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第六話 兄の最期 前編

「なぁなぁ、俺ユキに聞きたいことがあるんだけどいいか?」

 シノは身を乗り出して皆に聞く。
「あぁ、聞けよ」とルカが促すと、シノは「よっしゃ」とユキの顔を覗き込んだ。
 
「ユキ、お前どうしてここに来たんだ? シンファになりたいからだけか?」

 誰もが疑問に思っていたことを、シノはまっすぐユキに聞いた。「目的はなんだ」と厳しい口調でユキに問いかけたドドリゴの声を、ルカはふと思い出した。

「もちろん、シンファになりたいからここに来ました。......でも、それだけが理由だと言うと嘘になります。......本当は兄の死について知りたくてここまで来ました」

 ルカは自分の心がズンと重たくなっていくのを感じた。「あら......」とハオも悲しそうな顔になる。

「そうよね、何年も離れて暮らしていて、急にお兄ちゃんが亡くなっちゃったものね。悲しかったでしょうユキちゃん......。私のことはおねーちゃんだと思っていいからね!」

 ハオはユキの頭を撫でながら言う。「どちらかと言えばお兄ちゃんだよね」とつぶやいたレイの声を、シノは「しっ!」と言ってかき消した。

「なぁユキ。お前ずっとリン・シャロルにいたんだろ? どうやってハクが死んだこと知ったんだよ?」

 シノがそう聞くと、ユキは言葉につまってしまった。

「......兄が死んだことを知った方法を教えることはできません。私たち種族の掟を破ることになります」

 ユキは申し訳なさそうに言った。ルカもそれを聞きたかったが、リン・シャロルの民の掟に触れるのであれば仕方がないだろうと思ってしまう。リン・シャロルには遠くの出来事を察知できる占い師のような者がいるのだろうかとルカは想像する。

「......ちょっと待ってくれ。確かにハクも種族の掟がどうとか言って故郷のことも、家族のことも何もしゃべらなかったけどさ、お前ハクのこと堂々と兄だって言っちゃったけどそれ掟破ったことにならないのか?」

「あ」と、シノとユキ以外の三人が声を出す。確かに家族のこと等を他種族に決して話してはならないと昔ハクが言っていたのに、色んな人にハクは自分の兄だと言っているユキの行為は掟を破っているように思えた。
「いえ」と、ユキは静かに首を振った。

「私たちが他種族に家族のことを言ってはいけない理由は、自分の家族を守るためです。
 他種族に家族の情報を渡すと家族が危険にさらされると言い伝えられているので、誰も家族のことを口外しないのです。
 ......私にはもう守るべき家族がいないので、家族のことならいくらでもしゃべれます」

 ユキは悲しそうに笑った。皆かける言葉を失ってしまう。ユキにとってハクが唯一の肉親であったことを、ユキは静かに語ったのだ。

「それに、兄だと正直に言わないと皆さんに会えないと思いましたから。
......最初ルカさんに兄はいるかと尋ねられた時ちょっと迷いましたが、あの時覚悟を決めました」

 ユキはルカを見て苦笑する。最初にそう尋ねた時、ユキの瞳がわずかに揺れていたことをルカは思い出していた。

「でも、みなさんのことやここでの暮らしのことは兄からの手紙で知っていました。
 ......兄からどうやって手紙をもらっていたのかも言うことはできません。
 私が兄からもらった最後の手紙は、兄が太陽の王に召し上げられる前日に書いたものです。私が知りたいのは、その後、兄が死ぬまでの話です」

