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Episode 16 OFFER

クロスは懐から、小さな黒いケースを取り出す。

――コト――

ゆっくりとテーブルへ置く。

――パチッ――

ケースの蓋が開く。

中には一枚のトークンが収められていた。

見覚えのある刻印。

「......」

レートの瞳が僅かに揺れる。
クランツも何も言わず、トークンを見つめていた。
ノアは二人を交互に見ている。

「このトークンを」

クロスは穏やかな笑みを崩さない。

「私に買い取らせていただけませんか?」

「どこで――」

レートが静かに口を開く。

「こいつを知った」

「それは商人としての秘密です」

クロスは少しだけ笑みを深めた。

「一つだけ」

レートがクロスの顔を見る。

「価値のないものを必要とされる方々もいるのです」

物流の生業。
価値の創生。

「商売は需要の上に成り立っていますから」

クランツが腕を組む。

「SOUL CHARTに載らないものに、価値があるとは思えないが」

「ええ」

クロスは素直に頷いた。

「一般的には、その通りです」

「物好きがいると」

「ふふっ。私どものクライアントに、このトークンを収集されている方がおりまして」

――カチャ――

クロスはティーカップを手に取る。

「見かけたら――言い値で買い取るよう依頼を」

クランツの視線が僅かに鋭くなる。

「言い値だと?」

「はい」

未登録のトークン。
それが持つ得体の知れない価値。

「市場価格というものは存在しませんが、参考までに申し上げるのであれば――」

紅茶へ一口だけ口を付けた。

「三千万コストほどでしょうか」

ノアの目が丸くなる。

「さ、三千万!?」

レートも思わずノアを見る。

「ポテチパーティー出来るじゃん!!」

静まり返ったレストラン。
ノアの声が響く。

クランツは一度だけ目を閉じる。

「......五千万コスト」

「問題ございません」

クロスは一瞬も間を置かなかった。

「......どうする?」

レートがクランツを見る。

「交渉成立だ」

クランツは即答した。

「ただし。ゼロに確認した上で、だ」

「もちろんです」

クロスは静かに頭を下げる。

「正式なお返事をいただければ、それで結構です」

クロスは席を立つ。

「それでは、本日はこれで」

杖を持った男も一礼する。

「良いお取引になることを――」

――カツカツ――

クロスの姿が遠ざかる。
二人の姿が消える。

――バタン――

扉が静かに閉まった。

「......クランツ」

「何だ」

「......随分吹っ掛けたな」

レートの言葉にクランツは首を横へ振る。

「俺の独断だが......あれは手元に無い方がいい気がした」

「値段の問題か?」

「いや、値段の問題じゃない」

「存在そのものか」

「ああ。早く切り離したかった」

「そうか」

その言葉に、レートも頷いた。

「お前がそう判断したなら、それでいい」

ノアはまだボーッとしていた。

「五千万......」

トークンの値段をまだ引きずっていた。

「でもさぁ......」

「三千万でも十分すごかったのに」

「何で五千万?」

クランツはノアを見る。

「向こうが本気だった」

「......あ」

ノアもようやく理解した。

「三千万が限界なら断る。だが、即答した」

「つまり、それ以上払う気だった」

「そういうことだ」

レートは紅茶を飲み干す。

「あれも含めて、俺たちの値踏みだったんだろうな」

「そうだろうな」

クランツが静かに頷く。

「厄介なもの見つけたもんだ」

レートは苦笑する。

「ノアのやつも」

「え?あたし?」

「お前だ」

ノアは納得がいかない顔をする。

「......OBLIVIONには」

クランツが窓の外を見ながら呟いた。

「もう落ちていないだろうな」

「何で言い切れる?」

レートが視線を向ける。
クランツは夜景を眺めたまま答えた。

「俺たちがここにいる。それが理由だ」

レートは考えを巡らす。

「......なるほどな」

小さく笑う。

「今頃は洗われてるってことか」

「ああ」

夜のSERAPHは、静かに灯り続けていた。
あとがき朔來 織
最後までお読みいただき、ありがとうございます。 『SOUL TR@DE』は毎日18:00更新予定です。 面白いと思っていただけましたら、 評価・ブックマークで応援いただけると励みになります。 "SEE YOU AT THE NEXT MARKET."
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SOUL TR@DE作者:朔來 織
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クロスは懐から、小さな黒いケースを取り出す。

