ホーム
作品を書く
作品を探す
ランキング
コミュニティー
コンテスト
ホーム
作品を書く
作品を探す
ランキング
コミュニティー
コンテスト
ホーム
›
百合の国のプリンセス♂
›
人狼(ライカン)
← 前の話
目次
次の話 →
栞
読書設定
?
人狼(ライカン)
「うわぁぁん、カチューシャにフラれたぁ!」
王宮のカチューシャの部屋でティアラはソファーに倒れ込んで呻いていた。
「またプロポーズしたんですか?」
それを部屋の掃除に来たボンネットが心底邪魔そうな顔で尋ねる。
「違う!
ギルドの仕事で遠出して明日まで帰らないっていうから、私も一緒に行きたかったの!
なんならライスシャワーに相乗りしたかったの!」
「お一人になりたい時もあるのでしょう、ティアラ様もずっとべったりは良くないって言われてたではありませんか」
「あー...」
ティアラはいつだったかそんな事を言ってたなーと思い返す。
「あの頃はまだそんな余裕もあったけどさ...。
今はもう好き好き大好きが溢れ出してそんな余裕無いと言うか...」
「一方的に好きになるばかりでは進展しませんよ」
「だから色々アプローチしてるけどさぁ、あの子ったら無意識にカウンター決めてきてこっちの方が好きになるだもん!」
恋のダメージレースにボロ負けなのである。
「たしかにカチューシャ様はご自分の魅力に無自覚なところがございますね」
「無自覚なのもそうなんだけど、なんか自分に"女の子としての“自信がないようにも見えるのよねぇ」
或いは"後ろめたさ“のような何かを、彼女とのコミニケーションで感じていた。
「どこか“自分なんて..."みたいな意識が根底にあるような気がする」
「カチューシャ様が秘密にされてる事に起因するのかもしれませんね」
二月も一緒に過ごしてればカチューシャが何か秘密を抱えていることは察していたし、そうでなくてもライスシャワーお迎えの件などで彼女には謎が多い。
「もっと仲良くなれば話してくれるかなあ」
「抱えている秘密にもよりますが、仲良くなるほど話しにくくなるでしょうね」
「うわー!
ジレンマー!」
結局、カチューシャから話してくれなければ打つ手無しなのだった。
一方カチューシャは―
ユリゾンリリィの王都から馬で半日程離れた、何もない山の中...。
「はぁ...はぁ...やっと収まった...」
朝焼けの空の下、カチューシャは森の中で一人息を咳き切らしていた。
「どんどん力が抑えられなくなってる...」
彼女の周囲は木々か倒壊し、様々なモンスターの死骸が無惨な姿で散乱していた。
「先月は全力疾走で力が使えたから発作がなかったんだ...」
カチューシャは自分の腕を見つめる。
このまま力が制御できなくなっていけば、自分はどうなってしまうのだろうと...。
「怖いよ...ティアラ...」
自分が自分で無くなっていく感覚に怯えて、カチューシャは頭の中に浮かんだ彼女の笑顔に無意識に助けを求めるのだった...。
百合の国のプリンセス♂ #5人狼(ライカン)
「ヒメねーさまおかえりなさいませ!」
正午頃に王宮に帰ってくるとロリエルちゃんがいの一番にお出迎えしてくれる。
今日は側にメイドさんがいるから抜け出してきた訳では無いらしい。
「ただいまロリエルちゃん、お休みの時間じゃないのかな?」
「ヒメねーさまのおでむかえしたくてガマンしましたの!
でもネムネムなのでヒメねーさまがねかしつけてくださいですわ!」
「ロリエルちゃんしたたかだねぇ...」
多分私に寝かし付けて貰える算段で我慢してたんだな...。
「でもお出迎えありがとう。
ロリエルちゃんのお部屋でネムネムしよっか」
「はいですの!」
身振りで抱っこをせがむロリエルちゃんを抱き上げて、私は離宮へ向かう。
気配はないから意味はないけど、一応あたりを見渡してみる。
やっぱりティアラの姿はない。
ティアラも駆け付けてくれると思ったけど、王宮にいないのかな?
昨日のあれでスネてるってことは無いと思うんだけど...。
ロリエルちゃんを寝かしつけたら探してみよう。
ロリエルちゃんはよほど我慢してたのか部屋に着く前に抱っこしてるウチに寝てしまったので、部屋に運んですぐに離宮を後にした。
適当なメイドさんにティアラの行く先を聞いてみたら、昨日から騎士団本部に泊まり込みで特訓してるらしい。
特訓?
「殿下、魔法は腕をかざさない!」
「あぁもう!
また!」
騎士団に行くと、ティアラがウィッグさんに指導を受けていた。
アレは剣と魔法のセットプレイかな?
2回剣で切って魔法を挟んで更に剣で絞める。
を繰り返している。
のだけど、ティアラが腕をかざして魔法を撃つので何度も怒られている。
「イヤ想像以上にムズいなコレ...」
「私もソレ直すの苦労したなぁ」
自分も同じような練習をしたな、とティアラに声を掛ける。
「あ、カチューシャおかえり!
ヒーラーでもこういう特訓するんだ?」
「ただいま。
ヒーラーでも回復に杖を上や前にかざすと隙を晒すしタイミングを教えちゃうからね」
ヒーラー始めたての頃はよかったけれど、ある程度慣れた頃にはご一緒したベテランさんにそう言う理由で構えを矯正された。
「だからこうやって、詠唱も発動も防御姿勢維持してるよ」
杖を横にして両手で盾にするように構える。
「ヒーラーは防御姿勢とはいえ“構え"があるだけ楽だけどね」
「魔法剣士はどんな体勢からでもあるゆる魔法を使えなければな。
構えのない攻撃の脅威は勿論、防御の有用性は殿下もお分かりだろう」
そう言ってウィッグさんは腕を組んだままの姿勢で目の前に魔法の盾を作り出す。
「わかるけどー...正直それカッコよくない...」
ティアラのやってるように腕をかざすのは魔法を打つ側としてもやりやすい、でも"魔法を今からそこに打ちますよ“とするのはデメリットでしかない訳で。
「ノーモーションで使う魔法はたしかにカッコよくはないよね」
「だよねー!」
闘技場のような魅せる闘いならともかく、通常の戦闘は命に関わる事だからそんな事は言ってられないのだけども。
「でもできるようになると、ベテラン感が出てカッコいいよ?」
「ぬぐぅ...」
昔一緒になった魔術師さんはそこが実力者との境目だとか言ってた。
「一朝一夕で身につくものでもない、こうして反復練習でまずは体に覚えさせんとな」
「イヤ、カチューシャ帰ってきたなら終わりに...」
「休憩が終わりだ!
さっきのセットプレイを50セット!」
「ヒィ〜」
辞めたがってたティアラの意見は拒否されて、特訓は再開された。
私は邪魔にならないように離れて見守ろう...
と思ったけど私も最近回復魔法あまり使えてないから少し練習しないと...。
「ウィッグさん、後でティアラを実戦形式で特訓してもらえませんか?」
「ん?
キミからお願いされることになるとはな?」
「私も回復魔法の復習したいので、ティアラをボコって頂けると」
「カチューシャぁ!
?」
回復魔法って実際の怪我がないと練習にならないのが困りもの...。
普段は冒険者ギルドで辻治療して特訓するんだけどここのギルド怪我してる人まずいないし...。
あと、自分の怪我だと感覚が違うから練習にイマイチ。
「なるほど、そう言うことなら遠慮なくしごけるな」
「王女には遠慮して!
?」
「打撲、擦り傷、切り傷、火傷、凍傷...色々な怪我があるとありがたいです」
「任せたまえ」
「いやリクエストしないで!
?」
ウィッグさんなら間違いないもないだろうし、安心して怪我させて貰えるね。
「ふーんだ、どうせ私は体の良い治験体ですよー」
宣言通り色んな魔法が飛んてきて色んな怪我をして、しっかりカチューシャに全快された。
「ほら...ちゃんと治したでしょ?」
「それでも痛いものは痛いんですー!」
特に心が痛いのよ!
「痛いのが嫌ならば食らわなければよかろう」
「無茶言うな!
ヅラの攻撃全部防げるわけないでしょ!」
あんな魔法の満漢全席どうしろってのよ!
そうでなくても剣の方だけでも避けるのに必死なのに!
「特訓で怪我するのは仕方ないんだしさ...」
「仕方なくてもカチューシャが煽ったのはたしかだしー」
カチューシャにこんなSっ気があったなんて驚きだよ!
まぁ実は言うほど怒ってないんだけど、困ってるカチューシャが可愛いのでもっと困らせたい。
「お詫びに何かしてあげるから...」
「なんでも!
?」
やったごね得!
?
「なんでもはしないけど...」
「えーなんでもしてよー!」
「だって...エッチなお願いとかされたら...」
カチューシャが赤面して声が消えていく。
やばい、押し倒したい、さっきまで特訓してたから気分が高揚してて今すぐにでも襲っちゃいそう。
「じゃあエッチなのは無しにするから」
「それならいいけど...」
よし、言質とった!
「じゃあキスして!」
闘技場でのアレっきり。
私ならキスでカチューシャ落とせる自信あるからキスのきっかけはずっと狙ってたのよ!
