Episode 37 LITTLE SISTER
昼下がり。
子ども達は相変わらず元気に走り回っている。
「こっちだよー!」
「待ってー!」
笑い声。
駆ける足音。
その輪から離れた場所。
クランツは庭の端へ置かれた木箱に腰を下ろす。
誰も話しかけてこない。
静かな時間。
それが、何故か幸せに感じる。
「こんにちは!」
突然。
目の前から声がした。
「......」
小さな女の子。
ふわりと揺れる亜麻色の髪。
大きな瞳が――
まっすぐクランツを見つめている。
「こんにちは!」
「......」
クランツは何も答えない。
女の子は気にした様子もなく、その場へしゃがみ込む。
「お名前は?」
「......クランツ」
「クランツ!」
嬉しそうに笑った。
「私はライラ!」
胸を張る。
その姿に――
クランツは僅かに目を瞬かせた。
「ライラ?」
「うん!よろしくね!」
ライラは立ち上がると、そのままクランツの隣へ腰を下ろした。
「......」
「......」
二人で庭を眺める。
走り回る子ども達。
それをしばらく眺めてから、ライラが口を開いた。
「遊ばないの?」
「......遊ばない」
「そっか」
理由も聞かない。
無理に誘いもしない。
ライラはにこやかに隣に座っている。
「......」
クランツは少しだけ不思議そうに、ライラを見る。
その時。
「ライラー」
庭の向こうから声が飛んできた。
黒髪の少年。
ライラが勢いよく立ち上がる。
「レート!」
駆け出そうとして――
止まった。
くるりと振り返る。
そして。
クランツを指差した。
「クランツ!」
「......」
レートがゆっくりと視線を向ける。
昨日と同じように――
クランツを眺めた。
「ふーん」
興味があるのか。
ないのか。
分からない返事。
「弱そうなやつ」
「そんなことないもん!」
ライラが頬を膨らませる。
レートは肩を竦めた。
「そう?」
そのまま――
歩き出そうとする。
「......」
クランツは、その背中を見つめていた。
胸の奥が少しだけ熱くなる。
昨日。
部屋の向こうで聞こえた言葉。
『あいつ、弱そう』
その一言がずっと残っていた。
「......」
目の前の――
生意気な子供へ。
「僕は、弱くない」
自然と言葉が出た。
レートの足が止まる。
「......」
少しだけ振り返った顔。
その口元。
ほんの僅かに――
笑っていた。
「じゃあ、証明しろ」
レートは再び歩いていく。
ライラはレートを見る。
クランツを見る。
「んー?」
そして、無邪気に笑った。
「ふたりとも、おもしろいね!」
「......面白い?」
意味が分からなかった。
この日、初めて。
クランツは自分の意思で。
誰かへ――
言葉を返していた。