――コト――

ゆっくりとテーブルへ置く。

――パチッ――

ケースの蓋が開く。

中には一枚のトークンが収められていた。

見覚えのある刻印。

「......」

レートの瞳が僅かに揺れる。
クランツも何も言わず、トークンを見つめていた。
ノアは二人を交互に見ている。

「このトークンを」

クロスは穏やかな笑みを崩さない。

「私に買い取らせていただけませんか?」

「どこで――」

レートが静かに口を開く。

「こいつを知った」

「それは商人としての秘密です」

クロスは少しだけ笑みを深めた。

「一つだけ」

レートがクロスの顔を見る。

「価値のないものを必要とされる方々もいるのです」

物流の生業。
価値の創生。

「商売は需要の上に成り立っていますから」

クランツが腕を組む。

「SOUL CHARTに載らないものに、価値があるとは思えないが」

「ええ」

クロスは素直に頷いた。

「一般的には、その通りです」

「物好きがいると」

「ふふっ。私どものクライアントに、このトークンを収集されている方がおりまして」

――カチャ――

クロスはティーカップを手に取る。

「見かけたら――言い値で買い取るよう依頼を」

クランツの視線が僅かに鋭くなる。

「言い値だと?」

「はい」

未登録のトークン。
それが持つ得体の知れない価値。

「市場価格というものは存在しませんが、参考までに申し上げるのであれば――」

紅茶へ一口だけ口を付けた。

「三千万コストほどでしょうか」

ノアの目が丸くなる。

「さ、三千万!?」

レートも思わずノアを見る。

「ポテチパーティー出来るじゃん!!」

静まり返ったレストラン。
ノアの声が響く。

クランツは一度だけ目を閉じる。

「......五千万コスト」

「問題ございません」

クロスは一瞬も間を置かなかった。

「......どうする?」

レートがクランツを見る。

「交渉成立だ」

クランツは即答した。

「ただし。ゼロに確認した上で、だ」

「もちろんです」

クロスは静かに頭を下げる。

「正式なお返事をいただければ、それで結構です」

クロスは席を立つ。

「それでは、本日はこれで」

杖を持った男も一礼する。

「良いお取引になることを――」

――カツカツ――

クロスの姿が遠ざかる。
二人の姿が消える。

――バタン――

扉が静かに閉まった。

「......クランツ」

「何だ」

「......随分吹っ掛けたな」

レートの言葉にクランツは首を横へ振る。

「俺の独断だが......あれは手元に無い方がいい気がした」

「値段の問題か?」

「いや、値段の問題じゃない」

「存在そのものか」

「ああ。早く切り離したかった」

「そうか」

その言葉に、レートも頷いた。

「お前がそう判断したなら、それでいい」

ノアはまだボーッとしていた。

「五千万......」

トークンの値段をまだ引きずっていた。

「でもさぁ......」

「三千万でも十分すごかったのに」

「何で五千万?」

クランツはノアを見る。

「向こうが本気だった」

「......あ」

ノアもようやく理解した。

「三千万が限界なら断る。だが、即答した」

「つまり、それ以上払う気だった」

「そういうことだ」

レートは紅茶を飲み干す。

「あれも含めて、俺たちの値踏みだったんだろうな」

「そうだろうな」

クランツが静かに頷く。

「厄介なもの見つけたもんだ」

レートは苦笑する。

「ノアのやつも」

「え?あたし?」

「お前だ」

ノアは納得がいかない顔をする。

「......OBLIVIONには」

クランツが窓の外を見ながら呟いた。

「もう落ちていないだろうな」

「何で言い切れる?」

レートが視線を向ける。
クランツは夜景を眺めたまま答えた。

「俺たちがここにいる。それが理由だ」

レートは考えを巡らす。

「......なるほどな」

小さく笑う。

「今頃は洗われてるってことか」

「ああ」

夜のSERAPHは、静かに灯り続けていた。
あとがき朔來 織
最後までお読みいただき、ありがとうございます。 『SOUL TR@DE』は毎日18:00更新予定です。 面白いと思っていただけましたら、 評価・ブックマークで応援いただけると励みになります。 "SEE YOU AT THE NEXT MARKET."
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