変わりゆくアリサ
「アナタ......自分が、何言ってるかわかってるの? アナタが理解者? 思い上がりも大概にして欲しいわ!」
「仕方ないだろう? 俺が分からんようなら、それこそ世界の誰も分からん。なぜなら......」
おはぎは、ふうっと息を吐いて、
「俺はお前以上の化け物だからだ」
と、言った。何よそれ......
「バカじゃないの!? アナタは猫でしょ? 人間の気持ちが分かってたまるもんか! 人に嫌われて、孤独になるのが、どういうことかも知らないくせに!」
「確かに、な。だが、人に好かれたい気持ちなら分かるぞ」
「口の減らない猫ね! アナタにそんな気持ちがあるなんて、どうやって証明できるの?」
「簡単だ。俺は......」
おはぎは、妖しく光る猫目を私に向けて、ゆっくりと言った。
「アリサ。お前に好かれたい」
お前に好かれたい。そう、聞こえた。それって、ほとんど......いえ、完全に告白じゃない!!
化け猫から、告られる日が来るなんて......
でも。
「それ、どういう意味で言ってるの?」
「言葉通りの意味だ。猫に駆け引きなんてできん」
「それは......その......つまり、アナタも私のこと、好きってこと?」
おはぎは、少し緑がかった目を見開いたが、次の瞬間には平然と「そうだ」と言った。
で、でも......心の準備ってものが......いくらなんでも、急すぎるわ。改めて、おはぎを見つめる。人間に化けているだけ、とはいえ、結構イケてる。妖しい色気もあるし、何より大人っぽい。
「アリサ、お前になら......」
「な、何!?」
「喉をなでてもらってもいい」
「......は?」
「好きでもない相手に、喉はなでさせん。ご主人を除けば、なでてもらいたいのはお前だけだ」
私が、バカだった。コイツ、本気で猫だ。恋愛感情なんて、期待するんじゃなかった。でも、でもね。
「良いわ、喉なでてあげる。ただし、猫の姿に戻れるなら戻って」
「おお、なでてくれるか! 人にこの身を任せるのは十年ぶりだ!」
バカで結構。こんなヤツでも、本気で私のこと好きなんだもの。ゴロゴロゴロ、と鳴るおはぎの喉を、おはぎが満足するまでなでてやった。
おはぎ。私を理解してくれるかもしれない唯一の存在。ヒザの上の猫を見て、つくづく感じる。嬉しい。
猫はウソがつけない。猫は相手の顔色をうかがわない。猫は遠慮しない。自由そのもの。
私も、おはぎにはウソをつかないでいたい。寂しいときには寂しいと言いたい。そして。
「ねえ、おはぎ」
「なんだ?」
「ウチに帰って来ない? アナタ、家族なんだから」
「それは、できん」
即答だった。なぜ?
「俺は、化け猫だ。お前なら感じるだろう、俺のチカラを。チカラは敵を作る。ここに留まれば、北川家が危険にさらされることになる」
「なら。なら、私には会いに来て。時々で良い。それで危険になっても構わない」
おはぎは、さすがに少し迷ったが、
「......良いだろう。俺もお前に会いたい」
と答えた。
「私、変われるかしら?」
「人は、必要さえあれば変わる生き物だ。猫とは違う」
「確かにアナタは変わらないわね。いつまでたってもタダの猫」
「その方が楽しいこともある。だが、もしお前が変わりたいのなら......」
いつでもチカラになる。
翌朝。おはぎの姿は、いつの間にか消えていた。でも、ヒザの上におはぎがいた感触、感じた重み、温かさ。夢のハズがない。
学校に行かなきゃ。
疑問に思われるかもしれない。人に嫌われたくないなら、人と関わらなければ良いのに、と。不登校になったっておかしくない状況だと自分でも思う。
でも、逆。私は逃げない。自分が嫌なヤツだって分かっているから、普通から、世間から逃げたくない。
教室では、いつもの仲良しグループが楽しそうに笑っている。いつか、あの輪に入りたい。でも。
今までとは違う。私は、変わろうとしている。焦る必要なんてないわ。
ふと、気づいた。誰よりも私は私が嫌い。だったのに。