Episode 43 ORDINARY
孤児院の庭では子供達の笑い声が響いていた。
エルザとレイは、帰り支度を始める。
「じゃあな」
レイが軽く手を挙げる。
「また近いうちに来るよ」
エルザも笑って振り返った。
「ん?」
庭の隅で格闘技の練習をしていたレートが目に入る。
「......お」
レートも気付く。
「帰るの?」
「何だい、その顔」
エルザが近寄る。
「相変わらず生意気そうな顔してるねぇ」
レートは少しだけ眉を寄せた。
「普通だけど」
「その返しが生意気なんだよ」
「何言っても文句言うじゃん」
「ふふっ」
エルザはおもむろにポケットを探る。
「ほら」
小さな包みを放った。
レートが片手で受け取る。
「何これ?」
――ガサガサ――
包み紙を開ける。
色鮮やかな棒付きキャンディ。
「飴?」
「チュッパチャップス」
エルザが笑う。
「子供は飴でも舐めてな」
「子供じゃない」
「どう見ても子供だろうが」
「うるせえ」
レートは頬を膨らませながら、少しだけ考える。
「......ありがとう」
そのまま口へ咥える。
「どうだい?」
「甘い」
「だろ?」
エルザは満足そうに笑った。
少し離れた場所。
レイがクランツを呼ぶ。
「クランツ」
「何ですか」
レイは小さな紙袋を渡した。
「土産だ」
クランツが中を見る。
乾燥した茶葉。
「チャイだ。ミルクで割ると美味いぞ」
クランツは静かに頷く。
「......ありがとうございます」
「今度、感想聞かせろ」
「はい」
レイは満足そうに笑った。
「ライラッ!!」
「――っ!?」
孤児院にステラの声が響く。
小さなライラが肩を震わせた。
「......何もしてないもん」
机の上。
分解された目覚まし時計。
ネジ。
歯車。
工具。
「......またバラしたの?」
ステラが額へ手を当てる。
「戻せるもん」
「戻す前に壊してるでしょ」
「......壊してないもん」
ライラはしょんぼり俯いた。
「好きにやらせたらいい」
その様子を見ていたゼロが口を開く。
「ゼロ」
ステラが振り返る。
「才能は止めるものじゃない」
「いや、だってあれよ?」
「............」
「どう見ても壊れてるでしょ」
「直せばいい」
「そういう問題じゃないの!」
「わたし、直せるもん......」
ライラが二人に対して言い切った。
「くくっ。相変わらずだな」
レイが吹き出した。
「将来、大物になりそうだねえ」
エルザも肩を震わせる。
「うん!わたし大物になるよ!!」
ライラは嬉しそうに笑う。
「いいねえ、頑張りな」
「がんばるっ!!」
エルザの言葉にライラは目を輝かせる。
「はぁ......」
ステラがライラの頭を軽く撫でた。
「次は壊していい物だけにしてね」
「うんっ!!」
「さて、ステラ。そろそろ行くわ」
「気をつけてね」
――バタン――
レイとエルザは車へ乗り込む。
「じゃあな」
「また来るよ」
――ガリッ――
「ん」
レートはチュッパチャップスを咥えたまま手を振る。
クランツも小さく頭を下げた。
――ブオォォン――
車はゆっくり走り去っていく。
「レート!遊ぼ―!!」
「今忙しいからパス」
「穴に落ちてたくせにー」
「うるせえぇっ!」
「レートが怒ったー!」
「逃げろー!!」
庭にまた子供達の笑い声が響く。
ステラはその景色を優しく見つめる。
「バカだ」
クランツはその光景を少し楽し気に見ている。
「お前も混ざってきたらどうだ?」
「僕は子供じゃないからいい」
「お前もあいつらと変わらん」
「異議あり」
「却下」
ゼロが笑いながらクランツを見る。
「なら、手伝ってくれる?」
「何を?」
「ご飯作らなくっちゃ」
ステラが二人の会話に割り込んだ。
「そんな時間か」
「みんなも手伝って―!!」
風が優しく木々を揺らした。
「さーて!張り切ってこー!!」
変わらない日常。
この穏やかな日々は――
あと数年で終わりを迎える。