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第五話 虹石の瞳

「遅かったなハオ。
てっきり今日は来ないのかと思ったぞ」

「何言ってんのよシノちゃん!
あんたからの手紙読んで、大急ぎでここまで来たんだから!!」

 ハオはシノに向かって怒ったように言った。
 ハオの家は中心街にあり、兵舎からだとだいぶかかる。
 自分たちが兵舎にたどり着いて、ユキの噂を聞いたシノが文書鳥を飛ばし、ハオの元に届いてから今までの時間でここまで来たのだから、中々早いほうだろうとルカは思う。

「大変だったわよ!
 無我夢中で走って来たはいいものの、この時間って兵舎閉まっちゃってるでしょ?
 どれだけ玄関叩いても誰も出ないから焦っちゃって。
 扉蹴破ろうかとか、窓に石投げようかとか考えてたら、急に玄関が開いて中からなんとホーマと取り巻き連中が出て来たのよ!
 しかも、あいつ私を見るなり盛大に舌打ちしてそのまま去ってったのよ!!
 なんなのあいつ!! 本当に腹立つわ!!!」

「まあそのおかげで中入れたけどね!」と怒りながらもハオは最後に付け足した。
「悪いハオ、鍵閉まってること忘れてた」と、シノは悪びれることなく謝った。

「あぁ、さっきあいつと一悶着あったんだよ」

 と、ルカは先ほどの騒ぎをハオに説明し始める。

「そんなことがあったのね......。
 どおりでここに来る途中みんなにすごく注目された訳だわ。
てか、なんなのホーマのやつ!
よくもまぁそんな色んな悪口が思いつくわねぇ、暇なのかしら!」

「まったくだ」とシノはハオに相槌を打つ。

「男女と女男っていうのが分かりにくいよなぁ。
 男女ってどっちだ? 俺か?」

「そうね。きっと男女がシノちゃんで、女男が私ね。
 まったく失礼しちゃうわ!」

 シノとハオの会話を聞きながら、ルカは改めて月虹隊の個性豊かな面々を見渡した。
 月虹隊のやつらは癖のあるやつしかいないと昔から言われ続けてきたが、誉め言葉であるとルカは前向きに考えている。

「まぁ、俺とハオへの悪口はかわいいもんだとして、レイへの悪口は許せねぇよなぁ。
 レイはうちの隊に残された唯一の良心だってのにさ。
 王族があんなだから、いつまでたっても奴隷の境遇も差別も無くなんねぇのさ」

 シノが忌々しげに言い放つが、ユキはきょとんとした顔でレイに目を向けた。
 それを見てレイは「あぁ」とつぶやく。

「俺はヤン族っていう元奴隷の種族の出身なんだ。
 まぁ奴隷だったのは俺の祖父の代までで、今では違うんだけどね。
 それでも奴隷だと差別する人は少なくないんだ」

 レイは淡々と言ったが、ルカは胸がチクリと痛むのを感じた。
「奴隷でないのに?」とユキは悪気なく言ってしまう。

「肌の色だよ」

 レイはまたさらりと言う。

「このヤン族の肌色である褐色の肌は奴隷のしるしだと言われているんだ。
 だから、奴隷でなくとも褐色の肌の人を見ると奴隷だと差別する人が多いんだ。
奴隷は家畜と同じだってね。
 ......小さい頃は肌が褐色ってだけで見ず知らずの人からも罵られるもんだから、この肌を恨んだこともあったけど、今じゃもう慣れちゃったよ」

 レイは少し悲しそうに笑って言った。

「そんな、納得いきません。
 だってレイさん、すごく優しいのに、外見だけを見て罵られるなんて意味が分からないです。
 そんなに綺麗な肌の色なのに!」

 ユキはレイの悲しそうな顔に耐えられず、思わず必死に言ってしまう。
 別にレイを慰めるために言っているのではなく、すべて本心からの言葉だった。

 ユキの言葉にレイは驚いた顔をしたが、すぐに吹き出してしまった。
 それにつられてユキ以外の三人も笑い出す。それを見てユキはさらに戸惑った顔になる。

「......ごめんユキ、ちょっと昔を思い出しちゃった」

 レイはほほ笑みながら言う。

「ハクと初めて会った時も、同じようなこと言われたからさ」

 懐かしそうに言うレイに、ルカは「そういうこともあったなぁ」と同じく昔を懐かしんだ。

「......まぁ、あんなやつの言うことなんて、何も気にしなくていいってことさ。
 そんなことより、全員そろったんだからさっそく色々話そうぜ。
 まずルカ、お前どうやってユキと出会ったんだよ?」

