理解者
白状する。私は、ウチに他人を入れたことなど一度もない。そして、今回も例外にはなりそうもない。飼い猫を取り込んだだけだ。
「おお、あまり変わっていないな。俺が爪を研いだ跡も残っている」
「さっさと部屋に来なさい、二階よ」
勉強机とイス、それにベッド。ぬいぐるみのひとつも置いていない、我ながら殺風景な部屋。
おはぎは、キョロキョロとしながら落ち着かない様子だ。
「どうしたの? 自分の家なんだから、少しはくつろいだらどう?」
「アレが無い」
「アレ?」
「猫砂だ」
「......漏らしたら消すわ」
十年もあって人間のトイレの仕方も覚えられないなんて、しょせん猫ね。
「良い? この便器の内側に出して。外側を汚したら......」
「心配いらん、こう見えて綺麗好きだ」
おはぎが用を足している間、少し冷静になって思い返した。おはぎは辛さを、孤独を理解してくれた。それも家族として。猫に損得勘定なんてない。本音だ。
......少しだけ、信じてみようかな。
用を足し終わり、おはぎが出てくる。
「なんだ、アリサ。トイレの前で待っていたのか?」
そう言えば、待っている必要なんてどこにもなかった。
「アナタ、迷子になるといけないでしょう?」
「この家は俺の家だ。そう言ったのはお前だ。自分の家で迷子になる愚か者がいるものか」
こ、この......バカにして!!
「部屋に戻るわよ!!」
「何をムキになっている? そうか、お前......」
おはぎは、真顔で「我慢しているのか?」と言った。
「信じられない! さっさと部屋に戻るわよ!」
部屋に戻ると、おはぎがきいてきた。
「アリサ。お前、どれくらいチカラがある?」
「チカラ? せいぜい、スマホ越しに幽霊が見えるだけよ」
「ふむ、なら問題はないか。チカラを持て余すとロクなことにならんからな」
「アナタはどうなの? 化け猫って、スゴいチカラ持ってたりするの?」
おはぎは、少し含み笑いをして、「まあ、な」とだけ言った。
「それより、アリサ。お前、孤立しているのだろう?」
「なぜ、そう思うの?」
「経験、だな。俺は老衰で死んだんだ。その上化け猫として過ごしている。お前の倍は経験値がある」
私は、ためらった。そこまで言われても。やっぱり、自分がボッチだなんて、認めたくない!! でも。
「......アナタの言う通りよ。こうしてまともに誰かと話すの自体、ずいぶん久しぶりだわ」
それを聞くと、おはぎは納得した様子で頷き、質問した。
「変わりたいか?」
変わりたいか? ですって? そんな、そんな......!!
「そんなに簡単そうに言わないで! 変われるならとっくに変わってるわ!」
おはぎは身じろぎもせずきいている。
「私は、化け物が見える! それって、私も化け物ってことでしょ? もうたくさん! うんざりなのよ!」
「お前の本質は、化け物が見えることじゃないだろう?」
何を......言っているの?
「お前の本質、それは拒絶だ。お前の方から関係を絶っているのだ。もし、仮に一人でもお前の理解者が現れれば、お前は孤独ではなくなる。それだけのことだ」
「そんな事、わかっているわ! でも、その一人が、この世界のどこにもいないのよ!」
「いや、いる。必ずな」
「どこにいるっていうの? 連れてきなさいよ!」
「それは無理だ」
「ほら、やっぱり!」
おはぎは、自分の服を引っ張る仕草をして、言った。
「自分で自分は連れてこれん」