 ユキは強い瞳で正面に座っていたルカを見つめた。シノは「手紙?」と訝しそうな表情でユキを見ていたが、それ以上何も聞かなかった。
 
「......辛い話になるぞ」

 ルカはユキを見つめ返す。ユキは黙ってこくりと頷いた。それを覚悟して聞くのだと、ユキの目が語っていた。

「ハクが前太陽の王に召し上げられたことは知っているな」

 そう言うだけでも、心臓が刃物を突き立てられたように痛むのをルカは感じた。

「はい」と、ユキは静かに返事をする。

「......二年前の春だった。ちょうど神居月に入ったばかりで、晩春の穏やかな風が吹いていたことを覚えている。その日は五神祭の決勝戦が大地の国で行われる日で、予選で負けた俺たちはそれを観戦しに行っていた。決勝戦は太陽の国の金獅子隊が大地の国の王蛇隊を僅差で破り優勝した。
 問題はその二日後に行われた、大会に参加したシンファたちを祝う宴で起きた。......今思えば、それに参加したことが全ての間違いだったのかもしれない。
 宴には各国代表のシンファ隊やシンファ長の他に、王族も参加していた。王たちはシンファたちの健闘を称える発言をするだけで、後は大抵王族だけで酒を飲んで話すだけで終わる。直接シンファに話かけても、一言、二言だけだ。・・・・・・だけど、前太陽の王、キンジュアは違った。最初からハクを欲望孕んだ目で見つめて、しゃくをするよう何度もハクを呼んだ。王の命令だから逆らえるはずもなく、ハクはあいつの言うことに全て応えた」

 言うたびに、キンジュアの忌々しい顔が脳裏にべったりと張り付いて、ルカの表情はゆがんでいった。ハクが作り笑いを浮かべながらあいつの相手をしているのを、ただ見つめることしかできなかった自分が嫌で仕方がなかった。

「ただの変態じじいだ」

 シノは吐き捨てるように言った。

「あいつ、酔ったふりをしてハクの体をべたべた触ってやがった。あのハクがあんなに引きつった笑いを浮かべてんのを俺は初めて見たね」

 ピリッと、空気がわずかに震えた。キンジュアの名が出たとたん、ユキの瞳が赤色に変化したことを、正面にいるルカは気づいていた。ユキは体の内側から溢れ出しそうなシンを抑えようと耐えているように見える。

「......王族や貴族には男色を嗜むものがいると聞いたことがあるが、まさかキンジュアがそうだとは知らなかった。
 宴が終わった後もずっとハクは不安そうな顔していた。
 ......その三日後だ、キンジュアがハクをよこせと言ってきたのは」

 今思えば、ハクの不安が的中しなかったことはなかったとルカは気付く。
 まさかキンジュアがハクを欲しがるとは、あの時の自分はつゆほども思わなかった。

「最初は何を馬鹿なことを言っているのかと思った。
 確かにハクは美しく、男女問わず人を惹き付けた。
 ......それでも、男が男を欲しがるなど、当時の俺は考えもつかなかった。
 もちろん、月の王ドゥアン様はそれを拒否した。月の国の優秀なシンファを太陽の国にやる義理はないとな。それでその話は終わったかのように思えた」

 ドゥアンがキンジュアの話を断ったと聞いた時、ルカは安堵したがハクの表情は曇ったままだった。
 大丈夫だとハクに何度言っても、ハクは「そうだね」と苦しそうに笑うだけだった。

「それから三ヶ月経って日照月になり、次の五神祭に向け予選が始まった。
 その年の一次予選の開催国は月の国で、各国代表のシンファたちがこの国に集まっていた。......事件はその時に起こった」

 ルカは言葉を途切れさせた。
 その時のことを思い出し、ルカの表情は暗くなっていく。
 ルカだけでなく、部屋の空気もだんだんと暗くなっていった。

「予選会場は北にある銀狼の森で、予選前日は多くのシンファ隊が下見のためにその森にやって来ていた。俺たち月虹隊も、その日は朝から森に入り会場の地形を見て作戦を立てようとしていた。......だが、森に入ってすぐ、森中に悲鳴が響き渡った」

 その時の様子を、ルカは鮮明に覚えていた。
 月虹隊は全員で朝早く森に入り、地形を確認しようとしていた時に悲鳴が響き渡ったのだ。まるでおぞましいものを見たかのようなただならぬ悲鳴に、ルカはどうしようもなく胸がざわつくのを抑えられなかった。
 
「一度だけじゃなく、何人かが何度も叫んでいるような声に、俺たちはすぐに声のする方向へ向かった。俺たちだけじゃない、森にいたシンファたちはほとんど同じ方向へ向かって走っていた。......現場にはすでに人だかりができていて、叫んでいるやつ、ただ呆然と立ち尽くすやつ、治安部隊を呼べと声を上げているやつ......とにかくひどい混乱状態だった。
 ......俺も人だかりの中心にあるものを見て、言葉を失った」

 一呼吸置き、ルカはまた重い口を開く。

「金獅子隊のリーヤ、ヒリンが死んでいた」
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禁断の白作者:御米田よね
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第六話 兄の最期 前編

