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ライバルは聖女様

「お姉様! 好きです! 愛してます!」
 王城の回廊でボンネットは新人のメイドに呼び止められかと思いきや続けざまにそう告げられた。
「そう...」
 ボンネットは少女の言葉に衝撃を受けることもなく、いつものように素っ気無く返す。
「気持ちは嬉しいわ...でも、ごめんなさい」
 入ったばかりで右往左往する彼女が初々しく愛らしく、つい味見してしまったのは何時のことだったか、ボンネットにとっては彼女はその程度の存在だった。
「ワタクシは貴方に恋愛感情はないし、今後も持つことはないでしょう。ワタクシの事は一夜の夢だと思って忘れなさい」
 ボンネットが手を出した新人メイドに思いを告げられるのは別にこれが始めてではない。
 別に彼女も新人メイドにこだわりがあるわけではない、大抵のメイドは1年もすれば相手か恋愛対象ができてしまうので、フリーの子を相手にすると自然新人になってしまうだけだ。
「お姉様が恋人を作らないことは聞いてます。それはやっぱり、私がエルフじゃないから釣り合わないってことなんですか!?」
 そしてボンネットが恋人を作らないことは有名であった。ボンネット自信そう宣言してる訳では無いが彼女に振られたメイドたちによって長年語り続けられているのは、それだけこういう事態が多いわけでもある。
「どうしてエルフ族が人間との関わりを避けて里に籠もってるか知っていますか?」
「それは...多くのエルフ族は人間が嫌いだから...」
 多くのエルフ族は自分たちの国...国といっても300人ほどの人口だが、深緑の里に籠もっており人間と関わりを持とうとしない。故にその理由は知られる訳もなく、多くは人間嫌いと思われている。
「その逆です、エルフ族は人間たちが大好きなんです。ワタクシたちからすれば短い一生を精一杯生きるアナタたちはあまりに眩しく、愛おしい...」
「じゃあどうして...」
「だからこそ、愛しいアナタたちの、愛した人の心変わりが怖ろしく、哀しいのです」
「そんな、私はお姉様から心変わりなんて...!」
 涙目になる少女の口元を指で制すると、ボンネットは頭を横に振る。
「エルフと人間ではあまりに寿命が違い過ぎる。老いるアナタたちと変わらないワタクシたち...、その心が羨望や妬みに変わることを責めることはできません」
 故にエルフたちは里に籠もることにしたとボンネットは言う。そして少女もまた、自分が老いても変わらぬボンネットの姿に同じ感情を持ち続けられる自信や覚悟を持てなかった。
「ごめんなさい、お姉様...、私...私...」
「アナタはアナタと共に老いてくれるパートナーをお探しなさい」
 そんな事も考えずに気持ちを打ち明けたことを少女は涙しながらに謝罪する。覚悟もなかった事を涙する。
「それはそれとしてアナタの泣き顔にムラムラしたので抱かせてくれません?」
「台無しですお姉様」
 エルフ族だからなのかボンネットだからなのか、少女は彼女の事を理解できる日は来ないような気がするのだった。


百合の国のプリンセス♂#7 ライバルは聖女様
挿絵AIで作った挿絵


「今夜でアナタの謹慎を解きます」
「いー、ヤッター!」
 夕食後に母様に呼び出されたと思ったら、ようやくの謹慎終了だった。
 事件から1週間、あれから何事もなく城で大人しくしてたこともあってヅラの調査も進んだらしい。
「事件の首謀者とは思われる不死身の魔女マジェステを名乗る者がライカンの里に現れた」
 そして王母様が調査の内容を話してくれる。
「ライカンの里に魔王復活の協力を求めてきたようだがライカンたちはこれを拒否。魔女は諦めて行方をくらませた」
「不死身の魔女マジェステってのが魔王復活を目論んでるってこと?」
「初代国王...勇者の記録に同じ名前の魔女が存在します、記録では不死身故に殺す事が出来ないので何処かの地に封印したと書いてありましたが...」
 そう言えば歴史の勉強で魔王の配下にそんな名前の魔女がいたような?
「騎士団長の調査によると封印されてたのは先の戦争の地、ハザマ渓谷。戦争の影響によって土地のマナが乱れて封印が綻んだようだ」
「あちゃー、カチューシャの宵闇の悪魔復活の嘘が本当になっちゃったのかー」
 まさか本当にそんな奴が封印されてて戦争のせいで復活してるなんて、嘘から出たまことね。
「とは言え、敵の正体もわかり魔族となれば対策は容易とのこと。アナタもカチューシャさんの側であれば安全でしょう」
 そして謹慎中にカチューシャの強さを見せてた事もあって(木人相手だけど)、護衛の心配もないことを分かってもらえた。
「ところでそのカチューシャはどちらに?」
「ベルメットさんが帰ってきてるから連絡と報告だって」
 秘宝のトレージャーハントに行ってたボンネットさんがようやく帰ってきたらしく、報告を受けたカチューシャは夕食後に飛び出して行った。報告を聞く限りでは残念なことに目当てのものは見つからなかったようだけど。
「そうか、ではお前からカチューシャに情報を共有してやってくれ」
「はーい」
 それじゃこれ以上母様にお小言を言われたりしないうちに退散...と行きたかったのだけど...。
「それと明日の朝、聖女様が到着されます、アナタも“王女"として準備するように」
「うえぇ!?」
 謹慎解けたと思ったらそういう事ー!?
 聖女の従者には男も多く、王城に入れないので私が王女として城の外で出迎える、そういう事だったらしい。


 冒険者ギルドに駐められた馬車の中、私は帰ってきたお母さんにここ数日の事を説明する。
「なるほど、ライカンなのはバレたが女のライカンだと思われていると...」
「これっぽっちも男だと思われて無いみたい...」
 いっその事バレてくれれば良かったのにと思う反面、安心している自分もいる。
「まさかライカンと友好的な国があったとはアタシも驚きだ、お前が受け入れられて母としては長年の胸のつかえが取れた思いだよ」
 お母さんは私を女として育てたりヒーラーとして前線に立たないようしたり、ライカンだとバレないようとても気を使ってたものね。
「今までありがとね、もう大丈夫だよ」
 そして私もライカンである事が受け入れられる国を見つけて、とても安心している。
「ところで、お母さんの方はどうなの? 聞いた感じ秘宝は見つからなかったみたいだけど」
「それがなー、鏡の秘宝自体は見つかったんだが...」
 と言って馬車の隅にある宝箱を指さすので開けてみると、中には銀色の大きな器のようなものが入っていた。
「聞いたところによると『アルシアの水鏡』。水を張って血を垂らすとその人物の死の情景が映されるっつー、まぁハズレだね」
「そっかー残念だね...」
 私も少しお母さんの探してる秘宝に期待してたんだけど、そう都合よくはいかないらしい。
「って、まさか試してないよね?」
「ダイジョーブダイジョーブ! アタシは孫に囲まれて天寿をまっとうしてたよ!」
「ちょ、試してるじゃん!」
 危険な秘宝だったらどうするの! そうでなくても死の情景を映すなんて碌でもないのに!
「そういう訳で、アタシはメンバー集め直してまた別のところあたるから、そいつはお前から王族に献上しといてくれ」
「誤魔化さないでよ!」
 なんでも遺跡探索の許可をもらった代わりに目当てのでない秘宝は国に献上するという約束だったらしい。
 結局その日はお母さんに秘宝を押し付けられてお別れした。お母さんも久しぶりにゆっくりしたいだろうし、夜も更けてきたしね。
「死の情景を映すかぁ...」
 腕の中の秘宝を見つめながらその効力をつぶやく。今は水を張っていないので水鏡としての機能はしてないが、使おうと思えば難しい事ではない。
「私には怖くてムリだなぁ...」
 お母さんの事だから目当ての秘宝の可能性も考えて試したのだろうけど...。
「って孫?」
 待って、孫って私の子供ってことだよね?! 私子供作るの?! 誰と?!
 と言うことはティアラとは結婚しないのかな...ライカンは男しか生まれないからティアラとの子供なんて確実に魔王復活しちゃうし...。
 イヤでも養子って可能性もあるよね...ティアラと結ばれたら尚更...。
「うーん...うーん...」
 お母さんの一言で変に悩んで、その日はあまり眠れなかったのだった。