「あぁ、俺今日レイと王宮行く用事あったろ。その帰りで偶然奴隷として連れられて来たとこに出会ったんだよ」

 ルカは王宮での出来事とシノとハオに説明する。

「じゃぁ、本当にハクちゃんと同じような感じで来たのね......。本当に運が良かったわねユキちゃん。ルカとレイちゃんがいなかったら、今頃どうなっていたか分からないわ」

 ハオは心配そうな顔でユキの顔を覗き込む。

「ユキがギールの野郎の手に渡ってたら面倒くさいことになってたろうな。一生王宮から出てこられなかったかもしんねぇ。それよりもハオ、お前最後に来ただろ? 自己紹介しとけよ」

 シノがハオを指さし、ハオは「あぁ、そうね」と言ってユキのほうを向いた。

「私はハオルド、ハオって呼んでね。
 十八歳で、ルカやレイちゃん、そしてハクちゃんよりもひとつ年上なのよ。
 月虹隊での役職は『心晶師シン・アティア』って言って、シンファの中でも特殊な役職なの。
 心晶石って知ってる?」

 優しく問いかけるハオにユキは「はい」と答える。
 そのやり取りに、先ほどシンファ長の部屋であった出来事をルカは思い出しだ。

「心晶石のことをユキは知ってるさ、ハオ。
 さっきなんて共鳴石を白色に光らせたんだぜ」

 ルカがそう言うと「やっぱり!」とハオは目を輝かせた。

「すごいわユキちゃん! 白色に光らせるなんて、もう奇跡としか言いようがないことなのよ! さすがハクちゃんの妹ねぇ。
 そのシンの量、私たちシン・アティアにとって喉から手が出るほど欲しいものだわ」

「すごいわねぇ」と言いながらハオはユキの頭を優しくなでる。
 それをユキはどこか照れくさそうにしながらも、黙ってなでられていた。

「話を戻すとね、シン・アティアって言うのは簡単に言うと心晶石を加工してシンファたちの武器をつくる人のことを言うの。試合に出ることはないけど、ルカの剣や、レイちゃんの弓や、シノちゃんのあれこれも全部私が調整してるのよ」

 ハオは誇らしげにユキに語る。
 
「シンファが自分のシンを最大限に使えるかどうかは、武器によってだいぶ左右されるからな。自分の能力に合った武器を調整してもらうには、自分の能力をよく知っていて、かつシンや心晶石について熟知しているシン・アティアが不可欠だ。
 ハオはここにいる誰よりもそれらの扱いに長けているから、なんでも聞くといい」

「ルカの言うとおりよ! 他にもここでの生活のこととか、困ったことがあったらなんでも言ってちょうだいね」
 
 ハオはユキに向かってにっこりと微笑んだ。

「まぁ、ユキがハオの世話になることは滅多にないだろうけどな」

「え?」と、ユキは首を傾げてシノを見る。
「ちょっと、それどういう意味よシノちゃん」と、ハオも不服そうにシノの方を向いた。
「だって、ユキはハクと同じ『至高の人リーヤ』になるんだろ? 剣や弓みたいな武器を使わず、己のシンだけで戦うんだ。あんだけ強いシン持ってんのに、リーヤにならねぇなんてもったいねぇよ」