「キ...エッチなのは無しだって!」
当然カチューシャは赤くなって拒否するけれど...
「あれー?
キスはエッチじゃないよねー?
カチューシャにとってエッチな事なんだー?
どんなキスを想像してるのかなー?」
「やっ...違っ...だからその...」
真っ赤になってるカチューシャ可愛いエロい。
ぐへへへ辛抱たまらん。
もう押し倒していいいよね?
やっちゃっていいよね?
大丈夫ダイジョーブ、キスでその気にさせるから実質合意よごーい。
ってダメだダメだ、昂ってるのと欲求不満で思考がプリムになってきてる、ちょっと落ち着こう...。
「まぁキスは冗談だから、今度デートでもしてよ」
「う、うん」
うーん、流石にちょっと引かれたかなー?
もうちょっと欲望抑えないとなー。
「ところで特訓って珍しいね?
いつもウィッグさんとやってたの?」
カチューシャが来てからは殆ど一緒だから私が特訓してるところはたしかに珍しいわね。
「規格外のヅラが相手じゃ自信無くなるから大体ウチのメイドたちが相手してたわね」
メイドたちはマジックアーツとはいえ素手だから武器持ちの私が断然優位なんだけどさ。
それでもプリムとは良い勝負になるし、メイド長には勝てないわ。
「闘技場でフルフェースを負かしたので相応の実力が欲しいとのことだ」
「あー...」
「いやだってさ、“フルフェースに勝った"って名声が一人歩きして、私がめっちゃ強いみたいに思われてんのよ!
?」
先月の闘技場での一件、"10年無敗のフルフェースの初敗北“と“初勝利が王女"というのは衝撃的過ぎた。
フルフェースが手加減満載だったのも反則負けで私が勝ったというのも埋もれてしまう。
更に王母様と母様までその実績に大喜びして王国の祝日にしようだの大騒ぎのお祭り騒ぎ。
祝日にするのは阻止したけど1週間ほど私の闘技場優勝祭で私の名声は王国内で盤石となってしまった。
「搦手とはいえあのフルフェースに勝ったのだ、殿下はもっと誇っていいと思うが」
「私はあんなのでアンタに勝ったつもりないから!
いつか正面から倒してやるんだからね!」
「私ではなくフルフェースだが...本人に会ったら伝えておこう」
白々しい。
私も正体バレ気にして会場の目をくらませてから兜奪うものと思ってたから、まさか逃げるとまでは思わなかったわ。
「団長、ちょっとご報告が」
「あぁわかった。
殿下。
失礼します」
外へ出ていたバレッタが帰ってきたと思ったら珍しく真面目な面持ちでやってきてヅラと訓練場を出ていった。
真面目なバレッタが少し気になるけど、この平和な国で何事かあることもないだろうし、私は気にせずカチューシャに何してもらうか相談しよう。
「じゃあ相乗りデートで決まりね!」
「明日ね」
何でもするとは言ってないのに何でもする事になってしまったけれど、ティアラの要求は結構まともなところに落ち着いた。
相乗りは恥ずかしいけど、実は馬に乗るのが苦手だから遠乗りで別々の馬に乗らないで済むのは都合もイイ。
ライスシャワーを取り戻してきた件はあんまり深掘りされないけど、流石に馬に乗らないで帰ってきたとなると詮索されかねないし。
「殿下、そのデートは見送って頂きたい」
と、思ったら話が終わったらしいウィッグさんがバレッタさんを連れてデートを止めに来た。
「なんで?
明日私に予定でも入った?」
ティアラは王族だしそういうこともあるよね、ってそういえば王族なのに夜会とか公務とか全然してるの見ないな?
私がいるから?
「近く...というわけではないが、領内で凶暴なモンスターの発生が報告された」
ん?
それって...。
「珍しいわね、被害は?」
「街や街道から離れた山中での暴れた跡が発見されたのみで被害は確認されていない」
「妙なのは暴れた後に忽然と姿を消したようにそこからの痕跡が追えないのよねー」
うそ...私の力が暴走した跡じゃ!
?
こんな早く見つかったの!
?
「目撃者とかいないの?」
「“凶暴なモンスターが暴れた痕跡”のみだ」
「それってホントに凶暴なモンスターの痕跡なの?」
ある意味では...。
「私が思うに...、キミには心当たりがあるようだな」
「ひゃいっ!
?」
思わぬタイミングで話を振られて変な声で返事しちゃった!
もしかして疑われてる!
?
「あぁスマン。
キミにはトウラマだったか...」
「カチューシャのトラウマって...」
「セントラル防衛線で復活した魔物、“宵闇の悪魔”だと私は思っている」
「宵闇の悪魔!
?」
だけど、ウィッグさんの想像は私とは違っていて、ある意味で正解だった...。
戦争に直接参加しなかった私の国にもその名前は届いている。
―宵闇の悪魔―
セントラル防衛線の地『ハザマ渓谷』
に封印された古代の魔物。
その封印が大きな戦争の気によって解かれ、戦時中に蘇った。
月の出ない夜に現れ、辺り一面を殺戮の血で染め上げ。
日の出とともに姿を消す。
初めての出現では復活を予見したベルメットさんが軍隊を退かせていたのでセントラル連合軍側に人的被害は出なかったけど、侵略側の『ドーガン王国』
には一夜にしてそれまでの戦い以上に死者を出したという。
その後の出現でもベルメットさんの予見でセントラル連合軍側に宵闇の悪魔の被害は出ることはなかったものの、その凄まじい惨状から連合軍側にも恐れられ、ドーガン王国の兵士は月のない夜を恐怖したという。
戦争が早く終わったのもその悪魔に恐れてとの噂もある。
「報告にあった惨状と、夜中に出現し、日の出には痕跡を残さず姿を消す。
宵闇の悪魔と一致している」
「イヤでも...、この平和な国に、なんで!
?」
魔王の加護は!
?
それとも加護のおかげで被害出なかったってこと!
?
「ヤツは戦争の気で復活した存在だ。
戦争が終わったあと、求めるものがあるとすれば闘争...、あるいは封印の一族であるベルメット殿を追ってきた可能性が...」
「ちょっとヅラ!
!」
ベルメットさんの名前が出そうな気がして、カチューシャを見ると体が震えている、冒険者としてベテランのあのカチューシャが、恐ろしいモノを思い出すように...。
話に聞くだけで凄まじい惨状だったらしいのに、カチューシャはあの戦争に参加して、それを実際に見て、もしかしたら襲われていた可能性もあった。
その名前を聞くだけでも怯えるのは当たり前だ。
それなのにベルメットさんのせいみたいに!
「あ...、大丈夫...。
たしかにお母さんを追ってきた可能性はあるかも...」
全然大丈夫そうじゃないじゃん...。
「スマン、配慮が足りなかった、ベルメット殿が呼びこんだというつもりはなかった」
「なんにせよ、ベルメットさんが出現を予見してたんでしょ?
あの人が鍵なのよ」
「話ではベルメット殿はあの地の生まれで封印の一族故に予見できたと聞いているが...」
「娘ちゃんはそういう能力受け継いでないの?」
あるなら話してるでしょ!
ホント無神経...って、そういえば。
「もしかしてカチューシャが昨日一人で出かけたのって...」
「や、ちがっ!
全然それは関係ない!
ただの遠出の仕事でっ!」
分かりやすくオロオロしている、嘘が下手で可愛いなー、ってそんな場合じゃなくて。
「ものすごく関係アリって顔してるじゃん!
もしかして一人で向かったの!
?」
倒せないにしても被害が出ないよう避難に向かったとか、そんな危ないことしてたの!
?
「だからホントに!
全然関係なくって!
私にはお母さんみたいな予見はできないし!」
「仕事だったのならクリップに確認取ればわかるよね?」
「あーーー!
?
ゴメンナサイ!
仕事なのはウソです!
でも本当に私用の遠出でっ!
全然関係なくって!」
私を含め全員の目が「あ、コレは関係あるな」
って確信していた。
「まぁ...。
何事もなかったならなによりだ。
一応、何かあれば相談して欲しい、キミの母親くらいには頼りになるつもりだ」
「はいぃ...」
一応この場はカチューシャは無関係という事になって、ベルメットさんに連絡を取って相談することになった。
とはいえ、予見できる(?
)カチューシャがいるなら大丈夫だろうから、明日の遠乗りタンデムデートは問題ないわよね。
仮に予見できなくても現れるの夜中だし、流石に暗くなる前には帰るわよ。
「で、なんでアンタがいるのよ...」
「ズッ友になんたるお言葉!
?」
厩舎に行くと馬が2頭用意されていてプリムがスタンバっていた。
当然、ソレを見てティアラは露骨に不機嫌になる。
「外に行くなら護衛がいて当然ですから!
騎士団長からも危険な魔物の出現を聞いています!」
いくら平和な国だからって護衛も付けず王女が出歩くのはたしかに危ないけれど...。
「今日は二人きりでデートしたいんだけど...」
「私のことはお構いなく!
空気みたいなものだと思って!
思いっきりイチャついて下さいませ!」
「空気っていうかヤブよね...」
まぁ、うるさいし存在感あるものね...。
居ても居なくてもイチャつくつもりはないけど。
「何かあれば騎士団長が即駆けつけてくれそうなので!