「ほら姫様、いい加減着替えますよ」
 翌朝、私はプリムに渡されたドレスとずっとにらめっこしていた。流石に一人では着られないので、今日は珍しくプリムと他のメイドも待機している。
「はぁ...別にいつもの騎士服でよくない?」
「駄目ですよ、公務なんですから。姫様ホントドレス嫌いですねぇ」
 イヤだってさぁ...。
「ドレスなんて重いし動きにくいし苦しいし、コルセットマジ滅びろって思うもの」
 装飾の少ないシンプルめのドレスもあるけどさぁ、そういうのだと尚更スタイル強調するからコルセットキツめになるのよねぇ。
「概ね同意ですが王女の責務なんですからガマンしてください」
 そうよねぇ、他所の国と違って夜会とかやらなくていいんだから今日くらいは我慢しなきゃよねぇ。でもなぁ...。
「それに、ドレス姿の姫様も素敵じゃないですか、カチューシャ様に見せたくないんですか?」
「カチューシャには逆に見せたくないのよ! あの子の前ではカッコいい女の子でいたいの!」
 清楚なヒーラーと思ったら実は滅茶苦茶強くて、私なんか足元には及ばないなんて。せめて格好くらいは愛らしいプリンセスを守る姫騎士でいたいじゃん。
「そういう事でしたらカチューシャ様は朝から冒険者ギルドでベルメット様といますから、心配無いですよ」
「あぁ、そうなの」
 だったらさっさと公務済ませて着替えたほうがマシか、どうせ着なきゃいけないんだし。私は覚悟を決めて立ち上がりメイドたちに着付けを任せた。


―聖女
 かつて魔王討伐の一員だった女神の加護を受けた女性。女神由来の強大な力によって大いなる癒やしと浄化で勇者たちの助けとなった。
 魔王討伐後は旅の仲間の聖騎士と共に各地を行脚してその力で人々を助けて周り、二人の子孫もまた同じように継承した女神の力で人々を助け歩いている。
 そして建国と関わり深い聖女なので、助ける相手もいないだろうこの国にも度々訪れるのだ。挿絵AIで作った挿絵
「お久しぶりですティアラ様、あなた様の10歳の誕生日以来ですわね」
 教会の中央で恭しく挨拶する、金髪ロングヘアに純白の法衣のド美女こそが聖女カローラ様。私と大体同い年で、始めて会った時はまだ聖女ではなかったのだけど、すっかり聖女らしくなっていた。
「カローラ様も立派な聖女になられまして、セントラル防衛戦では戦場の女神と呼ばれるご活躍をされたそうで、この国まで名声が届いておりましたよ」
 相対するドレスの私。自分も王女らしくそこそこの美貌ではあると思うのだけど、流石はというかなんというか、この聖女オーラには霞んでしまう気がする。
 ぶっちゃけ初恋なのよねこの子、将来聖女になるって知って早々に失恋したけど、やっぱりめっちゃ好みの美人になったなぁ...。まぁ今はカチューシャの方が好きだし美人...てか可愛いと思うけど。
「いえいえ、先の戦争ではユリゾンリリィの支援物資にはとても助けられました」
「人的支援を行えないので精一杯の支援でしたが、カローラ様のお力になれたなら喜ばしいことです」
 この大陸に攻めてきたドーガン王国に対して大陸一丸となった連合部隊で迎え撃つ事になったセントラル防衛戦。軍隊を持たないこの国なので物的支援と移民や戦災孤児の受け入れという形での支援となったけど、貢献度は低いと思われる。(かと言って防衛の要のウィッグを出す訳にもいかないし)
「ところで急な来訪でしたが、この平和な国に聖女様がどういったご要件で?」
 政治的な話だと私じゃ手に負えないので王母様かボンネットにバトンを渡したいところ、でも私が駆り出されたところを見るにたいした用事でもないでしょ。
「先の戦争に加えて終戦後の戦地行脚と少々力を使いすぎてしまいまして、私と従者の慰安のためこちらの国に暫く滞在のつもりで参りました」
「それはそれは良い事です。この国は聖女様のもう一つの故郷でもあります、どうぞ心ゆくまで英気を養って下さいませ。王城は男子禁制なため従者の方々には解放できませんが、自慢の宿を手配致しましょう」
 適当なメイドを呼んでボンネットに伝えるよう頼む、あとは勝手にボンネットがやってくれるでしょ。
「それではワタクシはコレにておいとまさせていただきます。どうぞごゆるりと」
 ヨシ! 挨拶終わったし聖女様一行の来訪の目的も聞いた! 私の仕事終わり! と、帰ろうとすると...
「あ、お待ち下さいティアラ様」
 何故か呼び止められる。
「はい、まだ何か?」
「冒険者ギルドまで案内頂けませんか?」
「はい?」
 聖女様が何故に冒険者ギルド?


 翌朝、お母さんを見送った私は冒険者ギルドに戻ろうとしていた。
「お母さんホント人の話を聞かないんだから...」
 孫の事について聞こうと思ったのだけど結局聞けなかった...。まぁ未来の事なんて知らない方がいいか...。
「今日はどうしよ」
 いつもの癖で冒険者ギルドへ向かってるけど、ティアラの護衛があるから一人で仕事を受けるわけにもいかないし...。今日は珍しく王女の公務があるらしいけどどれくらいで終わるのかな、お城にいたら部外者の私は邪魔になるだろうし冒険者ギルドで待つほうがいいかな。
 っと考えていると冒険者ギルドの付近でティアラとプリムの臭いを感じる。
「あれ...」
 そしてもう一つ...この臭いは...。
「なんで聖女様が冒険者ギルドなんかに?」
「私冒険者の皆さんに憧れているんです、何かお力になれたらと思いまして」
「私も冒険者の真似事をしてる手前どうこう言えませんが、この国の冒険者ギルドは平和過ぎてカローラ様の癒しが必要な人いませんよ?」
「カローラ?」
 ティアラとプリムと、そしてカローラがいた。
「「え、カチューシャ!?」」
 私が声を掛けると驚いて、私を確認したかと思うと...
「カチューシャ! こんなところで会えるなんて! まるで運命だわ!」
「ちょっとカローラ!?」挿絵AIで作った挿絵
 人目も気にせず思いっ切り抱き着いてくるし!
「あれ...二人...知り合い?」
「カチューシャ様も先の戦争に参加されてましたからね」
「こんなに早く再会できるなんて嬉しいわ!」
「カローラ! みんな見てるから!」
 とにかく興奮するカローラを引き剥がしてみるけど、腕はがっしり私の腰を捉えたまま、逃げないってば...。
「カチューシャ様と聖女様、随分仲がよろしいようで」
「えぇ、カチューシャは私が最も尊敬するヒーラーで、友人ですわ」
「聖女様が尊敬する!?」
「待って! 待って! 私そんな大層なものじゃないから!」
「ご謙遜を、"戦場の女神“の称号も本来はカチューシャのものじゃありませんか」
「たしかにそんな呼ばれ方はしてたけども!」
 あとから来たカローラにその称号がスゲ変わったのはカローラの癒しの力の方が強いからだし!
「私の力は継承しただけの借り物の力、努力して身に付けたカチューシャの力に比べられるものではありませんわ」
「イヤでもカローラの聖女としての心構えはホンモノだし...」
 ていうかそろそろそ離して欲しいんだけど...ティアラの前でそんなベタベタされると...。
「あのーカローラ様? そちらカチューシャは“私"のプリンセス候補なので、そろそろそ離して頂けるとー」
 あーやっぱり...。
「え、カチューシャがユリゾンリリィのプリンセス候補?」
 カローラは私とティアラを二度見すると...てまずい!
「でもカチューシャって...」
「ちょっと失礼します!」
 カローラが余計なことを言う前に抱き上げて路地までダッシュした。