 シノの言葉に、「あぁ、そういうことか」と、ルカは頷く。

「確かに、俺みたいな『心剣使いザンファ』やレイみたいな『心弓使いリユーファ』になるのなら、石を加工して武器にしてもらうためにハオの力は必要不可欠だけど、リーヤになるのなら武器は必要ないからな。リーヤはさっきのお前みたいに、心晶石がなくても多量のシンを自身の体から自在に放出して攻撃できる人間しかなることができない。
 お前なら充分リーヤになる資質があるが、ユキ、お前は何になりたいんだ?」

 ルカがユキの方を見るとユキは輝いた瞳でルカを見つめ返していた。

「もちろん、兄と同じリーヤです」

 ユキがそう言うと、ルカの心にも輝く何かが流れ込んでくるようだった。
 もう一度、あの素晴らしいリーヤの技を間近で見ることができるのだと思うと、どうしようもなく懐かしく温かい思いが胸の奥底から込み上げてきた。

「ハクの後釜ほど難しいものはねぇぞ、ユキ。なんたってお前の兄ちゃんは、歴代一のリーヤとして五国に知れ渡ってんだからな!」
 
 シノは笑いながらユキの背中を叩く。
 ハクのリーヤとしての才能はずば抜けており、他国の同じ年代のリーヤたちとの交流試合でも負けたことがなかった。
 五神祭で一位や二位になった隊のリーヤたちと対戦しても引けを取らない実力があることは、シンファならば誰もが知っているだろう。

「大丈夫よ、ユキちゃんは今のところこのクィージェナで一番シンが強いんだもの。きっとすごいリーヤになれるわ。
私も早くユキちゃんが共鳴石を白く光らせるのを見たいわぁ。
 やっぱり、リン・シャロルの人たちはみんなシンが強いのかしら」
 
 ハオはユキを見てうっとりと言う。

「お前もそう思うか?」

 ルカも先ほど同じようなことをユキにいったことを思い出し、ハオに聞いた。

「えぇ。なんたって、リン・シャロルの人たちはその目に虹石を宿しているんだもの!
 シンが強くて当然よ」

 そう言って、ハオはユキの目を覗き込み、ユキは思わず目をぱちくりさせた。

「あぁ、リン・シャロルの民の目は虹石でできてるって話か。
 でもそれってでたらめだったんだろ?」

「知ってるわよ。例えよ、たとえ!
 もう、夢がないわねぇシノちゃんは」

 ハオは少しむすっとしてシノを見る。

「虹石はね、莫大な量のシンを蓄積しているとされる伝説の心晶石のことを言うのよ。
 常に虹色に輝いていて、そのシンを放出させれば瞬く間に真っ白な光がクィージェナの地全体を包み込むとされているの。
 ......まぁ、神話に出てくるお話だから、実在はしていないんだけどね。
 もしかして、ユキちゃんは虹石のことももう知っていたかしら?」

 ハオの問いかけに、ユキは「はい」とうなずく。

「あらそうなの。ユキちゃんはもう色んなことを知っているのねぇ」

 と、ハオは感心したように言う。

「でも、その話のせいでもあるだろ? 昔リン・シャロルの民が捕らえられて人身売買されたのってさ。
『リン・シャロルの民の目は虹石でできてる』って誰かが言いやがったから、その目欲しさに捕まえて、目を抉り出してたって聞くぜ。
 でも、結局取り出した目の瞳は黒色のまま変化しなくて、シンも全然貯めてなかったんだろ? まったく、酷いことしやがるぜ」

 シノは吐き捨てるように言った。ユキは表情こそ変えなかったが、その瞳をわずかに青色に染めていた。
 
「ちょっとシノちゃん、もっと遠回しに言いなさいよ! ごめんなさいねユキちゃん、悲しい話をしちゃって。
 でも、昔この地で戦争があった時は、どこの国も強い武器を作るために血眼になって虹石を探していたの。そのためにリン・シャロルの民も利用していた......。
 虹石なんて神話上のものでこの世に存在しないのに、本当、馬鹿な話よね」

 ハオはユキに向かって申し訳なさそうに言う。
 昔捕らえられたリン・シャロルの民の中には、王族に召し上げられる者のほかに、その瞳の珍しさから研究のために利用される者も多くいた。しかし、リン・シャロルの民から離された瞳は、永遠に光を失い、二度と虹色に輝くことはなかったとされる。