照明魔法の方もお忘れなく!」
念の為ウィッグさんもデート予定地の近くで巡回してるらしく、緊急時に使われてる簡単な照明魔法も教えてもらった。
こういうのはこの国ならではだね。
でも簡単だけど多分お母さんには使えないだろうなぁ。
そもそもお母さんには不要だろうけど。
そして不満気だったティアラだったけど、こういう事は慣れてるのか自分が王女であることへの自覚からなのか、それ以上不満も言わずプリムの同行を許可していた。
当の私はティアラの後ろに乗って、相乗りデートは始まった。
ティアラは凄い前に抱く形(王子様スタイル)で乗せたがってたけど流石に恥ずかしいのでダメ。
馬に乗るのは苦手だけれど、ティアラはあまりスピードも出せずにゆっくり走ってくれて、道も悪くないので私はのんびり乗ることができた。
「目的地って?」
適当に街道沿いをぶらつくだけと思ってたけれど、出発前の話によるとどうやら目的地はあるみたい?
「ヅラが警備するのに目的地決めろって言うからね」
「側に居ないだけ気は使ってくれてるんだろうけど...」
宵闇の悪魔ではない可能性も考えて、目的地周辺を警備するのが今回のデートの条件らしい。
この平和な国でそこまでって思っちゃうのは、私もこの国の平和ボケに毒されちゃったのかもしれない。
「あの山の上に王宮が管理してる空中庭園があるから、そこが目的地」
ティアラが差す方向にはこの辺で一番高い...と言ってもそれほど高くもない山がある。
「そういうのもあるんだね」
「この子が居た頃はよく一人で行ってたんだけど...、私も行くのは久しぶりだなー」
ティアラは口にはしないけど実は花が好きらしい、一緒に仕事で外に出るとよく道中の花に目をやっている。
そんなティアラが行くのが久しぶりなのも、失った愛馬との思い出が深いからなんだろうな。
「この子とまた行けるなんて夢みたい。
改めてありがとねカチューシャ」
「ライスシャワーのお礼はもう何度も聞いたよ」
「何度でも言いたいの!」
それだけ大事な存在を取り戻せたのほホントに良かったな。
それからも他愛のない話をしながら、ティアラはゆっくり目的地へ向かった。
王宮が管理しているだけあって、山道でもよく整備されていて坂も緩やかなもので、馬の苦手な私でも快適に登ることができた。
そういえばいつになくプリムが静かだなと思ったら私たちから50メートル程離れて気配遮断の魔法まで覆ってた。
今日はホントに気を遣ってくれてるらしい。
「わあ、凄い...!」
山の頂上、空中庭園につくとそこは青空を背景にした色とりどりの花畑。
魔法の噴水に花で作られたアーチと花びらのロード。
その花々に集まったコレまた色とりどりの蝶々たち。
そして魔力を帯びた花々から生まれる虹色の風。
ライスシャワーと昔よく来てた光景と同じ、美しく幻想的な景色があった。
「えへへ...、凄いでしょ」
この子を失ってからは来てなかったから少し不安だったけど、昔のまま大好きで自慢の空中庭園だった。
まぁ私が来なくなっても王母様たちが公務の合間にデートで来てたみたいだけど。
「色んなところを冒険してきたけど、こんな綺麗なところ始めてだよ!」
「冒険者のカチューシャにそう言ってもらえるなんて私も嬉しいな」
自分のことはあまり話さないカチューシャだからどんなところを冒険してきたかは知らないけれど、冒険生活の長いカチューシャが言うのだから、王女として自信を持ってこの空中庭園を誇れるわよね。
「ここからは歩きましょ」
ライスシャワーから先に降りてカチューシャを支えて降ろす。
後ろに乗せてて思ったけど、カチューシャは冒険生活が長い割に馬に乗り慣れてないみたい?
ホントに不思議な子よね。
「お前はここで待っててね」
ライスシャワーには悪いけど今日はカチューシャと二人きりの時間を作りたいの、ごめんね。
「ライスちゃん、ここまでありがとうね」
ちょっと不満そうだったけど私たちを追ってくる事もなく、ライスシャワーはあとから来るプリムを待って見送ってくれた。
「ここの花、みんな魔力を帯びてるの?」
「うん、この国は土地柄魔力が豊富でこういった花が沢山見つかるのよ。
今でこそ"百合の国“なんて言われてるけど、大昔は"魔法の花の国“って呼ばれてたんだって」
そしてそういった花を集めたのがこの空中庭園と解説する。
「魔力を帯びた花って、危ないのもありそうだけど...」
「そこはちゃんと計算されて植えられてるから」
流石はカチューシャ、ただ綺麗なだけじゃなくてそういった危険性もよく知ってる。
「あそこの白い花は周りの生き物を眠らせてしまうのだけど、周りの花を逆に気分の活性化や刺激の強めの香りで囲んだり...」
花畑の一画を指しながらカチューシャの疑問に応えていく。
「あの青い花はとあるモンスターが好む魔力を放出するのだけど、あたりの魔力を遮断する花と交互に植えたり...」
花の特性と色を考えて、綺麗に見えるようかつ安全になるようレイアウトされているのよね。
「へぇ...凄いね」
「とはいえ触れると危ない花もあるから、摘むのは構わないんだけど気になった花があれば言ってね」
昔と比べて花のレイアウトや種類が少し変わってるけど、見た感じ私のわからない花はないはず。
「あ、うん...凄いのは花畑もなんだけど...ティアラも凄いなって...」
「へ?
別に私が作った庭園じゃないけど...」
自慢の庭園ではあるけど私が関わったところなんてほんの一部だ。
「この庭園は王母様が母様の心を射止めるのに作ったものだし」
元々母様は旅の絵描きだったらしい、旅の途中にこの国に立ち寄った母様に一目惚れした王母様が、花の好きな母様をこの国に留めるために作らせたというのが経緯。
...あと母様の所属してたそのキャラバンの商人が私の両親だったり...。
「あの女王様にしてはロマンチックなことを...ってそうじゃなくて」
それは私もそう思う...と二人で苦笑したけど、どうやら庭園のことではないらしい。
「花のことをそんなに詳しい、ティアラが凄いなって」
この庭園はたしかに綺麗で凄いし、女王様たちの馴れ初めもロマンチックな話だけど、私は花のことに詳しいティアラも凄いと思った。
「えっ、あ、いや...自分の国のことだし王女としてそれくらい知ってて当然というか...、むしろ知識をひけらかしたみたいでちょっと恥ずかしいかな...」
「自分の国の事だからじゃなくて、好きな事だから詳しいんだよね?」
私も仕事柄薬草の知識はそこそこあるし、お金になるような珍しい植物の知識はそれなりにある。
でも、ティアラの話す知識はそういうのではなくて、とても嬉しそうに話してて、本当に花が大好きなんだなぁと改めて思った。
「いや...まぁ...はい」
「花が好きな事隠してるの?」
珍しく照れてるティアラに思ってた疑問を尋ねてみる。
別に隠すような趣味でもないと思うけど、普段のティアラは隠すように振る舞っている。
「隠しているって程でもないんだけど...なんていうか、女の子っぽ過ぎるでしょ?」
「女の子っぽ過ぎたらどうして駄目なの?」
むしろティアラは普通に女の子してると思うけど。
「私が目指してるのはカッコいい女の子だからさ...花が好きのなはイメージじゃないなーって...」
あーなるほど...そういうイメージ作りを気にしてたんだ。
「それじゃあもう私にはバレたんだから、そういうの気にしないで花を愛でてるティアラを見せて欲しいな」
「えぇ!
?
それはそれで恥ずかしいんだけど!
?」
「ふふふ、昨日のお返しでーす」
いつも真っ直ぐ気持ちを伝えてくれるティアラだから照れてる姿は珍しくて、私もいたずら心が芽生えちゃった。
「てぇてぇ!」
あとなんか遠くの方でプリムが死んだ音がしたけど、それは気にしないことにした...。
「他に誰もいないんだね?」
ティアラと並んで歩きながら庭園を見渡してみるけど、他に誰の姿も見つからない。
こんな場所なので私の得意の感知も使えないから隠れていたら分からないけれど。
「普段は管理してくれてる人がいるけど、気を遣ってくれてるのかな?」
或いは先に来てたウィッグさんが気を遣ってくれた?
それにしてはなんか...。
「どうかしたの?」
「うーんなんだろ...花の魔力のせいのかよくわからないんだけど、あの噴水のあたりに変な魔力を感じるなって...」
庭園の中央にある、おそらく魔法で動いている綺麗な噴水。
だけどその噴水から感じる“何か"はそう言った類の魔力ではなくて...。
「あの噴水にはそれほど特殊な魔法は使われてないはずだけど...、もしかして調子が悪いのかな」
「あ、ティアラ!」
と言ってティアラは噴水の様子を気にして駆け寄っていく。
冒険者の勘で嫌な予感がしたならすぐに止めるべきだったのだけど、最近の私は平和ボケしていて気を抜いていた...。
「特に動作におかしな様子は...っ!
?」
「えっ!
?」
私が噴水に近づいた瞬間、巨大な魔法陣が起動して庭園に強大な魔力の渦が浮かび上がる。
「召喚陣!
?