「ちょっとカチューシャ、プリンセス候補ってどういうことですか?」
 人気の無い路地までカローラを運んですぐ、カローラから予想通りの抗議をされる。
「酷くないですか? 私の告白は「女の子の事はそういうふうに見られない」って振りましたのに!」
「違うの! プリンセス候補と言ってもティアラの一目ぼれで! お城にはお世話になってるけど、ティアラとはまだただの友達だよ!」
 そう、ティアラより前に女の子に告白されたのはこのカローラで...
「それにしたってライカンのカチューシャをプリンセス候補になんておかしいじゃないですか、もしかして何も話してないのですか?」
「あーいやー...ライカンなのは知られたんだけど...なんかめっちゃレアな女のライカンって思われてて...」
「えぇ...なんですかそれ...」
 そしてカローラはお母さん以外で唯一私の性別を知っている人でもある。
「でも私は男と知ってからライカンだと知りましたけど。先に知ったのがライカンなら、同じ誤解をしたかもしれませんね」
「カローラまで...」
「私はカチューシャがライカンだとか、男も女も関係なく愛していますもの、性別なんて些細なことです」
「そう言われても...」
 ちゃんとあの時振ったはずなのに、やっぱり諦めてくれてないんだなぁ...。もしティアラと結ばれたとしても子供を作らなければいいだけだけど。聖女と結ばれたからには子供を作らないといけないから、ライカンの私と結ばれていいはずがないんだけど...。
「それで、カチューシャはどうなんですか?」
「え、私?」
「プリンセス候補でいるって事は、ティアラ様のことを少なからず気になっているのですか?」
「それは...まぁ...多分...少し...」
 この気持ちがまだどういったものかはよくわかっていないのだけど...。
「なるほど、この国に来てカチューシャも女の子を好きになりつつあるということは、私にもまだチャンスがあるということですね!」
「え、ちょっカローラ?!」
 なにやら結論が出たらしいカローラは両手を合わせて喜ぶと路地から抜けていこうとする。
「ご心配なさらず、カチューシャの秘密をティアラ様たちにバラしたりしませんよ」
「いやそれもだけどそういう事じゃなくて!」
 私が止めるのも虚しくカローラはズンズンと、進んでいってしまう。


 なにやら路地で込み入った話をしていたらしい二人だったけど、聖女様が上機嫌になって帰ってきた。
「ティアラ様、滞在中は私も王宮のお世話になりますね」
「えっ?」
 いやまぁ聖女様ほどの人なら当然だし、聖女は建国関係者だから王宮に住むのはおかしくもないのだけど。
「カローラ! そんな勝手に!」
「大丈夫ですよ、この国は平和ですし、なによりライカンのカチューシャの側の方が安全でしょう? 従者の皆さんもカチューシャの事は信頼されていますし」
 聖女様...カチューシャがライカンなのも知ってるのか...仲がいいからもしかしたらとは思ったけど...。
「そういうわけで...」
 っと、私が怪訝な顔をしていると聖女様はまたカチューシャに抱きついて。
「ティアラ様、カチューシャは渡しませんからね!」
「カローラ!」
「はぁ?!」
「おぉっとまさかの人からの宣戦布告!?」
 ちょ、なんで聖女様がカチューシャを?!
「ちょちょちょ! 聖女様が同性を恋人にするのはマズイんじゃないですか!?」
「聖女なんてどの道政略結婚させられますので、愛人は別にいたって構いませんもの。母様も愛人三人いますし、私も二号さんとの子なんですよ?」
「聖女様から飛び出す爆弾発言!」
「あ、勿論カチューシャが本命ですからね! 子供は必要になったら適当な人と作ればいいんです」
「やけに自信満々にアプローチして来ると思ったらそういう事?!」
 この聖女、達観してるのか吹っ切れてるのか...こんな子だったとは...って呆けてる場合じゃないわ。
「いくら聖女様でもカチューシャはあげませんよ!?」
「そうそう、ティアラはカチューシャの友人ですよね? 友人の友人は友人です。私の事は呼び捨てで構いませんよ、私もそうしますので」
「めっちゃ余裕ぶっこくじゃないですかこの聖女」
「ぐぬぬぬ...いいから離れなさいよー!」
「イヤですー!」
「ちょっ、極まる! 極まってる!?」
 二人してカチューシャに抱き着いて奪い合うのだった。


「クラン女王、ヴェール王妃、暫くお世話になります」
「聖女は我が国の家族も同然、自分の家だと思って寛ぐといい」
 二人の奪い合いから解放されて王城にカローラを案内したところ、本当にお城に居付くつもりらしい。
「聞けば、魔王の復活を目論む魔女が暗躍しているとか。魔王の事となれば聖女として放置できません。若輩者ゆえ未熟な身ですが、魔族ともなれば私の浄化の力がお役に立てると思います」
「あぁ、それは頼もしい限りだ」
 そしてしっかり外堀も埋めている。これじゃティアラがイヤだと言っても無理だろうなぁ...。
「ぐぬぬぬ...」
「これはなかなかの強敵かもしれませんね」
 それを分かっているのかティアラは文句も言わずカローラの挨拶を見てるだけだった。


「カチューシャの隣の部屋にして下さいませ!」
「カチューシャの部屋から一番遠い部屋にして!」
「もう三人一緒に寝ればいいんじゃないですかね」
「良くないよ?!」
「おいコラボンネット面倒くさがってぶん投げるな!」
 王族への挨拶も終わりカローラの部屋をどこにするかの相談で早くも揉めていた。ティアラは早くも聖女のカローラに遠慮ないし。
「カチューシャ様、実はジゴロなんですか?」
「激しく誤解なんだけど!」
「歴代の聖女にバイセクシャルがいなかったわけでもありませんが...、聖女まで落とすなんて流石カチューシャ様ですね」
「それ皮肉だよね!?」
 ていうか過去にもいたのねこういう(?)聖女!
「まぁ、ボンネット様はお祖母様たちをご存知なのですね」
「エルフだけに長生きですから、概ねは。それとメイドですので様付けは結構です」
「後でお祖母様たちの事をお聞かせくださいませ」
「何分300年分の聖女様となると記憶が混濁していますので承服致しかねます」
 一族ともなると顔とかも似てるだろうし、みんな聖女らしく振る舞ってるとすると記憶の中で区別もつかなくなるよね。
「ていうか聖女様、キャラ違いませんか?」
 丁寧ではあるものの雰囲気はすっかり年頃の女の子というか、私の前ではカローラは素の姿になる。
「あら、聖女が恋に積極的ではいけませんか?」
「いえ、むしろバッチオッケーです!」
「アンタはどっちの味方なのよ!」
 王女らしくないティアラにメイドらしくないプリムとボンネットの前じゃ今更か...。
「はっ?! もしや!?」
「ん?」
 っと、瞬間プリムの気配が消えたかと思うと...カローラの背後から臭いがする、私の後ろならすぐに対処できたのだけど他の人の後ろだとそういうわけにもいかず...。
「きゃあっ?!」
「いよっしゃー! 見た目清楚な聖女なのに下着はガーター吊りレースのセクシーランジェリーキター!」
 カローラのスカートをめくってガッツポーズしていた...。そう言えば私も初対面でアレやられてガッカリされてたなぁ...。
「私が言うのもなんだけど聖女によくセクハラできるわねアンタ...」
「友達の友達は友達じゃないでスか! 私と姫様は友達なので聖女様とも友達です! つまり友人同士のスキンシップですよ!」
 友達相手にセクハラはどうなのかなぁ。
「カチューシャぁ、下着を見られましたぁ...」
「あー...ごめんね気付いたけど間に合わなくて...」
 そして当の本人はセクハラ慣れしてないせいか珍しくグズり出した、私が側いながらちょっと申し訳ないかも。
「カチューシャも見て下さい!」
「いや、見ないよ!?」
 と思いきや自分のスカートをたくし上げようとするカローラの腕を押さえる。
「じゃあカチューシャのを見せて下さい!」
「なんで!?」
 心配するだけ損した...。
「聖女様とは仲良くなれそうな気がします...!」
「これ以上面倒なの増やさないで欲しいのだけど...」
「お騒ぎになってる間に聖女様のお部屋整いましたよ」
 そしていつまにかいなくなっていたボンネットが準備を終えて近くの部屋から出てきた。
 仕事が早いというか、空き部屋はどの部屋もいつでも使えるように日々整備されてるから(そしてメイドのカップルが時々使ってるから...)そんなに準備することもないのだろうけど。
「「私たちの要求は!?」」
「面倒くさいので聞かなかった事にしました」
 この人が一番掴みようがないかも...。