「なぁなぁ、俺ユキに聞きたいことがあるんだけどいいか?」

 シノは身を乗り出して皆に聞く。
「あぁ、聞けよ」とルカが促すと、シノは「よっしゃ」とユキの顔を覗き込んだ。
 
「ユキ、お前どうしてここに来たんだ? シンファになりたいからだけか?」

 誰もが疑問に思っていたことを、シノはまっすぐユキに聞いた。「目的はなんだ」と厳しい口調でユキに問いかけたドドリゴの声を、ルカはふと思い出した。

「もちろん、シンファになりたいからここに来ました。......でも、それだけが理由だと言うと嘘になります。......本当は兄の死について知りたくてここまで来ました」

 ルカは自分の心がズンと重たくなっていくのを感じた。「あら......」とハオも悲しそうな顔になる。

「そうよね、何年も離れて暮らしていて、急にお兄ちゃんが亡くなっちゃったものね。悲しかったでしょうユキちゃん......。私のことはおねーちゃんだと思っていいからね!」

 ハオはユキの頭を撫でながら言う。「どちらかと言えばお兄ちゃんだよね」とつぶやいたレイの声を、シノは「しっ!」と言ってかき消した。

「なぁユキ。お前ずっとリン・シャロルにいたんだろ? どうやってハクが死んだこと知ったんだよ?」

 シノがそう聞くと、ユキは言葉につまってしまった。

「......兄が死んだことを知った方法を教えることはできません。私たち種族の掟を破ることになります」

 ユキは申し訳なさそうに言った。ルカもそれを聞きたかったが、リン・シャロルの民の掟に触れるのであれば仕方がないだろうと思ってしまう。リン・シャロルには遠くの出来事を察知できる占い師のような者がいるのだろうかとルカは想像する。

「......ちょっと待ってくれ。確かにハクも種族の掟がどうとか言って故郷のことも、家族のことも何もしゃべらなかったけどさ、お前ハクのこと堂々と兄だって言っちゃったけどそれ掟破ったことにならないのか?」

「あ」と、シノとユキ以外の三人が声を出す。確かに家族のこと等を他種族に決して話してはならないと昔ハクが言っていたのに、色んな人にハクは自分の兄だと言っているユキの行為は掟を破っているように思えた。
「いえ」と、ユキは静かに首を振った。

「私たちが他種族に家族のことを言ってはいけない理由は、自分の家族を守るためです。
 他種族に家族の情報を渡すと家族が危険にさらされると言い伝えられているので、誰も家族のことを口外しないのです。
 ......私にはもう守るべき家族がいないので、家族のことならいくらでもしゃべれます」

 ユキは悲しそうに笑った。皆かける言葉を失ってしまう。ユキにとってハクが唯一の肉親であったことを、ユキは静かに語ったのだ。

「それに、兄だと正直に言わないと皆さんに会えないと思いましたから。
......最初ルカさんに兄はいるかと尋ねられた時ちょっと迷いましたが、あの時覚悟を決めました」

 ユキはルカを見て苦笑する。最初にそう尋ねた時、ユキの瞳がわずかに揺れていたことをルカは思い出していた。

「でも、みなさんのことやここでの暮らしのことは兄からの手紙で知っていました。
 ......兄からどうやって手紙をもらっていたのかも言うことはできません。
 私が兄からもらった最後の手紙は、兄が太陽の王に召し上げられる前日に書いたものです。私が知りたいのは、その後、兄が死ぬまでの話です」