ティアラ、離れて!」
私にはそれが何か分からなかったけれど、経験豊富なカチューシャの言葉ですぐに噴水から飛び退く。
「グオオオオオ!」
「な...なによコレ!
?」
そして私が飛び退いてすぐ、噴水を押しつぶして巨大な竜のような2足のモンスターが現れた。
「上級魔物...魔族クラスの召喚陣!
?」
私にはコイツの正体は分からなかったけど、カチューシャは心当たりがあるらしい、けれど、言われなくてもかなり危険なヤツだってのは私にもわかる。
「姫様、引いて下さい!」
そして驚く私の前に今まで存在を隠していたプリムがやってくる。
「照明魔法は打ち上げました、すぐにウィッグさんも駆け付けます!
それまで私が引きつけますのでお逃げください!」
「そんなプリム一人にこんなヤツ...」
もしもの時は護衛の自分を見捨てて逃げろ、プリムとはそういう約束はしていた...、それが王女としての責任。
でも、いざその時になったら大事な友達を見捨てて逃げるなんて!
「私も手伝うからティアラは逃げて!」
カチューシャまで!
「グォアアアアア!」
逃げ出せない私を待ってくれるわけもなく、巨大な魔物は前傾姿勢になったと思うと口から黒色の炎を吐き出す。
「このおぉ!」
「くぅ...」
私の前に立つカチューシャとプリムが魔法の盾でそれを防いてくれるけど、その炎の息吹は強力で、二人を飲み込んだ...。
「うあ゛ぁ゛!」
「い゛あ゛ぁ゛!」
「プリム!
カチューシャ!」
そして二人の悲鳴に私は、焦りで魔力の構築が足らず出来損ないの魔法の盾で二人の前に立ってしまった...。
「そんな...、姫様!
?」
魔法の盾が耐えられず、炎が止んだ時に私の前にいたのは私たちを庇ってボロボロになったティアラだった。
「アイツの狙いは多分私だから...二人は逃げて...」
交代で庇いあったおかげかお互いのダメージは大きくは無いみたいだけど、とても戦える状態ではない、仮に戦えたとしても、ティアラの敵う相手じゃない。
「何言ってるんですか!
王女がメイドを庇うなんて...約束が違うじゃないですかぁ!」
とても主従に見えない親友の二人だけど、プリムにはちゃんとメイドとしての、ロイヤル・ガードとしての覚悟があるんだね...でも、そんな親友だからこそ、ティアラに見捨てられるはず無くて...
「グォオオ!」
私たちを見下ろす魔物が纏めて焼き払おうとまた口を広げて魔力を蓄えている。
「許せない...」
「カチューシャ...?」
「カチューシャ様?」
私は杖を捨てて二人の前に立ち、魔物を睨みつける。
「大丈夫...二人は私が守るから...」
隠し続けてきた私の秘密、ふたりを守るためには見せないわけにはいかない...。
でも...。
「ただ...嫌いにならないで...」
真実を打ち明けるのが怖かった、本当の私を知られるのが怖かった、私のチカラを...本当の姿を...
どうか、恐れないで─
「ワォオオオオン!」
カチューシャが吠えたと思ったらその気配が一変して、魔物は翼を広げて飛び退く。
私の前に立っているカチューシャの後ろ姿は、その頭にはオオカミのような耳が立って、スカートの下からは尻尾の先が見えていた。
「カチューシャ、その耳...」
「逃さない!」
魔物が飛び退いたのを見てカチューシャは前屈みで...四つ足で駆け出したと思うと一瞬で距離を詰める。
「シャァ!
!」
近づくカチューシャに魔物は腕を振りかざすが、カチューシャは避けるどころかその腕に向けて腕を引っ掻くように振るった。
─ズシャァァァ─
瞬間、巨大な魔力の爪が形成されて魔物の腕を真っ二つに引き裂く。
「グアオオオ!
!」
「ガァア゛!」
そして悲鳴を上げる魔物の後ろに回り込んだと思うと、巨大な翼が引き千切られる。
「ギャオオオン!」
飛び上がって魔物の頭上に現れたカチューシャはその両手を振り下ろし...巨大な魔力の爪が魔物を9つに引き裂いた...。
その性質は獰猛残虐、その四肢は超高速で大地を駆け、魔力を帯びた爪は瞬く間にあらゆるモノを引き裂く─
「ライカン...」
「それもあの強さ...彼女が宵闇の悪魔だったのだな...」
私が呟いた後に、いつの間にか駆け付けていたヅラが横から付け足す。
たしかにライカンの強さの程度はよく知らないけれどあの強さは異常だと思うし、それが当てはまるとすれば、宵闇の悪魔よね...。
この世界に留まるチカラがなくなったことで魔物は引き割いた体の部位ごと消滅して、危機が去った後に、私は本来の姿のままみんなのもとに戻った。
「えっと...」
いつかは話すべきだと思っていた...けど、こんな形で知られるなんて...。
しかもあんな凶暴な姿を見られて...。
「あぁぁぁ!
ゴメンナサイィ!
見ないでぇぇ!」
思わず耳を手で押さえて隠しながらうずくまる。
ライカンなのも、本当の性別もバレて...終わった...。
「カチューシャ、ありがとう!」
「カチューシャ様凄いです!」
「駆け付けるのが遅れた、殿下を守っていただき君には感謝しかない」
あれ...?
「私のこと...怖くないの...?」
私を倒せそうなウィッグさんはともかく、二人にはライカンなんて恐怖でしかないはずなのに...。
「なんで?
私たちのこと守ってくれたじゃん!」
「でも私...宵闇の悪魔として...沢山の人を殺して...」
そう、宵闇の悪魔の正体はチカラを暴走させた私なのだ...。
お母さんが封印の一族と言うことにして私の被害から自国の兵を遠ざけ、チカラの暴走を戦争に利用した。
「それは戦争だし...カチューシャが望んでやったことでもないでしょ?」
「それは勿論...そうだけど...」
イヤでも、あの惨状は戦いとか戦争とか呼べるようなものじゃなかったし...。
「それに私...ライカンだってずっと黙って...」
そして何より、男しかいないライカンであること...男である事実をずっと騙していたのだ、これはもう嫌われても仕方のないことのはずなんだけど...あまりショック受けてないような?
「いやーそりゃ、ライカンなのは話しにくいわよね」
「あまりに珍しすぎますモノね」
「私も300年以上生きてきて始めて見るな」
あれ?
国の近くにライカンの里あるんだよね?
そんな珍しいことはないはずじゃ...。
「女のライカンなんて、見つかったら大事だものね!」
「SSRですよSSR!
ちょーレアじゃないですか!」
「女のライカンなど邪なものに知られればどうなるか...隠すのは当然だろう」
え?
ライカンなのに、男だと思われてない!
?
「えっと...みんなには今の私がどう見えてるのかな...?」
うずくまって耳を隠しながら、今の私について尋ねてみる。
「愛でたい!」
「泣かせたい!」
「撫でてみたいところだな」
今すぐここから逃げ出したい...。
え、なに...正体バレて怖がられるどころか...男だとも思われてないの私!
?
「ともかく、今は急ぎ本部に戻り治療と状況の整理、君の事情に付いて話をしよう」
「あ、はい」
そういえば私のライカンバレで忘れてしまってたけど、明らかに王女のティアラが狙われた状況。
ウィッグさんが駆け付けてくれたとはいえみんなボロボロだし、なによりティアラが狙われたとしたらここも危険だ。
私の事情と魔物が現れた状況はひとまず置いといて、全員で騎士団本部に戻ることにした。
─カチューシャたちが騎士団本部に戻ってからしぼらく経った頃...
「あら、せっかく用意しましたのに負けましたのねあのデカブツ」
戦闘の跡地に赤髪の妖艶な女が現れる。
「魔族とえど、やはりガタイが良いだけのケモノは駄目ですわね、魔王様のように理知的でありませんと」
女は元より期待はしていなかっという風に残念がることもなく、戦いの状況を魔力の残滓から確認する。
「ふむ...圧倒しましたのね。
処女の守り手
メイデンセンチネル
とやらは思ったよりやるじゃないの」
そして感心しながらも魔力の残滓に違和感を覚える。
「妙ですわね...2体の魔族の残滓を感じますわ...それもあのデカブツよりも強力な...」
別の魔族の存在を確認して女は思案する。
「よもやメイデンセンチネルとやらは魔族?
だとすれば噂の強さにも納得がいきますわね」
ともすれば一度接触してみるべきか?
しかし“自分と同じく魔族"だとしても味方とは限らない。
と女は考えるが...
「まぁいいですわ、味方だろうと敵だろうと、どれだけ強かろうと、要は相手にしなければいいだけ」
罠も破られたしイレギュラーがいるとしても、女の当初の計画に支障はなった。
「魔王様は、この“不死身の魔女・マジェステ"が必ずや復活させますわ!」
不死身の魔女・マジェステ。
かつて魔王の片腕だった女は決意を胸に高笑いをする。
長らく平和だったユリゾンリリィに、かつてない脅威が迫っていた─
♡
シェア
リンクをコピー
← 前の話
勝利の女神よキスをして!
次の話 →
大好きな友達でアナタ
百合の国のプリンセス♂
作者:万能ねぎトロ
目次を見る
コメント
0件
ログインしてコメントする
まだコメントがありません
ホーム
›
百合の国のプリンセス♂
›
人狼(ライカン)
← 前の話
目次
次の話 →
栞
読書設定
?