 一騒動付いてから夕食後の事。ふと私は思い出す。
「ていうかカチューシャ、友達いないって言ってなかった?」
「そう言えば初日にそんな風に言ってましたね」
「あーそんな事言ったような言わなかったような...」
 私がカチューシャの初めての同世代の友達だと思ってたのに、あとから出てきたカローラがめっちゃ友達ヅラしてんじゃん。
「聞き捨てなりませんね、カチューシャは私の事を友達だと思ってくれてなかったのですか?」
「そんな事ないけどカローラは聖女の使命があるからもう会わないだろうなって...」
「酷いですカチューシャ...お別れの時どんなに離れても友達だって言ってくれたのに...」
 カローラが悲しげにハンカチを噛んでるけど、なーんか嘘くさいわねこの聖女...。
「いや別れ際にカローラが絶対に諦めないって宣言してただけだよね?!」
 それ見たことか。
「ていうか何? アンタ既に玉砕してんの?」
「たしかに既に一度振られてますが、カチューシャの最初の友達はこの私!(ドヤァ) このアドバンテージは揺るぎませんよ! 」
「はぁ!? 別に悔しくないし! 私はカチューシャの最初で最後の恋人になるもんね! 玉砕済みなら諦めなさいよ!」
 しかしまさか初恋の相手がライバルになるんて、こういう子だって知ってたらあの時諦めないで口説いてみるんだったかなぁ。
「ていうか姫様もプロポーズ断られてるから振られてますよね」
「保留にされただけだから振られてないわよ!」
 カチューシャが「保留にしたのはティアラの方で私はちゃんと断ったよ...?」と言いたげな顔をしているけど保留を断らなかったのだから同じ事よね?! そう! 言ったもん勝ち!
「カチューシャだってこうしてお城に残ってくれてるし!」
「お肉大好きなカチューシャの事ですから、お肉目当てに残っただけじゃないですかね」
「アハハ...」
「カチューシャもそこは否定してよ!」
 カチューシャったら今日もステーキを四枚平らげてた。初日以降は少し遠慮してたけどライカンなのがバレてからは遠慮が減ったような...幸せそうに食べるカチューシャ見てるの好きだから良いけどさ。
 ちなみにカローラはイメージ通り菜食派で少食だった、そういうとこは聖女様らしいのね。
「ところでカローラとの再会にビックリして忘れてたんだけど」
 うん? なんか忘れてるようなことあったっけ?
「今朝のティアラのドレス姿、凄く綺麗だったね」
「あぁぉぁぁ!」
 やっば忘れてた! そう言えば思いっ切り見られてたんだった!
「いやあれは公務で仕方なく...てかドレスなんて着たくないんだけど!」
 帰ってきて速攻着替えたけどカローラのインパクトが強すぎて忘れてたわ!
「そうなの? 本当にお姫様みたいで綺麗だったのに」
「うーん、まぁ、カチューシャに褒められるなら悪い気はしないけど...」
「お姫様みたいじゃなくてお姫様なんですけどねこの人」
 うっさいプリム水刺すな、王女らしくないのは私が一番わかってるわよ。
「むう...カチューシャ私には何も言ってくれませんのね」
 そして今度はカローラが膨れている、本性(?)知る前ならこういう顔も珍しくて喜んだんだんだけどなぁ。
「えー...、だってカローラはいつも同じ服だし...」
 カチューシャのヒーラードレスを一回り豪華にしたような聖女服は可愛いと思うけど、同じ格好じゃねぇ。
「それにしたって久しぶりなんですから、綺麗になったね、とか言ってくれても良いじゃないですか」
「あれから1年くらいじゃ変わらないでしょ...」
 女子三日会わざるは刮目して見よとは言わなかったりするけども。まぁ気持ちはわかる。
「私ばっかり再会喜んで、なんだか哀しいです...」
「わぁぁあ! ごめんって! 私もカローラとまた会えたのは嬉しいから!」
「カチューシャ様ってそういう所ありますよねー」
「そうそう、こっちが必死に好意向けてもまるで気にせず受け流すよねー」
「わかりますー! 本当にカチューシャったら純朴な顔をして乙女心恋心を弄ぶんですのよね!」
「わかるわー!」
「「ねー!」」
「あれぇ!? 私のネガキャンで意気投合してるぅ!?」
 カローラとはライバルだけど、ライバルだからこそ共感できるものがあって仲良くやれそうな気がした。
 それにしても不死身の魔女が復活したっていうのに、私ら緊張感無さすぎなような? まぁ聖女もいるしより安心していいのかな?


―一方、不死身の魔女マジェステは...
「くぅー! ライカン共め、魔王様の敵に与してワタクシに恥をかかせるなんて、許せませんわ...!」
「んでこれ以上恥をかかねぇように500年分の歴史を勉強ですかい」
「しょうがないでしょ! 魔法体系だってすっかり代わり映えしてワタクシの術式じゃ古すぎて馬鹿にされるんですもの!」
 本の山の中で愚痴る魔女をかしこいゴブリンが煽っていた。
 先日の召喚陣のトラップも古い術式故に呼び出した魔族の知能が著しく低下して獣も同然だったが、最新のものならそんな事はないのである。
「アンタたちはさっさと数増やしなさいよ! まったくゴブリンだっていうのにどうしてこんなに数が少ないのかしら...」
「そりゃ姐さん、数が増えると食い扶持も増えるし目立つんでそうならないように気を付けてたんですさぁ」
 実際、ゴブリンたちの存在はウィッグに知られていたのだが、都市や街道から離れて平和に暮らしている無害な彼らまで討伐することはないと、お目溢しされていたのだ。
「そういう訳なんで、山羊を買ってきてくれたところで先に食い扶持確保してもらわないと増やすに増やせませんぜ」
「この期に及んでまだワタクシからタカろうっていうんですの?!」
 この時代の貨幣こそなかったが、幸いなことに身に付けていた装飾が結構な値で売れたので歴史書と魔術書とゴブリンたちのための山羊を2頭買ったのだが、まだ足りないという。
「姐さんも魔女なら律儀に買わないで襲えばいいんじゃねぇですか?」
「準備が整う前に騒ぎを起こしたら嗅ぎ付けられるでしょう!」
「でももう売るものなんてその服くらいしかないんじゃないですかい?」
「ま...まだ...ありますわよ...」
 翌日、魔女はノーパンになるのだった。