 ユキは強い瞳で正面に座っていたルカを見つめた。シノは「手紙?」と訝しそうな表情でユキを見ていたが、それ以上何も聞かなかった。
 
「......辛い話になるぞ」

 ルカはユキを見つめ返す。ユキは黙ってこくりと頷いた。それを覚悟して聞くのだと、ユキの目が語っていた。

「ハクが前太陽の王に召し上げられたことは知っているな」

 そう言うだけでも、心臓が刃物を突き立てられたように痛むのをルカは感じた。

「はい」と、ユキは静かに返事をする。

「......二年前の春だった。ちょうど神居月に入ったばかりで、晩春の穏やかな風が吹いていたことを覚えている。その日は五神祭の決勝戦が大地の国で行われる日で、予選で負けた俺たちはそれを観戦しに行っていた。決勝戦は太陽の国の金獅子隊が大地の国の王蛇隊を僅差で破り優勝した。
 問題はその二日後に行われた、大会に参加したシンファたちを祝う宴で起きた。......今思えば、それに参加したことが全ての間違いだったのかもしれない。
 宴には各国代表のシンファ隊やシンファ長の他に、王族も参加していた。王たちはシンファたちの健闘を称える発言をするだけで、後は大抵王族だけで酒を飲んで話すだけで終わる。直接シンファに話かけても、一言、二言だけだ。・・・・・・だけど、前太陽の王、キンジュアは違った。最初からハクを欲望孕んだ目で見つめて、しゃくをするよう何度もハクを呼んだ。王の命令だから逆らえるはずもなく、ハクはあいつの言うことに全て応えた」

 言うたびに、キンジュアの忌々しい顔が脳裏にべったりと張り付いて、ルカの表情はゆがんでいった。ハクが作り笑いを浮かべながらあいつの相手をしているのを、ただ見つめることしかできなかった自分が嫌で仕方がなかった。

「ただの変態じじいだ」

 シノは吐き捨てるように言った。

「あいつ、酔ったふりをしてハクの体をべたべた触ってやがった。あのハクがあんなに引きつった笑いを浮かべてんのを俺は初めて見たね」

 ピリッと、空気がわずかに震えた。キンジュアの名が出たとたん、ユキの瞳が赤色に変化したことを、正面にいるルカは気づいていた。ユキは体の内側から溢れ出しそうなシンを抑えようと耐えているように見える。

「......王族や貴族には男色を嗜むものがいると聞いたことがあるが、まさかキンジュアがそうだとは知らなかった。
 宴が終わった後もずっとハクは不安そうな顔していた。
 ......その三日後だ、キンジュアがハクをよこせと言ってきたのは」

 今思えば、ハクの不安が的中しなかったことはなかったとルカは気付く。
 まさかキンジュアがハクを欲しがるとは、あの時の自分はつゆほども思わなかった。

「最初は何を馬鹿なことを言っているのかと思った。
 確かにハクは美しく、男女問わず人を惹き付けた。
 ......それでも、男が男を欲しがるなど、当時の俺は考えもつかなかった。
 もちろん、月の王ドゥアン様はそれを拒否した。月の国の優秀なシンファを太陽の国にやる義理はないとな。それでその話は終わったかのように思えた」

 ドゥアンがキンジュアの話を断ったと聞いた時、ルカは安堵したがハクの表情は曇ったままだった。
 大丈夫だとハクに何度言っても、ハクは「そうだね」と苦しそうに笑うだけだった。

「それから三ヶ月経って日照月になり、次の五神祭に向け予選が始まった。
 その年の一次予選の開催国は月の国で、各国代表のシンファたちがこの国に集まっていた。......事件はその時に起こった」

 ルカは言葉を途切れさせた。
 その時のことを思い出し、ルカの表情は暗くなっていく。
 ルカだけでなく、部屋の空気もだんだんと暗くなっていった。

「予選会場は北にある銀狼の森で、予選前日は多くのシンファ隊が下見のためにその森にやって来ていた。俺たち月虹隊も、その日は朝から森に入り会場の地形を見て作戦を立てようとしていた。......だが、森に入ってすぐ、森中に悲鳴が響き渡った」

 その時の様子を、ルカは鮮明に覚えていた。
 月虹隊は全員で朝早く森に入り、地形を確認しようとしていた時に悲鳴が響き渡ったのだ。まるでおぞましいものを見たかのようなただならぬ悲鳴に、ルカはどうしようもなく胸がざわつくのを抑えられなかった。
 
「一度だけじゃなく、何人かが何度も叫んでいるような声に、俺たちはすぐに声のする方向へ向かった。俺たちだけじゃない、森にいたシンファたちはほとんど同じ方向へ向かって走っていた。......現場にはすでに人だかりができていて、叫んでいるやつ、ただ呆然と立ち尽くすやつ、治安部隊を呼べと声を上げているやつ......とにかくひどい混乱状態だった。
 ......俺も人だかりの中心にあるものを見て、言葉を失った」

 一呼吸置き、ルカはまた重い口を開く。

「金獅子隊のリーヤ、ヒリンが死んでいた」
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禁断の白作者:御米田よね
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