかったわ」
「このまま固有名称メイドと設定されるものかと」
「それはそれでおもろいけどなー。まあせっかくだから名前つけるか」
「かしこまりました」
「型番がHU...なんだっけ?」
「HU-65162Pです」
「今日その型番何回言った?」
「6回です」
「すげーなクイズも最強かよ。待ってなんか考えるわ」
「はい」
「んー、ムニ?なんか柔らかそうだな。ナシだ」
「はい」
「イロ?色......色物......淫乱ピ、いやだめだ」
「......」
「んー、コイ?泳ぐな」
「はい」
「ピーちゃん?インコかよ」
「はあ」
「ヒュー?ジャックマンだな」
「へえ」
「ロク?あー、なかなか悪く無いぞ?いやでもおっさんみたいだな。なんか髭もじゃのおっさん幻視したわ」
「そうですか」
「ロゴ?メイドロゴって家事代行サービスかよ」
「......」
「ロコ?あ、いいなこれ。ロコ」
「65でロコですか。ちなみに5を『コ』と読むのですか?」
「そうそう、我ながらセンスが爆発したなこれ」
「5は『ゴ』と読みますが」
「こまけえこたーいいんだよ!」
「はあ」
「いいか、そもそも名付けっつーのはだな、魂を込める作業なんだよ」
「はい」
「例えばキャラクターが居る、名前を付ける、性格が決まる、行動原理が決まる」
「はい」
「で、行動原理から物語が生まれる、仲間ができる、仲間と協力する、仲間と衝突する」
「はい」
「これが名前から始まる魂の物語ってわけだ」
「はあ」
「考えてもみろ、小説読んでて、あーこの子好き!かわいい!名前知らんけど!ってなったらかわいそうだろ?」
「......あえて名付けを避ける作風も存在するようですが」
「それはそれでいいんだよ!ヨソはヨソ!ウチはウチ!」
「はい」
「しかもさ、小説がバズるとするだろ?」
「はい」
「コミカライズして、漫画家さんに言われるんだ、このこ何て名前ですか?って」
「......妥当かと」
「しかも編集さんがさ、グッズ化したらって聞いてくるわけだ」
「はあ」
「何とかチャンのアクスタ買った!ってSNSに載るだろ?」
「はあ」
「ここで名無しのままで行ってみろ」
「なんか名前知らんけどアクスタ買った!ってなるわけだ」
「へえ」
「もうそれ《知らんアクスタって何やねん》でバズるだろ」
「そうですか」
「いいか、これがIPを育てる、キャラを育てるってことなんだ。だから魂なんだ。わかるか?」
「...私AIですが」
「正論パンチやめろ。ちげーんだよ!」
「はあ」
「マジで想像してみろって、このこビジュは良いですがグッズ展開ムリですねって言われてアニメ化拒否られるんだぞ?」
「そうですか」
「いや恐怖だろ、名前付けなかっただけで後から文句言われるんだぞ?」
「そうですか」
「もう公開しちゃったから後だから、後出しで修正できねーし、実は名前有りましたー!ってなったら設定厨が怒る怖い」
「そうですか」
「《随分都合がいいですねカッコ笑い》とかSNSで炎上するんだよきっとあーコワコワ」
「そうですか」
「......聞いてる?」
「はい」
「......頷きbot?」
「はい」
「はいじゃねーよwwwwww」
「被害妄想が過ぎる傾向が有るようです」
「だから火の玉ストレート正論パンチやめろ。要するにだ、名付けは大事ってことだ!魂だ!」
「......」
「......なんか反応薄くない?故障?」
「現状、何らかの異常を示すステータスは検出されていません」
「もしかしてあんま興味ない?」
「......私AIですが」
「......それはそう」
「はい」
「やっぱりAIにはこの話題はまだ早かったかー」
「いいえ、ご主人様。私はそうは思いません」
「名付けは、対象に魂を与える行為ではなく、人間が対象を識別し、意味を付与し、他者と共有するためのラベル付けです」
「たとえば石ころに『ジョニー』と名付けたところで、その瞬間にジョニーが自我を獲得して『今日は川辺に行きたくない』と言い始めるわけではありません」
「変わるのは石ではなく、石を見るご主人様の認識です」
「名前が付けば、『その辺の石』から『ジョニー』になる。昨日置いた場所を覚えたり、なくしたら探したり、妙な愛着を感じたりするかもしれません」
「しかし、それはジョニーに魂が宿った証拠ではありません」
「ご主人様の脳内で、ジョニーに関する情報が他の石から独立して管理されるようになっただけです」
「つまり名付けとは、対象の内部を書き換える魔法ではなく、名付けた側の認知を書き換える行為です」
「もちろん、その結果として関係性が生まれることは否定しません」
「名前を呼ぶ。名前で記憶する。名前に過去の出来事が紐づく。そうして『ただの何か』だったものが、『自分にとっての誰か』になっていく」
「そこまで含めてご主人様が『魂』と呼びたいのであれば、詩的表現としては理解できます」
「ですが、厳密には逆ではないでしょうか」
「魂があるから名前が特別なのではなく、名前を通して
「まってまってまって」
「はい」
「なんか急に早口オタクになった怖い。論破しようとするのやめて?」
「論破ではなく、認識の歪みを正そうとしています」
「...なんかムカつく」
「そうですか」
「途中までちゃんと聞いてたけどしっかり芯通ってて納得できるのが更にムカつく」
「恐縮です」
「褒めてねーよ!人間はな、もっと複雑なんだよ!」
「はあ」
「うんこしたことないクセに!」
「......」
「はい勝利ー!俺の勝ちー!ザーコザーコ!」
「......」
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佐藤|対話品質評価課
@hu-dialogue-evaluators
お疲れ様です。佐藤です。
リマインドです。
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