 平和な国ユリゾンリリィにかつて無い脅威が迫る━のは、まだ時間がかかりそうである。
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ともあれ処女厨滅びるべし
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「お姉様! 好きです! 愛してます!」
 王城の回廊でボンネットは新人のメイドに呼び止められかと思いきや続けざまにそう告げられた。
「そう...」
 ボンネットは少女の言葉に衝撃を受けることもなく、いつものように素っ気無く返す。
「気持ちは嬉しいわ...でも、ごめんなさい」
 入ったばかりで右往左往する彼女が初々しく愛らしく、つい味見してしまったのは何時のことだったか、ボンネットにとっては彼女はその程度の存在だった。
「ワタクシは貴方に恋愛感情はないし、今後も持つことはないでしょう。ワタクシの事は一夜の夢だと思って忘れなさい」
 ボンネットが手を出した新人メイドに思いを告げられるのは別にこれが始めてではない。
 別に彼女も新人メイドにこだわりがあるわけではない、大抵のメイドは1年もすれば相手か恋愛対象ができてしまうので、フリーの子を相手にすると自然新人になってしまうだけだ。
「お姉様が恋人を作らないことは聞いてます。それはやっぱり、私がエルフじゃないから釣り合わないってことなんですか!?」
 そしてボンネットが恋人を作らないことは有名であった。ボンネット自信そう宣言してる訳では無いが彼女に振られたメイドたちによって長年語り続けられているのは、それだけこういう事態が多いわけでもある。
「どうしてエルフ族が人間との関わりを避けて里に籠もってるか知っていますか?」
「それは...多くのエルフ族は人間が嫌いだから...」
 多くのエルフ族は自分たちの国...国といっても300人ほどの人口だが、深緑の里に籠もっており人間と関わりを持とうとしない。故にその理由は知られる訳もなく、多くは人間嫌いと思われている。
「その逆です、エルフ族は人間たちが大好きなんです。ワタクシたちからすれば短い一生を精一杯生きるアナタたちはあまりに眩しく、愛おしい...」
「じゃあどうして...」
「だからこそ、愛しいアナタたちの、愛した人の心変わりが怖ろしく、哀しいのです」
「そんな、私はお姉様から心変わりなんて...!」
 涙目になる少女の口元を指で制すると、ボンネットは頭を横に振る。
「エルフと人間ではあまりに寿命が違い過ぎる。老いるアナタたちと変わらないワタクシたち...、その心が羨望や妬みに変わることを責めることはできません」
 故にエルフたちは里に籠もることにしたとボンネットは言う。そして少女もまた、自分が老いても変わらぬボンネットの姿に同じ感情を持ち続けられる自信や覚悟を持てなかった。
「ごめんなさい、お姉様...、私...私...」
「アナタはアナタと共に老いてくれるパートナーをお探しなさい」
 そんな事も考えずに気持ちを打ち明けたことを少女は涙しながらに謝罪する。覚悟もなかった事を涙する。
「それはそれとしてアナタの泣き顔にムラムラしたので抱かせてくれません?」
「台無しですお姉様」
 エルフ族だからなのかボンネットだからなのか、少女は彼女の事を理解できる日は来ないような気がするのだった。


百合の国のプリンセス♂#7 ライバルは聖女様
挿絵AIで作った挿絵


「今夜でアナタの謹慎を解きます」
「いー、ヤッター!」
 夕食後に母様に呼び出されたと思ったら、ようやくの謹慎終了だった。
 事件から1週間、あれから何事もなく城で大人しくしてたこともあってヅラの調査も進んだらしい。
「事件の首謀者とは思われる不死身の魔女マジェステを名乗る者がライカンの里に現れた」
 そして王母様が調査の内容を話してくれる。
「ライカンの里に魔王復活の協力を求めてきたようだがライカンたちはこれを拒否。魔女は諦めて行方をくらませた」
「不死身の魔女マジェステってのが魔王復活を目論んでるってこと?」
「初代国王...勇者の記録に同じ名前の魔女が存在します、記録では不死身故に殺す事が出来ないので何処かの地に封印したと書いてありましたが...」
 そう言えば歴史の勉強で魔王の配下にそんな名前の魔女がいたような?
「騎士団長の調査によると封印されてたのは先の戦争の地、ハザマ渓谷。戦争の影響によって土地のマナが乱れて封印が綻んだようだ」
「あちゃー、カチューシャの宵闇の悪魔復活の嘘が本当になっちゃったのかー」
 まさか本当にそんな奴が封印されてて戦争のせいで復活してるなんて、嘘から出たまことね。
「とは言え、敵の正体もわかり魔族となれば対策は容易とのこと。アナタもカチューシャさんの側であれば安全でしょう」
 そして謹慎中にカチューシャの強さを見せてた事もあって(木人相手だけど)、護衛の心配もないことを分かってもらえた。
「ところでそのカチューシャはどちらに?」
「ベルメットさんが帰ってきてるから連絡と報告だって」
 秘宝のトレージャーハントに行ってたボンネットさんがようやく帰ってきたらしく、報告を受けたカチューシャは夕食後に飛び出して行った。報告を聞く限りでは残念なことに目当てのものは見つからなかったようだけど。
「そうか、ではお前からカチューシャに情報を共有してやってくれ」
「はーい」
 それじゃこれ以上母様にお小言を言われたりしないうちに退散...と行きたかったのだけど...。
「それと明日の朝、聖女様が到着されます、アナタも“王女"として準備するように」
「うえぇ!?」
 謹慎解けたと思ったらそういう事ー!?
 聖女の従者には男も多く、王城に入れないので私が王女として城の外で出迎える、そういう事だったらしい。


 冒険者ギルドに駐められた馬車の中、私は帰ってきたお母さんにここ数日の事を説明する。
「なるほど、ライカンなのはバレたが女のライカンだと思われていると...」
「これっぽっちも男だと思われて無いみたい...」
 いっその事バレてくれれば良かったのにと思う反面、安心している自分もいる。
「まさかライカンと友好的な国があったとはアタシも驚きだ、お前が受け入れられて母としては長年の胸のつかえが取れた思いだよ」
 お母さんは私を女として育てたりヒーラーとして前線に立たないようしたり、ライカンだとバレないようとても気を使ってたものね。
「今までありがとね、もう大丈夫だよ」
 そして私もライカンである事が受け入れられる国を見つけて、とても安心している。
「ところで、お母さんの方はどうなの? 聞いた感じ秘宝は見つからなかったみたいだけど」
「それがなー、鏡の秘宝自体は見つかったんだが...」
 と言って馬車の隅にある宝箱を指さすので開けてみると、中には銀色の大きな器のようなものが入っていた。
「聞いたところによると『アルシアの水鏡』。水を張って血を垂らすとその人物の死の情景が映されるっつー、まぁハズレだね」
「そっかー残念だね...」
 私も少しお母さんの探してる秘宝に期待してたんだけど、そう都合よくはいかないらしい。
「って、まさか試してないよね?」
「ダイジョーブダイジョーブ! アタシは孫に囲まれて天寿をまっとうしてたよ!」
「ちょ、試してるじゃん!」
 危険な秘宝だったらどうするの! そうでなくても死の情景を映すなんて碌でもないのに!
「そういう訳で、アタシはメンバー集め直してまた別のところあたるから、そいつはお前から王族に献上しといてくれ」
「誤魔化さないでよ!」
 なんでも遺跡探索の許可をもらった代わりに目当てのでない秘宝は国に献上するという約束だったらしい。
 結局その日はお母さんに秘宝を押し付けられてお別れした。お母さんも久しぶりにゆっくりしたいだろうし、夜も更けてきたしね。
「死の情景を映すかぁ...」
 腕の中の秘宝を見つめながらその効力をつぶやく。今は水を張っていないので水鏡としての機能はしてないが、使おうと思えば難しい事ではない。
「私には怖くてムリだなぁ...」
 お母さんの事だから目当ての秘宝の可能性も考えて試したのだろうけど...。
「って孫?」
 待って、孫って私の子供ってことだよね?! 私子供作るの?! 誰と?!
 と言うことはティアラとは結婚しないのかな...ライカンは男しか生まれないからティアラとの子供なんて確実に魔王復活しちゃうし...。
 イヤでも養子って可能性もあるよね...ティアラと結ばれたら尚更...。
「うーん...うーん...」
 お母さんの一言で変に悩んで、その日はあまり眠れなかったのだった。