「その話は故郷、リン・シャロルにいたころに聞いたことがあります。
 でも今はそんなことをしていないのでしょう?
 ハオさんは何も悪くありませんし、それに私、この瞳を褒められて嬉しかったです」
 
 申し訳なさそうな顔のままのハオに、ユキは黒色の瞳で穏やかに笑いかける。
「あら、本当にいい子ねぇ」と、ハオは顔をほころばせる。

「優しいところもハクちゃんにそっくりだわ。絶対ユキちゃんもハクちゃんみたいな立派なリーヤになれるわよ。そして五神祭まで勝ち上がって、あのにっくきホーマがいる金獅子隊を蹴散らしてちょうだい!」

 ハオはこぶしに力を込めてユキに言う。ユキは少し引き気味に「はい」と返事をした。

「どうかな、ハオ。ユキはそんなにハクに似てないような気がするぜ」

 シノはいたずらぽっくほほ笑んで言う。「え」と、ユキは驚いてシノの方を見た。ルカもユキのどこがハクに似ていないのか分からず、困惑してシノを見る。

「何よ、ユキちゃんのどこがハクちゃんに似ていないって言うのよ」
 
 ハオは不満げにシノに向かって言った。

「何がって、さっきユキはホーマの売った喧嘩を見事に買ったんだぜ。ハクなら絶対そんなことはしなかったね。こいつはハクよりもはるかに気が強い。ユキはハクとは全く違う感じのリーヤになると俺は思うね」

 ユキは少しドキリとしたようにシノを見る。ルカは思わず「確かに」とつぶやいた。外見はハクそっくりであったが、性格はまるで違うと、ルカ自身も先ほどのホーマとの言い合いで感じていた。

「あら、そうなの。ユキちゃんにそんな一面があるのねぇ。いいじゃない、気が強い女って結構好きよ」

 ハオはまた微笑んで言う。
 その言葉に、ユキは「ありがとうございます」と少し困ったように笑った。
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禁断の白作者:御米田よね
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第五話 虹石の瞳

「遅かったなハオ。
てっきり今日は来ないのかと思ったぞ」

「何言ってんのよシノちゃん!
あんたからの手紙読んで、大急ぎでここまで来たんだから!!」

 ハオはシノに向かって怒ったように言った。
 ハオの家は中心街にあり、兵舎からだとだいぶかかる。
 自分たちが兵舎にたどり着いて、ユキの噂を聞いたシノが文書鳥を飛ばし、ハオの元に届いてから今までの時間でここまで来たのだから、中々早いほうだろうとルカは思う。

「大変だったわよ!
 無我夢中で走って来たはいいものの、この時間って兵舎閉まっちゃってるでしょ?
 どれだけ玄関叩いても誰も出ないから焦っちゃって。
 扉蹴破ろうかとか、窓に石投げようかとか考えてたら、急に玄関が開いて中からなんとホーマと取り巻き連中が出て来たのよ!
 しかも、あいつ私を見るなり盛大に舌打ちしてそのまま去ってったのよ!!
 なんなのあいつ!! 本当に腹立つわ!!!」

「まあそのおかげで中入れたけどね!」と怒りながらもハオは最後に付け足した。
「悪いハオ、鍵閉まってること忘れてた」と、シノは悪びれることなく謝った。

「あぁ、さっきあいつと一悶着あったんだよ」

 と、ルカは先ほどの騒ぎをハオに説明し始める。

「そんなことがあったのね......。
 どおりでここに来る途中みんなにすごく注目された訳だわ。
てか、なんなのホーマのやつ!
よくもまぁそんな色んな悪口が思いつくわねぇ、暇なのかしら!」

「まったくだ」とシノはハオに相槌を打つ。

「男女と女男っていうのが分かりにくいよなぁ。
 男女ってどっちだ? 俺か?」

「そうね。きっと男女がシノちゃんで、女男が私ね。
 まったく失礼しちゃうわ!」

 シノとハオの会話を聞きながら、ルカは改めて月虹隊の個性豊かな面々を見渡した。
 月虹隊のやつらは癖のあるやつしかいないと昔から言われ続けてきたが、誉め言葉であるとルカは前向きに考えている。

