Episode 35 MORNING
朝日が、薄いカーテンの隙間から差し込む。
「............」
クランツは目を開けた。
白い天井。
――チュンチュン――
外からは小鳥の声。
「............」
ゆっくりと身体を起こす。
机。
椅子。
窓。
見たことのない部屋。
――トン――
恐る恐る床へ足を下ろした。
「......っ」
冷たい木の感触。
研究所にはなかった。
足の裏から伝わる――
確かな温度。
『待ってー!』
『捕まえた!』
「......?」
部屋の外から声がする。
――タタタタッ――
小さな足音。
笑い声。
クランツは扉へ近付いた。
――キィ――
扉を開く。
朝の光が差し込んだ。
「......!」
廊下を子どもたちが走っていく。
「待てー!」
「あはははっ!」
追いかける。
逃げる。
また笑う。
誰も怒らない。
誰も止めない。
「............」
クランツは立ち尽くした。
知らない。
こんな光景。
「起きてたのね」
「......!」
振り返る。
ステラが立っていた。
「おはよう」
「............」
返事はない。
ステラは気にすることなく笑う。
「朝ご飯ができてるわ」
「............」
クランツが小さく頷いた。
「行きましょう」
ステラが歩き出す。
その後ろを――
クランツはついていった。
食堂。
――ガヤガヤ――
いくつもの木の机。
子どもたちの声。
鼻先をくすぐる匂い。
「......?」
焼きたてのパン。
温かなスープ。
――フワッ――
白い湯気が立ち上っている。
クランツの足が止まった。
「............」
見たことがない。
こんな食事を。
「クランツ」
ステラが椅子を引いた。
「座って」
「......うん」
ゆっくりと腰を下ろす。
「............」
正面。
昨日見た少年がいた。
ぼさぼさの黒髪。
レート。
――モグモグ――
黙々とパンを食べている。
「............」
目が合った。
「............」
レートはクランツを見る。
――モグッ――
何事もなかったかのように――
パンへ戻った。
「............」
クランツの肩から力が抜ける。
「それじゃあ」
ステラが手を合わせる。
「いただきます」
「いただきまーす!」
子どもたちの声が重なった。
「......?」
クランツは周囲を見る。
皆が同じように――
手を合わせている。
「............」
自分の手を見る。
少し迷ってから。
――スッ――
皆と同じように合わせた。
「......いただきます」
小さな声。
ぎこちない。
初めて口にした言葉。
「............」
ステラは何も言わない。
ただ――
微笑んでいた。