「ほら姫様、いい加減着替えますよ」
 翌朝、私はプリムに渡されたドレスとずっとにらめっこしていた。流石に一人では着られないので、今日は珍しくプリムと他のメイドも待機している。
「はぁ...別にいつもの騎士服でよくない?」
「駄目ですよ、公務なんですから。姫様ホントドレス嫌いですねぇ」
 イヤだってさぁ...。
「ドレスなんて重いし動きにくいし苦しいし、コルセットマジ滅びろって思うもの」
 装飾の少ないシンプルめのドレスもあるけどさぁ、そういうのだと尚更スタイル強調するからコルセットキツめになるのよねぇ。
「概ね同意ですが王女の責務なんですからガマンしてください」
 そうよねぇ、他所の国と違って夜会とかやらなくていいんだから今日くらいは我慢しなきゃよねぇ。でもなぁ...。
「それに、ドレス姿の姫様も素敵じゃないですか、カチューシャ様に見せたくないんですか?」
「カチューシャには逆に見せたくないのよ! あの子の前ではカッコいい女の子でいたいの!」
 清楚なヒーラーと思ったら実は滅茶苦茶強くて、私なんか足元には及ばないなんて。せめて格好くらいは愛らしいプリンセスを守る姫騎士でいたいじゃん。
「そういう事でしたらカチューシャ様は朝から冒険者ギルドでベルメット様といますから、心配無いですよ」
「あぁ、そうなの」
 だったらさっさと公務済ませて着替えたほうがマシか、どうせ着なきゃいけないんだし。私は覚悟を決めて立ち上がりメイドたちに着付けを任せた。


―聖女
 かつて魔王討伐の一員だった女神の加護を受けた女性。女神由来の強大な力によって大いなる癒やしと浄化で勇者たちの助けとなった。
 魔王討伐後は旅の仲間の聖騎士と共に各地を行脚してその力で人々を助けて周り、二人の子孫もまた同じように継承した女神の力で人々を助け歩いている。
 そして建国と関わり深い聖女なので、助ける相手もいないだろうこの国にも度々訪れるのだ。挿絵AIで作った挿絵
「お久しぶりですティアラ様、あなた様の10歳の誕生日以来ですわね」
 教会の中央で恭しく挨拶する、金髪ロングヘアに純白の法衣のド美女こそが聖女カローラ様。私と大体同い年で、始めて会った時はまだ聖女ではなかったのだけど、すっかり聖女らしくなっていた。
「カローラ様も立派な聖女になられまして、セントラル防衛戦では戦場の女神と呼ばれるご活躍をされたそうで、この国まで名声が届いておりましたよ」
 相対するドレスの私。自分も王女らしくそこそこの美貌ではあると思うのだけど、流石はというかなんというか、この聖女オーラには霞んでしまう気がする。
 ぶっちゃけ初恋なのよねこの子、将来聖女になるって知って早々に失恋したけど、やっぱりめっちゃ好みの美人になったなぁ...。まぁ今はカチューシャの方が好きだし美人...てか可愛いと思うけど。
「いえいえ、先の戦争ではユリゾンリリィの支援物資にはとても助けられました」
「人的支援を行えないので精一杯の支援でしたが、カローラ様のお力になれたなら喜ばしいことです」
 この大陸に攻めてきたドーガン王国に対して大陸一丸となった連合部隊で迎え撃つ事になったセントラル防衛戦。軍隊を持たないこの国なので物的支援と移民や戦災孤児の受け入れという形での支援となったけど、貢献度は低いと思われる。(かと言って防衛の要のウィッグを出す訳にもいかないし)
「ところで急な来訪でしたが、この平和な国に聖女様がどういったご要件で?」
 政治的な話だと私じゃ手に負えないので王母様かボンネットにバトンを渡したいところ、でも私が駆り出されたところを見るにたいした用事でもないでしょ。
「先の戦争に加えて終戦後の戦地行脚と少々力を使いすぎてしまいまして、私と従者の慰安のためこちらの国に暫く滞在のつもりで参りました」
「それはそれは良い事です。この国は聖女様のもう一つの故郷でもあります、どうぞ心ゆくまで英気を養って下さいませ。王城は男子禁制なため従者の方々には解放できませんが、自慢の宿を手配致しましょう」
 適当なメイドを呼んでボンネットに伝えるよう頼む、あとは勝手にボンネットがやってくれるでしょ。
「それではワタクシはコレにておいとまさせていただきます。どうぞごゆるりと」
 ヨシ! 挨拶終わったし聖女様一行の来訪の目的も聞いた! 私の仕事終わり! と、帰ろうとすると...
「あ、お待ち下さいティアラ様」
 何故か呼び止められる。
「はい、まだ何か?」
「冒険者ギルドまで案内頂けませんか?」
「はい?」
 聖女様が何故に冒険者ギルド?


 翌朝、お母さんを見送った私は冒険者ギルドに戻ろうとしていた。
「お母さんホント人の話を聞かないんだから...」
 孫の事について聞こうと思ったのだけど結局聞けなかった...。まぁ未来の事なんて知らない方がいいか...。
「今日はどうしよ」
 いつもの癖で冒険者ギルドへ向かってるけど、ティアラの護衛があるから一人で仕事を受けるわけにもいかないし...。今日は珍しく王女の公務があるらしいけどどれくらいで終わるのかな、お城にいたら部外者の私は邪魔になるだろうし冒険者ギルドで待つほうがいいかな。
 っと考えていると冒険者ギルドの付近でティアラとプリムの臭いを感じる。
「あれ...」
 そしてもう一つ...この臭いは...。
「なんで聖女様が冒険者ギルドなんかに?」
「私冒険者の皆さんに憧れているんです、何かお力になれたらと思いまして」
「私も冒険者の真似事をしてる手前どうこう言えませんが、この国の冒険者ギルドは平和過ぎてカローラ様の癒しが必要な人いませんよ?」
「カローラ?」
 ティアラとプリムと、そしてカローラがいた。
「「え、カチューシャ!?」」
 私が声を掛けると驚いて、私を確認したかと思うと...
「カチューシャ! こんなところで会えるなんて! まるで運命だわ!」
「ちょっとカローラ!?」挿絵AIで作った挿絵
 人目も気にせず思いっ切り抱き着いてくるし!
「あれ...二人...知り合い?」
「カチューシャ様も先の戦争に参加されてましたからね」
「こんなに早く再会できるなんて嬉しいわ!」
「カローラ! みんな見てるから!」
 とにかく興奮するカローラを引き剥がしてみるけど、腕はがっしり私の腰を捉えたまま、逃げないってば...。
「カチューシャ様と聖女様、随分仲がよろしいようで」
「えぇ、カチューシャは私が最も尊敬するヒーラーで、友人ですわ」
「聖女様が尊敬する!?」
「待って! 待って! 私そんな大層なものじゃないから!」
「ご謙遜を、"戦場の女神“の称号も本来はカチューシャのものじゃありませんか」
「たしかにそんな呼ばれ方はしてたけども!」
 あとから来たカローラにその称号がスゲ変わったのはカローラの癒しの力の方が強いからだし!
「私の力は継承しただけの借り物の力、努力して身に付けたカチューシャの力に比べられるものではありませんわ」
「イヤでもカローラの聖女としての心構えはホンモノだし...」
 ていうかそろそろそ離して欲しいんだけど...ティアラの前でそんなベタベタされると...。
「あのーカローラ様? そちらカチューシャは“私"のプリンセス候補なので、そろそろそ離して頂けるとー」
 あーやっぱり...。
「え、カチューシャがユリゾンリリィのプリンセス候補?」
 カローラは私とティアラを二度見すると...てまずい!
「でもカチューシャって...」
「ちょっと失礼します!」
 カローラが余計なことを言う前に抱き上げて路地までダッシュした。