「まぁ、俺とハオへの悪口はかわいいもんだとして、レイへの悪口は許せねぇよなぁ。
 レイはうちの隊に残された唯一の良心だってのにさ。
 王族があんなだから、いつまでたっても奴隷の境遇も差別も無くなんねぇのさ」

 シノが忌々しげに言い放つが、ユキはきょとんとした顔でレイに目を向けた。
 それを見てレイは「あぁ」とつぶやく。

「俺はヤン族っていう元奴隷の種族の出身なんだ。
 まぁ奴隷だったのは俺の祖父の代までで、今では違うんだけどね。
 それでも奴隷だと差別する人は少なくないんだ」

 レイは淡々と言ったが、ルカは胸がチクリと痛むのを感じた。
「奴隷でないのに?」とユキは悪気なく言ってしまう。

「肌の色だよ」

 レイはまたさらりと言う。

「このヤン族の肌色である褐色の肌は奴隷のしるしだと言われているんだ。
 だから、奴隷でなくとも褐色の肌の人を見ると奴隷だと差別する人が多いんだ。
奴隷は家畜と同じだってね。
 ......小さい頃は肌が褐色ってだけで見ず知らずの人からも罵られるもんだから、この肌を恨んだこともあったけど、今じゃもう慣れちゃったよ」

 レイは少し悲しそうに笑って言った。

「そんな、納得いきません。
 だってレイさん、すごく優しいのに、外見だけを見て罵られるなんて意味が分からないです。
 そんなに綺麗な肌の色なのに!」

 ユキはレイの悲しそうな顔に耐えられず、思わず必死に言ってしまう。
 別にレイを慰めるために言っているのではなく、すべて本心からの言葉だった。

 ユキの言葉にレイは驚いた顔をしたが、すぐに吹き出してしまった。
 それにつられてユキ以外の三人も笑い出す。それを見てユキはさらに戸惑った顔になる。

「......ごめんユキ、ちょっと昔を思い出しちゃった」

 レイはほほ笑みながら言う。

「ハクと初めて会った時も、同じようなこと言われたからさ」

 懐かしそうに言うレイに、ルカは「そういうこともあったなぁ」と同じく昔を懐かしんだ。

「......まぁ、あんなやつの言うことなんて、何も気にしなくていいってことさ。
 そんなことより、全員そろったんだからさっそく色々話そうぜ。
 まずルカ、お前どうやってユキと出会ったんだよ?」

「あぁ、俺今日レイと王宮行く用事あったろ。その帰りで偶然奴隷として連れられて来たとこに出会ったんだよ」

 ルカは王宮での出来事とシノとハオに説明する。

「じゃぁ、本当にハクちゃんと同じような感じで来たのね......。本当に運が良かったわねユキちゃん。ルカとレイちゃんがいなかったら、今頃どうなっていたか分からないわ」

 ハオは心配そうな顔でユキの顔を覗き込む。

「ユキがギールの野郎の手に渡ってたら面倒くさいことになってたろうな。一生王宮から出てこられなかったかもしんねぇ。それよりもハオ、お前最後に来ただろ? 自己紹介しとけよ」

 シノがハオを指さし、ハオは「あぁ、そうね」と言ってユキのほうを向いた。

「私はハオルド、ハオって呼んでね。
 十八歳で、ルカやレイちゃん、そしてハクちゃんよりもひとつ年上なのよ。
 月虹隊での役職は『心晶師シン・アティア』って言って、シンファの中でも特殊な役職なの。
 心晶石って知ってる?」

 優しく問いかけるハオにユキは「はい」と答える。
 そのやり取りに、先ほどシンファ長の部屋であった出来事をルカは思い出しだ。

「心晶石のことをユキは知ってるさ、ハオ。
 さっきなんて共鳴石を白色に光らせたんだぜ」

 ルカがそう言うと「やっぱり!」とハオは目を輝かせた。

「すごいわユキちゃん! 白色に光らせるなんて、もう奇跡としか言いようがないことなのよ! さすがハクちゃんの妹ねぇ。
 そのシンの量、私たちシン・アティアにとって喉から手が出るほど欲しいものだわ」

