巫
「イア...私は浴の続きを行う」
そう言いながら、アイは再び湖に浸かる。
その様子を見て、イアは静かに眼を伏せた。
水が揺れる音だけが、響く。
「......」
『......』
やがて、イアは口を開く。
『アイ、シテを見て《《どう思った?》》』
その言葉に、アイはすぐに返す。
「喰われる」
予想通りだったのだろう。湖の淵で、イアは少しだけ微笑んだ。
『同じだ。私もそう思った』
「イア、あの少年をどこで拾った?」
その言葉に、イアはシテと出会った時を思い出し、くすくすと微笑う。
『突然現れたんだ』
「......なんだそれ」
その言葉に、イアはアイを見つめた。
自分と瓜二つの姿を持つ、アイを。
『摩訶不思議なシテ《役者》か』
『視れなかったんだ』
その言葉に、アイは眼を見開かせた。
「お前がか?」
その言葉に、イアは頷く。
「...不思議な男だ」
『アイ、浴は終わった?』
その言葉に、アイは首を横に振る。
「もう少しかかる。今回はちと応えた」
その言葉を聞きイアは苦しそうに眉を下げる。
『アイ、無理はするなよ』
「それは私の台詞だろう」
「巫一族の中で唯一、心に入れるイア」
『巫一族の面作りのアイ』
被って別々の事を言った二人は、顔を見合わせて笑った。
「被って言うなよ...はは」
『あははっ、じゃあ私はそろそろ眠る』
「ああ、おやすみ」
その日の夜、アイは一人で鏡の間で、呟く。
「私の名はアイ。何者にもなれる者」
その瞬間、泥眼の面がアイの手元に現れた。宙に浮かぶ面をアイは優しく見つめた。
「少女の舞台は、無事に終わった」
「良き旅路を」
その瞬間、泥眼の面が静かに灰になる。
「腹が立つ。腹が立つ。この怒り如何してくれようか。」
アイは一人、そう呟く。
灰は水面に触れることなく、静かに湖へ溶けていった。
「これにて、汝の舞台は終演を迎える」