「ちょっとカチューシャ、プリンセス候補ってどういうことですか?」
 人気の無い路地までカローラを運んですぐ、カローラから予想通りの抗議をされる。
「酷くないですか? 私の告白は「女の子の事はそういうふうに見られない」って振りましたのに!」
「違うの! プリンセス候補と言ってもティアラの一目ぼれで! お城にはお世話になってるけど、ティアラとはまだただの友達だよ!」
 そう、ティアラより前に女の子に告白されたのはこのカローラで...
「それにしたってライカンのカチューシャをプリンセス候補になんておかしいじゃないですか、もしかして何も話してないのですか?」
「あーいやー...ライカンなのは知られたんだけど...なんかめっちゃレアな女のライカンって思われてて...」
「えぇ...なんですかそれ...」
 そしてカローラはお母さん以外で唯一私の性別を知っている人でもある。
「でも私は男と知ってからライカンだと知りましたけど。先に知ったのがライカンなら、同じ誤解をしたかもしれませんね」
「カローラまで...」
「私はカチューシャがライカンだとか、男も女も関係なく愛していますもの、性別なんて些細なことです」
「そう言われても...」
 ちゃんとあの時振ったはずなのに、やっぱり諦めてくれてないんだなぁ...。もしティアラと結ばれたとしても子供を作らなければいいだけだけど。聖女と結ばれたからには子供を作らないといけないから、ライカンの私と結ばれていいはずがないんだけど...。
「それで、カチューシャはどうなんですか?」
「え、私?」
「プリンセス候補でいるって事は、ティアラ様のことを少なからず気になっているのですか?」
「それは...まぁ...多分...少し...」
 この気持ちがまだどういったものかはよくわかっていないのだけど...。
「なるほど、この国に来てカチューシャも女の子を好きになりつつあるということは、私にもまだチャンスがあるということですね!」
「え、ちょっカローラ?!」
 なにやら結論が出たらしいカローラは両手を合わせて喜ぶと路地から抜けていこうとする。
「ご心配なさらず、カチューシャの秘密をティアラ様たちにバラしたりしませんよ」
「いやそれもだけどそういう事じゃなくて!」
 私が止めるのも虚しくカローラはズンズンと、進んでいってしまう。


 なにやら路地で込み入った話をしていたらしい二人だったけど、聖女様が上機嫌になって帰ってきた。
「ティアラ様、滞在中は私も王宮のお世話になりますね」
「えっ?」
 いやまぁ聖女様ほどの人なら当然だし、聖女は建国関係者だから王宮に住むのはおかしくもないのだけど。
「カローラ! そんな勝手に!」
「大丈夫ですよ、この国は平和ですし、なによりライカンのカチューシャの側の方が安全でしょう? 従者の皆さんもカチューシャの事は信頼されていますし」
 聖女様...カチューシャがライカンなのも知ってるのか...仲がいいからもしかしたらとは思ったけど...。
「そういうわけで...」
 っと、私が怪訝な顔をしていると聖女様はまたカチューシャに抱きついて。
「ティアラ様、カチューシャは渡しませんからね!」
「カローラ!」
「はぁ?!」
「おぉっとまさかの人からの宣戦布告!?」
 ちょ、なんで聖女様がカチューシャを?!
「ちょちょちょ! 聖女様が同性を恋人にするのはマズイんじゃないですか!?」
「聖女なんてどの道政略結婚させられますので、愛人は別にいたって構いませんもの。母様も愛人三人いますし、私も二号さんとの子なんですよ?」
「聖女様から飛び出す爆弾発言!」
「あ、勿論カチューシャが本命ですからね! 子供は必要になったら適当な人と作ればいいんです」
「やけに自信満々にアプローチして来ると思ったらそういう事?!」
 この聖女、達観してるのか吹っ切れてるのか...こんな子だったとは...って呆けてる場合じゃないわ。
「いくら聖女様でもカチューシャはあげませんよ!?」
「そうそう、ティアラはカチューシャの友人ですよね? 友人の友人は友人です。私の事は呼び捨てで構いませんよ、私もそうしますので」
「めっちゃ余裕ぶっこくじゃないですかこの聖女」
「ぐぬぬぬ...いいから離れなさいよー!」
「イヤですー!」
「ちょっ、極まる! 極まってる!?」
 二人してカチューシャに抱き着いて奪い合うのだった。


「クラン女王、ヴェール王妃、暫くお世話になります」
「聖女は我が国の家族も同然、自分の家だと思って寛ぐといい」
 二人の奪い合いから解放されて王城にカローラを案内したところ、本当にお城に居付くつもりらしい。
「聞けば、魔王の復活を目論む魔女が暗躍しているとか。魔王の事となれば聖女として放置できません。若輩者ゆえ未熟な身ですが、魔族ともなれば私の浄化の力がお役に立てると思います」
「あぁ、それは頼もしい限りだ」
 そしてしっかり外堀も埋めている。これじゃティアラがイヤだと言っても無理だろうなぁ...。
「ぐぬぬぬ...」
「これはなかなかの強敵かもしれませんね」
 それを分かっているのかティアラは文句も言わずカローラの挨拶を見てるだけだった。


「カチューシャの隣の部屋にして下さいませ!」
「カチューシャの部屋から一番遠い部屋にして!」
「もう三人一緒に寝ればいいんじゃないですかね」
「良くないよ?!」
「おいコラボンネット面倒くさがってぶん投げるな!」
 王族への挨拶も終わりカローラの部屋をどこにするかの相談で早くも揉めていた。ティアラは早くも聖女のカローラに遠慮ないし。
「カチューシャ様、実はジゴロなんですか?」
「激しく誤解なんだけど!」
「歴代の聖女にバイセクシャルがいなかったわけでもありませんが...、聖女まで落とすなんて流石カチューシャ様ですね」
「それ皮肉だよね!?」
 ていうか過去にもいたのねこういう(?)聖女!
「まぁ、ボンネット様はお祖母様たちをご存知なのですね」
「エルフだけに長生きですから、概ねは。それとメイドですので様付けは結構です」
「後でお祖母様たちの事をお聞かせくださいませ」
「何分300年分の聖女様となると記憶が混濁していますので承服致しかねます」
 一族ともなると顔とかも似てるだろうし、みんな聖女らしく振る舞ってるとすると記憶の中で区別もつかなくなるよね。
「ていうか聖女様、キャラ違いませんか?」
 丁寧ではあるものの雰囲気はすっかり年頃の女の子というか、私の前ではカローラは素の姿になる。
「あら、聖女が恋に積極的ではいけませんか?」
「いえ、むしろバッチオッケーです!」
「アンタはどっちの味方なのよ!」
 王女らしくないティアラにメイドらしくないプリムとボンネットの前じゃ今更か...。
「はっ?! もしや!?」
「ん?」
 っと、瞬間プリムの気配が消えたかと思うと...カローラの背後から臭いがする、私の後ろならすぐに対処できたのだけど他の人の後ろだとそういうわけにもいかず...。
「きゃあっ?!」
「いよっしゃー! 見た目清楚な聖女なのに下着はガーター吊りレースのセクシーランジェリーキター!」
 カローラのスカートをめくってガッツポーズしていた...。そう言えば私も初対面でアレやられてガッカリされてたなぁ...。
「私が言うのもなんだけど聖女によくセクハラできるわねアンタ...」
「友達の友達は友達じゃないでスか! 私と姫様は友達なので聖女様とも友達です! つまり友人同士のスキンシップですよ!」
 友達相手にセクハラはどうなのかなぁ。
「カチューシャぁ、下着を見られましたぁ...」
「あー...ごめんね気付いたけど間に合わなくて...」
 そして当の本人はセクハラ慣れしてないせいか珍しくグズり出した、私が側いながらちょっと申し訳ないかも。
「カチューシャも見て下さい!」
「いや、見ないよ!?」
 と思いきや自分のスカートをたくし上げようとするカローラの腕を押さえる。
「じゃあカチューシャのを見せて下さい!」
「なんで!?」
 心配するだけ損した...。
「聖女様とは仲良くなれそうな気がします...!」
「これ以上面倒なの増やさないで欲しいのだけど...」
「お騒ぎになってる間に聖女様のお部屋整いましたよ」
 そしていつまにかいなくなっていたボンネットが準備を終えて近くの部屋から出てきた。
 仕事が早いというか、空き部屋はどの部屋もいつでも使えるように日々整備されてるから(そしてメイドのカップルが時々使ってるから...)そんなに準備することもないのだろうけど。
「「私たちの要求は!?」」
「面倒くさいので聞かなかった事にしました」
 この人が一番掴みようがないかも...。