「すごいわねぇ」と言いながらハオはユキの頭を優しくなでる。
 それをユキはどこか照れくさそうにしながらも、黙ってなでられていた。

「話を戻すとね、シン・アティアって言うのは簡単に言うと心晶石を加工してシンファたちの武器をつくる人のことを言うの。試合に出ることはないけど、ルカの剣や、レイちゃんの弓や、シノちゃんのあれこれも全部私が調整してるのよ」

 ハオは誇らしげにユキに語る。
 
「シンファが自分のシンを最大限に使えるかどうかは、武器によってだいぶ左右されるからな。自分の能力に合った武器を調整してもらうには、自分の能力をよく知っていて、かつシンや心晶石について熟知しているシン・アティアが不可欠だ。
 ハオはここにいる誰よりもそれらの扱いに長けているから、なんでも聞くといい」

「ルカの言うとおりよ! 他にもここでの生活のこととか、困ったことがあったらなんでも言ってちょうだいね」
 
 ハオはユキに向かってにっこりと微笑んだ。

「まぁ、ユキがハオの世話になることは滅多にないだろうけどな」

「え?」と、ユキは首を傾げてシノを見る。
「ちょっと、それどういう意味よシノちゃん」と、ハオも不服そうにシノの方を向いた。
「だって、ユキはハクと同じ『至高の人リーヤ』になるんだろ? 剣や弓みたいな武器を使わず、己のシンだけで戦うんだ。あんだけ強いシン持ってんのに、リーヤにならねぇなんてもったいねぇよ」

 シノの言葉に、「あぁ、そういうことか」と、ルカは頷く。

「確かに、俺みたいな『心剣使いザンファ』やレイみたいな『心弓使いリユーファ』になるのなら、石を加工して武器にしてもらうためにハオの力は必要不可欠だけど、リーヤになるのなら武器は必要ないからな。リーヤはさっきのお前みたいに、心晶石がなくても多量のシンを自身の体から自在に放出して攻撃できる人間しかなることができない。
 お前なら充分リーヤになる資質があるが、ユキ、お前は何になりたいんだ?」

 ルカがユキの方を見るとユキは輝いた瞳でルカを見つめ返していた。

「もちろん、兄と同じリーヤです」

 ユキがそう言うと、ルカの心にも輝く何かが流れ込んでくるようだった。
 もう一度、あの素晴らしいリーヤの技を間近で見ることができるのだと思うと、どうしようもなく懐かしく温かい思いが胸の奥底から込み上げてきた。

「ハクの後釜ほど難しいものはねぇぞ、ユキ。なんたってお前の兄ちゃんは、歴代一のリーヤとして五国に知れ渡ってんだからな!」
 
 シノは笑いながらユキの背中を叩く。
 ハクのリーヤとしての才能はずば抜けており、他国の同じ年代のリーヤたちとの交流試合でも負けたことがなかった。
 五神祭で一位や二位になった隊のリーヤたちと対戦しても引けを取らない実力があることは、シンファならば誰もが知っているだろう。

「大丈夫よ、ユキちゃんは今のところこのクィージェナで一番シンが強いんだもの。きっとすごいリーヤになれるわ。
私も早くユキちゃんが共鳴石を白く光らせるのを見たいわぁ。
 やっぱり、リン・シャロルの人たちはみんなシンが強いのかしら」
 