人狼(ライカン)
「うわぁぁん、カチューシャにフラれたぁ!」
王宮のカチューシャの部屋でティアラはソファーに倒れ込んで呻いていた。
「またプロポーズしたんですか?」
それを部屋の掃除に来たボンネットが心底邪魔そうな顔で尋ねる。
「違う!
ギルドの仕事で遠出して明日まで帰らないっていうから、私も一緒に行きたかったの!
なんならライスシャワーに相乗りしたかったの!」
「お一人になりたい時もあるのでしょう、ティアラ様もずっとべったりは良くないって言われてたではありませんか」
「あー...」
ティアラはいつだったかそんな事を言ってたなーと思い返す。
「あの頃はまだそんな余裕もあったけどさ...。
今はもう好き好き大好きが溢れ出してそんな余裕無いと言うか...」
「一方的に好きになるばかりでは進展しませんよ」
「だから色々アプローチしてるけどさぁ、あの子ったら無意識にカウンター決めてきてこっちの方が好きになるだもん!」
恋のダメージレースにボロ負けなのである。
「たしかにカチューシャ様はご自分の魅力に無自覚なところがございますね」
「無自覚なのもそうなんだけど、なんか自分に"女の子としての“自信がないようにも見えるのよねぇ」
或いは"後ろめたさ“のような何かを、彼女とのコミニケーションで感じていた。
「どこか“自分なんて..."みたいな意識が根底にあるような気がする」
「カチューシャ様が秘密にされてる事に起因するのかもしれませんね」
二月も一緒に過ごしてればカチューシャが何か秘密を抱えていることは察していたし、そうでなくてもライスシャワーお迎えの件などで彼女には謎が多い。
「もっと仲良くなれば話してくれるかなあ」
「抱えている秘密にもよりますが、仲良くなるほど話しにくくなるでしょうね」
「うわー!
ジレンマー!」
結局、カチューシャから話してくれなければ打つ手無しなのだった。
一方カチューシャは―
ユリゾンリリィの王都から馬で半日程離れた、何もない山の中...。
「はぁ...はぁ...やっと収まった...」
朝焼けの空の下、カチューシャは森の中で一人息を咳き切らしていた。
「どんどん力が抑えられなくなってる...」
彼女の周囲は木々か倒壊し、様々なモンスターの死骸が無惨な姿で散乱していた。
「先月は全力疾走で力が使えたから発作がなかったんだ...」
カチューシャは自分の腕を見つめる。
このまま力が制御できなくなっていけば、自分はどうなってしまうのだろうと...。
「怖いよ...ティアラ...」
自分が自分で無くなっていく感覚に怯えて、カチューシャは頭の中に浮かんだ彼女の笑顔に無意識に助けを求めるのだった...。
百合の国のプリンセス♂ #5人狼(ライカン)
「ヒメねーさまおかえりなさいませ!」
正午頃に王宮に帰ってくるとロリエルちゃんがいの一番にお出迎えしてくれる。
今日は側にメイドさんがいるから抜け出してきた訳では無いらしい。
「ただいまロリエルちゃん、お休みの時間じゃないのかな?」
「ヒメねーさまのおでむかえしたくてガマンしましたの!
でもネムネムなのでヒメねーさまがねかしつけてくださいですわ!」
「ロリエルちゃんしたたかだねぇ...」
多分私に寝かし付けて貰える算段で我慢してたんだな...。
「でもお出迎えありがとう。
ロリエルちゃんのお部屋でネムネムしよっか」
「はいですの!」
身振りで抱っこをせがむロリエルちゃんを抱き上げて、私は離宮へ向かう。
気配はないから意味はないけど、一応あたりを見渡してみる。
やっぱりティアラの姿はない。
ティアラも駆け付けてくれると思ったけど、王宮にいないのかな?
昨日のあれでスネてるってことは無いと思うんだけど...。
ロリエルちゃんを寝かしつけたら探してみよう。
ロリエルちゃんはよほど我慢してたのか部屋に着く前に抱っこしてるウチに寝てしまったので、部屋に運んですぐに離宮を後にした。
適当なメイドさんにティアラの行く先を聞いてみたら、昨日から騎士団本部に泊まり込みで特訓してるらしい。
特訓?
「殿下、魔法は腕をかざさない!」
「あぁもう!
また!」
騎士団に行くと、ティアラがウィッグさんに指導を受けていた。
アレは剣と魔法のセットプレイかな?
2回剣で切って魔法を挟んで更に剣で絞める。
を繰り返している。
のだけど、ティアラが腕をかざして魔法を撃つので何度も怒られている。
「イヤ想像以上にムズいなコレ...」
「私もソレ直すの苦労したなぁ」
自分も同じような練習をしたな、とティアラに声を掛ける。
「あ、カチューシャおかえり!
ヒーラーでもこういう特訓するんだ?」
「ただいま。
ヒーラーでも回復に杖を上や前にかざすと隙を晒すしタイミングを教えちゃうからね」
ヒーラー始めたての頃はよかったけれど、ある程度慣れた頃にはご一緒したベテランさんにそう言う理由で構えを矯正された。
「だからこうやって、詠唱も発動も防御姿勢維持してるよ」
杖を横にして両手で盾にするように構える。
「ヒーラーは防御姿勢とはいえ“構え"があるだけ楽だけどね」
「魔法剣士はどんな体勢からでもあるゆる魔法を使えなければな。
構えのない攻撃の脅威は勿論、防御の有用性は殿下もお分かりだろう」
そう言ってウィッグさんは腕を組んだままの姿勢で目の前に魔法の盾を作り出す。
「わかるけどー...正直それカッコよくない...」
ティアラのやってるように腕をかざすのは魔法を打つ側としてもやりやすい、でも"魔法を今からそこに打ちますよ“とするのはデメリットでしかない訳で。
「ノーモーションで使う魔法はたしかにカッコよくはないよね」
「だよねー!」
闘技場のような魅せる闘いならともかく、通常の戦闘は命に関わる事だからそんな事は言ってられないのだけども。
「でもできるようになると、ベテラン感が出てカッコいいよ?」
「ぬぐぅ...」
昔一緒になった魔術師さんはそこが実力者との境目だとか言ってた。
「一朝一夕で身につくものでもない、こうして反復練習でまずは体に覚えさせんとな」
「イヤ、カチューシャ帰ってきたなら終わりに...」
「休憩が終わりだ!
さっきのセットプレイを50セット!」
「ヒィ〜」
辞めたがってたティアラの意見は拒否されて、特訓は再開された。
私は邪魔にならないように離れて見守ろう...
と思ったけど私も最近回復魔法あまり使えてないから少し練習しないと...。
「ウィッグさん、後でティアラを実戦形式で特訓してもらえませんか?」
「ん?
キミからお願いされることになるとはな?」
「私も回復魔法の復習したいので、ティアラをボコって頂けると」
「カチューシャぁ!
?」
回復魔法って実際の怪我がないと練習にならないのが困りもの...。
普段は冒険者ギルドで辻治療して特訓するんだけどここのギルド怪我してる人まずいないし...。
あと、自分の怪我だと感覚が違うから練習にイマイチ。
「なるほど、そう言うことなら遠慮なくしごけるな」
「王女には遠慮して!
?」
「打撲、擦り傷、切り傷、火傷、凍傷...色々な怪我があるとありがたいです」
「任せたまえ」
「いやリクエストしないで!
?」
ウィッグさんなら間違いないもないだろうし、安心して怪我させて貰えるね。
「ふーんだ、どうせ私は体の良い治験体ですよー」
宣言通り色んな魔法が飛んてきて色んな怪我をして、しっかりカチューシャに全快された。
「ほら...ちゃんと治したでしょ?」
「それでも痛いものは痛いんですー!」
特に心が痛いのよ!
「痛いのが嫌ならば食らわなければよかろう」
「無茶言うな!
ヅラの攻撃全部防げるわけないでしょ!」
あんな魔法の満漢全席どうしろってのよ!
そうでなくても剣の方だけでも避けるのに必死なのに!
「特訓で怪我するのは仕方ないんだしさ...」
「仕方なくてもカチューシャが煽ったのはたしかだしー」
カチューシャにこんなSっ気があったなんて驚きだよ!
まぁ実は言うほど怒ってないんだけど、困ってるカチューシャが可愛いのでもっと困らせたい。
「お詫びに何かしてあげるから...」
「なんでも!
?」
やったごね得!
?
「なんでもはしないけど...」
「えーなんでもしてよー!」
「だって...エッチなお願いとかされたら...」
カチューシャが赤面して声が消えていく。
やばい、押し倒したい、さっきまで特訓してたから気分が高揚してて今すぐにでも襲っちゃいそう。
「じゃあエッチなのは無しにするから」
「それならいいけど...」
よし、言質とった!
「じゃあキスして!」
闘技場でのアレっきり。
私ならキスでカチューシャ落とせる自信あるからキスのきっかけはずっと狙ってたのよ!
「キ...エッチなのは無しだって!」
当然カチューシャは赤くなって拒否するけれど...
「あれー?
キスはエッチじゃないよねー?
カチューシャにとってエッチな事なんだー?