 一騒動付いてから夕食後の事。ふと私は思い出す。
「ていうかカチューシャ、友達いないって言ってなかった?」
「そう言えば初日にそんな風に言ってましたね」
「あーそんな事言ったような言わなかったような...」
 私がカチューシャの初めての同世代の友達だと思ってたのに、あとから出てきたカローラがめっちゃ友達ヅラしてんじゃん。
「聞き捨てなりませんね、カチューシャは私の事を友達だと思ってくれてなかったのですか?」
「そんな事ないけどカローラは聖女の使命があるからもう会わないだろうなって...」
「酷いですカチューシャ...お別れの時どんなに離れても友達だって言ってくれたのに...」
 カローラが悲しげにハンカチを噛んでるけど、なーんか嘘くさいわねこの聖女...。
「いや別れ際にカローラが絶対に諦めないって宣言してただけだよね?!」
 それ見たことか。
「ていうか何? アンタ既に玉砕してんの?」
「たしかに既に一度振られてますが、カチューシャの最初の友達はこの私!(ドヤァ) このアドバンテージは揺るぎませんよ! 」
「はぁ!? 別に悔しくないし! 私はカチューシャの最初で最後の恋人になるもんね! 玉砕済みなら諦めなさいよ!」
 しかしまさか初恋の相手がライバルになるんて、こういう子だって知ってたらあの時諦めないで口説いてみるんだったかなぁ。
「ていうか姫様もプロポーズ断られてるから振られてますよね」
「保留にされただけだから振られてないわよ!」
 カチューシャが「保留にしたのはティアラの方で私はちゃんと断ったよ...?」と言いたげな顔をしているけど保留を断らなかったのだから同じ事よね?! そう! 言ったもん勝ち!
「カチューシャだってこうしてお城に残ってくれてるし!」
「お肉大好きなカチューシャの事ですから、お肉目当てに残っただけじゃないですかね」
「アハハ...」
「カチューシャもそこは否定してよ!」
 カチューシャったら今日もステーキを四枚平らげてた。初日以降は少し遠慮してたけどライカンなのがバレてからは遠慮が減ったような...幸せそうに食べるカチューシャ見てるの好きだから良いけどさ。
 ちなみにカローラはイメージ通り菜食派で少食だった、そういうとこは聖女様らしいのね。
「ところでカローラとの再会にビックリして忘れてたんだけど」
 うん? なんか忘れてるようなことあったっけ?
「今朝のティアラのドレス姿、凄く綺麗だったね」
「あぁぉぁぁ!」
 やっば忘れてた! そう言えば思いっ切り見られてたんだった!
「いやあれは公務で仕方なく...てかドレスなんて着たくないんだけど!」
 帰ってきて速攻着替えたけどカローラのインパクトが強すぎて忘れてたわ!
「そうなの? 本当にお姫様みたいで綺麗だったのに」
「うーん、まぁ、カチューシャに褒められるなら悪い気はしないけど...」
「お姫様みたいじゃなくてお姫様なんですけどねこの人」
 うっさいプリム水刺すな、王女らしくないのは私が一番わかってるわよ。
「むう...カチューシャ私には何も言ってくれませんのね」
 そして今度はカローラが膨れている、本性(?)知る前ならこういう顔も珍しくて喜んだんだんだけどなぁ。
「えー...、だってカローラはいつも同じ服だし...」
 カチューシャのヒーラードレスを一回り豪華にしたような聖女服は可愛いと思うけど、同じ格好じゃねぇ。
「それにしたって久しぶりなんですから、綺麗になったね、とか言ってくれても良いじゃないですか」
「あれから1年くらいじゃ変わらないでしょ...」
 女子三日会わざるは刮目して見よとは言わなかったりするけども。まぁ気持ちはわかる。
「私ばっかり再会喜んで、なんだか哀しいです...」
「わぁぁあ! ごめんって! 私もカローラとまた会えたのは嬉しいから!」
「カチューシャ様ってそういう所ありますよねー」
「そうそう、こっちが必死に好意向けてもまるで気にせず受け流すよねー」
「わかりますー! 本当にカチューシャったら純朴な顔をして乙女心恋心を弄ぶんですのよね!」
「わかるわー!」
「「ねー!」」
「あれぇ!? 私のネガキャンで意気投合してるぅ!?」
 カローラとはライバルだけど、ライバルだからこそ共感できるものがあって仲良くやれそうな気がした。
 それにしても不死身の魔女が復活したっていうのに、私ら緊張感無さすぎなような? まぁ聖女もいるしより安心していいのかな?


―一方、不死身の魔女マジェステは...
「くぅー! ライカン共め、魔王様の敵に与してワタクシに恥をかかせるなんて、許せませんわ...!」
「んでこれ以上恥をかかねぇように500年分の歴史を勉強ですかい」
「しょうがないでしょ! 魔法体系だってすっかり代わり映えしてワタクシの術式じゃ古すぎて馬鹿にされるんですもの!」
 本の山の中で愚痴る魔女をかしこいゴブリンが煽っていた。
 先日の召喚陣のトラップも古い術式故に呼び出した魔族の知能が著しく低下して獣も同然だったが、最新のものならそんな事はないのである。
「アンタたちはさっさと数増やしなさいよ! まったくゴブリンだっていうのにどうしてこんなに数が少ないのかしら...」
「そりゃ姐さん、数が増えると食い扶持も増えるし目立つんでそうならないように気を付けてたんですさぁ」
 実際、ゴブリンたちの存在はウィッグに知られていたのだが、都市や街道から離れて平和に暮らしている無害な彼らまで討伐することはないと、お目溢しされていたのだ。
「そういう訳なんで、山羊を買ってきてくれたところで先に食い扶持確保してもらわないと増やすに増やせませんぜ」
「この期に及んでまだワタクシからタカろうっていうんですの?!」
 この時代の貨幣こそなかったが、幸いなことに身に付けていた装飾が結構な値で売れたので歴史書と魔術書とゴブリンたちのための山羊を2頭買ったのだが、まだ足りないという。
「姐さんも魔女なら律儀に買わないで襲えばいいんじゃねぇですか?」
「準備が整う前に騒ぎを起こしたら嗅ぎ付けられるでしょう!」
「でももう売るものなんてその服くらいしかないんじゃないですかい?」
「ま...まだ...ありますわよ...」
 翌日、魔女はノーパンになるのだった。

 平和な国ユリゾンリリィにかつて無い脅威が迫る━のは、まだ時間がかかりそうである。
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百合の国のプリンセス♂作者:万能ねぎトロ
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