 ハオはユキを見てうっとりと言う。

「お前もそう思うか?」

 ルカも先ほど同じようなことをユキにいったことを思い出し、ハオに聞いた。

「えぇ。なんたって、リン・シャロルの人たちはその目に虹石を宿しているんだもの!
 シンが強くて当然よ」

 そう言って、ハオはユキの目を覗き込み、ユキは思わず目をぱちくりさせた。

「あぁ、リン・シャロルの民の目は虹石でできてるって話か。
 でもそれってでたらめだったんだろ?」

「知ってるわよ。例えよ、たとえ!
 もう、夢がないわねぇシノちゃんは」

 ハオは少しむすっとしてシノを見る。

「虹石はね、莫大な量のシンを蓄積しているとされる伝説の心晶石のことを言うのよ。
 常に虹色に輝いていて、そのシンを放出させれば瞬く間に真っ白な光がクィージェナの地全体を包み込むとされているの。
 ......まぁ、神話に出てくるお話だから、実在はしていないんだけどね。
 もしかして、ユキちゃんは虹石のことももう知っていたかしら?」

 ハオの問いかけに、ユキは「はい」とうなずく。

「あらそうなの。ユキちゃんはもう色んなことを知っているのねぇ」

 と、ハオは感心したように言う。

「でも、その話のせいでもあるだろ? 昔リン・シャロルの民が捕らえられて人身売買されたのってさ。
『リン・シャロルの民の目は虹石でできてる』って誰かが言いやがったから、その目欲しさに捕まえて、目を抉り出してたって聞くぜ。
 でも、結局取り出した目の瞳は黒色のまま変化しなくて、シンも全然貯めてなかったんだろ? まったく、酷いことしやがるぜ」

 シノは吐き捨てるように言った。ユキは表情こそ変えなかったが、その瞳をわずかに青色に染めていた。
 
「ちょっとシノちゃん、もっと遠回しに言いなさいよ! ごめんなさいねユキちゃん、悲しい話をしちゃって。
 でも、昔この地で戦争があった時は、どこの国も強い武器を作るために血眼になって虹石を探していたの。そのためにリン・シャロルの民も利用していた......。
 虹石なんて神話上のものでこの世に存在しないのに、本当、馬鹿な話よね」

 ハオはユキに向かって申し訳なさそうに言う。
 昔捕らえられたリン・シャロルの民の中には、王族に召し上げられる者のほかに、その瞳の珍しさから研究のために利用される者も多くいた。しかし、リン・シャロルの民から離された瞳は、永遠に光を失い、二度と虹色に輝くことはなかったとされる。

「その話は故郷、リン・シャロルにいたころに聞いたことがあります。
 でも今はそんなことをしていないのでしょう?
 ハオさんは何も悪くありませんし、それに私、この瞳を褒められて嬉しかったです」
 
 申し訳なさそうな顔のままのハオに、ユキは黒色の瞳で穏やかに笑いかける。
「あら、本当にいい子ねぇ」と、ハオは顔をほころばせる。

「優しいところもハクちゃんにそっくりだわ。絶対ユキちゃんもハクちゃんみたいな立派なリーヤになれるわよ。そして五神祭まで勝ち上がって、あのにっくきホーマがいる金獅子隊を蹴散らしてちょうだい!」

 ハオはこぶしに力を込めてユキに言う。ユキは少し引き気味に「はい」と返事をした。

「どうかな、ハオ。ユキはそんなにハクに似てないような気がするぜ」

 シノはいたずらぽっくほほ笑んで言う。「え」と、ユキは驚いてシノの方を見た。ルカもユキのどこがハクに似ていないのか分からず、困惑してシノを見る。

「何よ、ユキちゃんのどこがハクちゃんに似ていないって言うのよ」
 
 ハオは不満げにシノに向かって言った。

「何がって、さっきユキはホーマの売った喧嘩を見事に買ったんだぜ。ハクなら絶対そんなことはしなかったね。こいつはハクよりもはるかに気が強い。ユキはハクとは全く違う感じのリーヤになると俺は思うね」

 ユキは少しドキリとしたようにシノを見る。ルカは思わず「確かに」とつぶやいた。外見はハクそっくりであったが、性格はまるで違うと、ルカ自身も先ほどのホーマとの言い合いで感じていた。

「あら、そうなの。ユキちゃんにそんな一面があるのねぇ。いいじゃない、気が強い女って結構好きよ」

 ハオはまた微笑んで言う。
 その言葉に、ユキは「ありがとうございます」と少し困ったように笑った。
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