どんなキスを想像してるのかなー?」
「やっ...違っ...だからその...」
真っ赤になってるカチューシャ可愛いエロい。
ぐへへへ辛抱たまらん。
もう押し倒していいいよね?
やっちゃっていいよね?
大丈夫ダイジョーブ、キスでその気にさせるから実質合意よごーい。
ってダメだダメだ、昂ってるのと欲求不満で思考がプリムになってきてる、ちょっと落ち着こう...。
「まぁキスは冗談だから、今度デートでもしてよ」
「う、うん」
うーん、流石にちょっと引かれたかなー?
もうちょっと欲望抑えないとなー。
「ところで特訓って珍しいね?
いつもウィッグさんとやってたの?」
カチューシャが来てからは殆ど一緒だから私が特訓してるところはたしかに珍しいわね。
「規格外のヅラが相手じゃ自信無くなるから大体ウチのメイドたちが相手してたわね」
メイドたちはマジックアーツとはいえ素手だから武器持ちの私が断然優位なんだけどさ。
それでもプリムとは良い勝負になるし、メイド長には勝てないわ。
「闘技場でフルフェースを負かしたので相応の実力が欲しいとのことだ」
「あー...」
「いやだってさ、“フルフェースに勝った"って名声が一人歩きして、私がめっちゃ強いみたいに思われてんのよ!
?」
先月の闘技場での一件、"10年無敗のフルフェースの初敗北“と“初勝利が王女"というのは衝撃的過ぎた。
フルフェースが手加減満載だったのも反則負けで私が勝ったというのも埋もれてしまう。
更に王母様と母様までその実績に大喜びして王国の祝日にしようだの大騒ぎのお祭り騒ぎ。
祝日にするのは阻止したけど1週間ほど私の闘技場優勝祭で私の名声は王国内で盤石となってしまった。
「搦手とはいえあのフルフェースに勝ったのだ、殿下はもっと誇っていいと思うが」
「私はあんなのでアンタに勝ったつもりないから!
いつか正面から倒してやるんだからね!」
「私ではなくフルフェースだが...本人に会ったら伝えておこう」
白々しい。
私も正体バレ気にして会場の目をくらませてから兜奪うものと思ってたから、まさか逃げるとまでは思わなかったわ。
「団長、ちょっとご報告が」
「あぁわかった。
殿下。
失礼します」
外へ出ていたバレッタが帰ってきたと思ったら珍しく真面目な面持ちでやってきてヅラと訓練場を出ていった。
真面目なバレッタが少し気になるけど、この平和な国で何事かあることもないだろうし、私は気にせずカチューシャに何してもらうか相談しよう。
「じゃあ相乗りデートで決まりね!」
「明日ね」
何でもするとは言ってないのに何でもする事になってしまったけれど、ティアラの要求は結構まともなところに落ち着いた。
相乗りは恥ずかしいけど、実は馬に乗るのが苦手だから遠乗りで別々の馬に乗らないで済むのは都合もイイ。
ライスシャワーを取り戻してきた件はあんまり深掘りされないけど、流石に馬に乗らないで帰ってきたとなると詮索されかねないし。
「殿下、そのデートは見送って頂きたい」
と、思ったら話が終わったらしいウィッグさんがバレッタさんを連れてデートを止めに来た。
「なんで?
明日私に予定でも入った?」
ティアラは王族だしそういうこともあるよね、ってそういえば王族なのに夜会とか公務とか全然してるの見ないな?
私がいるから?
「近く...というわけではないが、領内で凶暴なモンスターの発生が報告された」
ん?
それって...。
「珍しいわね、被害は?」
「街や街道から離れた山中での暴れた跡が発見されたのみで被害は確認されていない」
「妙なのは暴れた後に忽然と姿を消したようにそこからの痕跡が追えないのよねー」
うそ...私の力が暴走した跡じゃ!
?
こんな早く見つかったの!
?
「目撃者とかいないの?」
「“凶暴なモンスターが暴れた痕跡”のみだ」
「それってホントに凶暴なモンスターの痕跡なの?」
ある意味では...。
「私が思うに...、キミには心当たりがあるようだな」
「ひゃいっ!
?」
思わぬタイミングで話を振られて変な声で返事しちゃった!
もしかして疑われてる!
?
「あぁスマン。
キミにはトウラマだったか...」
「カチューシャのトラウマって...」
「セントラル防衛線で復活した魔物、“宵闇の悪魔”だと私は思っている」
「宵闇の悪魔!
?」
だけど、ウィッグさんの想像は私とは違っていて、ある意味で正解だった...。
戦争に直接参加しなかった私の国にもその名前は届いている。
―宵闇の悪魔―
セントラル防衛線の地『ハザマ渓谷』
に封印された古代の魔物。
その封印が大きな戦争の気によって解かれ、戦時中に蘇った。
月の出ない夜に現れ、辺り一面を殺戮の血で染め上げ。
日の出とともに姿を消す。
初めての出現では復活を予見したベルメットさんが軍隊を退かせていたのでセントラル連合軍側に人的被害は出なかったけど、侵略側の『ドーガン王国』
には一夜にしてそれまでの戦い以上に死者を出したという。
その後の出現でもベルメットさんの予見でセントラル連合軍側に宵闇の悪魔の被害は出ることはなかったものの、その凄まじい惨状から連合軍側にも恐れられ、ドーガン王国の兵士は月のない夜を恐怖したという。
戦争が早く終わったのもその悪魔に恐れてとの噂もある。
「報告にあった惨状と、夜中に出現し、日の出には痕跡を残さず姿を消す。
宵闇の悪魔と一致している」
「イヤでも...、この平和な国に、なんで!
?」
魔王の加護は!
?
それとも加護のおかげで被害出なかったってこと!
?
「ヤツは戦争の気で復活した存在だ。
戦争が終わったあと、求めるものがあるとすれば闘争...、あるいは封印の一族であるベルメット殿を追ってきた可能性が...」
「ちょっとヅラ!
!」
ベルメットさんの名前が出そうな気がして、カチューシャを見ると体が震えている、冒険者としてベテランのあのカチューシャが、恐ろしいモノを思い出すように...。
話に聞くだけで凄まじい惨状だったらしいのに、カチューシャはあの戦争に参加して、それを実際に見て、もしかしたら襲われていた可能性もあった。
その名前を聞くだけでも怯えるのは当たり前だ。
それなのにベルメットさんのせいみたいに!
「あ...、大丈夫...。
たしかにお母さんを追ってきた可能性はあるかも...」
全然大丈夫そうじゃないじゃん...。
「スマン、配慮が足りなかった、ベルメット殿が呼びこんだというつもりはなかった」
「なんにせよ、ベルメットさんが出現を予見してたんでしょ?
あの人が鍵なのよ」
「話ではベルメット殿はあの地の生まれで封印の一族故に予見できたと聞いているが...」
「娘ちゃんはそういう能力受け継いでないの?」
あるなら話してるでしょ!
ホント無神経...って、そういえば。
「もしかしてカチューシャが昨日一人で出かけたのって...」
「や、ちがっ!
全然それは関係ない!
ただの遠出の仕事でっ!」
分かりやすくオロオロしている、嘘が下手で可愛いなー、ってそんな場合じゃなくて。
「ものすごく関係アリって顔してるじゃん!
もしかして一人で向かったの!
?」
倒せないにしても被害が出ないよう避難に向かったとか、そんな危ないことしてたの!
?
「だからホントに!
全然関係なくって!
私にはお母さんみたいな予見はできないし!」
「仕事だったのならクリップに確認取ればわかるよね?」
「あーーー!
?
ゴメンナサイ!
仕事なのはウソです!
でも本当に私用の遠出でっ!
全然関係なくって!」
私を含め全員の目が「あ、コレは関係あるな」
って確信していた。
「まぁ...。
何事もなかったならなによりだ。
一応、何かあれば相談して欲しい、キミの母親くらいには頼りになるつもりだ」
「はいぃ...」
一応この場はカチューシャは無関係という事になって、ベルメットさんに連絡を取って相談することになった。
とはいえ、予見できる(?
)カチューシャがいるなら大丈夫だろうから、明日の遠乗りタンデムデートは問題ないわよね。
仮に予見できなくても現れるの夜中だし、流石に暗くなる前には帰るわよ。
「で、なんでアンタがいるのよ...」
「ズッ友になんたるお言葉!
?」
厩舎に行くと馬が2頭用意されていてプリムがスタンバっていた。
当然、ソレを見てティアラは露骨に不機嫌になる。
「外に行くなら護衛がいて当然ですから!
騎士団長からも危険な魔物の出現を聞いています!」
いくら平和な国だからって護衛も付けず王女が出歩くのはたしかに危ないけれど...。
「今日は二人きりでデートしたいんだけど...」
「私のことはお構いなく!
空気みたいなものだと思って!
思いっきりイチャついて下さいませ!」
「空気っていうかヤブよね...」
まぁ、うるさいし存在感あるものね...。
居ても居なくてもイチャつくつもりはないけど。
「何かあれば騎士団長が即駆けつけてくれそうなので!
照明魔法の方もお忘れなく!」
念の為ウィッグさんもデート予定地の近くで巡回してるらしく、緊急時に使われてる簡単な照明魔法も教えてもらった。
こういうのはこの国ならではだね。
でも簡単だけど多分お母さんには使えないだろうなぁ。
そもそもお母さんには不要だろうけど。
そして不満気だったティアラだったけど、こういう事は慣れてるのか自分が王女であることへの自覚からなのか、それ以上不満も言わずプリムの同行を許可していた。
当の私はティアラの後ろに乗って、相乗りデートは始まった。
ティアラは凄い前に抱く形(王子様スタイル)で乗せたがってたけど流石に恥ずかしいのでダメ。
馬に乗るのは苦手だけれど、ティアラはあまりスピードも出せずにゆっくり走ってくれて、道も悪くないので私はのんびり乗ることができた。
「目的地って?」
適当に街道沿いをぶらつくだけと思ってたけれど、出発前の話によるとどうやら目的地はあるみたい?
「ヅラが警備するのに目的地決めろって言うからね」
「側に居ないだけ気は使ってくれてるんだろうけど...」
宵闇の悪魔ではない可能性も考えて、目的地周辺を警備するのが今回のデートの条件らしい。
この平和な国でそこまでって思っちゃうのは、私もこの国の平和ボケに毒されちゃったのかもしれない。
「あの山の上に王宮が管理してる空中庭園があるから、そこが目的地」
ティアラが差す方向にはこの辺で一番高い...と言ってもそれほど高くもない山がある。
「そういうのもあるんだね」
「この子が居た頃はよく一人で行ってたんだけど...、私も行くのは久しぶりだなー」
ティアラは口にはしないけど実は花が好きらしい、一緒に仕事で外に出るとよく道中の花に目をやっている。
そんなティアラが行くのが久しぶりなのも、失った愛馬との思い出が深いからなんだろうな。
「この子とまた行けるなんて夢みたい。
改めてありがとねカチューシャ」
「ライスシャワーのお礼はもう何度も聞いたよ」
「何度でも言いたいの!」
それだけ大事な存在を取り戻せたのほホントに良かったな。
それからも他愛のない話をしながら、ティアラはゆっくり目的地へ向かった。
王宮が管理しているだけあって、山道でもよく整備されていて坂も緩やかなもので、馬の苦手な私でも快適に登ることができた。
そういえばいつになくプリムが静かだなと思ったら私たちから50メートル程離れて気配遮断の魔法まで覆ってた。
今日はホントに気を遣ってくれてるらしい。
「わあ、凄い...!」
山の頂上、空中庭園につくとそこは青空を背景にした色とりどりの花畑。
魔法の噴水に花で作られたアーチと花びらのロード。
その花々に集まったコレまた色とりどりの蝶々たち。
そして魔力を帯びた花々から生まれる虹色の風。
ライスシャワーと昔よく来てた光景と同じ、美しく幻想的な景色があった。
「えへへ...、凄いでしょ」
この子を失ってからは来てなかったから少し不安だったけど、昔のまま大好きで自慢の空中庭園だった。
まぁ私が来なくなっても王母様たちが公務の合間にデートで来てたみたいだけど。
「色んなところを冒険してきたけど、こんな綺麗なところ始めてだよ!」
「冒険者のカチューシャにそう言ってもらえるなんて私も嬉しいな」
自分のことはあまり話さないカチューシャだからどんなところを冒険してきたかは知らないけれど、冒険生活の長いカチューシャが言うのだから、王女として自信を持ってこの空中庭園を誇れるわよね。
「ここからは歩きましょ」
ライスシャワーから先に降りてカチューシャを支えて降ろす。
後ろに乗せてて思ったけど、カチューシャは冒険生活が長い割に馬に乗り慣れてないみたい?
ホントに不思議な子よね。
「お前はここで待っててね」
ライスシャワーには悪いけど今日はカチューシャと二人きりの時間を作りたいの、ごめんね。
「ライスちゃん、ここまでありがとうね」
ちょっと不満そうだったけど私たちを追ってくる事もなく、ライスシャワーはあとから来るプリムを待って見送ってくれた。
「ここの花、みんな魔力を帯びてるの?」
「うん、この国は土地柄魔力が豊富でこういった花が沢山見つかるのよ。
今でこそ"百合の国“なんて言われてるけど、大昔は"魔法の花の国“って呼ばれてたんだって」
そしてそういった花を集めたのがこの空中庭園と解説する。
「魔力を帯びた花って、危ないのもありそうだけど...」
「そこはちゃんと計算されて植えられてるから」
流石はカチューシャ、ただ綺麗なだけじゃなくてそういった危険性もよく知ってる。
「あそこの白い花は周りの生き物を眠らせてしまうのだけど、周りの花を逆に気分の活性化や刺激の強めの香りで囲んだり...」
花畑の一画を指しながらカチューシャの疑問に応えていく。
「あの青い花はとあるモンスターが好む魔力を放出するのだけど、あたりの魔力を遮断する花と交互に植えたり...」
花の特性と色を考えて、綺麗に見えるようかつ安全になるようレイアウトされているのよね。
「へぇ...凄いね」
「とはいえ触れると危ない花もあるから、摘むのは構わないんだけど気になった花があれば言ってね」
昔と比べて花のレイアウトや種類が少し変わってるけど、見た感じ私のわからない花はないはず。
「あ、うん...凄いのは花畑もなんだけど...ティアラも凄いなって...」
「へ?
別に私が作った庭園じゃないけど...」
自慢の庭園ではあるけど私が関わったところなんてほんの一部だ。
「この庭園は王母様が母様の心を射止めるのに作ったものだし」
元々母様は旅の絵描きだったらしい、旅の途中にこの国に立ち寄った母様に一目惚れした王母様が、花の好きな母様をこの国に留めるために作らせたというのが経緯。
...あと母様の所属してたそのキャラバンの商人が私の両親だったり...。
「あの女王様にしてはロマンチックなことを...ってそうじゃなくて」
それは私もそう思う...と二人で苦笑したけど、どうやら庭園のことではないらしい。
「花のことをそんなに詳しい、ティアラが凄いなって」
この庭園はたしかに綺麗で凄いし、女王様たちの馴れ初めもロマンチックな話だけど、私は花のことに詳しいティアラも凄いと思った。
「えっ、あ、いや...自分の国のことだし王女としてそれくらい知ってて当然というか...、むしろ知識をひけらかしたみたいでちょっと恥ずかしいかな...」
「自分の国の事だからじゃなくて、好きな事だから詳しいんだよね?」
私も仕事柄薬草の知識はそこそこあるし、お金になるような珍しい植物の知識はそれなりにある。
でも、ティアラの話す知識はそういうのではなくて、とても嬉しそうに話してて、本当に花が大好きなんだなぁと改めて思った。
「いや...まぁ...はい」
「花が好きな事隠してるの?」
珍しく照れてるティアラに思ってた疑問を尋ねてみる。
別に隠すような趣味でもないと思うけど、普段のティアラは隠すように振る舞っている。
「隠しているって程でもないんだけど...なんていうか、女の子っぽ過ぎるでしょ?」
「女の子っぽ過ぎたらどうして駄目なの?」
むしろティアラは普通に女の子してると思うけど。
「私が目指してるのはカッコいい女の子だからさ...花が好きのなはイメージじゃないなーって...」
あーなるほど...そういうイメージ作りを気にしてたんだ。
「それじゃあもう私にはバレたんだから、そういうの気にしないで花を愛でてるティアラを見せて欲しいな」
「えぇ!
?
それはそれで恥ずかしいんだけど!
?」
「ふふふ、昨日のお返しでーす」
いつも真っ直ぐ気持ちを伝えてくれるティアラだから照れてる姿は珍しくて、私もいたずら心が芽生えちゃった。
「てぇてぇ!」
あとなんか遠くの方でプリムが死んだ音がしたけど、それは気にしないことにした...。
「他に誰もいないんだね?」
ティアラと並んで歩きながら庭園を見渡してみるけど、他に誰の姿も見つからない。
こんな場所なので私の得意の感知も使えないから隠れていたら分からないけれど。
「普段は管理してくれてる人がいるけど、気を遣ってくれてるのかな?」
或いは先に来てたウィッグさんが気を遣ってくれた?
それにしてはなんか...。
「どうかしたの?」
「うーんなんだろ...花の魔力のせいのかよくわからないんだけど、あの噴水のあたりに変な魔力を感じるなって...」
庭園の中央にある、おそらく魔法で動いている綺麗な噴水。
だけどその噴水から感じる“何か"はそう言った類の魔力ではなくて...。
「あの噴水にはそれほど特殊な魔法は使われてないはずだけど...、もしかして調子が悪いのかな」
「あ、ティアラ!」
と言ってティアラは噴水の様子を気にして駆け寄っていく。
冒険者の勘で嫌な予感がしたならすぐに止めるべきだったのだけど、最近の私は平和ボケしていて気を抜いていた...。
「特に動作におかしな様子は...っ!
?」
「えっ!
?」
私が噴水に近づいた瞬間、巨大な魔法陣が起動して庭園に強大な魔力の渦が浮かび上がる。
「召喚陣!
?
ティアラ、離れて!」
私にはそれが何か分からなかったけれど、経験豊富なカチューシャの言葉ですぐに噴水から飛び退く。
「グオオオオオ!」
「な...なによコレ!
?」
そして私が飛び退いてすぐ、噴水を押しつぶして巨大な竜のような2足のモンスターが現れた。
「上級魔物...魔族クラスの召喚陣!
?」
私にはコイツの正体は分からなかったけど、カチューシャは心当たりがあるらしい、けれど、言われなくてもかなり危険なヤツだってのは私にもわかる。
「姫様、引いて下さい!」
そして驚く私の前に今まで存在を隠していたプリムがやってくる。
「照明魔法は打ち上げました、すぐにウィッグさんも駆け付けます!
それまで私が引きつけますのでお逃げください!」
「そんなプリム一人にこんなヤツ...」
もしもの時は護衛の自分を見捨てて逃げろ、プリムとはそういう約束はしていた...、それが王女としての責任。
でも、いざその時になったら大事な友達を見捨てて逃げるなんて!
「私も手伝うからティアラは逃げて!」
カチューシャまで!
「グォアアアアア!」
逃げ出せない私を待ってくれるわけもなく、巨大な魔物は前傾姿勢になったと思うと口から黒色の炎を吐き出す。
「このおぉ!」
「くぅ...」
私の前に立つカチューシャとプリムが魔法の盾でそれを防いてくれるけど、その炎の息吹は強力で、二人を飲み込んだ...。
「うあ゛ぁ゛!」
「い゛あ゛ぁ゛!」
「プリム!
カチューシャ!」
そして二人の悲鳴に私は、焦りで魔力の構築が足らず出来損ないの魔法の盾で二人の前に立ってしまった...。
「そんな...、姫様!
?」
魔法の盾が耐えられず、炎が止んだ時に私の前にいたのは私たちを庇ってボロボロになったティアラだった。
「アイツの狙いは多分私だから...二人は逃げて...」
交代で庇いあったおかげかお互いのダメージは大きくは無いみたいだけど、とても戦える状態ではない、仮に戦えたとしても、ティアラの敵う相手じゃない。
「何言ってるんですか!
王女がメイドを庇うなんて...約束が違うじゃないですかぁ!」
とても主従に見えない親友の二人だけど、プリムにはちゃんとメイドとしての、ロイヤル・ガードとしての覚悟があるんだね...でも、そんな親友だからこそ、ティアラに見捨てられるはず無くて...
「グォオオ!」
私たちを見下ろす魔物が纏めて焼き払おうとまた口を広げて魔力を蓄えている。
「許せない...」
「カチューシャ...?」
「カチューシャ様?」
私は杖を捨てて二人の前に立ち、魔物を睨みつける。
「大丈夫...二人は私が守るから...」
隠し続けてきた私の秘密、ふたりを守るためには見せないわけにはいかない...。
でも...。
「ただ...嫌いにならないで...」
真実を打ち明けるのが怖かった、本当の私を知られるのが怖かった、私のチカラを...本当の姿を...
どうか、恐れないで─
「ワォオオオオン!」
カチューシャが吠えたと思ったらその気配が一変して、魔物は翼を広げて飛び退く。
私の前に立っているカチューシャの後ろ姿は、その頭にはオオカミのような耳が立って、スカートの下からは尻尾の先が見えていた。
「カチューシャ、その耳...」
「逃さない!」
魔物が飛び退いたのを見てカチューシャは前屈みで...四つ足で駆け出したと思うと一瞬で距離を詰める。
「シャァ!
!」
近づくカチューシャに魔物は腕を振りかざすが、カチューシャは避けるどころかその腕に向けて腕を引っ掻くように振るった。
─ズシャァァァ─
瞬間、巨大な魔力の爪が形成されて魔物の腕を真っ二つに引き裂く。
「グアオオオ!
!」
「ガァア゛!」
そして悲鳴を上げる魔物の後ろに回り込んだと思うと、巨大な翼が引き千切られる。
「ギャオオオン!」
飛び上がって魔物の頭上に現れたカチューシャはその両手を振り下ろし...巨大な魔力の爪が魔物を9つに引き裂いた...。
その性質は獰猛残虐、その四肢は超高速で大地を駆け、魔力を帯びた爪は瞬く間にあらゆるモノを引き裂く─
「ライカン...」
「それもあの強さ...彼女が宵闇の悪魔だったのだな...」
私が呟いた後に、いつの間にか駆け付けていたヅラが横から付け足す。
たしかにライカンの強さの程度はよく知らないけれどあの強さは異常だと思うし、それが当てはまるとすれば、宵闇の悪魔よね...。
この世界に留まるチカラがなくなったことで魔物は引き割いた体の部位ごと消滅して、危機が去った後に、私は本来の姿のままみんなのもとに戻った。
「えっと...」
いつかは話すべきだと思っていた...けど、こんな形で知られるなんて...。
しかもあんな凶暴な姿を見られて...。
「あぁぁぁ!
ゴメンナサイィ!
見ないでぇぇ!」
思わず耳を手で押さえて隠しながらうずくまる。
ライカンなのも、本当の性別もバレて...終わった...。
「カチューシャ、ありがとう!」
「カチューシャ様凄いです!」
「駆け付けるのが遅れた、殿下を守っていただき君には感謝しかない」
あれ...?
「私のこと...怖くないの...?」
私を倒せそうなウィッグさんはともかく、二人にはライカンなんて恐怖でしかないはずなのに...。
「なんで?
私たちのこと守ってくれたじゃん!」
「でも私...宵闇の悪魔として...沢山の人を殺して...」
そう、宵闇の悪魔の正体はチカラを暴走させた私なのだ...。
お母さんが封印の一族と言うことにして私の被害から自国の兵を遠ざけ、チカラの暴走を戦争に利用した。
「それは戦争だし...カチューシャが望んでやったことでもないでしょ?」
「それは勿論...そうだけど...」
イヤでも、あの惨状は戦いとか戦争とか呼べるようなものじゃなかったし...。
「それに私...ライカンだってずっと黙って...」
そして何より、男しかいないライカンであること...男である事実をずっと騙していたのだ、これはもう嫌われても仕方のないことのはずなんだけど...あまりショック受けてないような?
「いやーそりゃ、ライカンなのは話しにくいわよね」
「あまりに珍しすぎますモノね」
「私も300年以上生きてきて始めて見るな」
あれ?
国の近くにライカンの里あるんだよね?
そんな珍しいことはないはずじゃ...。
「女のライカンなんて、見つかったら大事だものね!」
「SSRですよSSR!
ちょーレアじゃないですか!」
「女のライカンなど邪なものに知られればどうなるか...隠すのは当然だろう」
え?
ライカンなのに、男だと思われてない!
?
「えっと...みんなには今の私がどう見えてるのかな...?」
うずくまって耳を隠しながら、今の私について尋ねてみる。
「愛でたい!」
「泣かせたい!」
「撫でてみたいところだな」
今すぐここから逃げ出したい...。
え、なに...正体バレて怖がられるどころか...男だとも思われてないの私!
?
「ともかく、今は急ぎ本部に戻り治療と状況の整理、君の事情に付いて話をしよう」
「あ、はい」
そういえば私のライカンバレで忘れてしまってたけど、明らかに王女のティアラが狙われた状況。
ウィッグさんが駆け付けてくれたとはいえみんなボロボロだし、なによりティアラが狙われたとしたらここも危険だ。
私の事情と魔物が現れた状況はひとまず置いといて、全員で騎士団本部に戻ることにした。
─カチューシャたちが騎士団本部に戻ってからしぼらく経った頃...
「あら、せっかく用意しましたのに負けましたのねあのデカブツ」
戦闘の跡地に赤髪の妖艶な女が現れる。
「魔族とえど、やはりガタイが良いだけのケモノは駄目ですわね、魔王様のように理知的でありませんと」
女は元より期待はしていなかっという風に残念がることもなく、戦いの状況を魔力の残滓から確認する。
「ふむ...圧倒しましたのね。
処女の守り手
メイデンセンチネル
とやらは思ったよりやるじゃないの」
そして感心しながらも魔力の残滓に違和感を覚える。
「妙ですわね...2体の魔族の残滓を感じますわ...それもあのデカブツよりも強力な...」
別の魔族の存在を確認して女は思案する。
「よもやメイデンセンチネルとやらは魔族?
だとすれば噂の強さにも納得がいきますわね」
ともすれば一度接触してみるべきか?
しかし“自分と同じく魔族"だとしても味方とは限らない。
と女は考えるが...
「まぁいいですわ、味方だろうと敵だろうと、どれだけ強かろうと、要は相手にしなければいいだけ」
罠も破られたしイレギュラーがいるとしても、女の当初の計画に支障はなった。
「魔王様は、この“不死身の魔女・マジェステ"が必ずや復活させますわ!」
不死身の魔女・マジェステ。
かつて魔王の片腕だった女は決意を胸に高笑いをする。
長らく平和だったユリゾンリリィに、かつてない脅威が迫っていた─
♡
シェア
リンクをコピー
← 前の話
勝利の女神よキスをして!
次の話 →
大好きな友達でアナタ
百合の国のプリンセス♂
作者:万能ねぎトロ
目次
コメント
0件
ログインしてコメントする
まだコメントがありません
ホーム
作品を書く
作品を探す
ランキング
コミュニティー
コンテスト
0
この本を読む →
次回からは小窓表示を非公開にしますか?